第1話 ユスティーツ王国会議
いきなり過去の話です。まだ、本編の主人公は出てきません。近衛騎士団団長ルーク視点です。
白地に金字の文様が輝く西洋風の鎧を身に着けた騎士が、磨かれた大理石の壁が乳白色に輝く廊下を足早に歩を進める。向かう先は、己が主の執務室である。騎士は、兜をかぶってはおらず、赤く短く切り揃えられた髪に鋭い切れ長い金色の目をした美男子で、この国の近衛騎士団団長ルーク・フォン・シャリテであった。
白い廊下に精緻な装飾の施された紫檀の黒が映える扉を前に、『ふぅ。』と一度息を整えた。
ノックして部屋の中にいる己が主人に声をかける。
「陛下!」
一拍おくが返事がない。多少無礼であるが、急ぎであるため、そのまま要件を告げる。
「皆様がお揃いです。」
「あぁ~分かった。行くとするか。」
と了承の返事を得て、少し待っていると、いつもの通り部屋に侍っていたのであろう若い金髪メイドが扉を開けた。
“ふわっ”とした柔らかな金髪を白のヘッドドレスで押さえたメイドは、愛らしい翠の双眸で廊下に立つ俺を細部に至るまで観察すると、無表情のまま頭を垂れた。
『容姿は可愛らしいメイドだが、あの態度は戴けないな。』と思いつつも、いつもの事なので、特に注意などはぜず、俺は、部屋の奥に御座す陛下に視線を移した。
俺の主、国王マサト・S・ユスティシアは、まだ年若い国王で、漆黒の艶やかな髪を掻き乱しながら、窓際に設えられた重厚な執務用の机からいくつかの書類手にとって如何にも憂鬱そうに部屋から出てきた。
「なんだ、お前がわざわざ呼びに来たのかよ!」
陛下は、ドアの外に立つ俺を一瞥して、悪態をつく。陛下と俺とは、祖父を同じくする“いとこ”の関係にある。
先代の王や俺の父の計らいで、幼少のころから王宮の庭で陛下の遊び相手を務めたものだ。また王立学院では、学友として軍事演習などの訓練で寝食を共にした経験がある。俺と陛下は、まるで兄弟のような仲である。
こうして、顔を見るなり悪態をつくのは、陛下が相当ストレスを溜め込んでいることの表われとすぐに察した。
「いや、陛下は嫌な事があるといつの間にか姿をくらませますので…。」
「いつ、姿をくらましたというのだ。」
俺が無表情のまま、あたかも当然の事のように軽口をたたくと、陛下は反射的に反論してくる。
俺は、ニヤリと笑みを浮かべ。
「ほら、お忘れになりましたか?魔法学理論の小テストがいやでいつも学院の屋上にいでサボっていたという前科が御座いますので」
「いつの話を持ち出す。」
「あの後、担当教師のロッテンマリアの嫌味とレポートの多さに、二度と魔法学理論はサボってない!」
「ああ~確かに。あれ以来、魔法学理論はサボってなかったな。魔法学理論は…!」
「フッ!あの頃の様にはいかんよ。俺には責任がある。そもそもこの城に屋上は無かろう。」
『屋上があればサボるのか?』とくだらないことを考えつつも、懐かしい学院時代の思い出話をして、俺は、陛下の気を紛らわす一助を担う。
そんな俺と陛下の他愛もないじゃれ合いに、陛下の後ろに侍る若くて美しいメイドは、俺を睨み殺さんがごとき視線を投げつけてくる。見なくてもわかる。彼女の目が魔眼の類なら俺の命はないだろう。
陛下は、ご自分の背後から悪寒を感じたのか一瞬ブルッと身を震わせて振り向こうとするが途中止めた。そして、隣の私に対して、苦笑いを浮かべていた。陛下は、このメイドが放つ俺への射殺さんばかりの視線を、どうやら無視することにしたらしい。
賢明だと思う。
『おかしい、このメイドは俺の部下のはずなのだが。なぜか、このメイドは、俺に対する敬意を欠くように思える。それに留まらず、敵愾心すら感じる。』
俺は、近衛騎士団長の地位にある。
通常、メイドは使用人に分類され、管轄が異なる。しかし、このメイドは、正しくはメイドではない。陛下や他の王族の身辺警護の任に就く近衛騎士団特殊部隊のメイド騎士と呼ばれる者である。
よって、近衛騎士団の長たる俺の部下なのだ。
ほどなくして、これから陰鬱な会議の場になるであろう部屋の前に着いた。
観音開きの扉のまえの警備の兵士2名が扉を大きく開け放つ。陛下の入室を促す意味を込めて告げる。
陛下が、先に一歩部屋に踏み入れようとしてピタリとその動きを止めた。陛下は大きく目を見開き中にいる人物の存在に驚いて。
「お祖父様!何故?」
陛下は思わず疑問の声を漏らした。
俺は、陛下の声と視線につれてそこにいた人物を見る。
「なっ!」
俺も思わず驚きの声を上げてしまった。
そこには、陛下と自分の“祖父”の姿があった。
広い部屋の中心に据えられた大きな円卓の自分たち席に着く。
席次は、当然陛下が上座、右側には上皇陛下が座り左側に初代勇者にして初代国王が座る。
そして陛下から右回りに西の公爵家シャリテ(因みに俺の父である。)・東の辺境伯エーレ・北の辺境伯グライヒハイト・南の辺境伯リベリテとこの国を支える大貴族、続いて各大臣務める文官たち最後に俺である。
円卓のため、おじい様の隣に座る羽目になった。
“初代さま”と家臣や自国の民のみならず異国の民から慕われている我らが祖父は、齢75歳になるにもかかわらず、一切の衰えが窺えない。
黒髪は、白髪は混じりはしつつもその艶は失われず。細く目尻が垂れている双眸は、黒い輝きを放つ。服の上からでも判る筋肉の隆起は、武の世界において未だ現役であることの表われ。
余談であるが、勇者の称号はこのユスティーツ王国の国王が王位と伴に継承する。よって“勇者さま”と呼べば現国王陛下を意味するのだ。
この世界アスラドでは、女神の加護が世界に満ちている。
女神の加護は魂に宿るものだが、肉体は魂に強く影響を受ける。
加護の力が強くあれば、その者は長寿になる傾向にある。
しかし、戦闘においては、加護を受けていても人族は、60歳を超えたあたりから体の限界を迎え始めて、程無く現役(凶悪なモンスターと戦えるという意味において)を退く。
それをはるかに超える年齢なお現役というのは、異世界からの召喚者ならではといえる。
それにしても、なぜ、ここに居られるのだ。南の離宮で静養されているはず南の離宮は、早馬でも一週間は掛かる海沿いの街テティスにある。
いくらお忍びであったと軍部のトップである俺に情報がないことに驚きである。
しかし、なぜ「お忍び」でのお戻りなのか?お婆様が御隠れになった3か月前から初代さまが離宮に篭もられたことがそもそも事の発端である。
南の離宮からの道中、初代さまの健在ぶりをパレードなどでデモンストレーションしながら王都にご帰還頂ければ問題の大半は片が付く。
初代さまにしても、わざわざ会議に同席なされるのだから、その辺の事情はご承知いただてけるはずである。
この国では、王位継承の後の取決めがある。王は皇太子が20歳になると同時に王位を継承させる。
その後、前王は上皇として王が30歳になるまで王の補佐を行う。
その後は、一切の政から引退され王領の領主として過ごされることとなる。
引退した上皇が政に関わることはない。
これをお決めになったのは、もちろん初代さまである。自らお決めになったことを簡単に覆されるとは思えず、何か意図かあるのか?と勘繰ってしまうのだが。
『初代さまの意図が分からない』と俺は結論付けた。
陛下も同様の疑問を持っていたらしく、眉間にシワを寄せているご様子。
俺たちの疑問をよそに初代さまは、俺らが席に着いたのを見て口を開いた。
「わしは、一切発言しない。居ないものと思ってくれ。よって議事録からも削除するように」
どうやら、同席はしたものの一切発言しないらしい。余計に『なぜ?』と戸惑いって、なかなか会議を始めようとしない俺に、
「なぁに、かわいい子らや孫たちの仕事をする姿を見てみたくなっただけじゃてのぉ。見学しに来てみたのじゃよ。」
「わしは居ないものとしていつも通り、大いに議論して欲しい。まぁ、学院時代の父親参観だと思ってくれりゃいい。」
などといってにこやかに笑って会議を始めるようと初代さまは促してきた。
今回の議題が国防に関するものなので俺が議長としてこの会議の進行を行うのだ。
『止めて欲しい!』
『何がかわいい子らや孫たちだ!一番若い陛下と俺でさえ25歳、グライヒハイト辺境伯など56歳になるはず!』
しかし、俺にはどうすることも出来そうにないので『仕方がない…』と諦める。
先ずは、世界地図を広げつつ、概要の説明から始めることにした。地図には、羽を広げた蝶のような形の大陸が描かれている。
大陸の中央に四つの龍爪山脈と呼ばれる山脈が連なって左右の羽を分断している。
やや南寄りに大渓谷がバイパスのように通っている。
左の大陸が魔族の住まう魔大陸テネブラントで右の大陸が人類の住まう大陸ルミエラントだ。
我が国は大渓谷のルミエラント側でバイパスを塞ぐように位置している。
北に獣人の国ティアルタ、東にレジティディオ帝国、南にエルフの国フォスタリアが位置する。
我が国は、王都を中心に東西南北に四つに区切られ公爵領及び辺境伯領のそれぞれの家紋の下地の色が、東の辺境伯が金、西の公爵領が赤、南の辺境伯が緑、北の辺境伯が白と塗られている。
俺は、兵と要塞を模した駒を国境に配置していく。そして、他国の兵についても配置を済ませた。
駒の配置を終えた地図には、明らかに、東の帝国軍が国境沿いに集結しつつあるのが見て取れる。
「見ての通り、帝国は軍備を進めています。一部国境では、小競り合いが起こったとの報告を受けています。」
俺は、現状を端的に説明しながら小競り合いの起こった地域の駒を動かす。
南のリベリテ辺境伯:「帝国からの親書が届いて二か月、どうやら本気で攻めて来るようですな。」己の顎を擦りながら発言する。
東のエーレ辺境伯:「ふざけているにも程がある。そもそも、親書の内容からして我が国をなめているのだ。」顔を真っ赤にして激怒するのは、帝国に隣接するがゆえか。
文官一同:「その通り!」
:「思い出しただけで虫唾が走る。」
:「思い上がりも甚だいい。」
などと口々に帝国を罵倒し始めた。
南のグライヒハイト辺境伯:「確か、親書にはこうあったのじゃろ。『余に、剣が野で朽ちると女神アイリス様より神託が下さった。女神アイリス様より授かりし我が剣よ。剣は持ち主の下にいてこそ輝きを放つものだ。主無き剣は、ただ野に打ち捨てられて錆びて朽ちるのみぞ。』と。」
要約すれば、『勇者は、皇帝の物なのだから、帝国の属国になれ。断れば、武力を以って滅ぼす。しかも、これは女神アイリス様の意思によるものだ。』と言っているのである。
グライヒハイト辺境伯:「昔、上皇さまの王位継承の儀の際送られてきた親書とさほど変わらんて。」
「なぁに、初代さまのご健在を示せばすぐに兵を引くじゃろうて。あの時もそうじゃった。」と危機感を感じさせない口調で。
『グライヒハイト殿は、今何と言った!過去に今回と同じ内容の親書が届いていた?聞いたことがない!』
「グライヒハイト辺境伯殿、過去にその様なことがあったなど初耳です。」
俺は、あまりの事実につい声を荒立てて問うた。
グライヒハイト辺境伯:「そうか。若い者は知らなんだか。当時、戦争を避けるため、一切を極秘裏に解決したからのぉ。記録も残しておらんはずじゃし。少し、昔話でもするかの。」
「皇帝は、女神さまより人類を統べる権威を与えられた存在じゃ。召喚された勇者は、皇帝が魔王を討つために女神が与えた剣である。勇者が齎すものは全て、魔王討伐の功績すらも剣の持ち主である皇帝に属すというのが帝国での一般的な考えなのじゃ。この国を初代さまが興した時は、魔王による被害は甚大での、どの国も、たとえ帝国といえども復興に精一杯で文句はなかったらしいのじゃが、さすがに、前国王ヨシト様に王位が継承される時になって介入してきたのじゃよ。」
上皇陛下:「あの時は、やっと復興に目途がついて魔法科学による発展の兆しが表れてきた頃だった。帝国の狙いはその魔法科学にあることは明白。何しろ、帝国は未だに復興の最中、我が国を本気で支配出来るような国力など皆無であった。そのような時勢に、今回と同じような親書が届いた。帝国の要求など無視をしようという意見が大半の中、お父上が“魔法科学は万人のためにある”と仰って魔法科学技術の公開をお決めになられたのだ。そして、お父上は、御一人で帝国に赴き、魔法科学を軍事利用しないことと以後我が国に介入しないことを皇帝に約束させたのだ。ついでに皇帝が代替わりしたのはご愛嬌といったところか。」
陛下:「では、今回の親書は、初代さまとの取決めを破られたということですな。」
リベルテ辺境伯:「それだけでは無いぞ!今回は、“神託があった”とある以上、聖アイリス教会の関与があるのは、明白。我が国の国教、真聖アイリス教会と聖アイリス教会との対立は根深い。聖戦に発展するやもしれん。」
上皇陛下:「聖戦となれば、この戦争に終わりがないぞ。」
エーレ辺境伯:「戦わずして、降服などありえん!」
リベルテ辺境伯:「では、泥沼の戦争を始めようというのか。」
シャリテ公爵:「やっと、戦の知らない世代が育ってきたのだ。だというのに、先の見えない戦など始められるか。」
グライヒハイト辺境伯:「じゃから、初代さまにお任せすれば良かろうて。帝国とて、初代さまが臥せられていると思ってこんな無茶を言って来ておるのじゃ。初代さまがご健在だと知れば引き下がるじゃろうてのぉ。」
皆が初代さまの顔を伺う。しかし、当の初代さまは一瞬困った顔したが、にこやかにほほ笑んで居られるだけだ。
「グライヒハイト辺境伯、父上は居ないものとせよ。」
上皇様がグライヒハイト辺境伯を窘めた。
「・・・・・・・」
「・・・・・・・」
沈黙がつづく。
俺は、会議を先に進めるため状況の整理から始めることにした。
「まずは、帝国の戦力の把握から始めたいと思います。エーレ辺境伯殿、国境に集結しつつある帝国兵はいかほどのものですか。」
エーレ辺境伯:「うむ。実際の小競合いでは、歩兵200名・騎馬50騎程度であった。しかし、密偵によれば、国境に面した砦にすでに各5000名ほどの兵が配備されているようだ。しかも、魔法科学を用いた戦車隊が帝都に存在しているようだ。」
シャリテ公爵:「やはり!魔法科学を軍事利用していたか。しかし、戦車を実用段階にあるとは驚きだな。」
リベルテ辺境伯:「となると、その戦車隊が帝国を強気にさせているといえるか。」
エーレ辺境伯:「まず間違いなかろう。他にも隠し玉がありそうだが…。戦車か…。」
突如、テーブルが“ガタ、ガタ、ガタ”と揺れた。
いや、部屋全体を大きく揺れたのだ。咄嗟に、デーブルを抑え込むように両手をつき、倒れない様体を支える。
まるで、突然裸で氷の張る海に沈められた錯覚に陥った。
全身を突き刺す悪寒に襲われ筋肉が強張り動きがとれない、プレッシャーに口を塞がれ息が出来ない。この現象の根源たる人物に目を向ける。
初代さまから殺気のこもった白い輝きが迸る。それは、強い加護に齎された力の現れ。
その殺気を伴う輝きに文官たちは顔を真っ青にして机にしがみ付いていた。気を失わないだけ、褒めてやりたい。
一方、上皇陛下や陛下それに公爵や辺境伯たちは顔に少し緊張の色が伺えるものの泰然とした様子でいる。流石、その身に強大な女神の加護を受ける王侯貴族である。『いや、陛下は上辺だけで必死のようだな。』と幼馴染みの心の裡に俺は気づいた。
「お、お祖父様!」
陛下が初代さまに声を掛ける。
『やはり、必死だったか。』陛下の声は少し裏返っていた。
先ほどまで、腕を組んで苦虫を噛み潰したような顔で思案していた初代さまは、ハッとしてすぐに表情を緩められた。ふっと場の空気が軽くなる。
それどころか暖かい春の陽気のような和らいだ空気が辺りを優しく包んだ。
初代さまは、先程までの重苦しい表情から一転優しい好々爺の様相を呈している。
「すまなんだ。会議を続けてくれ。ちょっと、“おなら”が出てもうた。」
初代さまは、場の空気を良くしようとしたのか、なんとも言えない謝罪をした。
『冗談じゃない。“おなら”で人死にが出るわ。』
と内心ツッコミを入れつつ俺は、話を先に進めるため帝国から呼戻した領事に問うた。
「ハリス領事、帝国での今年の麦の出来はどうなのだ。」
帝国での流行りの服装なのだろうか、真っ赤な生地に金糸と銀糸で派手な刺繍が施され袖にフリルのある上着を着たハリス領事は、未だに顔を真っ青にしながらも淀みなく質問に答えてくれる。
ハリス領事:「今年は、気候に恵まれ日照りや水害の発生は無く、また農業用の魔道具の普及により、かなりの豊作が見込ます。」
エーレ辺境伯:「飢饉にでもなってくれれば、帝国も戦争どころでは無かろうに。」
陛下:「そういうな、エーレ辺境伯。他国といえども飢饉で苦しむのは罪なき民よ。」
「シャリテ公爵、魔族の動向はどうなっておる?」
シャリテ公爵:「今は、部族単位で村を形成しておりますが、我が国に攻入るような力を持った集団はありません。魔大陸テネブラントでのモンスターの発生は、相変わらず多く、時折国境を越えてくるのは変わりません。」
陛下:「幸い魔族と帝国との挟み撃ちには、成らなくて良かったか…」
「周辺諸国の反応は、どうなっている。」
グライヒハイト辺境伯:「北の獣王どのは、我が国に力を貸すと文が届いていますが、正式な国書ではありません。」
「獣人の庸兵団がいくつか帝国に入ったという情報もありますので、種族としての意思の統一は未だなされていないと思われます。」
リベルテ辺境伯:「南のエルフたちは沈黙しています。エルフたちは、そもそも魔法科学にいい感情を持っていませんので、魔法科学による戦争に関わりたくないと推測されます。」
陛下:「帝国は、いつ攻めてくると思う。」
上皇陛下:「すぐには攻めてくることはないだろう。今は、秋に入ったところ。領内が豊作であるのなら、しっかりと兵糧を蓄えようとするだろう。帝国も短期決戦で勝負が着くと思っては居まいて。」
エーレ辺境伯:「冬になれば、国境付近は大雪原と化しますし。雪原で自由に走らせる戦車を持っているとも思えん。」
陛下:「春か・・・。」
「では、春までに軍備を増強しつつ、周辺諸国に働きかけて帝国の動きを封じ込めようではないか。」
「北の獣人族は、グライヒハイト辺境伯に。南のエルフ族は、リベルテ辺境伯に。エーレ辺境伯は、国境の軍備の強化を。シャリテ公爵は、ドワーフ族とギルドの協力を得られるように働きかけろ。近衛騎士団団長ルークは、王都と主要都市の警備、並行して兵力増強を行え。」
「戦争は、最終手段だ。『戦わずして敵兵を帰服せしめるを善の善なる者という』を肝に銘じるように。」
「ハッ、ハッ、ハッ、ハー」
陛下が立派な決め台詞言った直後、初代さまの豪快でご機嫌な笑い声が響いた。
『あっ!陛下が気恥ずかしそうに顔を赤らめている。』と俺は気づいたが見なかったことにして、さっさと閉会の宣言をした。
こうして、国の命運を左右する会議が終わった。
なかなか大変です。