其の陸 対峙 -セインー3
それでも私は壮軌を、弟を自分の手にかけるということはできなかった。
致命傷に成り得ない程度の攻撃はすぐに防御されてしまうか、当たったとしても傷は浅い。
それでも壮軌の力を削ぐことは出来ているらしく、先に息が上がってきたのは彼の方だった。
急に壮軌の動きが止まる。
いつの間にか常世桜の側まで来ていた。
「常世桜?」
不思議そうに隆生が訊ねる。
「長が母上を連れてきた桜だよ。年中を通して花が耐えないから、母上がそう名付けた」
それはこの人の世と妖の世界を繋ぐ桜。
壮軌が桜の幹に手を置くと空間がぐにゃりと歪む。
『待て!』
彼の意図に気付いた私は咄嗟にその袖を掴んで共に人の世に渡った。
空間の歪みを超えて出た先は鄙びた様子の土地で、壮軌はそこで力が尽きたのかその場に膝を付く。
茜丸は歪みを渡りきるのとほぼ同時に消えている。
着物の裾に水月を刺して地面に縫い止めると、壮軌が能面のような生気のない顔で私を見上げてきた。
『お前に、罪はない』
いくら同胞を数多殺傷したとしても、壮軌自身には何の罪もない。自我もなく、ただ長の意思のままに動いただけ。
『それでも、これ以上お前を野放しには出来ない……』
封じてしまえば、長の力は壮軌に届かなくなるだろう。
常世桜の力を借りて、私は壮軌を封印することに決めた。
それがどのような結果を齎すかはわからないが、彼を殺すことなくこれ以上の殺戮を止めるにはこれしか方法がない。
地に縫い止めた水月を抜いて鞘に収め、壮軌の腕を掴んで立ち上がらせる。
抵抗する様子も見せずに立ち上がった彼の身体を桜の幹に押し付けて封印の呪を施していくと、次第に壮軌の身体が桜に同化していき、やがて完全に姿が消えた。
『はぁ……』
思いの外妖力を消耗して、私は桜に寄りかかるように腰を下ろして目を閉じた。
暗い視界に蘇るのはほんの数刻前までの美しかった日々。
楽し気に笑い合う両親と弟達、それに数多の妖……。
それが一瞬にして炎に包まれ灰燼に帰す。
(ラズナとユーリはどうなったのだろうか)
離れ離れになってしまった弟達は、二人ともそれなりの力は持っているが長には到底敵わない。
弟達の事は気がかりだが、壮軌を封印し続けるためにはここから離れるわけにはいかなかった。
(逃げ切っていてくれればいいが……)
そして私は眠りに就いた。
「セインさんが、封じていたのは壮軌だったんだ……」
隆生が小さく呟く。
その傍らで、壮軌がおそらく初めて耳にするであろう自身の出生に戸惑っていた。
「そう、隆生に初めて会ったとき、君はまだ小さな子供だった……」




