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(´・ω・`)しょぼん。
二振りの巨大な鎌が、嵐の様に部屋を破壊する。その剣線を尽く避け、水色の刃を閃かせて傷を与えていく人間。その光景は、まさしく神話のそれであった。
『なかなかやるな、さすが勇者というだけはある――という事か』
『貴様はこの程度か?遅すぎて欠伸が……ふわぁ~ぁ』
『くっ、勇者の癖に態度が悪いな!?』
『お前の勇者像が時代遅れなんじゃないか?』
割と息の合ったやり取りをしている二者。お互いがまだまだ本気を出していない証拠なのだろうか。
しかしそれも、カマキリの腕を一本切り落とした途端に変貌する。
『くっが、貴様、貴様貴様貴様キサマきさまああああああああああああっ!!勇者の分際で、トカゲ共に作られた駒の分際で我の体を切り落とす等とぉぉぉぉぉっ!!』
トカゲに作られた、駒……?
『そんなことぁ先刻承知だこるぁあああああああああああっ!!』
勇者の剣が激しく輝き、水色の奔流が放たれた。これ何処からどう見てもか○はめ波だ!
『馬鹿な、原初の種たるこの我が……』
か○はめ波に焼き尽くされ、足すら残らず消滅したデカいカマキリ。
『テメーが負けた理由は、たった一つのシンプルな答えだ。テメーは俺を怒r』
そこで視界は再び真っ白な光に包まれ、止んだと思ったら干からびた遺体とボロボロの部屋がそこにあった。青白く光る、赤黒い鎧を着込んだ何者かは、私の姿を確かめるとこう言った。
『……お分り頂けただろうか?』
夏のホラー特集かよ。いや確かにリアルは夏だけど。
ていうか最後のセリフは色々と危なかったよね?
「えと、まぁ、ちょっとだけ?」
『ならばよし』
今度は曹操かよ。意外と引き出しが渋いな……。
男はスゥ……と姿を薄くし、そして消え去った。
うーん、結局何がどうだと言うんだ?魔王を倒したらか○はめ波が使えるようになるのだろうか。
<星宝具クエスト【追憶の聖堂】をクリアしました。星封剣スキル【形状変化】が解放されました。固定ダメージが+1000となります>
なんだか知らないうちに星宝具クエスト遭遇していたらしい。クエスト発生が通知されないのか、これは。不便だ。
私は【形状変化】の説明を見てみようと、スキル説明文を開いて確認する。
【形状変化】
片手直剣以外の形状へと、自由変化が可能になる。大剣、短剣、ナイフ、曲刀、刀等のカテゴリーに囚われなくなる。剣以外の道具にも変化可能。例:スコップ、ブーメラン、杖など。
どうやら形状変化とは、自由に粒子刃を加工できるらしい。だが触ると焼き切れるのか、不便だ。その辺、何とかならないものかな?
あと地味に攻撃力がプラス千されているけれど、これ固定で二千ダメージってことだよね。もうそれだけで十分チートだと思うよ。イルファランテ流剣術は、今のところ最大で六連撃だが、もっとレベルを上げれば二桁の連撃はあるだろう。つまりこの時点で、一回の攻撃で一万二千ダメージを与える高火力ヒーラーということになる。しかも光精霊化という高速機動手段も持ち合わせているチートキャラだ。
そう考えると、私って色々とヤバいな。
そして、私は考えるのをやめた。
ウインドウをそっと閉じて、周囲を見回す。きっとこの階層の何処かに、天辺へと向かう道があるに違いないのだ。そうに決まっている。
ふらふらと危うげに歩きながら、私は地下基地をさ迷い歩く。
一時間かけて、なんとか昇降機を見つける事に成功した。ぶっちゃけ途中で現実が信じられなくなって、ドッペルさんに頼んで探して貰ったのだ。そうだ、これから黒ニノの事をノヴァさんと呼ぼう。あの子が私の親友だ。寂しくなんてないんだ。基本無表情だけど、きっと感情豊かなんだ。
昇降機に乗って物凄い勢いで上昇する。チーンという音と共に、扉が開いた。どうやら鉄の城とやらに着いたらしい。この城のセキュリティが本気で心配になる。
しかしその心配は杞憂に終わる。件の城も、廃墟だったのだ。
私は脱力した。ちょっとドキドキして、迫る敵を想像して足がふるふる震えていたのに、ボロッボロに錆びついた城を見て地面に手と膝を付いて脱力した。
無人の城の最奥部に安置されていた宝珠を持って、草壁神社の母屋に入ると神様の爆笑ボイスが聞こえてきて本気でイラっとしてしまうから不思議だ。
「神様、宝珠持ってきましたよ」
「あれ、案外早かったね。ありがとう、この宝珠が盗まれてから数千年……もうダメかと思ったよ」
「その宝珠、一体どんな効果があるのかな?」
「凄いよ、この宝珠は部屋内の温度を自由に変化させる事ができるんだ。通称エアコンと呼ばれているね」
「俺の頑張りが、エアコンの修理工紛いの事だったなんて……」
自然にガクリとぶっ倒れる。確かに部屋のエアコンは壊れていると、夏冬と厳しいけどさ。ていうか、そんなもんに数千年も執着するんんじゃねぇよ。作れよ。若しくは買えよ。
もはやイライラが抑えられず、ジト目で神様を卑下する視線を送る。とっととスキルブックを寄越せよ。それでチャラにしてやらぁ。
そんなカツアゲ紛いの思考に陥っているが、神璽はカツアゲ未経験である。肩がぶつかっただけで何も言わずに財布を置いて去られたり、喧嘩を売って来たチンピラがお金で解決しようとした事があるというだけで、進んでカツアゲをしたことは無い。
置き去り財布は、大抵知り合いの駐在さんの元へ届けている。
「そんな目をしないでよ、これが在れば食材の保存やお酒の醸造が楽になるんだよ?」
「どうでも良い。だから早く本をくれ」
「うぅん、キュートな見た目に反して中身はだいぶヤサグレてるね。そんな貴方にはこの本をあげよう」
私は神様が渡してくれた本の題名をちらりと一瞥する。どうやらホラーな展開はなさそう……でも読んでみないと解らないな。
ノヴァさんも呼び出して、二人で炬燵の一角を占領し一緒に本を読む。嗚呼、こんな友達が欲しかった。あ、なに蜜柑を独り占めしてんのさ神様。私等にもください。
◆◇◆
【君に愛を】
男は、とある女性に恋をしていた。
その女性は宿屋の看板娘で、近所に住む村長の孫である俺とは幼馴染の関係だった。だからだろう、お互いに知らない事は無いと思っていた。
ある日、旅の冒険者のパーティだろうか。六人くらいの男性が宿屋に泊まり、酒場で飲んだくれていた。それはいつもの光景で、男も特に思う事は無かった。
そんなある日の事である。男は今日も飲んだくれている男達を横目に、幼馴染に酒を注文した。男は酔うほどは飲まない性質で、ぼろ酔いで家に帰り眠る事を日課としていた。既にいい大人であり、妻も子供もいるのだが、これだけはやめられなかった。
幼馴染とは恋仲ではない。ただ、昔馴染みとの会話が楽しいだけだ。妻は別の村から嫁いできており、それなりに良い妻をしてくれている。浮気などするような要素は何ひとつとして無い。過去の恋心など、とうの昔に捨てている。
男と妻と幼馴染三人は、何度も会って話し合いの上で現状に落ち着いている。最初の頃にこそ誤解はあったが、既に解決済みの問題だった。
「今日もちょっとでいいのかな?」
幼馴染が酌をしながら男に問う。「あぁ、頼む」とだけ言うと、いつも通り寡黙な態度で飲み始めた。
その姿は長年連れ添った夫婦のそれであり、確かに勘違いするのも頷けるものだった。軽いつまみを頬張りながら、温い酒を舐める。今日は狩も上手く行って、生きの良い猪が三体も手に入った。
ちびちびと酒を飲んでいると、男たちの声が次第に大きくなって行き、聞き逃せない一言を叫んだ。「ようねーちゃん、今夜も一緒に楽しもうぜ」と。
愕然とした。男たちの部屋は大部屋で、パーティ全員がそこで寝泊まりしている。つまり、そういう事なのだろう。男はショックを受けて、なお酒をちびちびと飲む。幼馴染の顔はいつものそれとは違い、少し青ざめていた。
幼馴染は顔を伏せ、泣き出してしまう。それを慰める事もしない男は、黙って金を払い酒場を後にした。知られたくなかったのだろう、しかしそんな疚しい商売でもしないと、この村では食っていけない。生きて行けないのだ。
男は悔しいと感じている事に気づいた。いつも以上に苛立つこの心を、どうにも収まらせる事が出来ない。家に帰ると、まずは娘を手に掛けた。次に妻を、両親を手に掛けた。妻も子も、親でさえも、どうして……と呟いて事切れていく。男は感情が冷え切った様な声で、どうして……と呟いた。
その夜、一つの村が炎上し、冒険者を含む村人の多くが火に焼かれ死に絶えた。その中には、あの宿屋の幼馴染もいたという。
男はそんな話を私にすると、温い酒を飲み干して手の平を見ながら苦笑まじりに呟いた。どうして……と。
その濁された言葉を聞き取ってしまった瞬間、私は背筋に冷たい物を感じた。
「どうして、こんなに愛おしい」
酒場で偶然出会ったこの男は、どこか狂っている。私は不安になり、すぐにその場を立ち去った。件の村はそう遠くない。私は向かってみることにした。
黒く炭化した家と、白く灰となった村。そこには代行者として活動する私ですらおぞましい程の霊が溜まっていた。未だ炎に焼かれ続ける霊たちは、魂の叫びを、呪詛を一心不乱に吐いている。ただ一人、男に聞いた幼馴染の名前を叫んでいる。
私は魂を一つ一つ殺していく。逃さず、奴らの餌となる前に。
気が付くと宿屋のベッドで眠っており、外はすっかり日が昇って朝の様相を見せていた。夢か?あまりに記憶が曖昧で、特に疲労も無く装備には泥も付いていない。
ただ、まるで現実の様なあの感覚と、背筋を伝う冷気だけは覚えていた。食堂に降りると、そこには数人の憲兵が待機しており、私を見つけると拘束して連行されてしまった。彼ら曰く、昨日一人で酒を飲んでいると突然立ち上がり、金を置いて出て行った。不審に思った飲み客の一人が尾行をしていくと、小さな村にたどり着いた。そして急に剣を取り出し道行く村人を殺して周ったそうだ。憲兵も今朝方に村の惨状を確認して、逮捕に踏み切ったそうだ。
不思議なのは、その村は町の人間の誰一人として存在を知らなかった事。そして私の装備が全て泥も血も綺麗に拭きとられている事だった。
◆◇◆
ピロンッ!
<スキル【生活魔術】を取得しました>
案の定胸糞悪い内容の本だった。俺にばかりこんなのが来ているんじゃなかろうか?おっと、わたしわたし。うん、わたし。くそぅ。
あぁ、このゲームってなんでこんなにもストレスフル。
というか、生活魔術ってゲームじゃ必要無いんじゃなかろうか?疑問に思うが、スキルの説明を見て成程と納得した。
◆◇◆
【生活魔術】
【加熱・冷凍・冷却・乾燥・切断・水召喚・洗浄・清掃・対虫結界】が使えるようになる。利便性の向上には熟練度の上昇が必要。上位スキルに変換時【使用人召喚】が取得できる。
全ての主婦が望む最強の魔術。これを得た主婦は家政婦の職を得る事が出来るだろう。
サブ職業【家政婦】取得可能。
特殊職であり、全ての家事に対する適性が上がる。
生活魔術の熟練度の上昇率が向上する。
◆◇◆
サブ職業!?
初めて聞くシステムに心の底から驚嘆する。いや、そうじゃない。そもそも、なんであの文面で得られるスキルが生活魔術なんだと問い詰めたい。
あれですか、綺麗に洗浄したから犯行の証拠が見つからなかったとですか?個人的には酒を飲んでいた男の方が気になるわ!
しかも題名が君に愛を、なのにその意味が難解過ぎてさっぱりわからん。私じゃ理解できないよ……。
というより、【生活魔術】の上位スキルが【使用人召喚】って……。他人にやらせる気満々じゃないですか。でも、私はリアルでこれが使えるという事は……ゴクリ。
私は迷わずサブ職業【家政婦】を取得し、早速生活魔術のレベル上げをしながら暖かい部屋でのんびりと過ごすのだった。
それから数日、神様と一緒にだらだらと過ごしながらも生活魔術のレベル上げをしていたのだが、リアルタイムで深夜一時になってしまった為にここらで切り上げる事にした。
「じゃぁ、神様。私はもう行くけど、あまり爺さん婆さんに迷惑かけるなよ?」
「へぅ……わたし神様なのに……」
「まぁ、また来るから。熊に足から食べられない様に気を付けろよ」
「何そのリアルな描写。ってか頭からならOKなの!?」
「その方が、苦痛は少ないだろう?」
「あきらめの境地だよ!その達観した顔は駄目だよ帰ってきて!?」
そんなボケをしながら、私達は別れた。爺さん婆さんも孫の様に可愛がってくれて、私もノヴァさんも大満足だ。強いて言うなら、最近ノヴァさんが私を酷使している気がするがきっと気のせいだろう。喋れないノヴァさんがだけど、湯呑みを持ってテーブルをぺしぺし叩けばお茶だとか、お箸を持ってテーブルをばしばし叩けばご飯だとか、布団の脇をてふてふ叩けば添い寝だとか、そんな事は決してないんだ。ただ純粋に私が世話しているに過ぎない。きっとそうだ。
あ、でも最近勝手に出てくるし帰ってくれないのだけど。
さて、ノヴァさんと二人で王都に戻った私達は、その足で拠点にしている屋敷へと足を向ける。使用人たちがしっかりと働いてくれていたようで、眩しく光り輝いていた公害屋敷は落ち着いた屋敷へと変貌していた。うむ、これでこそ屋敷だろう。木の柱や土壁が侘び寂を感じさせて…………いや、誰が武家屋敷にしろと言ったさ。塀まで和風な土壁だし、瓦が乗っている。庭には松や灯篭、石造りの池などもあり、苔むした所など山川を思わせる。
建物は二階建ての武家屋敷で、端には道場と鍛冶工房が……ってこれ完全にあの二人の趣味か。まぁ、神職巫女と侍がいるんだから今更か。
読了感謝デス!
一週間ほどUPしなかったのは、スキルブックのせいデスよ。
だからもう決めたのデス、内容はストックしておくか書かないかって……。
どうしてもスキルブックが思いつかなかったデス。
あと最近近所のローソン100が二軒同時に撤退したので、本気で凹んでるデスよ。
100均がダイソーだけになったデス……。