其の伍 比翼連理 ―楓―
この牢獄のような場所で唯一私の心の慰みであった桜。
その桜は一年中咲き続ける不思議な桜だった。
美しい桜の大樹の下で、私はあの御方と出逢った。
そして私は、
いつしか残り少ない命を、あの方の為だけに生きようと思った。
愛しい人と子供たち。
そんな人並みの幸せ。
私が望んだことは、
罪だったのでしょうか…?
私は今日も城内にある桜の大樹の元にいた。
この桜は不思議な桜で、一年を通して花が咲き続けている。
ある日突然、一族の住まう里からこの牢獄のような城に連れてこられた。
城主は醜く肥え太った小男で、私を手に入れたことをひどく喜んでいた。
その小男が言うには、私の一族には神代の昔に天より特別な力を授けられていて、一族の者を手に入れた者は栄耀栄華をも手に入れられる。という言い伝えがあるらしい。
「愚かな…」
確かに父様は先見の力を持ってらした。けれど私には何の力もない。
それどころか、生まれつき脆弱なこの身が、里の外でそういつまでも長らえられるとは思えなかった。
一体何を考えてあの小男は私をこの城に閉じ込めたのか。
ひとつため息をついたとき、ふと幼い頃の記憶が蘇った。
あれはいつだったろうか。
屋敷の庭にいた私の前に、急に人ならざるものが立ちふさがった。
『お前が《大いなる力》の器か』
取り込んでやる。と言って伸ばされた大きな手が私に触れた次の瞬間には、その大きな姿は短い悲鳴と共に消えていた。
その後の事はよく覚えていない。ただ、いつもより身体の調子が良くて皆が驚いていた。
《大いなる力》それが何であるのかはわからないが、それを小男も求めているのか……?
再び小さくため息をついた途端、ザワリと気配が動いた。
(何か、来る)
一際強い風が吹いた後で目を上げると、樹上に美しい男がいた。
白皙の容貌に今まで見たことのないような豪奢な狩衣をまとい、見事な常盤色の髪を風になびかせている。
(これは、人ではない。鬼だ)
翡翠色の瞳を見た瞬間に、そう感じた。
『娘。そなた何者ぞ』
低い声にはっと我に返る。




