13 ログアウト
予定通り、サクッと終わらせますよ。
あ、しまった。「さぁ、お前の罪を数えろ」のセリフを入れればよかった。
「えぇー……」
アリシアさんの問題も落ち着いて、これで後は落ち着いてプレイできると思ったのだが……あれぇー、のんびりプレイが出来無さそうだぞー?
メニューを開いたまま固まっている俺を見て、姉貴とホーンさんもメニューを確認して固まっている。ああ、そうだろうとも。一難去ってまた一難、なんて諺がピッタリな状況、滅多にねーよ。
「そろそろですね。今回は時間が無いそうなので、うちの特殊部隊を送り込んでおきました。時間的にはもう制圧出来ているでしょう。あ、あの屋敷です」
意外と広い貴族街の中を馬車で数十分移動し、ようやく着いた屋敷はとても……その、何て言うか、まぶしい。目が眩む。金ぴか過ぎる。
全体的に金色では無いのだが、至る所に金や銀の装飾が施され、昼間に見たならその眩しさで人が殺せるのではと思えるような外観である。
俺は即座にライトの魔術を弱め、光量を減らす。目に毒だ。
「なぁ、アレイスター伯爵……中も?」
「はい、中もです」
この会話だけで通じる。なにこれ、俺達割と相性いいんじゃね?良い友達になりたい。そう思わせる程に疲れた表情をしていた。
それにしても、流石は最近ゴールデンになっただけはあるな。とりあえず屋敷は質素な物にリフォームをお願いしておこう。きっと喜んで受けてくれるはずだ、礼は弾む。主にフィリザール家の金庫からだが。
「こちらが前党首のコルディアス殿と、長男のクィーラさんです。お二人とも無事確保できてうれしい限りですよ」
アレイスター伯爵が良い笑顔で言う。きっと今まで色々と鬱憤が溜まっていたのだろう。
「ふん、貴様の様な狗畜生に用は無い。何故クラインがおらんのだ?あやつは城で聖女奪還成功の宴に出ているのではないのか?」
「やめなよ父様、アイツはきっと失敗したんだ。だから今度はこの僕に役が回ってきたに違いないよ」
「馬鹿を言うな。貴様はどうか知らんが、クラインが失敗する筈があるまい。アレイスター卿、これは何かの間違いですな?」
「いえいえ、どちらかと言えばクィーラさんの方が近いですよ。確かにクラインさんは聖女奪還に失敗しましたしね」
「馬鹿な……っ」
目を見開いて驚くコルディアス。しかし、この家複雑だな。跡継ぎに弟を指名するって事は、この兄貴は放蕩者や役立たずか。どっちにしろ飼い殺しの哀れな長男か。しかも弟が嫌いと見える。メタル化までして弟の仇を打とうと頑張った彼を見習わせたいものだ。
「そら見ろ!やっぱりクラインじゃ荷が重かったんだ!!次は俺だな?待ってろ、今準備してくる――」
「その必要はありませんよ」
元公爵家兄貴の言葉の途中で、アレイスター伯爵がそれはもう良い笑顔で口を動かす。本当に何したんだよ君ら、これさっきまで俺達に向けられた不機嫌そうな顔とは対極だぞ。よっぽど嫌われてるよ君ら。
「さっきお父上が言ったじゃないですか。今、城ではアリシア様奪還成功の宴が催されていると。もう助けに行く必要なんてないのですよ」
「はぁ?何を言っている。じゃあ誰が取り戻したて言うんだ?言ってみろよ!!」
「こちらにいらっしゃる、ミワ公爵家の方々の手柄です」
「はぁ?まだガキじゃないか。そこの男は分かるが、こんなガキ共が徒党を組んだところで何になる。そもそもミワ公爵家ってどこだよ、他国の貴族がしゃしゃり出てくるなよ」
「おや、彼女らはれっきとしたサード王国の貴族ですよ。今日公爵家になったばかりの新参者ですがね」
さりげなく毒を吐かれた気がする。地味に胸に刺さる言い方をするな、伯爵様は。
「ご紹介に与りました、ミワ家当主?のニノと申します。本日クライン・エアド・フィリザール元公爵を国家反逆罪で処刑した際、創造主よりフィリザール公爵家の権利を拝命いたしました。その際、名を改め“ミワ”と名乗っております。どうぞ、よしなに」
いきなり紹介されたので、結構適当だが見てくれ相応の受け答えと思って名乗りを上げる。ついでに罪状を追加しておく。おお、二人の顔が真っ赤ですことよ。
というか、この家に母親は居ないみたいだな。だから女の扱いが解らずに暴走したとかかな?恐るべし男系家族。俺、姉貴がいるからよくわからん。
「では、お二人には国家反逆罪教唆の疑いと、これまで逃げ続けて来た脱税、贈賄、拉致監禁、殺人、食い逃げ、迷惑行為各種の調査がありますので、ご同行くださいますね?」
「なにしてんの君ら……」
本当に何してんの?そんな犯罪オンパレードって、むしろどうやったら誤魔化せるのか教えてほしいわ。というか公爵家が食い逃げすんなよ。
「ちなみに食い逃げはクィーラ氏の罪状ですね。他は全てコルディアス氏の罪です。良かったですね、少しは罪が軽そうですよ?」
素晴らしい笑顔だよ、アレイスター伯爵。とてもすっきりした笑顔だ。というか、兄貴が小物過ぎて泣けてくる。弟は勇者召喚する程の奴だったのに、兄貴がこれじゃあ親父も見切りを付けるよ。
「認めん、認めんぞ!【偉大なる】」
やはり親子か、思考回路がとても良く似ている。悪足掻きに何か厄介な物を召喚するつもりだろう。星屑竜の剣の試用に丁度いいかと、指輪から召喚しようと手を翳した時。
「【対抗呪文】」
「【炎の狼】!燃やし尽くせ!!……って、何故出ない……?」
「あまり我々を馬鹿にしない事ですな、召喚師。貴様らの様な他力本願なクズ共など、我らの前ではサーカスの玉転がしにも劣るのだと自覚しろ。召喚術など、少し魔力を乱してやれば途端にこれだ。ジェイク、二人を監獄までお送りしろ」
「畏まりました」
御者台に座っていた老人が、恭しく礼をする。そして男二人を軽々しく持ち上げ、馬車の中にブチ込むとさっさと馬を走らせ去って行った。
「良かったのか?」
「何がだ?」
「いや、手錠とか捕縛とかしなくて良かったのかって」
「問題ない、ジェイクは俺より強い。というか師匠だからな」
「そ、そうなんだ……。というか、お前はどうやって家に帰るんだ?」
「ああ、俺の家は近所だから歩いて帰れる。それに俺を襲う様な輩は、この町にはいないよ」
「そうなんだー……」
若干これからのゲーム内生活に不安を抱くが、そんな事は言えないので黙っておく。いいさ、どうせあまり関わる事は無いだろうし。
「それじゃ、使用人は好きに使うといい。出来れば早い内に金ぴかを失くしてくれると助かる」
「ああ、それなら心配ないよ。既にミトとホーンが使用人達と動いてるみたいだから」
さっきから一言も喋らないから、珍しいと思って周りを見ると俺とアレイスター伯爵以外居なかった。親子二人とぐちゃぐちゃやってる間に、向こうは使用人と友好を結んでいたようだ。出遅れた。まぁ、メイドさんが多いみたいだから、俺には荷が重いか。
「なら問題は無い。俺はもう帰るから、何かあったら詰所に届け出るかしろ。多分部下が対応してくれるだろう。だが、暇つぶしに使うなよ?お前らは公爵家とは言え元平民だ、貴族には貴族のルールがある。それを弁えておけ」
「りょーかい。アレイスター、あんた割と良い奴だな」
二カッと笑う。子供時代に、悪戯が成功したガキの様な笑顔だったろう。しかしそれを見てアレイスター伯爵は、何故か顔を俯かせて足早に去って行った。というか、それじゃ背の低い今の俺には隠せてないぞ?何を赤くなってんだ、アイツは。
アレイスター伯爵と分かれた後、俺達は使用人達の案内に任せて自室を割り振った。それなりに大きな部屋を用意され、互いに苦笑いを浮かべる三人。
それぞれの部屋に戻り、時間を確認すると既にリアルで八時に差し掛かろうとしている。
いくら寮が学校の敷地内だからと言って、これ以上は遅刻の元だ。俺はベッドに横たわり、柔らかい感触を楽しんだ後メニュー画面からログアウトをタップした。
これで一旦終了です。ここまで読んでくださってありがとうございます。
おかげさまで一万PV、二千ユニーク突破しました!皆様が読んでくれていると思えばこそですね。
次回予告
ホーン、ミト、ニノの三人は、なし崩し的にPTを組むことに。
そして夜にログインしたニノを待っていたのは因縁深き彼ら……。
急激なレベルアップを果たしたニノに待っているのは、羨望の眼差しか嫉妬の刃か。
次回、クラスメイト
よろしくお願いします。
あ、嘘です。まだクラスメイト出てきません。
次回『神璽』
よろしくお願いします!