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其の参 我が愛しき鳥 -沙嵬ー

「翔摩!妖が噂していた人間は本当にいたよ。これで貴方は助かるんだ!」

 眠らせた人間を翔摩の元へと運ぶと、翔摩が哀しそうな顔をしてあたしを見た。

「沙嵬。私はその人間の命を取ってまで生き長らえたいとは思わないよ」

 あたしがこんなにも想っているのに、翔摩は人間の命を取る事を聞き入れてくれない。

「沙嵬?何をするのです……?」

「眠って、翔摩。次に目覚めた時には、何もかも元通りになってるから」

 それならば。と強制的に翔摩を眠らせて、あたしは拐ってきた人間―隆生―を湖の中に引き入れた。

 着物の前を開いて両腕を抜き、上半身を露にしてから翔摩の幹に妖力を込めた自身の髪を使って縛り付けて行く。

 しっかりと幹に縛り付けたのを確認してから、あたしは右手の人差し指の爪に力を送り長く尖らせた。

 それを隆生の心臓の下辺りに深く食い込ませ、斜めに引き下ろして行く。

 十字になるように傷をつけるとすぐに鮮血が溢れ出し、その血は幹の周囲を赤く染めて瞬く間に吸収されていった。

 隆生の血を吸収して、翔摩に妖力が戻っていくのとは反対に、隆生の顔は次第に青ざめ見るまに衰弱していくのがわかる。

(あと少し)

 あと少しで翔摩の力は完全に元に戻る。

 そう思った時、《道》の繋がる気配がして今まで感じたことのない、恐ろしいほどの殺気があたしに襲いかかってきた。

 ゆっくりとした動作で振り向くと、岸辺にさっきの男が立っていた。

 深緑の髪が溢れ出る怒気にゆらゆらと揺れている。

「……隆生を、返せ」

 唸るように告げられた言葉と共に、痛いくらいの殺気があたしに向かって放たれた。

 けど。

「悪いけど、あたしの邪魔はさせないわ!」

 翔摩の桜からザッと音を立てて飛び立ち、岸辺の男に真っ直ぐに向かっていく。

 男が手にしていた太刀を抜き、鞘を後方に投げ捨てて切り掛ってきた。

(大丈夫。炎さえなければ、あたしに敵う妖はいない)

 攻撃を難なく躱して、片手を猛禽類の鉤爪に変化させると男の肩を深く抉った。

「く……ッ」

 短く呻いた男が地面に片膝をついた時、あたしは自分の勝ちを確信した。

 ……なのに。

『まぁったく、つれない(あるじ)殿(どの)だ。我をまだ思い出しもせぬとは』

 呆れたような男の声と共に、太刀が炎に包まれる。


──全ての物を焼き尽くす、紅蓮の炎──


「焼き尽くせ、(あかね)(まる)

『応。全ては我が主殿の望むままに』

 そう、言葉が響いたのと同時に男が上段から振り抜いた太刀から真っ直ぐに伸びた炎があたしに襲いかかった。

 十分な距離をとっていたはずなのに、避ける暇も無く身体が炎に包まれる。

「沙嵬ぃ……ッ!」

 その瞬間、愛しい人の声が聞こえて後ろから力強い腕に抱き締められた。

「翔……摩?どうして……」

 腕を振りほどこうともがくあたしの身体と一緒に、翔摩も炎に包まれていく。

「私を一人にする気?生きるも死ぬも共にと誓ったのに……」

 優しく囁かれて笑みが零れた。

 そうだ。独りで生きるのも、独りで死ぬのも嫌だった。

「愛してるわ、翔摩」

「愛してるよ、沙嵬」

 最後に見たのは愛しい人の笑顔。与えられたのは……、優しい口付け。


────もう、離れない────


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