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其の参 我が愛しき鳥 -隆生ー2

「隆生は、隆生だろ」

 その言葉と共に俯いた俺の頭に大きな手が乗った。

 撫でるわけでもなく、ただ置かれているだけの手から伝わる温もりに何故か安心する。

『そうだ、坊は坊じゃろ』

 膝の上の白萩が退屈そうな声でそう言って、ひらりと音も無く庭へと降りた。

『老いぬとはいえ、所詮ちっぽけな人間如きが悩んでいても仕方なかろう』

 はっと上げた視線の先で、白萩の柔らかな尾がゆらりと揺れて消える。

 それから暫く、そう、桜が咲き始めるまでは穏やかな日々が続いた。


……彼女が、現れるまでは。

 

裏庭の桜が咲き始め、俺は妖達に急かされるままに花見の用意を弥市に頼むと一人庭に降りた。

 壮軌には余り自分から離れるなと言われていたけれど、何かに呼ばれたような気がしたから。

 暖かな春の陽射しに庭の木々も芽吹き始め、そこかしこに小さな生命に溢れている。

 ゆっくりと池の(ほとり)を歩き、裏庭の桜を目指す。と、木の下に綺麗な鳥がいるのが見えた。

「あんな鳥、この辺にいたかな」

 一瞬目を離して再び視線を戻すと、鳥の居た場所に見たことのない女性が立っていた。

「え?」

 その女性は俺に気付くと常人では考えられない速さで近づいてくる。

 それで、彼女が妖の者だと気付いた。

「お前が、《伊勢崎隆生》か?」

「……だったら、何?」

 じりじりと後ずさりながら妖の問いに答える。

 背中を冷たい汗が流れる感覚は木霊の時に似ていて、目の前の妖が危険だと伝えていた。

「お前がいれば、あの人は消えなくて済む…」

 伸ばされた手が俺に触れる前に、何時の間にか近くに来ていた壮軌の背中が俺の視界を塞ぐ。

「邪魔をするな!」

 妖の気配が一気に禍々しい物に変わった。

 余りの威圧感にさしもの壮軌も一瞬怯んだ。それを見逃さずに妖が攻撃を仕掛けてくる。

 このまま壮軌の後ろに居ては彼の邪魔になるだけだと思って、俺は屋敷の方へと走り出した。

「待て!」

 甲高い声と共に猛烈な風が背後から吹き上がる。

 それに足を取られて倒れ込んだ視界にさっきの妖の着物の裾が見えた。

 きり。と見えない何かに身体を縛られた感覚がして指先も動かせなくなる。

「なん、で?」

「お前の血肉があれば、あの人が消えずに済むんだ」

 悲壮な声音でそう言った妖が俺の額に触れた途端、視界が急に暗くなって何も考えられなくなった……。












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