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出会い

何もないゴツゴツとした地面を荷物を抱えた一人の少女が歩く。

 華奢な身体にオレンジの長髪、その風貌を遠目から見た者はもし少女の服装が普通だったならとりあえず近づき、どんな顔かと見てみたくなるだろう。実際少女の顔は非常に綺麗で大半の男性が好みか否かを迷う必要などないほどである。

 しかしそんなことをする者はいない。少女が纏っていたのは体型に似つかわしくない頑丈で真っ白な鎧だった。それは少女がその綺麗な見た目に反してラグランジェ王国の兵士であることを意味する。


 (なるほど、あんな説明で分かるか不安だったけど説明通りの場所ね。)


 最後の前線基地を朝一で出発し、歩くこと2時間。目的の地へと少女は到着した。

 戦場から西にいった僻地に唐突に存在する孤児院、その孤児院の一年間に渡る護衛が彼女、シータの今回の任務だった。

 (なんでこんな危険な場所に孤児院が建っているんだか。おかげで私が護衛をしなきゃいけないじゃない)

 そんなことを考えながら視線を少し建物から動かす。すると、いかにも修道者という服装で畑に水やりをしている人がシータの目にとまる。女性にしては背が高い人だとシータは思った。

 もともと戦場にいきたいシータにとって今回の任務は不満であった。しかしこれから一年間生活を共にするのでその不満を隠し、人あたりよく後ろからその人に声をかける。

「すいませ~~ん!?」

 振り返るその人の顔にシータは驚きを隠せない。その人の背が高いのは当たり前であった。肩にかかるかどうかの長さの銀髪、細身で色白な肌、優しそうな細い目。

 しかし整った中性的な顔立ちは明らかに、明らかに、


 「はい?僕に何か。」

明らかにその人は男性であった。しかもとても若い。


「えっ、あっ、ラグランジェ王国ⅡB部隊のシータと申します。こちらの孤児院のマザーはどちらでしょうか。」

戸惑いながらもなんとか会話を続ける。しかし、

「あなたが新しい護衛の方ですか。ようこそいらして下さいました。マザーは僕です。」

「はぁぁあぁ?」

 なぜこんな青年がマザーを……シータは驚きを最大の声で露骨に表してしまった。



~~~


 建物の中に入るとまず大きな机が目に飛び込んできた。そしてキッチンに食器棚、どれも古く長所は大きさぐらいしかないように思える。

 こんなところで一年間過ごすなど考えるだけで早速ホームシックになりそうなシータに追い打ちをかけるのは奥のリビングで好奇心向きだしでシータを見つめる子供たち。この子供たちの存在はシータにとって己が戦場とは違う任務についていることをありありと実感させるものであった。

「みなさん集まって下さい。新しい護衛の方がいらっしゃいましたよ。」

 マザーのその声にリビングにいた5人の子供たちは即座に集まってきた。マザーは順に子供たちを紹介していく。

 応えるようにシータも自己紹介をする。

「これで孤児院の全員?」

 シータはマザーへと尋ねる。他にもここで過ごしている人がいるならあいさつぐらいは早くしておきたいと思ったからだ。

「あぁ、あと1人だけ…」

 マザーがそう言ったとき、


―バァァーン―


キッチンの奥の勝手口が勢いよく開き、大きな袋を両手で持った女性が見える。恐らく勝手口は足で開けたのだろう。

 ショートカットの茶髪に大きな瞳、健康的な肌の色からは快活さが溢れ出ている。

「ジュニアー、ちょっと手伝ってー」

 その声はマザーに向けられていた。

「プライム、客人の前ですよ。僕のことは一応マザーと呼んで下さい。」

「へっ?客人?」

 そういってプライムと呼ばれた女性は袋を置き、シータへ近づいていく。その目は値踏みしているというよりはなぜ孤児院を訪ねてきているのか分からないといった感じだ。

「ジュニア…じゃなくてマザー、なんでこの可愛い子は武装してるの?」


―なっ?―

 シータは内心イラッとする。

「確かに僕も驚いたけれど、こちらの方が新しい護衛の方なんですよ。」

「ええぇー!?」

 プライムが信じられないといった顔でシータを見る。それが更にシータをイライラさせる。

「なんでなんで、普通護衛っていったら前までの人のように強そうな男の人が来るんじゃないの?なんで女の子が兵士としてやってくるの?」

―ぷつり―

 プライムの言葉にシータはいよいよ我慢できなくなった。

「なめるなー!私はラグランジェ王国ⅡB部隊のシータ!Cランクを与えられたれっきとした兵士の1人!男、女は兵士に関係ないでしょう!」

「ひっ…」

 シータの突然の怒声にプライムは声を小さくする。

「シータさん静かにして下さい。子供たちの前です。」

 マザーに言われシータは子供たちを見る。先ほどの大声でびっくりしたのか、3歳ほどの子が泣き出しそうにしている。

「プライムも。だいたい男である僕がマザーをしてるんですから男女の常識に今さらとらわれないで下さい。」

「はーい」

 プライムはいかにもしぶしぶな返事をする。

「ではシータさん、多少失礼な形になってしまいましたがこれでこの孤児院の全員を紹介できました。続いてシータさんの部屋へご案内致します。」

 マザーが強引に話を締めて奥の部屋へと案内する。プライムとシータを離したいのだろう。

 荷物を持って奥の部屋へと入る。ベッドと机以外に何もない狭い部屋だが1人で就寝するだけなら十分だろう。

「しかしCランクとは、なるほど、やはりシータさんは能力持(カイエナティック)ちでしたか。」

 マザーが部屋を整理しながら言う。


 ――そう、能力持カイエナティックち――

 一般人なら華奢なシータの体は兵士として役に立たないだろう。しかし能力持ちなら話は違う。100人に1人の割合で生まれる多量のエネルギーを持つ通称能力持ちは戦争において重宝される。

 能力持ちは強さの順にA、B、Cのランクに別れるがCランクでも一般兵数人分に匹敵するほど強力だ。


「能力持ちを護衛にするなんて贅沢すぎるわ」

 シータの口調から丁寧さが抜けている。プライムと言い争ったせいだろう。

「前の護衛の方もCランクの能力持ちでしたよ」

「それが贅沢っていってるの。能力持ちなら戦場で敵の能力持ちと戦わないと」

 恵まれた能力は国のために活かすべきだというのがシータの考えだ。しかし、

「護衛として敵の能力持ちと戦うかもしれないのにですか」

「えっ?」

 マザーの発言にシータは虚を突かれる。


「知っての通りここは戦場の近くです。逃げてきた敵の兵がここに襲いにくることがあります。」

 マザーは話を続ける。

「その中にはCランク、時にはBランクの能力持ちがいることだってありえるのです。護衛が1人だなんてとても贅沢とは思えません。」

 シータははっとする。この護衛の任務をどこか簡単なものだと思いこんでいた。

 だが実は自分1人だけでBランクと戦うことだってあるかもしれない危険な任務のひとつなのだ。

「護衛は強く、多いほうが安心です。だから、」

マザーは言葉を続ける。

「だからプライムはあなたにあんな態度をとったんだと思います。」

 シータは先ほどのプライムの言動を思いだす。この孤児院にとって頼れるのは護衛だけ。その護衛が前より弱そうに見えれば文句の一つもででくるだろう。

 シータは考えの甘さを恥じた。


「でもあなたがCランクなら十分ですよ。能力持ちの敵なんて滅多に来ませんから。」

 部屋の整理を終え、会話も終えるようマザーはつぶやく。

「まぁそうでしょうね。頻繁に敵が来るようならラグランジェ王国ももっと護衛を増やすでしょうし」

 シータの言葉にマザーは、えぇ、と細い目をさらに細くする。しかし何かを感じとったかのように急に真面目な顔となった。

「シータさん。前言撤回です」

「はい?」

 いきなり何のことだかシータにはわからない。だがマザーは驚くべき言葉を続けた。

「敵が来ます。すぐ外に出ましょう」

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