其の弐 我が愛しき鳥 -壮軌ー
炎に包まれながらも幸せそうな笑みを浮かべた二人が消える直前、俺の頭に声が響く。
『彼の傷は、私が塞いでおきましたから……』
語尾が掠れて消えるのと同時に最後の炎が燃え散るのを見届けてから湖に入り、隆生の元へと急いだ。
水面から出ている幹の半分以上が燃えて炭になっている桜の前に浮かんだ隆生を抱えて岸に戻る。
胸につけられ傷は跡こそ残ってはいるものの、綺麗に塞がっていた。
けれども隆生からは生気があまり感じられない。おそらく限界近くまで血を流した為だろう。
「隆生……」
血の気のない頬を撫でても、隆生はぴくりとも動かない。それでも、剥き出しの胸に添えた手のひらには微かな拍動が伝わってきていた。
その青白い顔を見ながら逡巡する。
隆生は不老といえども人間だから、妖のやり方が通用するかわからない。
それでも、何もしないよりは賭けてみる価値はあるだろう。
そう結論づけて、俺はぐったりと横たわった隆生の身体を抱きかかえ、青ざめた白い頬に片手を添えて口付けた。
合わせた唇から息と共に自分の妖力を吹き込む。
それを何度か繰り返すうちに、青白かった隆生の頬に赤味が差してきた。
「ん……」
ぴくりと指先が動いたのに気づいて顔を離すと、隆生の睫毛がふるりと震えて瞼が開く。
「まさ、き……?」
まだ少しぼんやりとしている隆生を支えて立ち上がらせる。
「大丈夫か?」
「うん……。少しふらふらするけど。壮軌、あの妖は?」
『あの妖』というのは鳥妖のことだろう。それなら。
「俺が滅した。それより、戻ったら話したいことがあるんだが、いいか?」
怪訝そうな表情をしながらも頷いた隆生に肩を貸して、《道》を繋ぐと俺達は屋敷に戻った。
「隆生は無事だから、あまり溜まるな」
庭に立つなり寄ってきた黒坊主をはじめとする妖達を散らして部屋に上がる。
部屋の陽当りの良い場所に隆生を座らせ、隣室から着替えを持ってきて渡した。




