其の伍 比翼連理 -セインー
あの日、私は不安定なユーリの力を安定させる為、ユーリを仮りの姿に封じていた。
それが滞りなく終わって三人で一息ついたとき、両親の居室から父のものらしき咆哮が聞こえて、私達はすぐに走り出した。
『父上!如何なされました!』
真っ先に部屋に飛び込んだ私が見たのは、常とは全く違う狂気を纏った父と、その腕の中に力なく横たわる母の姿。
『父上……、母上は?』
『我の愛しい者は我を置いて逝ってしまった……。楓のいない世界など壊れてしまえばいい』
『ち、ちうえ……』
凄惨な笑みを浮かべた父がその手を母の腹に当てると、小さく光る何かを取り出した。
そしてその上で空いた手を握り締めると鮮血が滴ってその光を紅く染める。
やがて光は大きくなり、ヒトの形をとっていった。
黒にも見える濃緑の髪と瞳。父によく似た顔立ちのその者は、無表情に私たちを見据える。
『ほう、さすが我が子よ』
『我が子……』
私の呟きに父が凄惨な笑みを浮かべた。
『楓の腹におった、最後の子。お前たちの末の弟になるはずだったモノに、我の血と楓の魂の一部を加えた』
そう言う父の瞳には狂気の色しか見えなかった。
『……壮軌。これを持って全て壊せ』
父の言葉と共に、末の弟……、壮軌の身の内からとてつもない妖気が吹き上がる。
その右手にはひと振りの太刀、父の持っていた茜丸が握られていた。
『待て……ッ』
私の制止には答えず、戸を蹴散らして壮軌が外へと飛び出していった直後、庭にいたらしい妖達の悲鳴が上がる。
その後を追おうとして、はっと振り返ると、そこに父の姿はなかった。
『兄者、早く追わないと……ッ』
ラズナの声にはっと前を向くと、
遠くの空が朱に染まっている。
庭に降りて壮軌を追う。彼の通った後は酷い有様だった。
力のない小さな妖は壮軌の妖気だけで消し炭のようになっていて、少し大きな者は一刀のもとに斬り捨てられている。
『ひどい……』
そこかしこから火の手が上がって、倒れた妖達を飲み込んでいく。
美しかった世界は、長の狂気と共に荒廃していった。
其の伍『比翼連理』 終




