其の弐 神木 ー隆生-1
ケタケタと笑い声を上げて、小さな妖が庭先を走っていく。
それをぼんやりと見ているとすっと視界が翳った。
『坊よ』
顔を上げると半透明の大きな坊主のような姿をした影が俺を覗き込んでいる。
「何?」
この身体になってからというもの、俺の周囲には他人には見えない妖の者で溢れ返っていた。
それでも、人間に悪意を持ったり悪影響を及ぼすような類のモノがいないのがせめてもの救いだった。
『良くないモノが来るぞ。若にも伝えておけ』
「解った。ありがとう、黒坊主」
黒坊主は言うだけ言うと、俺の返事も聞かずにその姿を消した。
庭にやってくる妖たちは何故か壮軌のことを《若》と呼ぶ。
理由を訊いても、『若は若だ』としか言わない。
「それにしても」
壮軌と暮らすようになってから妖の数が増えている気がする。
さっきの黒坊主―いつ見ても顔が黒塗りだからそう呼んでいる―も、壮軌が来るまでは俺に話しかけたりしてこなかったのに。
『坊よ、若は居らぬのか』
声と共に足元にするりとした感触がして視線とやると、真っ白い体毛のイタチのような姿をした妖がまとわりついていた。
「白萩。壮軌なら、部屋にいるけど、なんだい?」
『居るならよい。気を付けよ、良くない気配がする』
「『良くない気配』って?」
俺の問いかけに答えることなく、白萩の気配は消えてしまった。