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Advent Online  作者: 枯淡
深夜の冒険編
11/34

11 勇者

なんとか今日中に11話UPできた。

挿絵は描け次第UPしますが、ちょっと難しいかもです。

4月12日挿絵掲載。

 尚も馬車を走らせること数時間。夕刻に差し掛かる頃には王都の壁が見えて来た。かなり早いと思えるが、その分馬には苦労をかけている。あとで存分に労ってやろう。


 アリシアさんも数分前に起きていて、今はミトとなにやら話しているようだが、ガールズトークには付いていけない偽女の俺では分が悪い。御者台に上半身を乗せて、次第に大きくなる城壁を見つめていた。空は茜色に染まっており、時間帯こそ違えど『夜明けを歩く者』の文面を思い出してしまう。次に出会うスキルブックは、もう少しゆるい内容がいいかな。


 そんな感想を思い浮かべていると、空を大きな鳥が飛んでいた。ファンタジーだなぁ……なんて思っていると、大きな鳥は王都の手前でターンしてこちらに向かって飛んできた。

 訂正が一つある。鳥だと思ったそれは、長い首と尾を持った緑色の竜だった。おいミト、仲間が来たぞ、出迎えてやれよ。


「これはこれは、村以来ですか。奇遇ですねぇ少年?」

「……貴族様も、ご健勝の様で何より……」


 フィなんとか公爵……?何故こんな処に、しかも竜に乗って。

 それにしてもホーンさん、前に対面した時は偉く饒舌だったじゃないですか。今回はそのスキルを発揮しないんですか?


『以前はある程度の台本があった。今回は全部アドリブ』


 念話で返事が来た。そんなにわかりやすい顔をしていたのかな?ていうか台本って……。


「結局聖女様は見つからず、何者かの手に渡った後でした。婚約者として恥ずかしいばかりですよ」

「婚約者……?」

「おや、ご存じないのですか?聖女アリシア様は、私の妻となるお方。救出の大役を負ったは良い物の、どこぞの下等種に奪われたまま見つからなかったのですよ。ですが、耳寄りな情報を手に入れましてね」


 ちらりと、俺に視線を移す髭オヤジ。


「そちらの白いお嬢さんが、聖女らしき方と歩いていたという情報と、例の盗賊団の一人がお嬢さんと共に聖女に逃げられたと吐きました」

「…………」


 やばい、本気でやばい。あれから倍以上のレベルアップはしているけれど、所詮は支援職。戦闘職の手にかかれば相手がNPCだろうとひとたまりもないと思う。


「おやおや、返事が無いのは肯定とみなしますよ?……聖女アリシアを返してもらいましょうか?下劣なる盗賊共よ」

「なっ!?」

「何を驚いているのです、あなた方は聖女を誘拐した極悪非道な盗賊なのですよ。ならば殺して殲滅し、救い出さねばなりませんよねぇ?」

「そういう事か……」


 連中の考えに気付いて、舌打ちをする。何て事はない、簡単な話だった。この貴族が盗賊の言っていた“あの方”で、攫った盗賊から助けるという自作自演を行っただけだったのだ。

 恐らく、コイツ自身何かしら地位が揺らぐ事があったのだろう。だからこそ、インスタントな功績を見繕い、演出した。そして、本来であればすぐにでも取戻し王都へ凱旋する予定だったのだろう。しかし、俺の手によってそれは阻まれ、ホーンさんの手によって思惑を逸らされた。


 あの時から、ある程度怪しいと思われていたのだろう。しかし盗賊のアジトで俺が逃げたと聞けば、自ずと答えも見えてくる。


 ピロンッ!

<クエスト:【フィリザール公爵の魔の手から聖女を護れ!Ⅱ】フィリザール公爵以下六名を殺害、または戦闘不能にせよ。報酬:スキル熟練度MAXの宝珠各二個。ボーナス:フィリザール公爵を殺害した場合、公爵位を得られる>


 スキル熟練度MAX!?何それ超欲しい。そしてボーナスはあまり要らない……。いや、年金があるかも……?だったら欲しいかな、屋敷も貰えるよね?なんだか盗賊の気分になってきたよ!


「【人狼化ライカンスロープ】【ボムボルト】【連続射撃】!!」


 ズガガガガアアアアアンッ!!


 ミトの放った爆裂矢が背後の竜を打ち据える。どうやら十分に効いている様子で、苦しげに暴れている。というか手が無いな、あれってワイバーンじゃね?竜でも下位の竜か。

 ついでに数人の護衛を巻き込んで爆散させている。どれだけの火薬を込めたのか、今度聞いてみよう。


「【イグニス外套パッリウム】【バッシュⅣ】【ラッシュⅢ】!!」

「「ぎゃあああああああっ!!」」


 あ、あれ?何だろう。昨日の夜襲の様子が脳裏に浮かんでくるぞ?ていうか二人ともめっちゃニコニコしてるんですけど、怖い。


「き、貴様ら!不意打ちとは、正体を現しましたね下賤な盗賊共め!!」


 返す言葉も御座いません。が……。


「【精霊化・光】【光属性魔術・初級Ⅱ『蜃気楼』】【棍術『痛打』】」

「ぎゃっ!?」


 蜃気楼で距離感を失わせ、背後からの棍術・痛打を浴びせる。STR1だけど、光の速度で打ち出された杖はかなりの耐久度を犠牲にして筋肉隆々な男を打ち据え、地面とキスをさせた。ごめんよ地面、こんなのとキスさせて。頭を足で退かして口が当たったであろう場所をぐりぐりと踏みにじる。

 それに俺もあの報酬は欲しいし、獲物フィリザールは絶対に逃がせないよなぁ?


「……はい?」


 その声は随分と間の抜けた声だった。頼りにしていた私兵を全て一瞬で潰され、訳が分からないと言った顔だ。それはそうだろう。話の途中でいきなり射撃され、体勢を整える前に殴りつけられ、反撃をした連中は炎の外套によって防御され、横合いから射撃され絶命。公爵を護ろうと動いた奴は見当違いの方向に走りだし、待ち構えていた白い幼女に豪速の杖で殴られ死亡。公爵を取り巻いていた私兵は炎に巻かれ、塵となって消え失せた。ちょっとやり過ぎた気がする。


「な、な……」

「あれ、ニノ強いじゃん?」

「なんか精霊化の影響が半端ない。光速で殴ったら、そりゃ死ぬよね。よく杖が持ったもんだよ……後で修理たのむ」

「あいよー」


「くっ、なら出てきなさい!【偉大マグヌムなる百匹ケントゥリアルプス】!!」


 公爵が唱えると、地面が水面の様に波紋を打ち、渦が現れる。

 そして次々と出現する、やや大きめの狼たち。だが公爵もほとんどの魔力を使ったのか、息を乱している。

しかし、この物量はきつい物がある。黒い狼の群れは唸りを上げながら、主人の命令を待っている。


「さぁ、やっておしまいなさい。私の可愛い狼たちよ!」


 一斉に襲い掛かる狼の大群。だが、こちらの射程距離に入る前にミトの爆撃が決まり、多数の狼を道連れに爆死していく。次いで炎の自動防御によって迎撃され、更に鉄拳で粉砕される狼たち。そして俺は蜃気楼の効果がまだ残っているので、一匹も襲って来ずにあらぬ方向へと殺到する。そこへミトの爆撃が入り木端微塵。あれ、俺何もして無くね?


「【フリーズアロー】!」

「ぐっ!?」


 またも呆然としていたフィリザール公爵の足元に、ミトの凍結効果を持つ矢が放たれた。ピキピキと音を立てながら、足が氷漬けになっていく公爵。


「くそ、アリシアを護れるのは私だけなのですよ!貴方達はあの魔窟でアリシアがどう扱われていたのかご存じないのでしょう、道具扱いですよ!?だからこそ、この私が救い出す筈だったのです!貴方達は、アリシアにもう一度道具になれと言っている事と同義なのですよ!」

「それは無いよ」

「白いお嬢さん、詭弁はよして戴きたい。貴女の様な平民では話が出来ないのです」

「アリシアさんは王になる。だから、道具になる必要なんて無いんだ」

「何を……」

「なぁ、アリシアさん」


 後ろの馬車を見ると、そこにはをダークブラウンに染めて治癒師の服を着たアリシアさんが立っていた。


「ふふ、覚えててくれたんですか?私が王になって、同性結婚を認可させる事を」

「ごめん、そこは忘れていたかった」

「バカな馬鹿なばかな!!女性は王になれませんよ、法で決まっている事です」

「普通の女性だったら、国民も納得しないだろう。だが、アリシアさんは聖女だ。聖女としてのアリシアさんが王となる事は、国としても認めるべきことだろう」

「暴論を……っ!【偉大マグヌムなる……】」


 公爵はステッキを振りかぶり、更に召喚を行う様だ。だが、俺達もお前を殺せば公爵位とおまけに屋敷ホームが手に入るかもしれないとあれば、ゲームだと割り切って欲の為に始末させていただきます。


「【ミセルれな勝者ウィクトール】!!」

「「「!?」」」


 余裕を持っていた俺達だったが、別の呪文を唱えたことで警戒を露わにする。公爵の眼前の地面が揺らぎ、何かがせり上がって来た。それは豪奢な鎧と、鏡面仕上げの盾、そして光り輝く刃の剣を持つ青年だった。顔に生気は無く青ざめているが、その瞳に宿った闘志は未だギラついている。


「あ……あ、そん、な……」


 アリシアさんの声が震え、上手く言葉を離せない程に怯えている。彼が何者か知っている様だが、今はそれどころではない。あの青年から圧倒的なプレッシャーを感じて、先輩二人も攻撃に出られない様子だ。俺も精霊化がクールタイムで使えない。突っ走り過ぎたと後悔する。


「あれは、あの方は、竜王を倒した勇者“クラーク”様……肖像画と全く同じ顔に、同じ装備……」

「マジか、勇者相手に戦うなんて……だから公爵を殺せと書いてあった訳か」

「一気に分が悪くなった気がするわよ。どうするの?」

「逃げるか?」


 ああ、それが一番だと思うが、逃がしてくれるとも思えない。一番合理的な手段は、誰か時間を稼げる人を置いて全力で馬車を走らせるくらいだが……。


 ギィンッ!!


 え?気が付いたらホーンさんに突き飛ばされて、空中を舞っていた。何があった?まったく知覚出来なかったが。地面を滑りながら着地すると、ホーンさんの居る方角を見る。そこには、両手を切り飛ばされ胸を貫かれたホーンさんの姿が。


 俺は夢中で走り寄り、その途中で何発かヒールを唱えて凄い勢いで減るホーンさんのHPを食い止めていた。しかし、ホーンさんから剣を抜くと、俺に向かって勇者は歩き出した。逆に俺は足を止めてしまう。血振りをした飛沫が、顔にぱたたっと塗りたくられる。

 さっきまでの優勢が夢だったかと思える逆転劇。それを行ったのは、かつて竜王の首を斬り飛ばした勇者。勝てる訳が無い。


 カチッ!


 勇者が何かを踏んだのか、足を踏み込んだ時そんな音がした。同時に破裂音が轟き、大地を抉った。


「ちっ、こんな開けた場所じゃ得意のS○Wトラップは使えないし……チマチマしたのは嫌いなのよね……」


 姉貴だった。この状況でも顔色一つ変えずに罠を仕掛けてきやがった。そこに痺れる憧れるぅ!!

 それにしても、それが例の罠じゃないって言うなら、今のは普通に地雷か何かだろうか?


「ニノ!こうなったら勇者を倒すしかないよ、最強の盾と剣の攻略法、アンタなら分かるわね!?」

「――解ったよ、ミト。【精霊化・光】さぁ、キリキリ行こうか!!」

「安らぎの風よ、再生の涙よ、聖女の名において命ず。彼の者の傷を癒せ【エリクシル・ヒール】……ホーンさんはこれで大丈夫です、お二人とも頑張ってください!」

「ありがと、アリシア!これで条件はクリアされた!!」


 【精霊化・光】によって得た高速機動。攻撃だけに使うなら状態維持も難しくは無いが、移動にまで使うとなると維持も難しくなる。まだレベルⅠだから仕方ないとしても、今はそれで何とかするしかない。


 俺は勇者に向かって一瞬で接近する。右手には治癒師の杖を持ち、左手には耐久値ぎりぎりの蛇呪の杖を持つ。高速機動に徹しているせいで攻撃用の速度が得られないが、それでいい。


 バシュッ!


 ミトの放った短矢が、公爵の眉間を狙って打ち出される。しかし、直前で勇者の盾に阻まれ矢が弾け飛ぶ。同時に背後から俺の棍術『痛打』を喰らわせる。盾を引き戻せず剣で迎撃するが、今度は攻撃速度にのみ回しているので重い一撃となり右手が弾かれ体制が崩れる。そこへミトの短矢が連射で殺到し、自分を護るために盾を短矢の方向に向けた。


「【バッシュⅤ】!!」


 ここで回復したホーンさんが渾身の一撃を勇者のレバーに命中させ、十数メートル先へ吹っ飛ばす。流石に空中に浮いてしまえば、どんな武器を持とうと守れまい。


 俺は持ち前の速度を攻撃に全振りしたまま、杖の石突きを穂先にして全力の投擲を放つ。勝った!そう確信した瞬間、勇者の剣が飛んできて杖を粉砕した。


「くっそ、これでも駄目か!」


 しかし、これでまた条件はクリアされた。投げられたのが剣では無く盾だったならば、俺も次の一手が撃てなかっただろう。しかし光の精霊と化した俺にとって、飛んでくる剣の柄を握るなんて朝飯前だ。どうせSTRが足りなくて装備は出来ないだろうそれを、投擲された勢いを減じさせぬまま円を描いて振り下ろし、フィリザール公爵の首を切り飛ばした。


挿絵(By みてみん)


 最強の盾と剣を持つ者の対処法、それは使い手を殺せばただの道具になり下がる事。普段は使い手自身が武器を持っているから難しいが、今回は召喚師が相手だった。だからこそ確信を持って挑めたのだ。


 予想通り、公爵が燃え尽きて消え去ると同時に、勇者は光の粒子となって消えていった。その様を見ると、まるで【夜明けを歩く者】のラストシーンを思い出してしまう。あんな散り方だったのだろうか。フィリザール公爵は「偉大なる哀れな勝者」だと言っていた。

 きっと、探せば彼の話も本として記されているのだろう。


 ピロンッ!

<クエスト:【フィリザール公爵の魔の手から聖女を護れ!Ⅱ】が達成されました。報酬のスキル熟練度MAXの宝珠各二個と、ボーナスの公爵家の証をアイテムボックスに送りました。公爵家の家名を変更しますか? Y/N>


「公爵家の家名って……フィリザールだよね?」

「はい、そうですね……。フィリザール家もこれでお取潰しですか……仕方がないのでしょうねぇ」


 フィリザール家には同情の余地が無いため、家名を残す選択肢は無い。欲に塗れた男が、更に大きな欲に負けただけの話だからね。いや、アリシアさんよりもクエスト報酬という欲だけど。


「では皆さん、候補を上げてくれますか?」

「ザ○家」

「ジ○ソウ」

「徳川」

「……ではトクガワで」

「ちょっとアリシア!ニノ贔屓が過ぎるんじゃないの?それに徳川って語感が世界とマッチしてないのよ、ここはぜひともジ○ソウを!」

「待て、語感が合っているというならザ○家はいかんのか?」


 そもそも、自主規制が入ってる時点で駄目だと思う。


「今度倭国行くし、別に合っていないくらい良いんじゃないの?」

「ならここは私達姉弟の苗字を入れるべきね、ミワ……と決定!!」

「なっ!?ミト、せめてダイ○ンじゃ駄目だったのか……?」

「ホーン、哀しいけどこれ、戦争なのよね……」

「いや、単に家名を考えてるだけだよね?」


 こうしてフィリザール家改めミワ家一行は無事王都の門に辿り着く事ができたのだった。

ニノ(三輪神璽)

性別:女

治癒師Lv45 HP2810 MP5260+37

Status 1LvUP毎に+4point SP0

Str:1

Agi:40+6

Vit:1+4

Int:115+5

Dex:28+8

Luk:1


Skill (Skill Point 50/90) 1Lv毎にSP+2 熟練度100時、次Lvに必要なSP2

【ヒールⅡ:熟練度81】【キュア:熟練度66】【聖撃ホーリーショット:熟練度37】【聖壁:熟練度87】【光属性魔術・初級Ⅲ:熟練度26】【MP増加Ⅱ:熟練度13】【闇属性特攻:熟練度0】【聖棍:熟練度0】【棍術:熟練度96】【HP増加:熟練度0】


Book Skill 5/6

【精霊化・光Ⅴ:熟練度100】(スキル熟練度MAXの宝珠を使用)


装備

【セイントミニローブ+5:DEF15 MP+50 INT+5:耐久度11/100】

【セイントブーツ+5:DEF10 DEX+8:耐久度23/100】

【セイントニーソックス(白)+5:DEF3 AGI+6:耐久度56/100】

【腰マント(白)+5:DEF10 VIT+4:耐久度4/100】

【下着セット:自浄、自動回復:耐久度85/100】


獲得トロフィー

【スリーピングデッド】【不眠不休】【眠り姫】【裏切りの一撃】【牢獄の虜囚】【究極の料理人】【脱出成功】【聖女の友】【愛玩動物】【助けられし者】【修練者】【夜を歩く者】【運営の狗】【殺人】【解放】【夜明けを歩く者】

【勇者討伐】【貴族階級】new!


読了感謝です!

ちなみに、ニノのステータス数値はHPとかの数値に限って結構適当です。

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