其の弐 神木 -隆生ー3
拳を握って目の前の透明な壁を殴りつけるが、そんなことではびくともしない。
俺の背後では、壮軌が刀を抜いたのか刃物同士の触れ合う硬質な音が響いていた。
「誰か、……弥市ッ、黒坊主!居ないのか!」
いつもならそこかしこに居るはずの妖達が一体も見当たらない。
それで初めて俺は状況の異様さに気付いた。
おそらく、透が現れた時には既に何らかの結界のようなものが張られたか、空間が遮断されたかしたのだろう。
そう考えれば、目の前の見えない壁の存在も納得できる。
と、そこまで考えた時、背後に違う気配を感じた。
ばっと振り返ると、白銀の腰まである長い髪の、薄紅色の狩衣を着た見覚えのない男が立っている。
血の気のない青白い顔の、そこだけが血のように紅い唇がニィと笑みを形作る。
(この男は、危険だ)
ぞくりと背中に悪寒が走って、目の前の男から逃げようとした途端、腕をがっちりと掴まれた。
「放せよ……っ!」
必死に振りほどこうと掴まれた腕を動かすけど、自分と大差ないくらいの背格好の男のどこにそんな力があるのか、逆にその胸に抱き込まれてしまう。
──ツ カ マ エ タ
硬質な、冷たい声が頭の中に響いて、急に気が遠くなる。
「隆生!」
瞼が下がりきる前に見えたのは、透の攻撃をかわしながら俺を呼ぶ壮軌の顔。
それを最後に、俺の意識は闇に呑まれた……。




