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其の伍 比翼連理 -楓ー5

 珠鸞が樹上に消えるのを見送って、宛てがわれた部屋へと戻ると、侍女達が私を探して騒いでいて、その中に珍しく城主の姿があった。

「楓!どこに行っていた!」

「庭に」

「部屋から出てはならぬと言うたではないか!」

「……閉じ篭っていては気が滅入ります故」

 『身体が弱いのだから』だの『熱が出たらどうする』だの、顔を真っ赤にして言い募る城主のなんと醜いことか。

 普段は少しも気にかけてなどおらぬくせに。

「少し疲れました故、横になります」

 私がそう言うと、城主は慌てて傍にいた侍女に褥の用意をするように命じた。

「では、失礼致します」

 軽く会釈して城主の前から下がり、部屋に入る。

 用意された(しとね)に入らず文机に向かうと巻紙を出して墨を擦った。

 両親に宛てて、自分は居なくなってしまうが、この城にいるよりはきっと幸せだから心配しなくていい。といった事を、誰の目に触れるか知れないからたわいもない話の間に解らないように織り混ぜて文を書く。

 それを幾ばくかの銭と共に小者に託して褥に横たわった。

 思ったより疲れていた身体は重く、目を閉じるとそのまま眠りに引き込まれていった……。


 遠くで大勢の人間が大きな声で騒いでいる。

 その声にふっと目を開けるのと同時に、褥を囲んでいた几帳が薙ぎ倒された。

『ここにいたか』

 月明かりを背に、獰猛な笑みを浮かべた珠鸞が立っている。

 大股に私に近づいて褥の上に起き上がった私を軽々と抱き上げて外に出た。

 すぐに警護の者達に囲まれて、思わず珠鸞の肩に顔を伏せる。

 歓喜に満ちたこの顔を誰かに見られるわけにはいかない。

『姫は我がもろうて行く』

 そう言った珠鸞が軽く地面を蹴って、気付いたらいつもの桜の傍だった。

『この桜は《向こう》に繋がっておる』

 珠鸞が私を抱いたまま、片手を幹に当てるとそこが奇妙な形に歪んで大きな穴のようになる。

 穴の向こうにはこちらと同じ、いやそれよりも壮麗な屋敷が見えていた。

「あれは?」

『あれは我の屋敷ぞ』

 背後の喧騒をものともせず珠鸞が穴に一歩近づいて、あっと思った時には私を呼ぶ侍女の声も、姦しい城主の声も聞こえなくなり、主を迎える妖達の前にいた。

 妖は人の姿に近い者、器物が長い年月を経て姿を変えたモノなど様々だけれど、人の世で聞いていたような人間に害を為すモノはおらず、むしろ好意的だった。

 後で、人に害を為す妖というのは人間の欲や血に塗れてしまった妖であるのだと珠鸞に教わった。

 優しい珠鸞と、彼を慕う妖達。

 そして愛しい子供達に囲まれて、私はとても幸せだった……。








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