姉貴が彼女を殺すまで
冬の夜はとても寒い、呼吸をする度に身体の体温が奪われていく感覚に囚われる、白い息が生まれては消え、生まれては消えを繰り返す……。
冬の公園はとても静かだ。
夏場はバカップルの群生地なのに、どうして冬になると奴らはいなくなるのだろう。
そう言えば、バカップルと言えば僕等もその類に入るのだろうか? お互い命懸けで愛する、うん。その点だけ見ればバカップルだな。
しかしまぁ、人気の無いのはよかった、警察を呼ばれないだけ、まだマシか……。
先ほどから僕の左腕からポタリポタリと、血が垂れている、寒さのせいか、痛みのせいか、傷口が痺れてきた。
僕の眼前には、包丁を持った彼女がいる。
包丁から滴る血の滴を、まるで雪でも受け止めるかのように大事そうに掌に垂らしている。
「雪が赤かったら世界はどうなるんだろうね」ポツリと彼女が呟く。
「あなたにはこの世界はどう見えてるのかしら?」
左腕が熱くなってきた、そろそろヤバイ、本気でやばい、殺される。
数分前
もう一人の彼女を殺した僕は、今腕の中で眠っている彼女が目を覚ますのを待った。
彼女が風邪をひかないように持ってきた毛布に優しく包む、彼女はスースーと寝息をたてている。
ただ一つ心配なのは今までの事をどのくらい覚えているかだ 、下手したら僕は殺人未遂で警察署へ直行だ……。
まぁ、それもしょうがないかな、これから先の彼女の人生を考えると結果良かったのかもしれない。
いや、良くない!
彼氏に殺されそうになったってめっちゃトラウマになってしまうじゃないか。
あ~あ、どうか彼女が都合のいい部分だけ覚えていますようにっと。
流れ星にお願いをすぉぐふ!
空を眺めていた僕の脇腹に急に激痛が走った、彼女がいた位置だ。
何が起こったのか解らず、すかさず彼女の方を見るガッ!
今度は顎に衝撃が走った、そしてそのまま僕は倒れこんだ、倒れたと同時に顔に衝撃が何度かきた、蹴られてる!
必死で顔をガードしてると今度は背中を蹴ってきた、一体誰が僕を攻撃している?
しばし、サンドバックになってた僕はふと彼女を思い出す、彼女は大丈夫なのか?
蹴りの嵐の中必死になって彼女を探す・・・あれ?
もしかして・・・今僕を蹴ってるのは彼女・・・?
正解・・・。
蹴りつかれたのか、僕の前には息を切らした彼女が立っていた、何でだ? もしかして失敗したのか?
「あ~すっきりした」
僕の思考を遮るように彼女がしゃべりだした。
「一応このくらいにしておいてあげる、次は殺すから」
そう言って、何事も無かったように去っていった。
僕はしばし、呆然として思い出したように電話をポケットから取り出してコールする。
思った通り2コールで相手は出た。
「よう~愚弟いい男になったかい?」
姉貴だ。
「お陰様で堀の深い顔になりました、んでどうゆうことよ。コレ?」
口の中が血生臭い。
「作戦成功だね!やったね!」
「ぶっとばすぞ」
プツり・・・。
切りやがった、リダイヤル。
「すみませんでした、ブッ飛ばされたのは僕でした。一体どうゆうことでしょうか?」
「作戦第一弾成功って事」
ん?
「第一って何?」
聞いてないよ僕……。
「あっれ~、言ってなかったっけ?説明するのめんどくせぇ~」
この姉貴は一度痛い目にあった方がいいと本気で思った、ちなみにめんどくさいは姉貴の口癖だ。
「まぁ、しょうがないから説明するよ。
まず彼女の中には自分で作った生霊がついてるってのは話したよね、
その生霊の根は深く絡まってて、まずはそれをほどかないといけなかったんだよね~」
黙って姉貴の話に耳を傾ける
「ほどかないで生霊だけ消滅させちゃうと
彼女の魂ごと持ってかれるから、お祓いも難しいって話もしたよね?」
「それは聞いたよ、だから今日、もう一人の彼女を殺したんだろう?」
「ぶ~不正解」
はい? 声が出なかった。
「今日やってもらったのは、ほどく作業。
あれれ~言わなかったっけ?我が弟ながら本当にめんどくさいヤツだな」
唖然としながらも声を出す、我が姉ながら、説明不足もいいとこだ。
「全然意味が解らないんだけど。ただサンドバックにされただけじゃん」
「ブフッ、サンドバックにされたの?きゃっはははははははごほっごほっ……」
マジでいつか殴る。
「あ~あ!もうそれはいいから何で説明しなかったんだよ、今もまだわかんないけど!」
「うんとね、めんどくさかった。サンドバックぷぷぷ……」
ツボに入ったらしい。
「いいから説明お願いします」
息を整える声が聞こえる。
「え~っと、二本の糸が絡まったらほどかないと切れないでしょう?
今日はその絡まった糸をほどいてもらったの
つまり今、彼女は2本の糸がピンっと張った状態、この状態なら後はちょん切るだけ~。
ちなみに説明しなかったのは本当にめんどくさかったから~」
「じゃぁ、あとはお祓いすればいいのか?」
「ぶぶ~不正解。生霊のお祓いは難しいって言ったよね、しかも彼女の場合は特殊だって。
たしかに2本の糸をほどけば、後はちょん切っちゃえばいいけど、
土台が同じだとまた生えてきちゃうんだ。
だから根っこから消滅させないといけない、凄く繊細な事なんだよ~」
「また、殺すとかで解決はできないのか?」
電話越しでカチっとライターで煙草に火を付ける音がした。
僕はぺっと、口に溜まった血を吐いた。
「一度使った手が通じる相手だと思う?たった今サンドバックになったばかりで しょう?」
たしかに、いきなりだったとしても、大の男をサンドバックにする相手に通じるはずがない。
「作戦第一弾とか言ってたろ?勿論二弾もあるんだろうな」
「勿論あるよ~、でも今度は本気で殺されるかもよ。
姉の身からの忠告だけど、彼女はもう放っておいたほうがいいと思う。
今日サンドバックにされたから少なくとも愚弟への恨みはなくなったと思うから、今なら連絡絶ってそのまま別れちゃえば?」
「やだ、僕は彼女を愛してる」
自分で言って何だが恥ずかしい。
「カッコイイカッコイイ~・・・マジで死ぬよ?」
「彼女の為なら死ねる」
恥ずかしい・・・。
「そう。それじゃ彼女追っかけて。30分後にそっちに合流するから」
「えっ?場所解るのか?」
「解る、じゃ後で」
プツッ。
姉貴との電話を切って僕は彼女を追うため走り出した。この時間だ、彼女は家へ向かっているだろう走れば追い付く、丁度彼女の家の前にある公園で追いついた。
彼女に声をかける。
「君しつこいね、あれだけボコボコにしたのにまだ付いてくるの。
次は殺すって言ったわよね?」
鋭い眼光で彼女が僕を見る。
「まぁ、そう言わないでちょっと待ってくれな」
差し出した左手に激痛が走った
「触るな、次は刺す」
そう言った彼女の右手には包丁が握られていた。しまった、油断した。彼女はナイフだけでなく包丁も持っていたのか。
包丁から滴る血の滴を、まるで雪でも受け止めるかのように大事そうに掌に垂らしている。
「雪が赤かったら世界はどうなるんだろうね」
ポツリと彼女が呟く。
「あなたにはこの世界はどう見えてるのかしら?」
彼女が何を言ってるのか解らない、とりあえず姉貴が来るまで彼女の気をひかなければ、そして僕が殺されないようにしなければ。
「君は美しい、そこまで包丁の似合う女性は中々いないよ、
そうだな~できれば僕じゃなくて食材を切って欲しいものだ」
「馬鹿にしてるの?」
彼女が包丁を横向きに構える。
「いいよーいいよー、凄い絵になるなぁそのポーズ。素敵だ」
もうなんて言っていいかわからないし、それに左腕が熱くなってきた、そろそろヤバイ、本気でやばい、殺される。
「死ね」
やばい、この距離じゃ避けれない・・・!?
突然、彼女が横に吹っ飛んだ!
「間に合った~、疲れた~めんどくせぇ~~」
このしゃべりかたは。
「やぁ、愚弟。男前になったなぁ」
姉貴だ。
「そして、彼女。お久ぁ~」
場の空気をぶち壊すのは姉貴の得意技だ。
彼女に向かって姉貴は続ける。
「いやぁ~彼女ちゃんやり過ぎ、うちの愚弟をよくもここまで男前にしてくれたね~。 いつまで寝てるの?立てるでしょ?」
姉貴が八重歯を見せて笑ってる、やばい、本気で切れてる。
ぬくっと起き上った彼女、ダメージはないようだ、包丁もしっかり握られてる。
「お前誰だ?」
「そっか。こっちの彼女とは初めましてだね、じゃぁ死ね」
言い終わらないうちに今度は姉貴が彼女に襲い掛かった、手にはナイフが握られてる、ヤバイ、マジでやる気だ。
姉貴のナイフが彼女の脇をかすめる、すかさず彼女は姉貴の首を狙って包丁を振り下ろす。
それを上段受けでガードし、お互い一歩引く。
お互い本気で殺し合ってる、左手を負傷してる僕には何も出来ない、いや、両手が無事でも何も出来ない。
ただ見てるしかできない。
「それ本物?」
彼女が姉貴に聞いた
「当ったりまえ~じゃん。じゃなきゃ彼女ちゃん殺せないもんね」
ニヤリと笑う。
彼女は、まだそれが本物のナイフか信じてないみたいだ、僕も疑問だ、だがさっき姉貴は同じ手は通じないって言ってたから多分本物なんだろう。
「ほら見てごらんなさい」
姉貴はそう言うと、自分の指にナイフの切っ先を押し当てた、姉貴の指からすーっと血が流れた。
それをペロッと舐めると
「ね、本物でしょう」
と、またニヤリとする。
それを見ていた彼女は
「今度は本気のようね」と呟いた。
「んじゃ、始めよっか~殺し合い」
また姉貴から仕掛けた、今度は心臓を目掛けて突きを出す、彼女はそれをまたギリギリで避けて今度は姉貴の手首を狙う。すかさず、半回転して肘で彼女の後頭部を打撃した。
よろけた彼女に前蹴りを食らわす姉貴、容赦ない。
って止めないと、でも下手に手を出したらこっちが危ない。
「大丈夫」
姉貴がボソッと言ったのが聞こえた。
前蹴りでよろめいてる彼女に姉貴が瞬時に間を詰める。
そしてバチバチッっと何かがはじける音がして、彼女が倒れた。
「姉貴!」
僕は叫んでいた。一体何が起こったのか解らなかった。
「大丈夫、気絶させただけだから」
僕は彼女に駆け寄る、本当だ気絶してるだけだ。
「何をした?」
姉貴に問う
「これこれ~」
ニヤニヤしながら黒い携帯のようなものをヒラヒラしている
「スタンガ~ン、ちょっと弄って出力上げてるけどね。気が付いてもしばらく動けないように~」
「何でそんなもの持ってるんだよ」
「防犯」
姉貴には必要ないだろうと思ったけど言わないでおいた、怖いから。
「さて、このかわい子ちゃんを起こしますか」
姉貴がペチペチと彼女の頬を叩いてる。
「起こして大丈夫なのか?」
「大丈夫、大丈夫、最後の仕上げと行きますか~」
最後の仕上げ?
彼女が目を覚ました、必死で身体を動かそうとしているが痺れて動かないのだろう、何とか、口に出した言葉が
「お前ら、絶対殺す」だった。
さて、この先姉貴はどうするんだろうか?
「やっぱり、こっちの人格か。んじゃ最終段階いっきます~」
姉貴はそう言うと持ってたナイフで彼女を刺した、垂直に心臓目掛けて。
ドスっと鈍い音がした、そして赤い血が辺りに広がっていく。
あ、あ、僕は声が出なかった。
彼女はゆっくりと目を閉じて、動かなくなった。姉貴が彼女を殺した……。
「任務完了~」
姉貴の明るい声だけが公園に響いた。
二日後、結局あの夜は姉貴の一人勝ちで終わった。
そして彼女は死んだ。
だけど姉貴は警察には捕まっていない。
姉貴の持ってたナイフは偽物だった、刺すと刃が凹むおもちゃのナイフ、それのリアルバージョン&血のりだった。
結局は最初に僕が彼女を殺そうとした時と同じ作戦だ、姉貴に言わせれば敵を騙すならまず味方からだそうだ。
それと、手加減するのってかなりめんどくせ~と言われた。どんだけ~!
そして、最終的に一番重症だったのは僕だった、全身打撲と左腕を4針縫った。
医者に色々聞かれたけど、愛の為ですと答えてたら精神科を進められた、
だが姉貴の所に行くのは嫌だ。
右利きの僕には特に支障はないが、彼女があれこれと世話をしてくれるので嬉しい。
勿論今の彼女は、僕の好きになった彼女だ。




