其の伍 比翼連理 -楓ー3
『楓、これをやろう』
桜の花びらと共に膝の上に落ちてきたのは、色とりどりの小さな物。
「これは?」
『干菓子だ。砂糖を固めて作ってある』
喰ってみろ。と言われて一つ摘んで口に入れると、それはすぐに溶けてなくなり仄かな甘さだけが口に残った。
「甘い」
『砂糖だからな。気に入ったのなら明日も持ってきてやろう』
私の膝の上から干菓子を摘んでは口に入れて、鬼が楽しそうに笑う。
妖の者は恐ろしい生き物だと教えられてきたのに、この目の前にいる鬼は何と穏やかなのだろう。
その楽しげな顔を見ていたら急に視界が暗くなって、身体が傾いでいくのを感じた。
『楓?如何した?』
目を閉じてもゆらゆらと揺れる視界に気分が悪くなる。と、冷たい手のひらの感触を額に感じて目を開けると、鬼が私の顔を覗き込んでいた。
「城の人間は、妾が倒れても皆表面的にしか心配せぬのに…。何故お主がそのような顔をする?」
端正なその顔に浮かんでいるのは不安。
私に触れても消えることのない大妖にとって、人の命など取るに足らないものであろうのに。
『我と共に来い、楓』
この城の誰よりも人らしい顔をした鬼がそう言って私を抱きしめた。
『我の棲む地でなら、人の世に居るよりは長らえる』
「お主がそうまでする価値が、妾にあるのか?」
鬼が欲しいのは、私自身などではなく一族の力。それは今まで出会ってきた妖のほとんどがそうであったのだから間違いない。
なのに。
『ある』
「何故そう思う」
どうせ他の妖と同じ答えだろうと身体を離しかけた私の耳に、鬼が囁いた。
『我がそなたを愛しいと思うからだ』
その言葉に耳を疑った。
親兄弟の他は誰も私を必要としてくれなかった。城主も妖も欲しがったのは私の持つ《力》だけ。
なのにこの鬼は私を愛おしいのだと言った。




