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Advent Online  作者: 枯淡
擬人縁起編
19/34

18 微睡の友達

三輪燈子(ミト)視点。

あと補足。

「ごめん……成田、ごめん……」

「何言ってんのよ、このバカは……」

「ふにゅ……」


 ベッドで眠る神璽の頭を撫でてやる。すると気持ちよさそうに目を細めて、穏やかに夢の中へと戻って行った。


 あの後、泣き出してしまった神璽おとうとをあやしながら、私達は逃げるように店を出た。食事も粗方終わっていたから問題なかったし、パフェ代は本気で大佐に払わせた。


 とにかく、此処を離れるべきだと判断したのは、ずっとジェニーと私との三人で話をしていたジェシカが、ニノの存在に気付いたことが発端だった。

 どうやらジェシカと神璽は同じクラスだった様で、泣き喚くニノの姿を見てゲームとそっくりだと気付いてしまった。

そして、私は話の流れで三輪姓だと名乗ってしまっていた。それだけで理解してしまったらしい。髪が片方下りていたのも原因だろう、流石は天才ジェニー先生の妹と言った所か。まったく、勘の良いガキは嫌いだよ。


 店から出る際、ジェシカは一緒に来た友達に断わって付いてきてくれた。好奇心もあるのだろうが、その顔には“困惑”と“罪悪感”が感じ取れた。このバカ弟を少しとは言え見てきたのだ、それくらいの表情は読み取れるようになった。


「あの、その子って」

「神璽だよ、どうしてかはまだ解らないけど、この子は神璽だった」

「だった……?」

「詳しくは話したくない、でもこの子は神璽だよ。それだけは、間違いない」


 男二人の申し出を真顔で拒否して、姉である私が神璽を負ぶって運ぶ。何回もフラフラしていたら、見かねたジェニーが神璽を抱き上げて負ぶってくれた。ジェニーなら、いいかな。まるで出来の悪い妹を見る様な、お姉さん然とした振る舞いだったから、そう思ってしまったのだろう。


「ありがとう、ジェニー」

「モーマンタイデスよ、トーコは小っちゃいデスから、私に任せるデス」

「はぁ、今だけは怒らないであげるよ」

「すみませんです、ウチの姉さんがご迷惑を……」

「あはは、大丈夫だよ。いつも通りの会話だから」


 そんな風に話をしていると、トイレを確認していた先生と大佐がボロボロになって便器に頭を突っ込んで倒れていた成田を見つけたようだ。何か所も骨が折れている様で、男の拳で殴られたであろう跡が散見されたという。

 放置しておくのも店に迷惑なので、外に捨てておこうと大佐が提案した所、先生が「一応俺の生徒だからなぁ」と言って、先に車に乗せて帰って行った。途中で目を覚ますといけないという事で、コンビニでビニール紐を購入して捕縛しておくのも忘れない。


 普通に考えれば、傷害事件で届けが出されるだろう。願わくば記憶がぶっ飛ぶ程に脳が損傷している事である。


 その様子を見て、ジェシカは酷く困惑していた。それなりに頭は良くても、暗い部分は見えていないとようだ。


「成田君……でしたよね?」

「そう、成田秀樹。うちの神璽バカの悩みの種よ」

「あのソバカス、何したデス?」

「まぁ、ちょっとね。――二人とも、今から私の部屋に来ない?」

「行くデス!」

「いいのですか?」

「良いのよ、ジェシカには話しておかないと危険かもしれないからね」


 小首を傾げるジェシカ。しかし、すぐに気が付いたのか真剣な表情になる。でも、なんだろう。真剣そうな表情なのに、表情が豊かでなんだか可愛い。


一応、男という事で大佐に私たちのガードを頼み、無事に女子寮の玄関までやって来た。


「ありがとう、大佐。今度何か奢るわ」

「なら、有難く戴く」

「バイバイ大佐!また逢う日マデ!!」

「あ、おやすみなさいなのです」

「ああ、お休み。ニノには済まないと伝えてくれ」

「へ?あ、うん。わかった」


 大佐は何でもない様に踵を返すと、夜の闇に消えていった。男子寮と女子寮との間には、それなりの距離があるのだ。それにしても、大佐も馬鹿ね。勝手に消えたニノが悪いんであって、大佐が責を負う必要なんて無いのにね。いや、アレは不器用って言うのかな?


 二人は部屋で準備してくると言って別れ、私は先に自分の部屋に帰って来た。別れるときに回収したニノをベッドに寝かせるために着ている服を剥いで、買って来たパジャマに着替えさせる。よし、可愛い。パステルイエローがベースのパジャマで、生地にはひよこがプリントされている。一応、ひよこの着ぐるみパジャマも買ってあるが、ニノはかなり恥ずかしがっていたので、意識のある時に着せる方が面白いだろう。


 ベッドに寝かしつけると、シミにならない様にとっとと洗濯場で洗っておく。まったく、今日買った新品だったのに。かなり可愛くコーデしたのに。

ポケットを漁ると、そこには三万円が入っていた。おや、意外とお金持ちですね。どうやら私のお財布、お腹が空き過ぎて涙が出ているそうなので食べさせてあげよう。もぐもぐもぐ。


 私は成田秀樹の事を、あまり知らない。私が小学四年の頃まで、神璽と仲が良かったと思う。何度か家に遊びにも来ていたから。あの時の記憶も、もうかなり風化してしまって居て思い出すのは難しい。


 ただ、アレの母親が神璽を罵倒し、殴っていたのは見た。助けなきゃ、そう思っても怖くて動けなかった。あの時の成田母の顔は、般若の面そのものだったから。


 私が知っているのは、成田は神璽を苛めていて、神璽はそれを受け入れているという事だけ。何度も口喧嘩したし、その度に仲直りしてきたけど。


 今までは詳しく聞いて来なかった。けど、もうそれじゃ済まされない。アリシアじゃないけど、私だってお姉ちゃんだ。ニノの心を埋める事は出来る筈。


「遅くなったデース!」


 バァーンッ!と勢いよくドアを開けて乗り込んでくるジェニー。やはりアニメの見すぎだろう。壊れたり傷ついたりしたらジェニーが修理代払ってね、と説教しておく。すると、後ろから申し訳なさそうに顔を出すジェシカが居た。


「ごめんなさいなのです、ウチのバカ姉が無茶な事を。ケガとかないです?」

「大丈夫よ、ドアの近くに居なかったから」

「そんな事よりお菓子持ってきたデス!今日は朝まで楽しむデスよ!」


 やけに大きなボストンバッグを持ってきたと思っていたら、その中身は全部店売りのお菓子群だった。そんなに食べられないよ。


「あはは……まぁそれはさておき、二人に話しておきたい事があるのよ」

「ニノの事デスね?」

「あの、本当にしん、三輪君なのですか?」

「呼びやすいなら神璽で良いよ?」

「ち、違うのです!これはそういうのじゃないのですよっ!」


 おや、なんだねこの娘さんは?もしかして私の神璽に気でもあるのかね、許さないよ?お姉ちゃん許さないよ。


「た、ただ、その、珍しい名前だなって思ったのです……」

「確かに、キラキラネームが全盛のこのご時世で、燈子だの神璽だのは珍しいだろうけどね。読みは一般的なんじゃない?」

「うっ、は、はい、そうなのですけど、そのぅ」

「ごめんごめん、この子は本当に神璽よ。ジェシカもクラスでAOやってたなら、ニノのアバターを作った共犯なのだろうし、当然この容姿に見覚えはあるわよね?」


 ジェシカは視線をベッドで眠るニノに向けて苦い顔を作る。


「はい、なのです」

「それが苛めだと気付かなかった?」

「神璽君は、普段あまり話さない人だけど、優しい人って事だけは知っていたのです。だから、休み時間の度に何処かへ連れ添っていく姿を見て、二人はきっと仲がいいのだろうと、思っていたのです」

「そういう解釈もあったか」

「でも、確かにいつも様子が変だったのです……気付けなかったのは、きっと友達じゃなかったから、なのですね……」

「神璽はさ、普段からムスっとした顔をしていて、他人から見たら人を寄せ付けない雰囲気オーラを出しているけど、それは近づいた人も巻き添えを食うから、なんだよ」

「巻き添えって」

「以前ね、神璽を苛めるなって、私が庇った事があったの。そうしたら、私に飛び火したのよ。毎日殴られて、それを更に庇う神璽も殴られて。だから、私は雪乃華学園の中等部からここに逃がされたのよ。まぁ、成田の隔離施設として選ばれてしまったけれど」


 そう、あの子は何処までも優しくて、愚かだ。ヤクザ顔に隠れて見えない本当の表情、なんとか私にも解るようになってきた表情が、ニノの体になる事でフィルター無しにダイレクトに伝わってくる。体全体からあふれ出している。


 心細さと、後悔。


 あの子はずっと、あんな顔をし続けてきたというのか。鉄仮面に隠されて、本当の表情をひらすら隠して。


「それほどまでに、成田秀樹は壊れている。小さい頃に麻薬漬けにされて、頭が壊れてそうなった。そう聞いているわ。あの神璽バカは教えてくれないけど、お母さんが偶に、ね」

「でも、何で神璽君にばかりこだわるんですか?」

「それは解らないわよ。でも、そうね。たまたま元友達だったから、親がそう仕向けたから、っていうのは、知ってるけど」

「でも、家族で逃げるのは駄目なのですか?」

「成田家は議員や弁護士の家系でね、エリートの家系なのよ。つまり、それなりに後ろ暗い事もしてきている。あの母親は神璽を殴りながら言ったの、『どこへ逃げても絶対に見つけ出して復讐してやる、絶対に逃がさない。殺してやる』ってね。事実一度神璽を逃がした時は、本気で見つけて殺されかけたらしいわ。私には、両親が何故黙って従っているのかが信じられないのよ」


 殺されかけた。そう聞いて、顔を青くするジェシカ。自分のクラスメイト二人の関係を明るみに出され、しかもそれが非常に重い物だった事に戸惑いを隠せないのだろう。


 ただ、ある日を境に成田母の暴走は収まった。やり方が成田秀樹を通して間接的になった、というだけだが、それでも大きな変化だったと記憶している。


「そんな、事が」

「だから、なるべく関わらない方が良いよ。とくにクラスメイトはね」

「でもっ」

「それでジェシカが苛められたら、傷つくのは神璽なんだよ……」

「それでも!」


「それでも、一人きりは、寂しいのですよ……」


 辛そうに目を伏せて、言葉を絞り出すジェシカ。でもね、この三か月見て見ぬふりをしてきたアンタに、そんな事を言う資格なんて無いよ。


「で?」

「私が友達になるのです」

「あんたも殴られるよ?」

「殴り返してやるのです」

「大人数で犯されるかもしれないよ?」

「そしたら成田君を塀の中に入れるいい機会なのです」

「死ぬかも、しれないのよ?」

「死にたくても、死ねなかったのですよ。だから、大丈夫なのです」


 きょとんとしてしまう。死にたくても、と言った。その台詞を言うに値する経験を、この娘はしたと言うのだろうか。そんな過去に立ち戻る可能性があったとしても、神璽の友達になると言ってくれているのだろうか。いや、言っているのだ。ジェニーの妹が、伊達や酔狂でこんな事を言うはずがない。


「そう、深くは聞かないけど、これだけは教えて。なんでジェシカは友達になろうと思ったの?」

「知ってしまったのです。そしたら、もう放っておけないのですよ」

「はぁ、アンタ本当に良い妹を持ったわね?」

「自慢の妹萌えデス!」


 まったく、新学期が始まったら色々と大変そうだね、神璽。

神璽はようやくメインヒロインと出会えたよ。

長かった……。やっとメインヒロイン出た。

話には出てこなかったけど、ずっとそこに居たという。

書けよ! と思うかもしれませんが、本気で接点が無かったのでどうしようもなかったw


「優しいことは知っている」という点については、後日描く「ジェシカ・バートン」内で語ります。


ジェシカは服飾系職人なので、DEX最優先の為戦闘能力皆無です。

武器も店売り弓矢。Lvは10。

そしてさりげなく進む百合ハーレム。聖女・姉・赤毛姉妹。

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