圧倒
勘の鋭い人にはもうばれちゃうかな
「どうなってやがんだ……」
男は信じられないといった顔で己の剣とマザーを交互に見る。そして思い出したかのように、シャルルと叫ぶ。
だが呼ばれたシャルルも反応がない。
「シャルル、どうだったんだ。相手の力の反応は!?」
だがそれでもシャルルの反応はない。黙ったままだ。
「どうしたのですかシャルル様!?」
老齢の紳士もたまらず尋ねる。
「……わからない」
シャルルがぽつりと一言だけ喋る。
「わからないってどういうことだ!感知は!?」
男が叫ぶ。どうやらシャルルという女性はエネルギー感知が出来るようだ。
「あっちの女は多分、能力持ち。だけどBランクのボイルの攻撃を止められるほど強くない。」
やはり男はBランクだった。そしてマザーはその攻撃を止めた。
「じゃああの修道者のガキは!?明らかに何かしてたぞ!?」
男は声を荒げる。シータもマザーがどのような力なのか気になる。
「そう、あの男の子は何かした……でも、あの子からは何のエネルギーも感じない。むしろ一般人以下よ。」
シータは驚く。それは男も同じだった。
「ただ……」
女性が言葉を続ける。
「さっき、ボイルの攻撃は大量のエネルギーに阻害されていた……まるで周辺の大気が全部エネルギーになったかのような大量の……」
「はあ!?なんだそりゃ!?」
男は納得がいかないようだった。だが老齢の紳士は考え込む、記憶に引っ掛かるものがあるのかもしれない。
「あなたたちを敵とみなしてよろしいのですね?」
マザーが会話を遮る。マザーは分かっていることをいちいち確認する。
そして再び両手をかざす。
男も慌てて剣を構える。エネルギーを練っているのが伝わってくる。Bランクとはそれほどに強力だ。
だがそのエネルギーをさらに圧倒的なエネルギーがかき消した。その場にいた誰もが感じる。
――大気が揺れている――
「ま、まさか!!」
老齢の紳士が何かを思い出し、信じられないといった顔でマザーを見つめる。
やがて疑問の目が確信に変わる。
「ボイル様、シャルル様、お逃げ下さい。あの修道士は……」
だが遅かった。いや、早かったのかもしれない。
「終わりです」
マザーがぼそりと呟く。
シータは全身の皮膚が活性化するのを感じた。
大気がごとき圧倒的なエネルギーが男と女を押しつぶす。断末魔すら上げさせない。
一方で老齢の紳士はいったいどのような力なのか、一瞬早く、突然と消えていった。
(ありえない)
シータはマザーを見つめる。
負担はやはりあるのか、少しだけ息が上がっていた。しかし裏返せばそれだけでBランクを一撃だ。
「エムじいは逃げてしまいましたか……」
マザーは少し悔しそうに言う。あの老齢の紳士もマザーのことを思い出して逃げていた。二人は面識があるのだろう。
「……マザー、あなたはいったいどうして……」
シータは少しだけ尋ねるのをためらった。だが死体となった二人、マザーの圧倒的な力を見て、聞かずにはいられなかった。
「どうして、軍をやめたの……?」
マザーの表情は変わらない。
「あなたの力があればラグランジェはもっと戦争を有利にすすめられる」
マザーにはまだ反応がない。シータは言葉を続ける。
「あなたが戦わない代わりに、何人もの兵士が戦っている……そういう風には考えられないの……?」
能力持ちは戦場で戦わなければならない、それが能力持ちの義務だ、そう言ってシータの父、サイコスは死んだ。義務を全うした父の意志をシータも引き継いでいる。
故に今、マザーの力をまじまじと見て、孤児院で平和に暮らしているマザーのことをシータは許せなかった。
「ラグランジェのためにも……生まれた祖国のためにも、仲間のためにも、私達能力持ちは戦場で敵国の兵を倒さなきゃいけないんじゃないの!?それが使命でしょう!?」
シータは一気に言い切る。
しばしの沈黙の後、マザーはゆっくりとシータへと顔を向ける。
「シータさんの言う通りにすると、」
そして危険な微笑みをまた浮かべて静かに言い放った。
「僕はあなたを殺さなければなりません」
「えっ……」
シータにはマザーが何を言っているのか分からなかった。
「疲れました。もう今日は寝ます。」
マザーはそう言ってとぼとぼと歩き始める。
「また夜に、起きたら外で話をしましょう。」
そう言ってマザーは建物の中へと入っていく。
頭の中が整理出来ないシータはただ茫然とその場に立つことしか出来なかった。
西日はまだほとんど変わらない位置で孤児院の大きな影を地面に作っていた。




