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Advent Online  作者: 枯淡
擬人縁起編
23/34

22 神璽⑧

これにて擬人縁起編は終了です。次回からはイベント編に移ります。

大分時間がかかってしまい、申し訳ありません。それなりに納得いく内容になったと思っていますが、誤字脱字矛盾点、何かありましたらご一報ください。お願いします。

 あれから俺達は自宅に戻り、やや豪華な食事の後でデザートを食べながら父さんの話を待った。


「さて、どこから話をしようか」

「じゃぁ、まずどうしてこの姿、ゲームのアバターと同じ体になったのかを教えてほしい」


 事の始まりにして、騒動の根幹を為す事件だ。というか、他にも何かあるのか?てっきり、俺が幼女になった原因について心当たりがあるのだろうという程度しか予想していなかった。


「そうだね。それじゃあ先に言っておくけれど、これから話す内容は全て真実だし、嘘や冗談は欠片も無い。話が終わるまで質問は無し。僕が神璽に話せる事は、そんなに多くは無いからね」

「……わかった、口は挟まない」

「よろしい。では、まず一つ目。神璽は人間であって人間では無い。擬人という、言わば付喪神の様な存在だ。だが純粋な付喪神では無く、人との交配の末に出来た半妖ハーフのようなもの、と言えば分かるだろうか」

「…………うぇ?」

「うーん、解り辛いかな?」


 いや、解る。言いたいことは解るし、内容も理解できる。だがいまいち信用できないでいた。


「ふむ、信用できないって顔だね。では、その信用を得る為に僕の仕事を説明しよう。子供たちには国家公務員だと伝えているだけで、詳しい内容は伝えていなかったから丁度いいだろうしね。はいこれ、僕の名刺だよ」


 手渡された名刺には、しっかりと“三輪陽一”と父さんの名前が書いてあった。しかしその真上にはやや小さいフォントで“宮内庁”の文字が。続けて役職が“宮内庁直轄霊威対策特務六課課長”の文字が躍っている。は?なんだこれ。


「僕の仕事はそこに書かれている通り、国家的に認められた祓い師なんだ」

「いや、本気……なんだよね」

「勿論だよ、今日だって心霊スポットの下見に行っていたんだ。最近大きなヤマが片付いたところだから、その後処理が大変で」

「はぁ……」


 空返事しか出来ない。いや、それが普通の反応である。急に国家公務員の霊媒師ですなんて言われても国ぐるみで霊感商法しているのかと疑ってしまう。そこまで国庫が危ういのかと心配になってしまう。


 しかし、父さんは最初に全て真実だと言った。つまり、これも本当の事で、俺が人じゃないってのも本当の事……。


「でも、この姿になった理由は?それをまだ聞いていない」

「そうだね、簡単に言えば“その姿を望まれたから”なんだよ。神璽は擬人と言う、人として不安定な存在だ。けれど今までの姿で周囲に固定概念を植え付けていた、だからあの姿のままで居られた。けれど神璽、君はその姿で色んな人と触れ合っただろう?元の姿を知らない、色んな人達と触れ合っただろう。それが現実の肉体を改変するに至った」


 父さんは紅茶を一口飲むと、ガトーショコラを一口含み「うん、流石聖夜歌さんだ」と呟くと話を再開した。


「次に、神璽は僕と菜穂子さんの子ではない。菜穂子さんの兄で山津晃司と、よりという少女の間に出来た子だ。残念ながら、既に二人とも死亡しているから会う事は出来ないが、神璽の母親である依くんもまた、元男性だったんだよ。依くんは、戦争回避を目的に女装姿で女として育てられた。周囲の彼女に対する反応は女に対するそれであり、彼女を知る人は女だと思い込んだ。そして女として育てられた依くんもまた、それを望んだ。だから、依くんは女となり、それが原因となり擬人だと発覚したんだ。大きな点ではこのくらいかな、何か質問は?」

「「「………………」」」

「無いようだね、それじゃケーキを楽し」

「いやいやいやいやいやいや、ちょっと待って、俺父さんと母さんの子供じゃないの!?」

「嫌だなぁ神璽、僕の家系に君の様な強面が居ると思っていたのかい?」

「さりげなくヒデェよ父さん……それと、依さんだっけ?戦争回避って何デスか?」


 あ、やべ、混乱していてジェニーのカタコトが移った。


「そのままの意味だよ。依くんは大正三年の第一次世界大戦の頃には、既に成人している年齢だったからね。明治二十八年生まれの老人だったんだけど、姿は十四歳のまま。美しい少女の姿で固定されていたんだ」

「もう、衝撃的すぎて何が何やら……」

「不思議な事じゃないよ、神璽。僕らは生命個体として根本から構成されているけど、物に寿命は存在しない。石なんて物は特にね。つまり、依くんも神璽も半不老不死の存在なんだよ」

「でも依さんは死んだって」

「そう、君を生んでから時の流れに飲まれて、塵と化して消えた。依くんは知っていた様だったけど、知らなかった山津刑事は暴れたよ。一時期は神璽を殺したい程に憎んでいた。けど、依くんの忘れ形見だって思いなおして、必死に育てていたよ。菜穂子さんも身重で色々と手伝ったから、なんとかなっていた。けれど、昔逮捕した暴行犯に逆恨みされてね、撃たれて殉職してしまった」


 知らなかった、本当の父さんは山津晃司という男性で、しかも刑事だった。そして最後は撃たれて……。


「山津は捜査一課の丸暴刑事でね、とある暴力団を検挙した際に依くんを保護したんだ。彼女が消えた擬人であるという記録は残っていたから、転勤組だった僕が飛ばされてね。山津刑事と組んで護衛と降りかかる火の粉を祓っていたんだ。いやぁ、最初は山津刑事とそりが合わなくてね、何度も衝突したものだよ」


 ずずっと冷えた紅茶を飲むと、お替りを要求してきたので淹れ直してやる。話し続けているから、少し甘目のミルクティーにしておこう。アールグレイの微糖ミルクティーを差し出す。


「うん、美味しいね。流石は聖夜歌さんの弟子だ」

「あ、ありがとう。ところで、降りかかる火の粉ってのは何?」

「うん、それはね。神璽の体を成しているコアとも呼ぶべき遺物。八尺瓊勾玉であると目されているそれが、まがつを呼び、災いを成すと考えられているんだ。だから、僕と山津は必死に資料を漁って、他の二つを探していたが見つからなかった。現状では、結界の中に入れる事で禍を呼ばない様に隔絶するしかなかった。依くんが持たされていた御守り石は、とっくに砕けていたからね」


 小さな匣をテーブルに置き、蓋を開ける。そこには砕けて破片となった、緑色に透き通る石があった。


「これは翡翠で作られた、身代わり石というお守りだ。一見透明度が高く他の宝石に見えるのだが、成分調査を行った際には紛れも無く翡翠だと判明した。これが完全な形となっていれば、寄る禍は全てこの石に封印されて二度と出る事は無い。ただし、物理的に破壊することは出来るからね。他にも無いかと、上に掛け合ったのだけど、それこそ三つしかない神器の制御装置で三つしか無く、作り方も不明だと言われてしまってね。残念ながら、既に砕けてただの石と化しているよ。神璽に全て話した時に、依くんの片身代りとして渡そうと思っていたんだ」


 匣を渡され、その中に眠る砕けた欠片を一つ掬い上げると、キラキラと反射している。ほぅ、とため息をつく美しさだった。普通の翡翠とは違い、ダイヤモンドの様に透き通る緑色の石。翡翠じゃないのではと思うが、色合い的には翡翠の様である。うーん、ってこれエメラルドじゃね?でも、それにしては大粒過ぎか。


 俺が手に持ったまま眺めていると、指輪が仄かに光る。ん?と疑問に思う暇も無く、瞬く間に石の欠片を吸収してしまった。匣にはもう何も残ってはいなかった。S・H・I・T!シーット!!


「………………」


 本人を含め、この場に居た五人全員が固まっていた。俺はもう、なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまって、なんかもう……。なんだよぉ……。

 しかし、その静寂を破ったのもまた、指輪だった。


 ピロンッ!

 聞き慣れたシステム音が鳴り響く。え、なに?なんで現実で聞こえるの?


<くぁwせdtfgyふじこ>


「え、なんだって?」


<言語設定完了、日本語を設定します。星宝具【星屑剣スターダストブレード】は封魂結晶を取り込み、封印機能を獲得しました。【星屑剣スターダストブレード】は【星封剣スターロストブレード】に変化しました>


「何でだよ!?」


 俺のアバターがリアルを浸食し始めてヤバい。


「ほぅ、これは驚いたね。それもゲームの影響なのかい?」

「あ、あぁ。そうだけど……父さんと母さんには言ってなかったんだけど、実はゲーム内のスキルとかも使えるみたいなんだ」


 俺は指先を前に出して、ライトを唱えて光球を舞わせる。ふわり、ふわりと舞うそれを見て、開いた口が塞がらない直人。物珍しそうに見ている母さんと、厳しい表情で見つめる父さん。あれ、何かマズい事があったかな?


「神璽、それは……魔法、なのか?」

「え、うん。正確には魔術ってカテゴリらしいけど」

「ゲームでの神璽の職業は?」

「治癒師だけど」

「という事は神官系だな?」

「まぁ、そうだね」

「ふむ。よし、霊威対策特務九課で働かないか?学生主体の、若年層専門部隊なのだけど今の神璽みたいに小さい子は居なくてね。小学校には教師役を送るしか無くて非常に難儀していたんだ。いやぁ、よかった」

「良くないね、嫌だからね。あと残念だけど、夏休み中は聖夜歌さんの店で働くことになっているし、ゲームに時間も取りたいから仕事を手伝うのは無理だよ」


 だいたい俺には学校もあるし、そんなヤバげな仕事を子供に押し付けないでほしい。いくら何でもそんな特殊エージェントになるつもりはない。どこかの亡霊のように散々逃げ回って、モンゴルのどこかで暗殺される未来なんていらない。


「そうか、残念だね。もし卒業してからでも、その気があれば歓迎するよ。その体は歳を取らないだろうしね」

「くっそ、ぜってー男に戻ってやる……」

「「そんなっ!?」」


 我が家の男性陣が悲鳴を上げる。いや、なんで直人まで悲鳴を上げるかな。え、まさかこいつもロリコン……?


 少し蔑みの視線を直人に向ける。いやいや、そんな犯罪者にならない様に兄貴である俺が受け止めてやらなくてどうする。そうだ、お兄ちゃんはどんなお前でも受け入れるぞ。ちょうど良く目の前に姉貴ロリが居る事だし、愛でるだけなら問題ないんじゃないか?


「直人、安心しろ。お前のロリはいつもそばにいる」

「神璽姉ぇ……」

「おいこら、ちょっと待て。神璽姉ぇとは何だ」

「いやいや、だって女の子だし、俺の尊敬する兄貴だし!」


 尊敬されるのは嬉しいが、姉呼ばわりは気に食わない。直人の頭を叩こうと手を伸ばすが、届かない。おいこら、かがめ。殴らせろ。お前の脳細胞を破壊して、良からぬ事を考えられないようにしてやる。


「それで父さん、他にはもう無いのか?」

「あぁ、あとはいくつかの写真と、依くんの遺書代わりの動画があるんだ。本当は山津が持っていた物だが、彼の遺品として僕が預かっていた」


 父さんはタブレット端末を取り出すと、そこからガチガチに掛けられたロックを外していきその動画を再生前の状態で差し出した。


「見ると良い、そこには君の産みの親が移っている」


 俺はタブレットを受け取り、おそるおそる画面の再生ボタンをタップする。どうでも良いけど、幼い体には酷く大きく感じるな。大画面だ。今度手持ちのタブレットで映画でも見るか。


『えっと、初めまして。かな?ボクの写真は見ているだろうから、解るよね?解らなかったらちょっと寂しいけど、仕方がないと思って割り切るよ。ボクは神璽を置いて行く事になるからね』


 画面の中で、ふわふわの黒髪を揺らしながら明るく振舞う見知らぬ女性。いや、どこかで見たことがある。あの青い目が、そのシルエットが心に引っ掛かる。どこかで写真を見せて貰ったのだろうか?記憶にはないが、見たのかもしれない。


『このビデオを見てるって事は、ボクはもうこの世にはいないと思います。えへへ、これ一度言ってみたかったんだよね。さて、冗談はここまで。一応、神璽の特性についてはよっちゃんにお願いいしてあるから、そこまで酷くはならないと思う。なってたらゴメンね、よっちゃんをボコボコにしていいから許してね』


 よっちゃん?いや、もしかして話の文脈から考えて三輪陽一のよっちゃんなのか?どんな関係だったんだよ……。


『神璽は、きっと育っていく中で、誰かに嫌われたり、暴力を振るわれたり、殺されそうになる事もあるでしょう。ごめんね、そのための御守り石なんだけど、ボクが壊してしまったんだ。あまりにも澱を貯めすぎて、ね。ボクが長生き過ぎたから、こうなったんだと思う。このままでは、ボクはこの世界の何億もの人の命を奪う事になりかねない。そういう理由もあって、ボクは死んだんだ。とっくにおばあちゃんだったし、時期だったんだろうね』


『きっとパパは、山津晃司は君を恨むだろう。あれはそういう男だ。酷く臆病で、人を寄せ付けないくせに人の厄介事に首を突っ込んで損をする。そして、一度関わったら優しくせずにはいられない。ボクは何度も君を生むことを否定されたよ。役目みたいな事でお前は死ぬのかってね』


『でもね、神璽。君は望まれて生まれてきたんだ。ボクにとって長年の停滞を終わらせてくれた救世主なんだ。だから、もし気に病むことがあるのなら、精一杯生きてほしい。それと、いつかその名前が役に立つ時が来るだろう。神璽、残り二つの神器を探しなさい。それが在れば、キミの苦しみは軽くなる。人の心の澱をその身に集める神璽、澱を別の物に遷す鏡、そして断ち切り殺すつるぎ。三つで一つのシステム。きっとキミには巡り合わせがある筈だから』


「母さん……」


『最後に一つ。愛してるよ、忘れないで』


 これで、終わりか……。そう思って電源ボタンを押そうとすると、タブレットからもう一度声が響いた。


『聖女様によろしくね』


 何も映っていない真っ暗な画面。そこには呆けている俺の顔が映り込んでいた。

 父さんを見ると、驚いた表情をしている。まさか、今の言葉は知らなかったのか?俺は確認のためにもう一度スリープ解除して、さっきまで再生していた動画をもう一度再生する。しかし、最後のあの言葉は録音されていなかった。


 それに、聖女様って……。


「あっ」


 姉貴が閃いたと言わんばかりに、手をパンと打ち付けて声を放つ。何だというのか。


「アリシアさんだ……金髪じゃなくて黒髪だし、髪型も少し違うけど。だけど、アリシアさんんいそっくりなんだ」


 言われて俺も確かめる。タブレットに映っている女性の姿と、先日見たアリシアさんの姿。金髪の髪を黒く置き換えると……そっくりだった。瓜二つというべきかもしれない。


「どういう事だい?」


 父さんが険しい表情で俺達二人に問いかける。


「今やっている、この体の元となっているVRMMOがあって、そこで出会ったアリシアってNPCの聖女様と母さんがそっくりなんだ」

「どんなタイトルだい?」

「アドベントオンラインってタイトルなんだけど……」


 父さん、いや義父さんか?義父さんはスマホを取りだし、企業のページまで行った様だ。小さく「タナトスカンパニー……」と呟いた。


 タナトスカンパニーとは、多くのVRMMOを世に送り出した大手企業であり、その昔家庭用ゲーム機市場を占有していた三社を電撃的に下し、堂々とトップに収まった伝説の企業。

 ゲーム機器だけに飽き足らず、医療、家電、食品にいたるまであらゆる分野に手を伸ばしているが、その本社が何処にあるかは誰も知らない、謎の企業である。


 アドベントオンラインは、タナトスカンパニーが販売制作しており、開発は内部の部署で行っていると雑誌で読んだ。そういえば、これまでの発表したVRMMOの集大成と書かれていたな、と思い出す。


「明日、連絡を取ってみよう。そのアリシアという聖女様が、何かしら関係している可能性がある」

「いやいや、でもゲーム内だよ?」

「だからこそ、怪しいんだよ。僕達は二十四年前に一度、この会社のゲームにログインしたことが有る。その時は、ゲーム内に残留した思念を祓う事が依頼だったが……もしや僕達の誰かが狙いだったのか……?とすると、やはり狙いは……」


 父さんがブツブツと呟きながら思考の世界に入ってしまった。こうなると落ち着くまで何をしても無駄になる。さっきまで一言も喋らなかった義母さんが気になって見てみると……寝ていた。ああ、もう。少し難しい話をするとこれだ。


 俺は母さんを運ぼうとするが、この非力な体ではどうにもできずに直人に頼んで俺はタブレットを借りパクして部屋へと戻った。動画を何回も流して母親の顔を、仕草を、声を感じる。しかし、どれだけ見直しても実感は湧かず、俺は大人しくベッドに身を委ねた。


 何だか、色々と沢山在り過ぎて頭がフットーしそうだ。実は両親が別にいて、実は人間じゃなくて物で、実は義父さんは国家級の霊媒師で、周りに降りかかった災いは全て俺のせいで。


 成田がああなってしまったのは、やはり俺のせいで。俺が近くにいなければ、成田は……。


 ふと思う。もう一つの可能性に気付いてしまう。俺がなんとか死ねば、こんな無駄な連鎖は終わるのではないか?

 いくら不死とは言っても、俺が勾玉――つまり石で出来ているのなら、より大きな衝撃を与えれば壊れるのでは?


 そうすれば、成田は救われるのか?


 俺と言う原因が取り除かれれば、一番影響を与えている成田秀樹は元に戻るのではないか?


 気付くと、俺は屋上に来ていた。地上二十五階の高層マンションの屋上から見る町の夜景は、何処か気持ち悪く感じるものがある。百万ドルの夜景だとか、地上の星だとか、そんな言葉があるけれど、俺はこの光景を“汚い”と“気持ち悪い”と感じてしまう。


 だが、それが何だというのか。ここから落ちて死ぬと言うのなら、そんな景色に構う必要なんてないだろう。一歩、一歩と足を進める。こんな判断は性急だろうか。だが、こんな物のせいで周りの人間を狂わせてしまうのなら、それは消えてしまった方が良いんじゃないか。


 フェンスに手を掛ける。これを上って、飛び降りれば終わる。俺が招いた悪意は消えて、成田も元通りの優しい奴に戻る。


「驚いたね、まさかリアルもその姿だったなんて」


 突如として背後からかかる声。俺はそちらに顔を少しだけ向けて、姿を捉える。

 やや太り気味だが、どこか幼い印象を受ける姿。身長は既に百七十はあるだろう。顔は、俺の美醜感で言えば普通だった。そんな少年がニタニタと不細工に笑いながらこちらに歩いてくる。その男に、見覚えは無かった。


「あれ、誰だって顔をしているね?それも仕方ないかな、向こうとこっちとでは、あまりに違いすぎるからね。じゃあ解るように教えてあげるよ。あの時は説教部屋への招待どうも、再び名乗るけど僕の名はスィトー。リアルネームは水蓮統也すいれんとうやだ」


 ああ、これも罰なのか。

実際のところ、高層階から落下すれば擬人でも死にます。コアが破砕して死にます。ですが、どこかで新しい勾玉が生まれて、再び役目を負う者が出るだけという。

なお、御守り石と星宝具が融合したので、悪影響はかなり抑えられる筈。


そして再会する二人。悪意の連鎖は止まらない。


というわけで、擬人縁起編は終了しました。思わせぶりなセリフのオンパレードという、回収が大変そうな事になりましたが、次回からは夏休みのイベント編です。明るいです。

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