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財閥シリーズ

匿い

作者: 尚文産商堂

それは、突然の出来事だった。

しがないコンビニ店員の俺は、夜勤で品物を棚に並べていた。

ドンという音と共に、バラバラと何かが飛び散るような金属音。

怒号と爆発音と叫び声がまじりあっている仲、ドアが開け放たれた。

そこに飛び込んできたのは、セーラー服を着た女子高生だった。

「匿って!」

俺の姿を見たとたんに叫ぶ。

何事かと、店長も事務室から出てきた。

「店長、この子、隠して下さい。俺は、ちょっとそと見に行ってきます」

「頼んだ」

店長に預けると、外の様子を見に、ドアから出て行く。

昼間なら交通量が多いこの道ではあるが、夜ともなれば、1時間に1台通るかどうかというぐらいにまでいなくなる。

その道のど真ん中で、車が燃えていた。

「おい!そこの」

俺を指さしながら、男が叫ぶ。

「女がこのあたりに来なかったか」

「そういえば、向こうへ走っていく人なら見ましたけど…」

俺は、コンビニのずっと向こう側へ通じている道を指さしながら言った。

「ったく、俺が上から怒られるっていうのに……」

そう愚痴りながらも、礼を言われ、セーラー服の女子高生ぐらいの少女を見たら、連絡をしてくれと名刺も渡される。

「はい、分かりました」

当然、連絡するつもりはない。

男が全員走り去っていくのを見届けると、近くの別のコンビニから消火器を持って誰かが消し止めに来ていた。

だが、それは、きっと無駄なことだ。

轟炎を上げつつ、車はいよいよ強く燃えていた。


コンビニに戻ると、店長室へとすぐに向かう。

「店長、それでこの子は…」

毛布にくるまりながら、震えている少女を見ながら、俺は聞いた。

仮眠用のベッドが出されていて、そこに少女は座らされていた。

「名前は、大植笙子(おおえしょうこ)。国内第4位の大植財閥の会長の第3子だ。学生証から分かったことだがね」

「大植笙子って、確か誘拐されたって言われてませんでしたっけ。身代金100億だとか、1000億とか言われて、ニュースになっていた…」

俺は、たまたま見ていて知っていた知識を総動員して、仮説をくみ上げていく。

「つまり、こういうことかな。君が誘拐され、それから脱出をした」

コクンとうなづく。

「こりゃ、血眼になって犯人グループが探しているだろうな。警察へ連絡するべきなのかな」

店長が俺に聞く。

「…それが一番なんでしょうけど、それよりもいい方法がありますよ」

すぐに、とある人物を思い出すことができた俺は、きっとそれが最良の選択なのだろうと考えた。


10分とかからず、警察と消防と救急車と一緒に登場したのは、日本第1位の財閥である涼香財閥の一人娘、涼香春美(すずかはるみ)その人である。

今や高校生である彼女は、俺の弟の友人の彼女でもある。

だから、何かあればと電話番号を知らされていたわけだ。

「笙子ちゃん!」

そんな超がつくほどの大金持ちにふさわしくなさそうなコンビニに入ると、すぐに大植を見つけた。

「春美ちゃん……」

ほとんど初めてと言ってもいいほどの声を、俺は聞いた。

「よかったぁ。誘拐されてからもうかれこれ24時間は経ってたでしょ。大丈夫?」

「うん、お父さんたちは」

「警察へは私が連絡入れたから大丈夫。おじさんたちは、すぐにこっちに来てくれるよ」

それから俺の方へ向き直った。

「ありがと、ね」

「おう、まあ、いつも弟が世話になっているからな。これぐらいはしないと」

たまたま電話を知っている財閥の長クラスが、涼香春美ひとりだけだということも、きっと彼女は知っているだろうが、それについては、何も言わなかった。

普通は、そんな電話番号すら教えてもらわないからだ。

「それで、なにか変なことされなかった?」

「ううん、大丈夫。ちょっと縛られてたりはしたけど、それぐらい」

「そう、ほんと、無事でよかった」

二人は、それから抱き合っていた。

そして、店長と一緒に事務室へと入っていった。


大植の親がやってきたのは、さらに30分かかった。

「娘は、どこに?」

警察に誘導されコンビニに入りながら、すぐそばでレジの中にいた俺が、事務室へと案内する。

事務室の中では、店長と大植と涼香がいた。

「お父さん!」

大植が顔を見るなり立ちあがって、その男の人に抱きついた。

「お二方、ありがとうございます。無事に、娘が助かりました」

「いえ、たまたまです」

店長が、頭を下げている大植の父親に慌てて言う。

「それでもです。これから、この店をひいきにするつもりです」

「ありがとうございます。しかし、来るのも大変でしょうから、たまに、で結構ですよ」

店長が言うと、大植の父親は再びお礼を言ってから、コンビニから出て行った。

「やれやれ、これで一安心だな」

「だねぇ」

俺のすぐ横でそのやり取りを見ていた涼香が、俺に言った。

店長は、まだ大植親子を見送っていた。

そこへ、自転車でコンビニに来る人影が見えた。

「涼香、ここか?」

「雨宮くん、よく見つけたねぇ」

「俺が電話したからな」

俺は、二人に言った。

雨宮と呼ばれた男子高校生は、涼香の恋人であり、俺の弟の友人でもある。

「今日は家に戻ってるっていうことだったからな。それで電話させてもらったわけだ」

「そういうこと。帰る?」

「帰ろうか。じゃあね」

「ちゃんと帰れよ」

俺が、二人を見送ってから、入れ替わりに店長が戻ってきた。

「これから、警察の現場検証とかするらしいから、しばらく残っといてね」

「はい、これ、バイト時間に含むんですか?」

「特別だぞ」

俺はにこやかに店長に頭を下げた。

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