其の質 決戦 -壮軌ー
―壮軌―
右腕が生暖かいものに包まれている感覚と、その腕を掴む誰かの手。
霞がかかったように曖昧だった視界が晴れて明るくなった。
視線を巡らせると隆生が俺を見上げていて、その頭越しに血塗れの自分の手が見える。
「たか、お」
俺の声に安心したような笑みを浮かべて隆生が掴んでいた俺の腕を放す。
それと同時に隆生を貫いている俺の腕が、嫌な感触を伴ってずるりと抜けた。
「隆生!」
駆け寄ってきたセインが地面に崩れ落ちた隆生の身体を抱きかかえるが、胸元を朱に染めた隆生は、もうぴくりとも動かない。
「隆生、何故、俺なんかの為に」
二人の傍らに膝を付き、差し伸ばした手が隆生の血に濡れているのに気づいて、俺は左手で隆生の頬に触れた。
まだ仄かに、温もりを残した隆生の、頬。そこにぽたりと水滴が落ちる。
「壮軌、お前……」
セインの声に顔を上げると、彼は驚いた表情で俺を見ていた。
「兄様、一体何が……!」
俺たちのただならない様子に、長の攻撃を躱しながらラズナとユーリが駆け寄ってき、セインの腕の中の隆生に気づいて言葉を無くす。
ふと見遣った長は、嫌な笑みを浮かべて少し離れたところに立っていた。
「壮軌」
セインに呼ばれて視線を戻すと、彼の手が俺の方に伸びてきた。
「お前が、涙を流すとは」
「涙……?」
指先で目元を拭われて、ぼやけた視界が少しだけはっきりする。
(これが、涙)
再び俯いた俺から涙の雫が隆生の青白い頬に落ちて、薄く開いた口元に流れた。次の瞬間、隆生の身体が眩い光に包まれた。
「何だ、これは」
「兄様、隆生!」
余りの眩しさにしっかりと目を開けていられない。
手をかざして光を遮って見ると、セインに抱かれた隆生の、その胸に開いた穴が見る間に塞がっていく。
そして光が薄れる頃には、あんなにも蒼白だった隆生の頬に赤味が戻っていた。
「……ん……ぅ」
胸が大きく上下し、ふぅっと息を吐いた隆生の瞼がふるりと震えて、ゆっくりと目を開いていく。
「あれ……?俺、何で生きて……?」
辺りを見回した隆生が、不思議そうに俺達を見上げた。




