表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Advent Online  作者: 枯淡
擬人縁起編
17/34

16 神璽③

胸糞注意です。

しばらくシリアス。

 俺が密かに今後のゲーム内生活の計画を立てていると、一行は商店街から少し離れたファミリーレストラン『ゴスト』に到着した。


 駐車料金の心配もあり、先生の車で移動したのでその分移動時間がかかっているのだが、何故か皆は移動中に髪型について話し合っていた。そしてその真意が発覚したのは車に乗ってから、俺の髪をジェニーと姉貴が弄りはじめた事で発覚したのだった。

 そんな訳で、今の俺はツインテールにされている。しかもシュシュとかいう頼りないヘアゴムで纏められており、今にも取れそうで危うい。てっきり、こういうのは下にゴムを巻いてるとばかり思っていたのだが。

 そう言うと「アップでしていたら欲しいけど、今はし○かちゃんヘアーだから緩くていいのよ。その方が食べやすいでしょ?」とのこと。確かにそうだが、その例えはやめてほしい。まるでし○かちゃんがズボラみたいな言い方だ。国家的に認められた虹エロを悪く言うな。


 だが、食べやすいのは事実だ。ゲーム同様、太ももまである長髪である。ヤンキー漫画のロン毛もびっくりだ。いや、男の俺は短髪オールバックだったから分からんけど。


「さて、何食べようかな」

「俺、軽くで良いや。まだお昼のお菓子が消化できてないみたいだし」

「そ?それじゃあ、このカツ閉じ定食大盛りでいいのね?」

「姉貴、俺の話聞いてた?俺をフード○ァイター☆アリシアと一緒にされたら困るんだけど」

「ふむ……胃袋も見た目相当になっているのかしら?前は軽くで、丼物を食べていたじゃない」

「ミニ丼なら食ったけどな。流石に並盛は食えねぇよ。それに後でパフェ食べるからな、ほんと少しで良いんだ。姉貴、山盛りポテト食べる?」

「食べるわ。ジェニーも食べるしょうし……それよりパフェ食べるの?」

「ああ、赤井先輩が奢ってくれるんだ」


 そんな俺の言葉を聞くと、姉貴の視線は赤井先輩に向いた。赤井先輩は先生と何やら話しているが、視線に気付いたのかこちらに顔を向ける。そして二人の悪魔は清々しい笑顔でこう言った。


「大佐、ご馳走様」

「ゴチになりマース!」

「……ああ」


 認めたよこの人。いいの?と、目で訴えると「無駄だ」と返された。どうやらこの二人とはそれなりに付き合いが長いらしい。まさかのハーレム高校生活か、でも何故か全然羨ましくないな。この二人だから当然だろうか。


「お待たせしましたー、こちら山盛りポテトゴストスペシャルとカツ閉じ定食でございます」


 おい姉貴俺を見るな、さっき赤井先輩がカツ閉じ定食を頼んでたから。俺じゃないから。あと山盛りポテトゴストスペシャルは、ポテトだけじゃなくナゲットとオニオンリングが入っている特別仕様。まるでどこかのカラオケに置いてあるメニューだ。何処とまでは言わない。一人カラオケって楽しいよね。


 続々と運ばれてくる料理を皆で食べながら、お腹がちょうどいい感じになって来たのでパフェを頼む。ここゴストは、パフェの種類も豊富で全八種類もあるのだ。ただしこの餃子パフェは見なかった事にする。

 俺はオーソドックスにストロベリーパフェを頼み、わくわくしながら待っていた。なにせ数年来のパフェである。体が急激に大きくなり始めた中学の成長期を境に、外でデザート系を食べる事に羞恥心を覚え、食べ難くなっていたのだ。そこへ女とはいえ子供に戻ったようなものである。ここは堪能すべき時だ。


「あ、ちょっと電話きたデス。外に出て話してくるデス」

「ああ、わかった。そのまま帰るんだな?よし、俺もちょっと電話しないと」

「そう、なら私も友達から電話が」

「「お前らな……」」


 そして残った一人が全額持つという、焦燥感を煽る悪戯である。


「違うデス!本当に妹から電話が来たのデスよ。早くしないと切れちゃうカラ、ちょっと行ってくるデス」

「いてらー」


 この場に居る五人全員がネットゲーマーであるからこそ、通じるやりとりだ。

 しかし、そのやり取りも背後からかけられた声で無駄足になった。


「その必要はないのですよ、姉さん」

「アレ?ジェシカ居たの?」

「はい、今クラスの人達と来てるのです。本当はお昼からゲームの予定だったのですけど、治癒師役の人が来てくれなくて。あぶれ組の皆でちょっと遊びに来てるのです。皆、帰省しない組だから夏休みに何処かへ遊びに行こうかって」


 おや、なんだか聞きなれた単語が聞こえたぞ?


「へー、ジェシカって何のゲームしてたんダッケ?」

「Advent Onlineっていうネットゲームなのですよ。一部の男子が、クラスを巻き込んでゲームをやろうと言い出しまして。しかもゲーム機代は出してくれるって言うから、私も乗ったのです。その後は、放置されてるのですけど……」

「Advent Online?ソレって、トーコもやってたよネ?」

「やっているわよ、ジェシカさんもやってたんだ」

「はい、私は職人をやっていまして、主に防具を作っているのです。と言っても服なのですけど」

「それなら私と同じだね、私も職人やっているのよ。基本何でも作ってるミトってキャラでプレイしているから、見かけたら声をかけてくれると嬉しいわ」

「わぁ、職人仲間に初めて会えたのですよ!今度向こうで会ったら、フレンド登録してほしいのです!」

「いいわよ、それなら情報共有もしやすそうだしね」


 何やら二人で盛り上がっている。まぁ、気にしないさ。俺はぼっちスキルを全開にして、影を薄めて視界からフェードアウトする。

 もしかしたら、あのジェシカって外人さんはクラスメイトかもしれない。いや、九分九厘クラスメイトだろう。何せ異世界クラス転移ごっこなどと言う、馬鹿らしい真似を実行する奴などそうは居ない。だとするなら、一部の男子とは工藤と成田を中心としたヤンチャチームだ。間違いない。


 俺はクラスメイト(恐らく)の死角を利用し、その席を離れる。しかしどうしよう、この小さな店内で隠れる場所なんてトイレくらいしか無い。でもこの体で男子トイレには入れないし、かといって女子トイレには入りたくない。俺の男としての羞恥心がそれを止める。

 そうだ、確か共用トイレという物があった筈。体の不自由な方専用のトイレだが、今の俺はまさしくそれだという事にして共用トイレに向かう。


 あのジェニー妹は友達と来ていると言っていた。だから長居はしない筈。十分も時間を潰せば帰るだろうと当たりを付け、お手洗いゾーンに入った。


 ドンッ。


 考え事をしていたせいか、急に出て来た人とぶつかってしまった様だ。


「ぅあ、すいませ」

「あ?ガキかよ……三輪?」


 そこには想定していない人物、成田が立っていた。

 言葉が出ない。まともに立っていられなくて、ガクガクと足が震えてしまう。それが俺の心的外傷トラウマ。俺が助けたこの男から受けた、心の傷。


「マジかよ、どうなってるんだ?ホントに三輪っぽいし」


 成田がニヤニヤと笑いながら近づいてくる。足が一歩出る度に、ビクッと体を震わせてしまう。でも、ただそれだけ。逃げる事は出来ない。逆らう事も出来ない。逃げても、逆らっても、今の体格差では話にならないという事もあるが、そんな理屈ではないのだ。


 成田は腰を下ろして、俺と同じ目線になる。本来なら子供を安心させるべく行う技術だが、恐怖の対象が行うならば絞首刑台の階段を上らされている気分だ。ぼろぼろと涙が溢れるが、泣きたく無いという気持ちで必死に泣き声だけでも堪える。


「おー、おー、本気で三輪の反応だな。どうなってんだ?取り敢えず、答えろ。お前は三輪神璽だな」

「……は、はぃ」

「そうか。本当なら何で昨日途中で逃げたのかとか、今日の昼からネトゲやるってメールしたのにログインしてこなかったりとか、聞きたいことは山程あるが。取り敢えず」


 ゴッ!


 腹を思いっきり殴り上げられた。いつもの俺に対する力加減で殴ったのだろう、かなり軽くなってしまって居る今の体では簡単に吹っ飛ばされてしまった。壁に叩きつけられ、次いで重力に引きずられて床に体を打ち付ける。胃から何かが込み上げてきて、喉が焼ける感覚に襲われる。必死にそれを我慢し、飲み込む。その辛さで、涙が止まらない。


「いいわぁ、マジでいいわ。いつもの強そうな三輪を苛めるのも良いけど、こっちの三輪を苛めるのはスゲェ気持ち良い!」


 転がってお腹と口を押えている俺に向けて、成田お得意のローキックが連続でヒットする。その力は男のそれであり、質量的にも太刀打ちできる物じゃない。いつもなら耐えられるそれも、今の俺では耐えられない。それでも、必死で我慢する。既にいくつか骨が折れているのではないか、それほどの激痛が体中をかけ巡る。

俺はついに耐え切れず、胃の中の物を床にぶちまけてしまった。だが、そこには吐瀉物だけでは無く、赤い液体までが混じっていた。出来れば口内を傷つけただけだと信じたい。だが、さっきから感じる腹部の激痛が内出血を起こしていると嫌でも知らせてくる。


「あっれ、血ぃ吐いてるじゃん。つーか誰が吐いて良いっつったよ?舐め取れ」


 ゆっくりと顔を上げ、遥か上にある成田の顔を見る。その顔は依然変わりなく、気持ち悪い笑顔が張り付いていた。


「あれー?言ってること解らないんでちゅかー?こんなガキになっちまったんだ、頭も幼稚園からやりなおしか?そうじゃないなら、さっさと舐めろよ」


 だが、と。体が拒否をする。人間は吐いた物を戻す様には出来ていない。しかも血まで混ざっている。何よりトイレ出口すぐの廊下だ。汚いなんてものじゃない。


 固まっている俺にイラついたのか、成田は俺の髪を掴み無理矢理床にこすりつける。


「ホラホラ、早く舐めて綺麗にしろよ三輪ァ。泣いてたって解決なんかしねぇぞぉ?」

「うぐっ、や、やだ、うぇ、いやだぁ」

「いやだ、じゃねえんだよ。それはお前が出したんだから、お前が掃除するのがスジってもんだろう。なぁおい」


 そう言って、成田は力強く俺の頭を押さえつけ、顔も服もゲロまみれになってしまった。


「うわ、きったねぇ。なに、お前どうやって帰るの?そうだ良い事思い着いた。ちょっとこち来い」

「いっ、いたっ、いたいっ」


 ツインテールの片方を引っ掴まれ、共用トイレに連れ込まれる。共用トイレとは、車椅子と介護人が入る事を想定されており、その空間自体が個室としての体を成している。そして、手洗い場には、シャワーが付いていた。いつもなら、何に使うんだろう程度にしか考えない物だが、この状況ならわかる。洗えとでも言うのだろう、だがただ洗うんじゃない、なにか屈辱的な事を付け加えてくるに決まってる。


「あぁ、声出すんじゃねぇぞ?」

「……はぃ」


 そうだった、此処は店内だ。大声一つで店員か誰かが飛んでくるだろう。そんな考えには思い至れなかった。


「脱げ」

「……ぇ?」

「脱げって言ってんだよ、それとも殴られたいのか?」


 成田が右手を勢いよく振り上げる。「ひっ」思わず小さな悲鳴が出てしまい、さらに成田を喜ばせてしまった。


「ほらほら、早く脱げよ、んでさっさと洗えよ」

「はぃ……」


 今日姉貴に買って貰ったパステルピンクのサマーカーディガンを脱ぎ、シャツを脱ぎ、フレアスカートを降ろしてパンツ一枚になる。途中で恥ずかしくて脱ぐのを躊躇ったが、その度に足で小突かれ、泣く泣く脱いだ。

 俺は服を手洗い場に持っていこうとするが、成田に止められた。


「待てよ、まだ一枚残ってんだろ?」

「何、言って……」

「パンツも脱げ」


 冷たく言い放った成田が信じられなくて、顔を上げる。すると、そこには携帯を構えた成田がニヤニヤしながら立っていた。


「何で、携帯……」

「あ?動画撮ってるからに決まってんじゃん。流石に生放送はマズいからね、そっちの趣味の奴に高値で売れるわコレ」

「そんな」

「脱げっつってんだろ!?」

「ひゃっ、やぁぅっ」


 成田は俺を転がし、素早く俺のパンツを引っ掴み無理矢理ずり降ろしてしまった。

 しかもその様子がしっかりと携帯で撮影されてしまっている。恥ずかしいのに、それ以上に恐怖で体竦んでしまって、俺はされるがままになっている。


「やべーわ、マジで肌綺麗じゃん。しかもスゲェ良い匂いするし。ゲロが気にならねーわこりゃ」

「ひっぐ、えぐ」

「そーじゃん、犯っちゃえば良いんじゃね?これ一番ダメージデカいんじゃね?」

「――――ッ!?」


 ガクガクと体中が震えだす。どうして良いのか解らない。逃げたいのに逃げられない。

しかし、そこでふと思い出したのは深夜のゲーム内で起こった事件。NPCの女性に乱暴し、それを助けた時の事。あの時は杖があった。けど今は無い。考えろ、他に何がある?管理者の許可証?あれはとっくに返却済みだ、他に何か、何か。


 あった。


「そんで、その後撮りまくった生AVを売りまくれば、俺ってば大儲けじゃん。この見てくれはマジで美少女だしな。あ、美幼女か?ぎゃははっ」


 俺に成田の大きな手が伸びる。俺に触れそうになった瞬間、やっと口がマトモに動いてくれた。


「【大精霊化・光】【光属性魔術・初級Ⅲ『ドッペルゲンガー』】」


 ガシィッ!


 その瞬間、俺の足元に広がっていた影は立ち上がり、神璽そのものとなって成田の手を掴み、捻り上げる。


「いだだだだだだだだだだっ!?」


 一度試したときは、真っ黒な人型の影でしかなかったそれは、光の大精霊としての補助のお蔭で本体と同等の存在となった。服も、色も、表情に至るまで全てが俺だ。そしてこのドッペルゲンガーは、オリジナルと同じ能力値を持ち、ある程度大雑把な命令で動く。すなわち「俺を護れ」である。そこには一欠片の恐怖心すら宿らない。


「なっ、ひっ、み、三輪?なんで、コイツ三輪じゃなかっぎゃあああああああっ!?」


 突然の乱入者に怯える成田。無表情な神璽ドッペルゲンガーが、更に腕を極め床に押し付ける。

 俺の命令を確実に遂行する神璽ドッペルゲンガー、すなわち学生服を着た男の俺は容赦なく成田を叩き伏せる。不思議と、さっきまで感じていた恐怖感も、罪悪感も、負の感情は全て消え去っていた。


「【ヒールⅡ】――いてて、こりゃ本当に何処か折れてるかもな」


 緑色の光が俺を包み、切り傷や痣を癒していく。呆然と見つめる成田の顔面に聖撃ホーリーショットをブチ込みながら、いそいそと服と体を洗い、着直す。うぅ、ちょっと臭いし冷たい。


 さて、身動きの取れないコイツから財布を抜き取ってっと。お、三万も入ってんじゃん。これで服を買い直そう。時間的にもまだやってるし。


「あ、神璽ドッペルゲンガー、そいつの携帯を破壊して水に浸せ」


 バッ、ガシャン、ちゃぽん。


 これで悪は断たれた。


「何なんだよ、何なんだよ、化け物かよテメェ、三輪ァッ!?」

「まだ元気があるのか、意外とタフだな。よーし、ふるぼっこだー♪」


 この後、滅茶苦茶オラオララッシュした。

男版神璽が出てきたのは、ニノがそう願ったから。

ゲーム内では普通にニノのコピーが出てきます。

大精霊版は黒髪赤目に変化します。

リアルはどっちも選べる様子。


なぜゲーム内の能力がつかえたか、については実家に帰ってから説明入ります。

一応言っておきますがゲームが特殊とかではありません。ニノが特殊なんです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ