10 夜明けを歩く者
今回は小話みたいな感じです。
ちょっとホラー風味です。苦手な方は無視しても構いません。
寝落ちした、全部マイクラが悪い。SKYRIM MOD の体験版があったらやっちゃうでしょう。Vita勢としては!
翌日、早朝から出発した俺達聖女クエスト一行は、ホーンが御者を務める馬車に揺られて街道を進む。最初は俺もやると提案したのだが、ホーンから『落ちそうで怖い』と指摘を受けて二人ともが馬車内でお客様状態だ。ロリボディが恨めしい。
「そういえばニノ、アンタはどんなスキルブック貰ったの?」
「あぁ、そう言えば確認してなかった。今から読むよ」
メニューウインドウを開き、アイテムボックスの項目へと移動する。そこにはしっかりと【スキルスロット+1】【スキルブック】というアイテムが鎮座していた。
スキルには三種類あると言われている。まず職業によって得られる【ジョブスキル】と、高値だが販売アイテムであるスキルブックから手に入れられる【ブックスキル】の二つが代表的だ。ジョブスキルは基本十個のスキルがあり、スキルブック用のスロットは五つ空いている。今回貰ったスキルスロット+1は、六つ目のスキルスロットという事だ。ほくほく。
そしてもう一つ、スロット無制限の【アクワイアスキル】という物がある。読んでその通り、行動した結果得る固有スキルの様なものだ。ベータでは、分かりやすく“オリジナルスキル”と呼ばれていたらしい。
例えば、現実で習得した剣術をゲーム内で再現したとする。何度も反復練習し、魔物を倒し続けるとその剣術が新しい流派としてゲームに誕生する。技があれば、それをメイキングメニューから登録する事が出来るというシステムだ。
このシステムは、ベータ時代の姉も利用していてオリジナルの罠を仕掛けては友人から『一人だけ別ゲーしてる。AOはいつからS○Wになったんだ』とお叱りを受けたほどだ。俺関係ないのにね。そもそも、S○Wみたいな性格の悪いムリゲーな罠を仕掛けていたのかと問い詰めたい。あのファイナルは酷かった、街中でクリアボックスとか吐き気を催す。
俺はスキルブックをオブジェクト化して手に取り、表紙を開く。このスキルブックとは厄介なもので、一冊の本そのものになっており読み切らねば新しいスキルは手に入らない。ただし、ストーリーの中でどんなスキルか、どのように使う物なのかを示唆している為ある意味では分かりやすいシステムなのだ。そして読み終わった本はスキルブックとしての効力を失い、ただの本になる。ついでに言うと、このスキルブックは所有者登録がされており、奪われる事も無ければ、他人が中を見る事も出来ない。高額アイテム故のセキュリティである。
スキルブックの題名は「夜明けを歩く者」
おやおや、どこぞのドライアドがアップを始めています。お前じゃない、お前だけどお前じゃない、こっちみんな。森、無色マナ計二点のスペルシェイパーさんはお帰り下さい。
「やっぱり題名からじゃどんなスキルかは読み取れないから、頑張って読むよ」
「吐かないようにね」
「善処します……」
そもそもこのゲームで吐けるのかが疑問だが、気持ち悪くなる事は確かだから気を付けなければならない。いざ戦闘って時に、一人だけ馬車内で待機とか恰好が付かないしね。
早朝の開門から走り続けてそろそろお昼、出来る事なら走り続けたいが馬を潰す訳にも行かない。空腹状態で走らせると、気付いたら死んでいるという事になりかねないのだそうだ。持つべきものはベータ情報提供者の姉貴である。
昼休憩の時間に、簡単なスープを究極の料理用キッチンセットで作り、全員で感涙しそうになった。あれは卑怯だ、美味しすぎる。兎肉と葉野菜の煮込料理を作っただけなのに、深い味わいと旨みがパーフェクトハーモニーを……。
昼食を終え、再び馬車は走り出す。相変わらず荷車に乗って本を読み進める。
どうもカードゲームの設定とは、まったく別のスキルの様だ。もし似通っていたら通報するところだった。危ない危ない。
物語も終盤に差し掛かり、大体のストーリーは掴んだ。
夜明けを歩く者。
とある町に住んでいる年若い女がいた。その女は日の光に弱く、日中を歩くことができない。悪意ある者は彼女を吸血鬼と呼び、恐れ、罵倒した。しかし、彼女はそんな噂を振り払えるほどの美しさを持っていた。宵闇の如く、深く暗い黒髪と、兎の様な紅の瞳。黄金比と呼べるほどに整った肢体と、豊満な胸。彼女に良い寄る男は後を絶たなかった。
彼女はとある酒場で、日が沈んでから朝方まで女給として働いていた。その帰り道は決まって夜明けの朝焼け空が迎えてくれた。肌がチリチリと痛むが、これくらいならへいちゃらだ。
この日、彼女は無性に太陽が見たくなった。日々のストレスもあったのだろう、行動がやや大胆になっていた。
そして彼女は高台を目指して歩く。どんどんと太陽は上り、その姿を現し始めると、彼女は興奮を禁じ得なかった。生まれて初めて見る太陽という物。夜の世界でしか生きられぬ体の彼女には、抗い難い誘惑だった。“光を求める”という生物としての本能、それこそが彼女を死に至らしめた呪いだったのだ。
太陽の光を浴びた彼女の皮膚は爛れ、水ぶくれが体中に吹き出し、呼吸困難に陥り呆気なく死んだ。その遺体はかつての美しい姿では無く、まるで化け物のようだった。
こうして一人の美女の死は、誰にも気付かれる事無く闇に葬られた。誰の悪意でも無い、ただの事故死。だというのに、彼女は行方不明として永遠に捜索されるのだろう。彼女を愛した男共が総力を挙げて探すのだろう。
ある日、唐突に彼女が姿を現した。
深酒をした酔っ払いのオヤジが、店から叩き出されて朝焼けの中を歩いていた時だった。どこかで見た姿の女が目の前を横切ったのだ。その姿は紛れも無く彼女のものだった。男は告白はせずとも、何度も彼女を見ては美しいと思っていた男だった。出来る事なら嫁にしたいと思うほどに。
行方不明の彼女を真っ先に見つけられた嬉しさもあって、彼は後を付ける事にした。残念ながら言葉を交わす程に親しく無かった男だが、今は酔っていて気が大きくなっていた。
後を付けていると、段々と人気の無い道を通り、高台へと昇っていく。
そこで男はふと思い出す。随分前にこの高台で発見された化け物の死体が着ていた服と、彼女の服は似ていないか?と。あの化け物が発見された日から、彼女が姿を現さなくなったのではなかったか?もしかしたら彼女は、既に死んでいるのでは無いか?
恐怖に足が震えはじめ、追跡が出来なくなった。しかし目の前には既に足を止めている彼女がいる。こちらには見向きもせずに、上り行く朝日をじっと見つめている。
両手を開き、全身に日の光を浴びる様に楽しんでいる。しかし突然どろり……と、体が崩れ始めた。腕、足、体の至る所から溶けて消えてしまった。
男は絶叫しながら道を走る。震えて動かなかった足は、全力で逃げるために動いてくれている。あれは何だ、何だったのだ!?答えは出ない。しかしアレが彼女であった事だけは確実だ。その顔を見知る者なら、見間違える筈のない美貌なのだから。
男はこの事を町の連中に話して伝えるが、誰一人として信用しない。それはそうだ、お化けが出た等、子供の戯言としか思えまい。しかしその言葉に耳を貸した男が居た。大神官の彼は、その話を聞くと朝方の道で待っていた。男が見たという時間帯、場所を聞き出し、そこで陣取ってずっと待っていた。
彼女はきた。ゆっくり、ゆっくりと足を動かして高台へと向かう道を行く。大神官も後を追う。件の場所に辿り着くと、情報通りに両手を広げるところから動き始めた。しかし、彼女は話に聞いたよりも長くその状態を維持していた。
溶け行く体は解けず、すぐにでも消え去る筈のその姿は一向に消えなかった。そして口を三日月状にして、背筋の凍る寒さを感じる程の笑みを放つ。しかし、その瞬間溶けて消えてしまった。
大神官は呆然と立ち尽くた。今見た内容を、直接あの男に知らせても意味は無い。即刻引き返し、街の教会で職員専用の念話石に触れて大本山と連絡を取った。
繋がれたのは枢機卿、その地位こそが事の重大さを物語っていた。
それは人の魂でありながら、悪魔と契約を交わし、太陽の光を克服しているに違いない。そう判断した枢機卿は、大神官に一つの“魔法”を伝授した。神官職の最高峰に上り詰めなければ得られない神術の極みの一つだ。それを携えた大神官は翌朝に備えて眠る事にした。
そして、彼女は現れた。いつもの道では無く、大神官の寝所にゆらりと現れた。その美しい顔は、暗い部屋の中では逆に怜悧に映る。その気配に気付いた大神官は飛び起き、彼女に向けて詠唱をする。構わずに進む彼女に恐怖を感じつつも、必死で抑えて詠唱をミスしない様に呟く。
ふっと、彼女の手が頬に触れた時、詠唱は完成した。【偉大なる神の命令】そう唱えると、彼女は苦しげに身をよじりながらその体を光の粒子へと変じ、空へと還って行った。
ただ、彼女の手が触れた時に流れ込んできた記憶を思い出すと、今でも間違っていたのかと悔やんでならない。
彼女は悪魔と手を組んでなどいなかった。ただ只管望んだ日の光の克服という、その一念が霊となった後でもスキルを身に着けさせたのだ。女の情念とはすさまじい物があるという。その心が向かった先が、あの不変の太陽だったからこそ、彼女は恋に焼かれて死んだのだろう。天を目指し蝋で翼を作ったイカロスの様に。
ピロンッ!
<ブックスキル:【精霊化・光】を手に入れました>
「どしたの、ニノ?」
「いや、最後にそれかよって……姉貴はどんなスキルだったんだ?」
「いや、それは言うけど……アンタ泣いてるよ?」
「うぐっ、言うなよミト……スキルブックってかなり心を抉る内容じゃないか?」
「いや、私は喜劇だったけど?」
「推理小説」
「俺だけかよ、こんな後味悪い展開になったの……」
がっくりと頭を俯かせ項垂れる。太陽の光を求めた女の、最も望んだスキルが【精霊化・光】とか、もう心が痛すぎて暫く戦闘出来無さそうだよ……。
とはいえ、内容から読み取るに、維持する為にはかなりの熟練度が必要なんだろうな。最初はすぐにでも解除されてる様子だったし。修練あるのみか……。
「私が手に入れたスキルは【人狼化】だった。人がいきなり人狼になっちゃう話なんだけど、凄く弱いの。子供にも負けてるんだよ?」
「それギャグ漫○日和じゃね?」
「爪とかスピード、感覚器官は鋭くなるみたいだけど、パワーは変わんないっていう」
ほんとギリギリを行くな運営。今度クレーム入れておこう。
「【古代魔法:炎の外套】」
ホーンさんが呟くと、彼の体に茜色の布地が巻きつき外套の様相を成した。そして布地は炎の様に揺らめいて見える。木製の馬車に燃え移っていない時点で、どうやら火自体ではないらしい。
「炎魔術の底上げと、自動防御。敵じゃなければ熱くも無い。あと夜間に明るくて便利だ」
「なるほど、俺も使ってみるか。【精霊化・光】」
「それじゃ私も【人狼化】」
街道を行く一つの馬車。その会話にアリシアが何故入ってこないか、それは彼女がニノをだっこしたまま眠っているからである。揺れは確かに酷いが、ホーンとミトが集めた毛皮を敷き詰めた床はそれなりに快適な空間となっていたのだ。加えて、彼女は馬車への乗車経験は多い。それゆえに、彼女は寝る事ができたのだった。
しかしそれを彼女が見なくて正解だっただろう。三人に与えられたブックスキルのそれは、神の僕たる精霊と神敵たる人狼が仲良く会話し、古代文明を壊滅せしめた原因たる破壊の象徴である古代魔法を使っている状況など、頭がこんがらがって仕方がない。こういうカオスな状況こそがMMOの醍醐味だが、それをNPCに求めるのは酷という物だった。
ニノ(三輪神璽)
性別:女
治癒師Lv41 HP2610 MP4950+187
Status 1LvUP毎に+4point SP0
Str:1
Agi:40+6
Vit:1+4
Int:100+30
Dex:27+8
Luk:1
Skill (Skill Point 60/82) 1Lv毎にSP+2 熟練度100時、次Lvに必要なSP2
【ヒールⅡ:熟練度51】【キュア:熟練度66】【聖撃:熟練度37】【聖壁:熟練度87】【光属性魔術・初級Ⅱ:熟練度68】【MP増加Ⅱ:熟練度13】【闇属性特攻:熟練度0】【聖棍:熟練度0】【棍術:熟練度41】【HP増加:熟練度0】
Book Skill 5/6
【精霊化・光:熟練度21】
装備
【セイントミニローブ+5:DEF15 MP+50 INT+5:耐久度100/100】
【セイントブーツ+5:DEF10 DEX+8:耐久度100/100】
【セイントニーソックス(白)+5:DEF3 AGI+6:耐久度100/100】
【腰マント(白)+5:DEF10 VIT+4:耐久度100/100】
【蛇呪の杖+5:INT+25 物理攻撃時一定確率で毒付与:耐久度96/100】
【下着セット:自浄、自動回復:耐久度100/100】
獲得トロフィー
【スリーピングデッド】【不眠不休】【眠り姫】【裏切りの一撃】【牢獄の虜囚】【究極の料理人】【脱出成功】【聖女の友】【愛玩動物】【助けられし者】【修練者】【夜を歩く者】【運営の狗】【殺人】【解放】
【夜明けを歩く者】new!
小話に元ネタはありません。ぶっちゃけた話、寝落ちした後再開しても最後までスキルが決まらなくて、作者も最後の最後に【精霊化・光】に行き当たりました。
スキルブックに関しては、VRMMOが出たらぜひとも入れてほしいサービスの一つです。単にマイホームでのんびりと本を読むだけという、いつも通りの日常なのですが(笑)
ここまで読んでくださってありがとうございます。
リアル編まで、もう暫くお付き合いください。