決戦 5
「シータさん、しっかりして下さい! シータさん!」
シータの元へと駆け寄ったマザーが悲鳴に近い声で叫ぶ。
「マ……ザー……」
「シータさん、まだ大丈夫です! 意識を保って!」
マザーはかがんで、横たわるシータの背に手を添える。シータはもはや戦える状態ではない。
「ボルト、どうしてですか!? あなたの私情にシータさんを巻き込む必要はないはずです!」
強い口調でマザーはボルトに向かって叫ぶ。
「今のは仕方ないだろう。そこの女から仕掛けてきたんだから。」
「ですが……!」
「無理なんだよ、ローレンツとラグランジェは永遠に戦う。遅かれ早かれその女だって倒されるときが来るさ。」
ボルトは指先を二人へと向ける。一際大きなエネルギーがその先へと集まる。
「終わりだ。」
雷撃が放たれる。
激しい衝突音が鳴り響く。それはエネルギーがぶつかり合う音だった。
「違います。」
マザーが立ち上がる。
「ローレンツの人もラグランジェの人も同じ人間です。」
その瞳がまっすぐとボルトを捉える。
「だからどうした!」
ボルトは雷撃を連打する。だが全てがマザーの手前で消え失せる。
「ローレンツの人もラグランジェの人と分かりあえます。そういった人が増えれば戦争も終わります。」
マザーは両手を上にかざす。
「ボルト~~、なんか周りのエネルギーが変だよ~~」
ミリカンが震え出す。
「しっかりガードしとけ。パスカルの攻撃に備えるんだ。」
明らかにおかしいエネルギーの流れ。それをボルトも感じとったのだろう。
「ボルト、僕はいままでニュートンを発動したことがありません。」
両手を上にかざしたまま、マザーは喋る。
「なんだ、今から初めて使うって宣言か?」
ボルトは身構える。
「いいえ、僕は今から証明します。ローレンツとラグランジェ、どちらの者も同じであるということを。」
マザーは視線を一度シータへと向ける。シータとマザー、両者は視線を合わせ、共に頷きあう。
そしてマザーは上を向く。
「キャピタルエフ発動!《極点集中》」
遠くからも大量のエネルギーが流れて来る。その行き先はマザーの両手の先、上空の一点。
「ボルト~~、こんなにいっぱいのエネルギーなんてありえないよ~~」
「まさか……ミリカン! お前の一番強力なガードをしろ!」
ボルトはミリカンの元へと駆ける。
「ここまでです。」
マザーが両手を降りおろす。
それと同時に上空に集まったマザーの全エネルギーが一点に降り注いだ。
果てしないほど大きな爆音が辺りに響く。ついで雨を巻き込んで突風が吹き荒れる。
「……はあ……はあ……」
マザーは倒れ込む。
「かはっ……」
そして吐血。半径一キロ、全エネルギーの操作などどだい無茶な話だ。しかしマザーはそれをやってのけた。当然、身体への負担は計り知れない。
向かいではボルトが、その上ではミリカンも同じく倒れていた。
共に鎧はぼろぼろになり、身体には無数の傷がついている。
シータはそれを遠目で確認する。マザーが勝ち、孤児院が守られたかのように思われた。
だが、
「うっ……」
微かにボルトの手が動く。上にのっているミリカンを掴み、乱雑にどかし、ゆっくりと立ち上がる。
「やれやれ、ミリカンを連れて来て正解だったぜ。こいつのガードはAランクに値するよ、ほんと。」
ボルトにも大小様々な傷がある。だがそれは倒れたままのミリカンほどではなかった。
「ボルト……あなたという人は……その子を……仲間を何だと……」
マザーはボルトを睨み付ける。だが立ち上がることはできない。
「ミリカンはガードだ。ガードがアタックを守るのは仲間として当たり前だろう?」
ミリカンを物がごとくにボルトは拾い上げる。
「違う!」
シータは叫ぶ。
ぼろぼろになった小さな体は、盾となることを望んでなかったはずだ。精一杯のガードをボルトに利用されただけだ。
「前にここを調査しにきた仲のいい三人組がいたわ。」
「仲のいい? ああ、ラムダ達のことか。使えねえやつらだったな。」
ミリカンを投げ捨てながらボルトはなんでもなさそうに言う。それかシータを余計に腹立たせた。
「私が二人を倒した後に彼女は……ラムダは、二人のいない世界に意味はないと言って自殺した。彼女にとって仲間というのは、それだけ大切な者だったのよ!」
シータは怒りを爆発させる。
だがボルトは動じない。立ち上がれない二人に向けて指先を向ける。
「知るか。なんにせよお前達はここで俺に殺される。ただそれだけだ。」
ボルトが指先にエネルギーをためる。さすがにダメージがこたえているのか、エネルギーの動きはゆっくりとしている。だがトドメをさす気なのだろう、より大きな威力になるよう限界までためようとしていた。
そのとき、
「ジュニアーー、何が起こったのーー、 さっきの大きな爆発音はなにーー?」
孤児院のある側からプライムが走ってくる。
「……! プライムさん!?」
「プライム、来ては駄目です!」
「えっ」
シータとマザー、二人の声にプライムは足を止める。そして状況を理解し、震え出す。
「ふ~ん、あいつはお前らの仲間か。ちょうどいい。」
にたりと笑いながら、ボルトは標的を変更して指先をプライムへと向ける。
「待って!」
「ボルト、駄目です!」
二人の叫びもボルトには意味をなさない。
「大切な仲間が死んだ後は、二人とも後追って自殺でもしな!」
ボルトが特大の雷撃を放つ。それは一直線にプライムへと向かっていく。
その瞬間、シータの体は自然と動いていた。
その瞬間、マザーの両手はかざされていた。
仲間を、孤児院を守るために。
「はあああ!」
シータはボルトの背へ駆けていく。無防備な相手には小難しい型など要らない。己に残る全エネルギーを剣に託す。
「はあああ!」
マザーとボルト、両者のエネルギーがプライムの手前で激しくぶつかり合う。次第に雷撃は消え、流動するエネルギーがボルトへと向かって行く。
後方からのエネルギーと前方からのエネルギー、はさみうちを喰らったボルトの身体は苦しみの音を立てながら潰れていった。




