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其の弐 神木 -透ー2

「この家のある辺りは元々戦場(いくさば)で、多くの血が流れた場所。そしてその血を吸って育ったのがあの《神木》なのだよ。

 そして祖先は《神木》に宿るモノとある契約をした」

「契約…」

 私の呟きに父が小さく頷いて先を続ける。

「そう。この家を繁栄させる代わりに、直系の第一子を(にえ)として差し出すこと。

 それは今でも続いている」

「それでは、」

(さっきの兄さまの装いは)

 白装束の兄の姿が浮かんで、さぁっと血の気が引いていくのを感じた。

「当代の贄は露樹だ。あれは病弱で約束の十九の年まで(ながら)えるか不安だったが…。よく持ちこたえてくれた」

 ほっとしたような表情でそういう父の言葉が、やけに遠く聞こえる。

(兄さまは自分が贄として大事にされていた事を、いつから知っていたのだろう)

 私は何も知らなかった。

 家業に対する周囲の期待も、何もかもただ兄が病弱なのが理由なのだと思っていた。

 これから先もずっと、兄を助けて二人で家を守って行くのだと思っていたのに。

 知ってしまえば、兄が時折見せた苦しげな表情が、けして病のせいだけでないこともわかった。

「透、どこへ行く?……待ちなさい!」

 考えるより先に身体が動いていた。まだ何かを言っていた父に目もくれず立ち上がると、部屋を飛び出し裏庭へと走る。

「兄さま!」

 満開の桜の下、白装束の兄が、白銀の髪の男に抱きかかえられるようにして立っているのが見えた。

『ほれ、お主の愛しくて憎い者が来たよ』

 兄を抱いたまま、男がさも楽しげに笑う。

 その声に兄の閉じていた目が開き、真っ直ぐに私を見た。

「透!来てはいけない、戻るんだ!」

 驚愕に目を見開いて兄が叫ぶ。

 そんな兄の様子に、男がおや、という顔をした。

『お主は弟が憎いのであろ?

……あぁ、そうだ。弟を贄にしてお主の命を存えさせてやろうか』


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