第6話 決意と初戦闘
遅くなりました。6話の改稿です。
今日中に7話も投稿したいと思います。
アルスと別れた俺は、自分のパーティを探すべく、大通りに向かった。
予想どおり、大通りにはこのゲームから解放されるため、自ら攻略に乗り出した者たちが多くいた。
多くの人がパーティメンバーを募集しており、その中の1つに良さそうなものがあったので声をかける。
「パーティ枠、あと一つ空いてます!! 前衛の人募集します!! 誰かいませんか!」
「少しいいだろうか。前衛を募集しているなら、俺をパーティに入れてくれないか?」
「おお、是非入ってく……君、そのツノ、まさか鬼人族かい?」
「その通りだ。」
「すまないが、鬼人族なら入れることは出来ない。」
「なっ!? 一体、どういうことだ?」
「どういうことも何も、そんなネタ種族入れてたら死んじまうよ。デスゲーム前ならよかったかもしれないが、今の状況じゃ、洒落にならないからな。」
「そうか、わかった。すまなかったな。」
「いや、こちらこそすまない。出来れば入れてあげたいけど、僕たちも、現状どこまで余裕があるかわからないからね。お人好しで死にたくはないんだ。協力はできないけど、応援はしているよ。頑張って生きてくれ。」
「ああ、ありがとう。」
その後も、幾つかの募集を回ったが、結果から言うと全てダメだった。
理由は全て、俺が鬼人族だから。最初の人の対応はまだマシだったと言えるだろう。中には俺が鬼人族だと知ると、笑い出す者たちまでいたのだから。
この対応によって、俺の中で何かが吹っ切れた。
「くはっ、くはははは!!いいぜやってやる、教えてやるよ。仲間なんかいなくてもやっていけるってことを、鬼人族はネタ種族なんかじゃないってことを。俺が……俺が最強になって証明してやるよ!!!」
――俺が、ソロプレイヤーになった瞬間だった。
ソロでやっていくことを決めた俺は、道具屋へ向かった。
俺に武器は必要ない。だから俺は、所持金の全てである3000ゴルを、1つ300ゴルのHP回復アイテム〈最下級ポーション〉の購入に全て費やした。
これ以上、準備は必要ないので俺はフィールドに向かった。
この〈始まりの街〉周辺のフィールドは4つに分けられている。
フィールドには東門、西門、南門、北門とそれぞれ分かれており、敵の強さは 北>南>西=東 といった感じになっている。
西と東はおそらく、ゲームをクリアする為に動き出した者たちによって溢れかえるだろう。
なので、俺が行くのは北か南のどちらかになるわけだが、もちろん俺は北に向かった。理由は単純。敵は強いほうが面白いからだ。
本来、推奨Lv,10~14の北エリアの敵には、Lv,1の俺では勝てないだろう。
しかし、俺のステータスは異常だ。筋力だけでいえば、他種族のLv,10~14よりさらに上だ。
つまり、攻撃を当てることさえ出来れば問題なく勝てるという事だ。
北門に着くと、門番のNPCに話しかけられた。
「おいお前さん、ここから先は今までの敵とは違う。お前さんにはまだ早いんじゃねーか?」
これはおそらく推奨レベルよりレベルが低いプレイヤーが間違えて入らないようにするために設定された言葉なのだろう。
俺にとってはこれからが初陣で、今まで戦った敵などいないのだから全くもって的はずれな言葉だ。
門番をスルーして、遂に門の外へ出た。
それからしばらく歩くと森に入った。この森が北のフィールドだろう。
すると、【索敵】スキルに反応があった。まだスキルもLv,1なので半径10m以内の気配しか探れないが、森の中では十分役に立つ。
出てきたのは少し大きい深緑の毛をした狼だ。スキルの反応は一匹ぶんだったので群れで襲ってくる心配はない。
敵の頭上に表示されるのは緑色のHPバーと〈フォレストウルフ Lv,14〉の文字。
「おいおい、いきなりLv,14かよ……」
初エンカウントでフィールド最高レベルと会ってしまった自分の不運を嘆きつつ、俺は拳を構える。
それを見て、フォレストウルフは敵とみなしたのか俺の顔に飛び込んでくる。
しかし、俺にはその動きがはっきりと見えていた。これは【感覚強化:視覚】のお陰だろうか。Lv,1でもしっかりと効果があるようだ。
俺はこれを右にステップをして躱す。こころなしか、身体が軽いような気がする。これは【軽業】のおかげかもしれない。
「ここだ! 〔正拳〕!」
フォレストウルフが俺の横を通過する瞬間に俺は上体を捻り、フォレストウルフの腹に右手で【拳術】の武技〔正拳〕を発動させながらアッパーを決める。
〔正拳〕は手首から先が光り、拳での攻撃の威力を上げる技だ。
確かな感触と共に、フォレストウルフのHPが5割程なくなる。
殴られたフォレストウルフ吹き飛んで木にぶつかり、そのHPバーをさらに1割減らす。
「なんだよ、意外と弱いな。よし、このまま決めるか。」
起き上がろうとしているフォレストウルフの顎に蹴りを放つ。それだけでHPが3割削れる。
そして横たわるフォレストウルフに【脚術】の武技〔震脚〕を使う。踏みつけるように使うこの技は使いどころが難しい武技だ。
少々オーバーキル気味だった気がしなくもないが、HPを削りきれたようでフォレストウルフが霧散する。
すると突然、頭の中でファンファーレが鳴り響く。どうやらレベルが上がったようだ。格上を倒したのだから当然だろう。
こうして、俺は初めての戦闘で勝利を収めた。
ステータスを確認するためにメニューを開くと、インベントリに[New!!]のタグがついている。確認すると、[森狼の毛皮×2]と[森狼の牙×1]が増えていた。ドロップアイテムは自動でインベントリに入るようだ。
偶然のドロップアイテムの確認を終え、ステータスを開くとLv,3になって、スキルのレヘルも上がっていた。残りspが40になっているので、1回のレベルアップで貰えるspは20ということなのだろう。
残りspを全てVITに振り分け、ステータスを閉じる。
その時、【索敵】に複数の反応があった。それも俺の四方八方から。
「ちっ、勘弁しろよ。こっちはまだLv,3だそ?」
誰にも届かない愚痴を言いながら敵を見る。
どうやらフォレストウルフの群れに見つかってしまったらしい。さっきの戦闘音が原因だろうか。だとすると、その場でメニューを開いていたのが悪かった。
先ほどの自分の行いを反省しつつ、俺は拳を構える。
「次に反省を活かすためにも、こいつらをぶっ殺して生き残んなきゃな」
意識を切り替え、気を引き締める。
すると、向こうも何かを感じたのか、喉を鳴らし威嚇をしてきた。
「来いよ犬っころ。どっちが上か思い知らせてやる」
俺の言葉を理解したわけではないだろうが、俺の挑発に合わせて2匹のフォレストウルフが向かってくる。
左手で〔正拳〕を発動し、横からフックを振り抜く。その勢いのままに反対から跳び込んで来ていたフォレストウルフに武技〔肘うち〕を発動させながらエルボーを決める。
俺は、言いようのない高揚感に包まれていた。多勢に無勢、この不利な状況が楽しくて仕方がない。
俺は戦闘狂なのかもしれない。普段ならこの事実にショックを受けていたかもしれないが、今の俺はそんなことが気にならないほど興奮していた。
「ははっ、楽しいなぁ。楽しくてしょうがないぞ! さぁ! かかってこいよ犬畜生ども!! 全員まとめてぶっ殺してやる!!」
「あー、つっかれたー……。ちょっとやりすぎたな。」
あの後、倒したそばから次々と出てくるフォレストウルフを延々狩り続けていると、途中でポーションがなくなってしまったので仕方なく〈始まりの街〉まで逃げ帰ってきた。モンスターは基本的に、フィールドから出てこないので、入り口付近で戦っていた俺はうまく逃げれたのだ。
何度も攻撃を受けた初期装備の防具はボロボロの布きれのようになっている。
すれ違う人にジロジロと見られるのは居心地がよくないので、俺は少々早足で武具屋を探した。
「お、あった。〈武具屋イン〉ね。プレイヤーの店みたいだし、ここでいいかな。」
早速目当ての店を見つけ、中に入る。
中に入るとカーン、カーンと金属を叩く音が聞こえてくる。おそらくは鍛治をしているのだろう。作業中に呼ぶのは少々気が引けるが、こちらも急ぎなので仕方がないだろう。
「すいませーん」
俺が呼ぶと作業の音が止まった。それから少しすると、奥から3人の人が出てきた。
奥から出てきたのは、小柄な男達だった。
「いらっしゃい、どんなご用……って、どうしたあんた! なんだその格好!」
3人の中で1番背の高い(と言っても150cmほどしかないが)、真ん中の男が俺を見て驚きの声をあげる。
「いろいろあってな。それより、随分小さいんだな」
「そりゃそっすよ。おいら達は鍛人族っすからね。」
次に背の高い、右側の男が軽い口調で言う。
「なるほど、そうだったのか」
「ところで、何の用だ? その格好を見る限り、やっぱり新しい服を買いに来たのか?」
「当たらずとも遠からずだ。材料を渡すから、俺の装備を作って欲しい。」
真ん中の男に問われたことに答えつつ、先ほど買ってきたフォレストウルフの素材を渡す。
「な!? これは北エリアの素材じゃねーか! まさか、これはお前が取ってきたのか!?」
「ああ、その通りだ。」
「バカな!? 幾ら何でも早すぎる!!」
「そんなこと言われてもなぁ。そんなことより俺の装備を作ってくれるのか、くれないのか。どっちなんだ?」
「そんなことって……。ふっ、あんた面白いな。気に入ったぜ。よし! あんたの装備は俺達が責任を持って完璧に仕上げることを約束しよう! 俺の名前はギンだ。よろしく頼む。」
「おいらはジンってゆーっす!よろしくっす!」
「……ディンだ。よろしく。」
ここで初めて、左の男が喋る。それでも短いセリフでなので、元から彼は口数が少ないのかもしれない。
「俺はクロオニだ。こちらこそ、よろしく頼む。ふぅ、断られたらどうしようかとひやひやしたぜ。」
「断る? 何言ってんだ。強い敵の素材は得られる経験値が高いんだ。まだ誰も扱ってないだろう素材を前にして断るほど、俺達はバカじゃねーよ。」
「そうなのか。なんだよ、無駄に心配して損した気分だ。」
「ははっ、まあそう言うな。ああそうだ、素材がだいぶ余ってるようだから武器も作ってやれるぞ。クロオニはなんの武器を使うんだ?」
「いや、俺は【拳術】と【脚術】で戦うから武器はいらない」
「はぁ!? 〈WMO〉で武器なしって、攻撃力が足りないだろう……。いや、サービス開始から速攻レベル上げを始めれば、いけるのか? それだと、もう北に行ってる奴がいてもおかしくないよな。うーん……」
俺の言葉に様々な思考を巡らしているらしいギンが、うなり始めてしまったので少し情報を与えることにした。
「俺はLv,1で北の森に行ったぞ。初戦闘もそこだな」
「なにっ!? ……はぁ、お手上げだ。もうお前わけ分かんねぇよ……。ほら、どうせまだ隠してることがあんだろ? 早く教えてくれ。」
「別に隠してるわけじゃないんだがな。単に俺は種族に鬼人族を選んだから火力には困らねぇって、それだけのことだ。」
「き、鬼人族っすか……いや、クロオニさんなら、もう何があっても驚かないっす……。」
「クロでいいさ。それより、酷い言われようだな。」
「いやいや、鬼人族で格上と戦って、あまつさえ勝利してくるようなやつには妥当だと思うぜ。」
「そーっす、そーっす。」
「ったく、どいつもこいつも鬼人族をバカにしやがって。鬼人族はダメじゃないぞ。敵の攻撃さえ躱せれば、ちゃんと戦える。」
「普通は全部避けるなんて出来ねぇよ。」
「別に俺だって全部避けられるわけじゃないぞ。その証拠にポーションはなくなったし、防具はボロボロだ。ってそうだった。早く防具作ってくれよ」
「普通、ボロボロになる前に死んじまうんだが、まあいい。お前に対しては、もう驚かないって決めたからな。それよりお前さん、金はあるのか?」
「あ、しまった。ポーションに全部使ったから素寒貧だわ」
「はぁ、じゃあ余った素材をうちで買い取るから、そこから差し引いとくってことでいいか?」
「おお、ありがたい。そうしてくれ。さんきゅな」
「いいってことよ。俺達も北の素材が手に入って万々歳だからな。装備完成までには時間がかかる。万全な状態に仕上げておくから、また明日取りに来てくれ」
「わかった。よろしく頼む」
「おう、任せとけ!」
「任せてくださいっす!」
店を出ると、外はすっかり暗くなっていた。
俺は宿屋で部屋を取り、食事を取ってそのまま就寝した。
こうして、俺のデスゲーム攻略1日目は終わった。