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Advent Online  作者: 枯淡
スレイプニル・レース編
30/34

29 塔の男爵

(。´・ω・)?


 翌日、次なるチェックポイントに向けて馬を走らせる。実況を聞く限り、夜通し走っていた連中もいる様で戦闘組とは大分離されていた。同時に多くの脱落者が出ており、街の観戦者は増える一方である。そうした報復者もレースの障害となる為、出来るだけ恨みはばら撒かない方が得策だ。今更だけれど。


 地面を踏みしめそこそこスピードで走り抜ける。ある程度走れば休憩を入れ、馬に無理をさせない様に注意して走る。優勝は初めから狙っていないが、出来るだけ高い順位でクリアしたいものだ。そう思いつつも、ミニ馬のミウが可愛くてつい甘やかしてしまう。


「ブルルル」

「うひゃー」


 ちょうど湖を見つけたので、ここで休憩を入れつつブラッシングをしている。他の馬たちも草を食んで補給中の様だ。はぁ、かわええ。


「はぁ、可愛いのです……」

「…………」(コクコク)


 いつの間にかノヴァさんとジェシカが仲良しになっているようで、どうやってか意思疎通をしているかのような、会話のようなものをしている。私のなのに……ちょっとしょんぼりだょ……。


「おまえは可愛いな、ミウ。いっぱいブラッシングしてやるからなー」

「ヒヒン!」


 ガサガサと茂みから音が立つ。そこからゴブリンが三匹躍り出て、錆びた鉄剣で襲い掛かって来た。しかし私がその程度でやられる筈も無し。


「【聖壁】!」


 聖壁を発動させ、ゴブリン三匹を纏めて捕獲する。今はブラッシング中なので、出来ればすぐにでも仕留めたいが後回しだ。放っておけばノヴァさんが片手間に切り捨ててくれるだろうし。そうそう、どうやらドッペルゲンガーノヴァの熟練度が上がったみたいで、わざわざ光の大精霊にならなくてもノヴァさんが出られる様になったし、維持コストも減ったので楽になった。大精霊化していると、感覚が鋭敏になってしまって無駄な情報を仕入れてしまう。索敵には便利なんだけどね。


 さて、これから挑むのはレースの副次的なイベント、【種のダンジョン】である。このダンジョンをクリアすれば、ランダムで進化の種が貰えるらしい。そうと決まれば行くしかないのだけれど、お一人様一度限りな上にプレイヤーから大量にヘイトを稼いでしまった現状、最悪な場合待ち伏せを受ける可能性もある。まぁ、高レベルの隠密系スキルでもないと、結局無駄になるだろうけれど。


 そんな危険が待っているが、これも冒険。危険は付き物だ。五人で話し合ってそう決めると、公式のダンジョンとして公開されている三つのうち、一つに侵入することになった。このダンジョンは先述したとおり、クリアすれば全員がランダムで種を貰える。しかし、その分階層が深く強い敵がゴロゴロっと居る。経験値稼ぎにはもってこいのメモリアルダンジョンといったところだ。

 そしてもう一つが、階層は浅いがモンスターは超強力。そして何より種の数は限定されており、酷いダンジョンでは一個限定な所もあるらしい。これらの位置は公開されておらず、ノーマルなダンジョンと見分けて攻略しなければならないので、その分タイムロスが生まれる。


 とはいえ先に進まなければ始まらない。休憩を終えて走り出した私達は、地図を見ながらダンジョンへと向かった。途中、何度か魔物との戦闘もあったのだけど、全て二人のアーチャーが倒してしまった。お前ら生産職じゃなったっけ……。


 尚も進むと、地上数百メートルはあろうかという塔が建っており、ここが「種のダンジョン」である事を雄弁に物語っていた。でも地下なんだよね、ダンジョン。


「いらっしゃいませ、種のダンジョン第一支部へようこそー!こちらでは地下へのダンジョンと、宿屋を含む商店の塔が併設されております。ルールについてはご存知ですうか?」

「一応教えてもらえるかな?」

「畏まりました!このダンジョンでは馬の使用は禁止しております、自らの足で踏破してください。このダンジョンは全部で三十階層あります。その最後のボスを倒すと種のダンジョン踏破報酬である“進化の種”が手に入ります。これを馬に使うと、相応の進化を致しますのでご利用ください。塔についてですが、一つの町と言っても過言ではありません。ここを納める領主の方がいて、その方によって商業ギルドが運営されていますので、どうか無礼の無い様にお願いします。あとは、最低限の常識を持って行動して下されば何も特に言及することもありませんね」

「なるほろ……うん……多分大丈夫?」

「ニノ、あなたお脳の調子が……」

「ぐぅ、一気に言われたから付いていってないだけで、別に理解してない訳じゃないんだよ!?」

「まぁ、要するにダンジョン踏破すれば報酬に進化の種が貰えて、その間の生活面は塔が管理してるって事ですよ」

「ありがとうお姉さん、すごい解りやすい」

「あはは……」


 受付のお姉さんに空笑いされながら、私達は塔の中へと入った。円周は大手地方スーパーと同等の大きさで、中に入ると一階から大騒ぎの様相を呈していた。どうやら一階は冒険者ギルドに成っている様で、換金所やクエストボードなども置いてある。そして大量の冒険者が犇めき合い、依頼を取り合ったり受付でゴネていたり、新人冒険者をいびっていたりなどのお馴染みの光景が繰り広げられていた。その一角には酒場も設けてあり、どんちゃん騒ぎをする光景も見受けられる。時間的にも十八時になっているので、仕事終わりの一杯でも飲んでいるのだろうか。


 そんなギルドの受付は、大きな塔の中心に丸い柱のような物があり、それをくりぬいて使用しているタイプの様だ。そして壁際に横に広めの階段が設置されており、そこを通って上の階に行ける造りになっている。

 案内板を確認してみると、一階が冒険者ギルドフロア、二階から四階が宿屋と食事処、五階から七階が武器防具や道具の売り場、八階が魔術師専門フロア、九階が図書館、十階が市庁舎となっている。魔術師専門フロアが一フロアだけなのは、売り物に関しては武器防具フロアで賄え、魔術書に関しては九階図書館で何とかなる。ただ、魔術研究所としての階層が八階なのだ。


 そして天辺にはこの塔を管理している男爵が住んでおり、当然そこへと向かう事になる。なんと言っても公爵位持ちだからね。

 そんな公爵位をひけらかして貴族専用エレベーターに乗り込み、天辺まで一直線。ショップを少し見たいところだが、それは明日でも出来るしイベントが終わってからでも出来る。このダンジョンは今後も維持されていくそうだから。


 エレベーターの扉が開くと、そこには額を床にこすり付ける小太りの男性が居た。ああ、これ男爵じゃね?


「も、申し訳ありませんでした!」

「だ、男爵様のご命令と言えど、このような不正を行ってしまい、まことに、まことに……」


 おいおい、何をしたんだよ。そうは思えど体は動かず、五人そろってハテナと首を傾げる。男爵は申し訳ございません!と自分から罪状をこぼしていった。物価の高騰と仕入れ値の減額、それによる孤児院の運営について必死に謝って来た。いや、途中まで聞いてたら権力発動しようかと思ったけど、普通に良い事してるんじゃん。


「男爵、なんで孤児院の運営にそこまで固執するのですか?」

「はぁ、私はもともと孤児院の育ちで、純血の貴族では無いのです。偶然にも前当主様が養子として迎え入れて下さり、なんとか一人前になる事ができました。しかし前当主様は私の成長を待たずに病に倒れ、お亡くなりになってしまわれたのです……。前当主様はいくつもの孤児院を巡って私を選んでくださいましたが、孤児院の状況を見て憂いておいででした。遺言には孤児院の改善策がいくつも書かれておりましたが、どれも強硬策ばかりで……やるべきではないと思いましたが、これで何かが改善するのであればと……」

「うん、解った。けど物価や買い取り額は通常に戻してくれるかな?」

「そ、そんな……いえ、畏まりました……。やはり我々が間違っていたのですな」

「いやいや、資金ならミワ公爵領から援助しますよ。それと、我々の領地でも孤児院を設立しますから、もしこっちに来たい子や管理しきれない人数になったら送ってください。というわけで、当面の資金はこれくらいで良いですかね?」


 ガチャッと音を立てて、ローテーブルに革袋を置く。そこには二千万ゴールドが入っており、前公爵邸から剥ぎ取った金ぴかの代金である。つまりあぶく銭、そんなものはどこかで役立ててしまえばいいのだ。そもそも、ゲームに理不尽なんていらないのですよ。


「こ、こんなに……ありがとうございますっ!爺、これをボブの処へ!」

「畏まりました!」


 金貨袋を持って爺と呼ばれた執事は、風になったかと疑うほどのスピードでダッシュし、一瞬で視界から消え去った。早い、あれに乗ればレース攻略できるかもしれない。ゴクリ。


「ボブとは?」

「はい、ボブというのは孤児院の責任者で、狼獣人の血が濃い為にモンスターと間違われ捨てられた男でして、今は人化のスキルを得て溶け込んでいますが幼い頃は孤児院でも苛められていた奴でして……でも、根は良い奴なのです」


 さっきまで蒼白だったり、喜色に溢れた表情とは違い、慈愛に溢れた表情を浮かべていた。恐らく、彼の幼馴染に当たる男なのだろう。仲が良いように思えるし、それも理由の一つなのかもしれない。


「それでね、男爵。私達は今レースに参加していて、泊まるところを融通してほしいんだ。どうせ町では観光客が溢れかえっていて、どこも満室だろうしね」

「そうでしたか、でしたらこの屋敷にお泊りください。孤児たちの恩人ですから、精一杯のもてなしを致しましょう。あまり豪華な物は出せませんが」

「あはは、当たり前ですよ。もしここで豪華な食事が出てきたら、男爵ごと屋敷を真っ二つにしていますよ」

「……そ、そう、ですよ、ね……」


 おぅ、顔面がまた青くなってきたな。だがまぁ、私腹を肥やすタイプでは無い事が分かって良かったよ。それにいくらゲームとは言え、奴隷や孤児なんてのは見ていられないからね。こういう処は自己顕示意欲とか英雄願望とか、そういうエゴなんだろうけど。


 私達は使用人の案内で部屋へと送ってもらい、夕食までの時間を自由に過ごすことにした。暫くすると、食事の準備が整ったとの知らせが入り、五人で食堂へと向かう。今後の計画などを話し合う為の時間が必要だが、休むこともまた必要。明日からはダンジョンに篭らなければならないのだから、質素でも沢山食べておかなければ。


 出てきた料理は、ヒヨコ豆と根菜のミネストローネ、白パン、以上である。まさか肉すら無いとは……恐れ入った。まぁ、いいや。


 前フィリザール公爵領は西南に位置する辺境の一つで、そこを開拓する仕事も宇請け負っていたらしい。とはいえ、フィリザール家は次期王位を狙っていたので、開拓事業には一切手を出していなかったようだ。書類で確認しただけだから、実際に行ってみないと解らない。だけど、MMOでストラテジー的な事をする気も無いので、口だけ出して基本はNPCに任せよう。ゲーム内通貨はモンスターを倒せば手に入るのだから、わざわざケチる事も無いので孤児院は学校付きで運営しよう。今はまだ私達しか貴族位を持っていないみたいだけど、勘違いしたバカ共が貴族位を得たら領地間紛争が起きるのは目に見えている。


 まぁ、自領地にはスレイプニル・レースで通りがかるだろうし、その時に顔を出しておけばいいか。このゲーム、基本的に転移アイテムや装置が無いので遠距離移動が大変だ。

 このあいだ倭国まで転移したのは、ゲームマスターの依頼を達成したという異常事態の報酬だった。おそらくマスクデータとしては存在しているのだろうけれど、課金アイテムにも出てきていないという事は、未実装アイテムかGM専用アイテムってことなのだろう。


 その後はとりとめのない話で夕食を終え、各々の部屋に入って休むことにする。レース中だから長居はしないが、種のダンジョンに入る事を考えると三日はかかるだろう。資材もまだ余裕があるから、このまま突撃する予定だ。減った分はまた出発する際に塔で仕入れれば良い。今買ったところでアイテムボックスが溢れるだけだ。


 目覚ましタイマーを朝四時にセットして、布団に入ろうと掛布団をめくる。そこにはさっきまで居なかったはずのノヴァさんが、頬を赤らめて横になりチラチラと目線を合わせてきていた。なんだこの可愛い生物。そしてバフバフとシーツを叩いて「こっちゃこい」アピールをかましてきた。大分興奮しているのか、結構テンションが高い様子だ。この子、お酒でも飲んだんじゃなかろうか。

 もはやいつもの事なので、躊躇いなく布団に入る。するとノヴァさんが私の体をしっかりホールド。体温が低いのかひやっとコールド。おっと、ペ○シは好きじゃないのだけど。


 翌朝、起こしに来てくれたリース(ジェシカ)のお仕置きを受けたのは、言うまでもない事だった。



再開しましたが、ちょくちょく止まるかもです。

別な投稿作とエロ漫画を書いているので。

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