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其の参 我が愛しき鳥 -壮軌ー2

 穏やかな春の陽射しが差し込んできて、さっきまでの出来事がまるで嘘のようにも思える。

 しかしそれが現実である証拠に、隆生は全身ずぶ濡れだったし、俺の肩の傷―もう塞がってはいる―も痛んでいた。

 肩のところを引き裂かれた着物を脱いで新しいものをまとっていたら、隆生が着替えの手を止めて振り向く

「なぁ。俺に話したいことって何だ?」

「少しだけだが、思い出したことがあるんだ」

「どんな事?」

 隆生に促されるまま、俺は語りだした。

「あの妖……沙嵬が隆生を拐ったのは、翔摩という桜の妖を救うためだったのは、知ってるか?」

 俺の問いかけに隆生が頷いて答えた。後から聞いたことによると、やはり木霊の時と同じで彼らの記憶を共有していたらしい。

「沙嵬に傷を負わされた時、記憶が(よぎ)ったんだ……」

 それがいつの記憶なのかはわからないが、俺は確かに《炎》と《水》の力を同時に使っていた。

 そのことを思い出したのと同時に《茜丸》の力が蘇ったのだ。《茜丸》は俺の《炎》の力の化身でもある。

 その次に思い出したのは、理由はまだわからないが相手構わず暴れている自分の姿……。そして顔の良く見えない相手に殺されかけていた事。

「……そして、気付いたらあの桜の下にいた」

 俺の言葉が終わらないうちに、隆生の身体から木霊を浄化したあの《力》が溢れ出した。

 だが、俺を浄化しようとしたのではないらしく、あの時ほどは強くない。

 なんとなく隆生の顔を見た俺の鼓動がどくりとはねた。

 隆生の顔、厳密にはその額に現れた奇妙な紋様……。

 俺の脳裏に映像がよぎる。

 隆生の額に現れた紋様、それは俺を殺そうとした相手の額にあったものと同じだった。

 けどそれは隆生ではない。記憶が曖昧でもそれだけは何故かはっきりしている。

「隆生、背中を見せてくれないか?」

 俺の言葉に怪訝そうな顔をしながらも、隆生が背を向けた。

 そこにも奇妙な紋様が幾分薄く浮き出ていた。

 それは見ているうちに薄れてやがて消えてなくなる。

「何か付いてるのか?」

 黙ったまま動かない俺を不思議そうに振り向いた隆生の額の紋様も消えていて、驚いたことに胸の傷も跡形もなくなくなっていた。

「隆生の事で、一つだけ分かったことがある」

「何?」

「その前に着替えてしまおう」

 幾ら日向にいると(いえど)も、いつまでも濡れた着物のままではいられない。

 手早く着替えを済ませて、俺達は縁側に座った。

「で、俺のことでわかったのって何?」

「隆生は、特別な力を持つ妖と同化している可能性が高い」

 俺がそう言うと、隆生が驚きを隠さない表情で見つめてくる。

「同、化……?」

「そうだ。おそらく記憶を無くして老化が止まった頃に同化したのだろう」

 そして、もう一つ。

「隆生と同化している妖は、俺を殺そうとした、妖だ……」


其の参『我が愛しき鳥』 終


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