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俺のターン

電車はいつの間にか森の中を走っていた。


「えっえっ」


ソウメイは景色が変わったことに驚いた。


数十分前。長い間電車に揺られているだけで何もすることがなく、この異常な電車の旅をしている状況にもすっかり慣れてきてしまったソウメイは退屈して眠っていた。


異様な状況、場所においては些細な変化ですらソウメイの感情を激しくゆらす。


眠気が一気にふっとんだソウメイは電車の行く先を夢中で見守る。


「どこ行くんだこの電車は」


車体に草木がシャカシャカとぶつかるが電車はお構いなしに進んでいく。


そして数十分後。空を見渡せるほど開けた場所にようやく電車が止まり、ドアが自動に開く。

車掌がいないのに勝手にドアが開くことに疑問や恐怖を感じている暇はソウメイにはなかった。

何しろ目の前に現れたものは段違いの規模だったからだ。


「でっかい家だな」


電車の止まったところから少し離れた場所に森の中に似つかわしくない大きな家が建っていた。白を基調とした家は横に長い平屋造りになっており、端から端までの距離はおおよそ100メートルはあると思われる。無駄に大きい。ソウメイは昔読んだガリバー旅行記を思い出していた。


ホームのようなものはなく電車から直接地面にジャンプして降り立った。


外に出るとソウメイは腕を上げて力いっぱい体を伸ばして座りつかれた体をほぐしながら家に向かって歩きだした。


何百枚もの大きな長方形のガラス窓が壁となっており、近くで見ると部屋の中がよく見えた。部屋の中はところどころ服や本などで散らかっており生活感があった。明らかに誰かが暮らしていると思い、ソウメイは家に誰かいないか部屋の中を注視した。すると、ソウメイは視界に人影が一瞬動いたのが見え、その人影が動いた方向に目線を動かす。ソウメイに気づいた家の主はゆっくりとソファから立ち上がった。長い髪を揺らし、片手にカップを持ちながらソウメイの方に向かって歩いてくる。ソウメイはどうせコーヒーでも入ってるんだろうと余計なことを考えていた。窓をあけた家の主は。しわ一つない白のシャツに黒のジーンズというシンプルな格好をした女性だった。目元はくっきりし口元もしっかりとしており、つやがある長い髪はほんの少し茶色がかっていた。

「こんにちは」

ソウメイはとりあえず挨拶をする。

「やっときたね」

家の主はソウメイを笑顔で迎え入れた。


クシャっとした笑顔がとても印象的だった。


ソウメイはそのまま女性が開けた窓から家の中へと招かれた。まるで庭に迷い込んだ猫のように。




「色々聞きたいことがあるんですけど、」

家の中に入ると早々にソウメイは家の主に自分が今どういう状況になっているのかを聞こうとした。昨晩電車に乗り込んでからずっと現実離れしたような体験をしているせいか、ソウメイは普段とうってかわって積極的に人と話をしようとした。


「のどかわいたでしょ。何飲む?」


「なんでも大丈夫です」


そうと小さな声で答えると台所へ向かった。


「その辺のソファに座ってて」

ソウメイの近くのソファを指差して言った。



ソウメイはお言葉に甘えて案内された部屋の大きなソファに腰を下ろす。



天井が高いせいか思っていた2倍くらい部屋が広かった。その広い室内を見渡すと部屋は本や服、家具などのモノであふれかえっていたが、不思議と散らかっているとは思えなかった。むしろすべてが規則正しく配置されているかのようにきれいだった。



「はい、どうぞ」

こんな暑い日だというのに女性が持っているカップの器からは湯気が立っている。


「(まさかのホット)いただきます」

ソウメイは警戒することなくもらった飲み物を口に入れる。


(おおーまずっ)

何の飲み物かわからなかったが、コーヒーとしてソウメイは認識することにした。

現状は判らないことだらけであり、細かいことに気を配っている余裕はなかった。


ソウメイがコーヒーを飲んでいると唐突に女性が自己紹介をしだした。


「名前を名乗ろうと思うんだが実は正式な名前がなくてね。人に会ったときは神織と言っているから、今回は神織と呼んでくれ」

ソウメイはいまいちよくわからなかったが、この女性を神織さんと呼ぶことにした。






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