まずい設定は早めに回収しましょう
「この度、滝川家に仕えてくれることになった円秀殿だ。蹴鞠の技は先程皆も見ただろう。算術も出来るとのことで、まずは宗兵衛の教育係として考えている。皆もよろしく頼む」
「兄上、有り難うございます。円秀殿、ご指導お願い致します」
滝川新助の言葉を聞いて、秀一にお手玉を渡した男の子が満面の笑顔で答えた。
(ん?シンスケとソウベエが兄弟ってことか。滝川一益の兄弟って聞いたことねえぞ。別人かソウベエが早く死ぬのか?
さて、「円秀」の設定はと。。)
秀一の特技に、「うそや作り話を、あたかも現実にあったかのように話す」「相手の話はどんな細かいことでも覚えるand自分がした作り話や嘘も忘れず覚えている」というのがある。
これが出来ないと、秀一のように話術や場の雰囲気で女性から金を引っ張るホストを、続けるのは難しいので、自然に出来るようになった技だ。
「私、陸奥国の天台宗円良寺にて円旬様に仕えておりました、円秀と申します。先月円旬様が亡くなられたため、その際託されたものを飛鳥井家に届けるべく旅をして参りました。
滝川様のお力添えにより、その願い叶うことに相成りました。その御恩に報いるため、非力ながら滝川様にお仕え致します。
円旬様よりお手玉の技と、算盤をお教えいただきました。文字の読み書きはまだまだで御座いますが、円旬様よりお教え頂いたものを、滝川家のためにお伝えしたいと思います」
「なんと、商人が使っている「そおはん」を使えると申されるか。宗兵衛だけでなく、私も教えを請いましょうかな。
しかし、円秀殿を家臣とすることができて、我が家は本当に幸運であったな」
(ありゃ、算盤は一般技能じゃなかったか。暗算すると無意識に指が動いちまうから、どうせバレるしまあいいか)
算盤は、室町時代には中国から日本に渡ってきたが、当然ながら商人など一部の人間しか使っていなかった。武将では、国持大名になった頃に前田利家が算盤を使っているエピソードが、「利家と○つ」に出てくる。
しかしながら、このころの算盤は現在の「天一珠、地四珠」ではなく、「天二珠、地五珠」の構成なので、秀一は後日困ったことになる。
「恐れ入ります、タキガワ様。私は円旬様のお世話をするためだけに僧籍を頂いた、経も読めない足軽の家の出で御座います。
タキガワ様には、役に立たない僧円秀ではなく、元の名である山本藤次郎としてお仕えいたしたいのですが、よろしいでしょうか」
(お経なんて読めねえからな。こういう不味い設定は早めに回収しとくに限るぜ)
ちなみに、山本は本名で、トージローはホストの時の源氏名である。
「そおはんができるのに、経は読めんと。なんともちぐはぐだの」
滝川新助が首をかしげる。
「円旬様が仰るには、「そおはんは指で覚え、蹴鞠は体で覚え、経は喉で覚える」だそうです。円旬様は私の経を一度聞いて、もう止めよと言われました。それ以来、私は一度も経を読んでおりません」
「それほどまでに、酷かったのか」
ホストである秀一は、モチロン音痴ではない。しかし、音程が取れず、リズム感がない読経を聞かされるのが辛いのは事実である。
音痴のために経を読ませてもらえなかったなど、あまり聞かないことなのか、周りの人々は大笑いした。
「はっはっは。いつか我らにも、聞かせて頂きたいものですな」
(少しはツッコミ処がないとな。妬まれるのは御免だ)
笑いがおさまると、滝川新助が秀一に告げた。
「山本藤次郎。改めて滝川家に仕えよ」




