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決戦 3

 シータは愕然とする。マザーの攻撃地点、そこにボルトとミリカンが倒れてなかったからだ。


「危ない、危ない。少しはコントロールできる量が増えていたか。」

「ボルト~あのお兄さん信じられないよ~、なんかね~、周りの十メートルぐらいはエネルギーが動いてたよ~」

 ミリカンは目をきらきら輝かせている。シータには攻撃を喰らってもぴんぴんしているミリカンのほうがよっぽど信じられない。


「……はあ、……はあ……」

 マザーの息がきれる。どのように負担がかかるのかはシータには分からない。

 ただ、前にボイル、シャルルを倒した時の感じに加えて今のミリカンの発言。マザーのエネルギーが大量なのは間違いない。ならば何故マザーは疲れるのか。それだけのエネルギーがあればむしろ楽になるのが普通だ。


「ふん、哀れだな。これだけしかエネルギーを活かしきれないなんて。まあだからこそザコ相手には無双できるわけだが。」

 ボルトがマザーを見て笑う。そして指先を息の切れたマザーに向ける。


「まっ、待って。マザーのエネルギーはいったい何なの。」

 シータの声にボルトの手が止まる。マザーをとらえていた視線がその後ろで倒れているシータへと向けられた。


「なんだ、お前はパスカルの力を知らないのか。」

「……えぇ。」

 ボルトは再びマザーを一瞥する。マザーは呼吸を乱したまま直立していた。余裕を感じたのか、ボルトは腕をおろす。


俺達能力持カイエナティックちが人より多くのエネルギーを所持しているのは知っているよな。」

「ええ、だから普通の人とちがって身体能力が高かったり、特殊な力を使える。でもマザーはどこか違う。」

 シータはシャルルの言葉を思い出す。マザーからは何の力も感じないと、たしかにそう言っていた。


「そうだ。パスカルはただの能力持カイエナティックちとは違う。こいつはエネルギーが多すぎる。」

「多すぎる……?」

 エネルギーは多ければ多いほど有利なはずだ。戦い方によって多少は変わるがランクだって基本は元々のエネルギー量が物を言う。


「だがあまりにも多すぎるエネルギーはパスカルの身体に収まりきらなかった。」

「……!?」

 エネルギーが収まりきらない。シータはそんな話を聞いたことがなかった。


「留まる場所のないエネルギーは周りへと溢れる。結果、パスカルは広範囲への遠隔攻撃こそ可能になった。が、その時にダメージを与えるエネルギーは相手の周辺のわずかな量となってしまった。といってもそれだけでBランク以下を瞬殺できるがな。」

 シータには半ば信じられない話だった。だがマザーのしてきたことはそれぐらいの力がなければ出来ないことだ。


「なあ、昔にエムじいが言っていたお前のエネルギーはどのくらいだったか?」

 ボルトが未だに息が荒いマザーに尋ねる。

 シータはエムじいと呼ばれていた老紳士を思い出す。彼もマザーのことを知っていた、三人の過去のつながりもシータには分からない。


「……半径……一キロです。」

 シータは驚愕する。半径一キロ。マザーの感知領域。マザーは己の凄まじい量のエネルギーに触れる者を感知していたに過ぎないのだ。


「パスカルは周囲の半径に入った者を皆殺しにしていたなあ。」

 ボルトが少し懐かしそうに言う。だがふと止まった。

「ん、待てよ、そこの女はパスカルが“霧の殺し屋”だったことを知らないのか?」

 ボルトはにたりと笑いながらシータに疑問を投げかける。


  “霧の殺し屋”

 周りに敵兵がいないにも関わらず、自国の兵が突然倒れることが続いたのでラグランジェがそのように名付けた。

 それゆえラグランジェの者でその正体を見たのは最後に相討ちとなったサイコスのみだといわれている。


 “霧の殺し屋”が現れてからシータの父サイコスに倒されるまでの期間わずか二ヶ月。しかしその間はいつも不利な戦況のローレンツが圧倒的優勢だったとシータは聞いている。それほどにその二ヶ月は両国にとって印象深いものなのだ。


 そしてそんな“霧の殺し屋”の正体はマザー。普通のラグランジェの兵なら驚く事実。だがシータは違う。


「知ってるわよ。マザーから全て聞いた。その上でマザーと共に孤児院を守るって言ってるの。」

 立ち上がりながらシータは言いきる。マザーの横に並び剣を構える。

「シータさん……」

「マザー、私のとっておきの斬撃を放つ。だから援護をお願い。」

「……わかりました」

 マザーの技が守られた以上、どこまで通じるか分からなくてもある一撃にかけるしかない。降り続ける雨の中でシータは剣を握りしめる。


 向かいではボルトが体を慣らす。

「やる気だな。おい、ミリカン、準備はいいな。」

「いいよ~。」


 一瞬だけ、落雷の強烈な光が視界を奪う。それが再戦の合図となった。


 雷鳴と共にシータは駆けていく。シータの予想に反してそれはボルトも同じだった。一気に両者の距離が詰まる。

 ボルトの両方のこぶしに雷球ができる。接近戦で直接に当てればマザーのエネルギーに阻害されることもないと考えたのだろう。

 シータはタイミングを見計らいながらボルトに迫る。ボルトの動きは想像以上に速い。しかし段々と加速がなくなっていく。なぜならばマザーがエネルギーをボルトの動きを止める向きへと流すからだ。


 マザーの攻撃が効かなかった相手に普通の攻撃が効くはずがない。Cランクのシータが全エネルギーを使って最大威力の剣撃を喰らわせてもおそらく意味はない。そんなことはシータも分かっている。


 ボルトとの間がさらに詰まる。シータとボルト、両者の攻撃圏内にお互いが入る。シータはぎりぎりまでタイミングを見計らう。チャンスは一度のみ。



 シータの父サイコスは最強の剣士と呼ばれていた。


 それはサイコス自身が強いからというのはもちろんだが、もうひとつ、サイコスの持つ剣技には相手が強ければ強いほど威力が増すというものがあったからだ。

 そしてシータも不完全ながらその技を使える。


(お願い、パパ、力を貸して)


 シータは全エネルギーを剣に託す。炎がいびつな形を成す。


「遅いんだよ!」

 ボルトは構わず突っ込んでくる。その手には大きな雷球がある。当てる直前で大きくすることでマザーの阻害を逃れたエネルギーの塊がシータに迫る。


 シータは雷球めがけて剣を振るう。炎がボルトとシータとの間に壁をつくる。


「なっ!?」

 ボルトが驚きの声をあげる。


 マザーもシータもボルトに通用する技はない。ならばボルトの技の力を利用する。



 敵の威力 (マイナス)を自分の威力 (プラス)へ変えるカウンター



「キャピタルエフ発動!《アブソリュート斬り》」


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