フットバッグって知ってるかい
庭には、秀一を取り囲むように十人ほどの人垣ができた。
「ここにおられる円秀殿は、飛鳥井流の秘伝の技を習得されておられるそうだ。是非とも、見せていただこう」
滝川新助の声を受けて、周りの人々は興味津々で秀一を見つめていた。
秀一は、新助に渡された毬を下におくと、目の前にいた十歳ぐらいの男の子にこう言った。
「お手玉を1つ持ってきてもらえるかい。私が円旬様から教わった秘伝では、蹴鞠ではなくお手玉を使うんだよ」
「お手玉を何に使うの?」
「見てみれば、分かるよ」
男の子からお手玉を受け取った秀一は、お手玉をリフティングし始めた。足の甲だけでなく、踵や頭、背中、1回転したりジャンプしながらとまるで曲芸のようだった。周りを囲んだ人々は、初めてみる技に驚き大きな歓声をあげた。
(やってて良かった、フットバッグ。芸は身を助けるぜ)
フットバッグとは、足を使ってお手玉をリフティングして技を競うスポーツである。フリースタイルのリフティングのお手玉版のようなもので、秀一はホストの仲間に教わっていた。場所を取らずにでき、いい運動にもなるので一時期はまっていたのだ。
「円旬様が私に教えてくださったのは、お手玉を使って子供たちを楽しませるための技でした。
最後に教えていただきましたが、飛鳥井家では幼少のころはこのようにお手玉を使って、体の動きを練習されるのだそうです。信じて頂けますでしょうか」
リフティングを見せ終えた秀一にたいして、滝川新助は頭を下げた。
「素晴らしい技だ。円秀殿、疑って申し訳なかった。
この滝川新助、喜んで協力させていただこう」
秀一は賭けに勝った。
本当の蹴鞠の作法では、右足のみを使い、膝を曲げずに蹴るそうです。