其の肆 血族 -隆生ー2
なんだかそわそわと落ち着かない気持ちで目が覚めた。
部屋の中は真っ暗で、まだ夜明けには程遠いことがわかる。
(誰かが、呼んでる……?)
ふと、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえたような気がして、そっと起き上がると縁側の雨戸を一枚だけ開けて庭に降りた。
中空に浮かんだ月が青白い光を投げかける庭を、微かに聞こえる声に導かれるように裏の桜のもとへと歩いていく。
「……誰だ?」
「それはこっちの台詞よ! ああたしはセイン兄様を呼んだのに!」
青々と葉を茂らせた桜の木陰に二つの人影を認めて足を止めると、そのうちの一つが女性特有の甲高い声で早口にまくし立てながら俺に近づいてきた。
木陰から出たおかげではっきりと見えたその姿は近隣の誰とも似ていなくて、見たこともない衣装を纏う姿は異国人のようにも見える。
高い位置で結い上げた亜麻色の長い髪を揺らして俺の目の前に来たその女性が、髪と同じ色の瞳で俺を睨みつけてきた。
その左頬には複雑な模様の刺青のようなものが見える。
「こら、ユーリ。そんなに詰め寄るんじゃない」
後ろから来た大柄な男性が、俺を睨みつけたままの女性の襟首を掴んで後ろに引いた。
「離して、ラズナ兄様!」
暴れる女性を意に介すことなく男が俺に向き合う。
「騒がせてすまない。俺はラズナで、こいつはユーリという。貴方が《タカオ》なのか?」
「そう、だけど……?」
見知らぬ異人…、どうやらこの二人も妖の者らしい。どことなく壮軌と同じ気配を持っていた。
「俺達は兄のセインを追ってここまで来た。そして…、兄の気配は、確かに貴方から感じている」
男の言葉に一瞬頭の中に誰かの綺麗な顔が浮かんだ。そして、壮軌の言葉も。
じゃぁ、壮軌を殺そうとしたのはこの二人の兄という人で、その人が俺と同化している……?
あまりのことに考えがついていかず、ただ呆然と二人を見つめる。
遠くで鶏の鳴く声がしてはっと我に返った。
呆然としていたのはそんな長い間ではなかったはずなのに、月はとうに沈んで代わりに東の空がほのかに明るくなり始めている。




