其の弐 神木 -壮軌ー
―壮軌―
透が作った《道》を通って着いた場所は、荒れ果てた屋敷の傍にある大きな桜の前だった。
大人が二人で両手を広げても抱えきれないであろうと思われる太い幹の根元に、隆生がぐったりと寄りかかっているのが見える。
その身体には地面から伸びた細い木の根が幾重にも絡みついて仄かに白い光を発していた。
「隆生…!」
『近寄るな』
駆け寄ろうとした俺に、いつの間に現れたのか隆生の傍に立っていた白銀の髪の男が、言葉と共に射るような眼差しを向けてくる。
反射的に腰に挿した刀に手をかけると、男が楽しそうに笑った。
『我に手を出せば、この者も無事では済まぬよ』
刀の柄に手を添えたまま動けずにいる俺を横目で見ながら、男が隆生の頬に指を滑らせる。
「何故だ」
『我とこの者は、精気を共有している。だから、我が倒れればこの者の命もな…。
さぁ、透。邪魔者を排除せよ』
その言葉が終わらないうちに、風を切る鋭い音が俺に迫った。
紙一重のところでそれをかわすと、人形のように表情を失くした透が俺に向かって長く伸びた爪を、指先を揃えて振り上げる。
「チッ…、透!目を覚ませ!」
攻撃を避けながら透に呼びかけるもその表情に変化はない。
時折、隆生の方へ視線をやる度に彼の顔色が青褪めていくのに焦燥感が募っていった。
隆生の様子と透を交互に見ながら、俺は自分の心が揺れている事に戸惑っていた。
隆生を救出する為には敵である彼らを倒せばよいだけの事なのに、透の話を聞いた後では本当にそれで良いのかという葛藤が生じる。
「……して」
か細い声が聞こえたような気がして視線を前に戻す。
「……ッ!」
表情のない透の頬に一筋の涙が伝っていた。
俺を隆生達から離すように攻撃しながら、涙を流す透の思念が俺に届く。
「私を、殺してください……」
鋭い爪で俺に斬りかかりながら、『…殺して、解放してくれ』と透の思念が切れ切れに訴えかけてくる、その姿を見て俺の気持ちが固まった。
襲い掛かってきた透の爪を跳んでかわし、距離を置いて刀を構え直す。




