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其の参 我が愛しき鳥 -壮軌ー

―壮軌―

 突然吹いた強い風に視界を奪われて、風が止んだ時には姿も気配も消えていた。

「隆生!」

 またしても目の前で隆生を(さら)われたことに言いようのない感情が沸き起こって、ぎりっと奥歯を噛み締める。

 あの妖が何者なのか、俺には見当もつかなかった。

 しかし、木霊の時のように狙いが隆生の生命だとしたら、一刻の猶予もない。

「黒坊主!白萩!」

『なんじゃ、若。血相を変えて』

『おや?坊はどうした。気配がせんぞ?』

 俺の呼びかけに、足元と目の前に音もなく現れた二人が暢気な口調なのがカンに触るが、それを気にしている場合ではなかった。

「女の鳥妖に拐われた。お前たち、心当たりはないか?」

 『拐われた』という俺の言葉に二人が気色ばんだが、一瞥をくれて黙らせる。

「で、何か知らないか」

『我はこの土地しか知らぬ故、他所の妖の事までは与り知らぬ』

『わしも……、女の鳥妖とは初耳だ』

「そうか……」

 ばつの悪そうな表情の二人が消えた後、少しだけ躊躇ってから《道》を繋いで向かったのは露木と透が眠る桜の元だった。

「露樹、透。すまないが少し起きてくれないか?」

 桜に向かって声を掛けるとまず透が現れた。

 初めのうちこそどこか眠たげだった透も俺の様子に異変を感じ取ったのかすぐにその表情を引き締める。

『何かあったのですか?』

「隆生が女の鳥妖に連れて行かれた。……何か知っていることがあったら教えてくれないか」

 少し考える様子を見せた後すっと透が消えて、今度は露木が現れる。

『鳥妖で女なら、それは《沙嵬(さき)》でしょう』

「沙嵬?」

 露木が話すには《沙嵬》は元々弱い山鳥であったが『死にたくない』との一念だけで妖化し、手当たり次第に他の妖の力を吸収して強くなっていったのだという。

 いつしか近隣の妖に沙嵬に敵う者はいなくなり、誰もが彼女を恐れ遠ざけた。

 そんな中、彼女に恐れを抱かずに接していたのが西の山奥にある湖の傍らに立つ山桜の妖である《翔摩(しょうま)》だった。

 翔摩は湖の水位が上がったために今では湖の中に本体である桜が浸かって、根が腐りかけておりその為に妖力までもが衰えている。

『おそらく、翔摩を救う為に沙嵬は隆生を攫ったのでしょう』

「奴らの狙いは」

 嫌な予感を感じつつ露樹に問いかけると、彼もまた苦悩に満ちた表情をしていた。

『……隆生の血肉でしょう。一部の妖の間で彼の血を吸えば妖力が強くなり、肉を喰らえば妖の王になるのも容易いと噂されていますから』

 露樹の言葉に身の内から言いようのない怒りが湧きあがり、露樹が息を飲んだ。

 溢れ出す感情のままに力を解放すると簡単に《道》が繋がる。

「ありがとう、露樹」

 心配そうに俺を見る露樹に一言礼を言って、繋いだ《道》へと足を進めた。




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