其の参 我が愛しき鳥 -隆生ー
木霊の事件から半月。
あれからは悪意のある妖が来る事も無く、拍子抜けするほど穏やかな日々が続いていた。
『坊、我は花見がしたいぞ』
『花見、花見』
どこからともなく出てきて、膝に擦り寄ってきた白萩が言う。
その言葉に小妖たちが嬉しそうに賛同する。
「まだ桜は咲かないよ。もう少し待たないと」
『街の方は咲いておったのに』
残念そうに呟く白萩を、壮軌が首の後ろを掴んで摘み上げた。
「お前は、酒が飲みたいだけだろう」
呆れたような口調に苦笑が漏れる。
壮軌も初めて会った頃に比べると、だいぶん感情が豊かになってきた気がした。
この家に集う妖たちは何故か陽気で騒ぎが好きなモノが多い。
『若は容赦がないの…』
ぽいっと放り投げられながらも、綺麗に地面に着地した白萩が呟いた。
「酒なら、後で弥市に頼んでおくよ」
心なしか肩が落ちた気がして思わずそう声を掛けると、白萩が嬉しそうに振り向く。
『坊は話がようわかる』
ほてほてと尻尾を揺らした白萩が俺の膝に乗ってきた。
その柔らかな背中を撫でながら考えるのは、やはりこの間の事。
この間。
俺は壮軌があの木霊を倒したのだと思っていた。けど、何があったのか何も覚えていない。
だから、壮軌に聞いたのだけど……。
『隆生が、浄化の力を使ったんだ』
そう言われても俺には何の事かわからなかった。
木霊と露樹が会話をしているところで、俺の記憶は途切れていて、目覚めた時には全てが終わっていたのだし。
(俺はただの人間で、妖のような力は持っていないはず……)
「……俺は、一体何者なんだろう」




