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Study:6-B「ハチャメチャなアンチスタディ」

「お、思い出してくれた?」


 喜びのハグをしようとするさいくささん。しかし、後もう少しで百合――もとい感動のハグを見られる所だったのに、九十九さんがその寸前でヒョイと身を躱して顎に人差し指をあてがい再びうなりだした。

ドサッ!


 と物音を立てて廊下に突っ伏すさいくささん。


――てか、また見えてますってパンツが!



「う~、ひどいよ、ゆすら~ん……うぅ~」


 そう言って今にも泣き出しそうになるさいくささん。大して身長差はないとは言え、九十九さんより

も身長が高い分そのギャップに僕は違和感を覚えました。


「じ、冗談ですよ『づらさん』!」


――づ、づらさん? 何ですかそのグラサンみたいなあだ名は。



「はっ、その呼び方! 思い出してくれたんだねゆすらん! ――って、その呼び方はやめてって言ったじゃん! うぅ、また私のことイジメて……」


「うふふ、ごめんなさいですつづらちゃん。久しぶりに会ったので思わずからかいたくなっちゃたのですー……」


 頭をかきながら笑みを零す九十九さん。どうやら、彼女とさいくささんは知り合いの関係にあったようだ。しかし、それよりも僕はさいくささんに一つ問い質さないといけないことがありました。


「さいくささん。すみません、一つ質問いいですか?」


「むっ、何かな変態極悪非道紳士さん?」


――なんか呼び方変化してるぅぅぅぅぅぅッ!? 新たに非道と紳士がプラスされて悪魔どっかいっちゃいましたけど?



「はぁ、呼び方はこの際気にしませんので答えてください。どうして、僕にぶつかってきたんですか?」


「そ、それはその……ある人を探してて」


 人差し指を重ねたりいじったりしてボソボソと呟くさいくささん。


「探し人ですか? それだったら警察に――」


「ダメっ! あんなの便りになんかならないよ! だって、私の事ぜんっぜん信じてくれないんだも

ん!」


 そう言って今度はプリプリ怒り出す。はぁ、コロコロと表情変えて忙しい人ですね。


「信じてくれないとはどういうことですか? それと、一応誰を探してるんですか?」


「ぜ、絶対に笑わない?」


「え、笑う? いや、笑いませんけど……」


 どうして笑い話になるのか、その時僕は理由がよく分かっていませんでした。


「じゃ、じゃあ言うけど……実は私、ヒーローを探してるの」


「……」


 僕は聞き間違いだと思いました。いや、そうあってほしいと願ったのです。一応確認のためにもう一度訊き直しました。


「あの、もう一回言ってもらっても?」


「だ、だから! ひ、ヒーロー」


「あの、ヒーローってヒロって人のことですよね?」


 頬をかきながらそう尋ねる僕に、さいくささんは少し不満そうに眉を動かし言いました。


「違うよ! ヒーローってのは強きを助け弱気をくじく――じゃなくて弱気を助け強気をくじく正義の人

のことだよ!」


――やっぱりその方たちでしたかッ! し、しかし、さいくささん。残念ながらヒーローなんてこの世に

いませんよ?



 とはとても僕には言い切れませんでした。だって、彼女のキラキラと光る憧れの表情を壊す訳にはいかないでしょう。だから必然的に言えなかったんです。


「ヒーローがいると本当に思ってるんですか?」


 一応ゆっくりと確かめるように尋ねると、えへんと腰に手を当ててさいくささんは自慢気に言いました。


「もっちろん! あなたみたいな極悪非道殺人犯なんかもあの人達は殺害してでも助けてくれるんだからっ!」


「ちょっ、怖い怖い怖い! いくら相手が極悪非道の殺人犯でも殺しちゃまずいでしょ!? てか、そ

れ僕のことですよね? 僕、殺されてますよね?」


「むっ、よく分かったねチミ!」


――言い方古ッ!



「てか、僕殺人犯してませんよ?」


「そんなことどうだっていいんだよ!」


「よくないですよッ!」


 ムチャクチャな人ですねこの人は。さすがは九十九さんのお知り合い。ん、そういえば――。


「あの、もしかしてヒーローショー見に行ったのってヒーローに会うためだったりとかするんですか?」


「そ、そうだよ? 何か文句ある?」


 頬を最大限に膨らませて僕を上目遣いで見上げるさいくささん。


「か、顔近いですって! 後、ヒーローショー見るのはいいんですけど、あなた何歳ですか?」


「失敬な! この格好を見て何歳かわかるでしょ?」


 バッ! と見なさいと言わんばかりに手を両手に広げてその小柄な体を見せるさいくささん。


「え、えと……どう見ても小二あたりにしか見えないんですけど」


「ひ、ひっどぉぉぉぉぉぉいっ! 数字しか合ってないじゃん! わ、私がそんなに幼く見えるの?」


 足から崩折れ廊下によよよと倒れたさいくささんは涙目でそう僕に尋ねます。


「いや、だってどう見たってその体型と馬鹿らしさを見れば……」


 その時思わず僕は口を滑らせて禁句を口走ってしまいました。


「んなっ、ば、馬鹿!? き、君……君は言ってはならないことを言ってしまったね? そ、そんなこ

と……そんなこと分かってるんだよぉ~、うわぁあああああぁああぁああぁあんっ!」


 そう言って廊下の床を拳で叩き、その場に蹲り大声で泣き出すさいくささん。その大きな鳴き声に周

囲の視線も無論こちらに注がれる訳で――。


「ちょっとちょっと何あれ?」


「やだ、あの男の子、女の子泣かせてる」


「サイテーね」


「男のくせに情けないやつ……」


「一発ボコしてやろうか」


――い、いやぁああああああこのままだと僕は勝手に無実の罪を着せられてしまいます! こ、こんなの

完全なる冤罪じゃないですか!



 僕は慌ててさいくささんの側に駆け寄り彼女の肩に手を置き泣き止んでください! と必死に頼み込みました。しかし、一向に彼女は泣き止んでくれる気配を見せません。


「あ~あ、こんなに泣いちゃって昔から変わってないですー」


 九十九さんも僕の側に座り、さいくささんの頭をなでなでする。そして、笑顔を浮かべながら僕に耳

打ちで教えてくれました。


「あのですね? つづらちゃんは高二なんですよ?」


「え? こんなちっちゃな子が高二!?」


 あまりにもの驚きに僕は目を見開きます。いや、そりゃあこの体型とヒーローショーを見に行くとい

う行動から高二とは思えないですよ。


「なるほど、まぁ、確かに数字は合ってますけど……。てか、先輩だったんですか!?」


「そうですー」


「な、なななななんと僕は無礼な真似をッ!」


「え?」


 僕の慌てふためき様に不思議そうな顔をする九十九さん。まるで、今のままでいいんじゃない? と

言わんばかりの表情です。


「相手が先輩なら、もっと丁寧な言葉で話すべきでしたね」


「十分すぎるくらい丁寧な言葉だったと思うですー。それに、今はそれよりもつづらちゃんを泣き止ま

せる方が先決ですー」


 人差し指を立ててそう言う九十九さんに、僕は首を傾げながら訊きました。


「でも、どうやって泣き止ませるんですか?」


「それなら――ゴニョゴニョ」


 つま先立ちして僕の耳元で何やらアイデアを述べる九十九さん。


――なるほど、その手がありましたか! ってええええええええ!? いやいや、さすがにこれには無理があるでしょう!



 内心で絶対無理だと決め付ける僕ですが、九十九さんは満面の笑みを浮かべていて無理になど微塵も思っていません。


「うぅ……ひっく、うわ~ん!」


 未だに泣き続けているさいくささんですが、この方法で本当に泣き止むんでしょうか。


僕は意を決して九十九さんに言われた通りの方法を取ってみました。


「さいくささん!」


「うぅ~な、何~?」


 ぐすっ、と鼻をすすり僕を見上げるさいくささん。その仕草と表情はまさに年下同然。これで一つ上

の先輩なんですから驚きです。


「じ、実は僕……ヒーローなんです!」


「……」


ひゅ~


 冷たい風が廊下を吹き抜けていく。


――完全に僕アウェイじゃないですかああああああああ!



「つ、九十九さん?」


 僕はあれ~? と言った感じで不思議がっている九十九さんを笑みを浮かべて見つめました。する

と、さいくささんが何故かキラキラとした笑顔を浮かべて僕にサッと近づいてきました。


「ええ? な、何ですか、さいくささん?」


 僕は背中を逸らして彼女から遠ざかろうとしますが、遠ざかろうとすればするほど逆にさいくささん

が僕に近づいてきました。


「き、君もヒーローなの!?」


 その問に僕は一瞬時が止まるのを感じました。


「え、ええと――」


 僕が答えようとした次の瞬間――。


「そうですー! 野丸君というのは普段の姿。もう一つの真の姿はヒーロー『ノーマル』なんです

ー!」


「ええッ!? いやいや、すみません九十九さん、そんな設定今聞い――」


「野丸君は黙っててください!」


「はいッ!」


 思わず返事をしてしまった僕ですが、九十九さんの呼んだ“ノーマル”というのは僕の昔のあだ名み

たいなやつでして……。いやな記憶しかないんですけど……?


――ていうか、ヒーローノーマルってそのままじゃないですか。ヒーローなのに普通ってどういうヒーロ

ーですか!



「ヒーローノーマル……カッコイイ!」


 喜々とした表情で笑顔を浮かべるさいくささん。どうやら、ご満悦のご様子。


「ノーマルは何をしてるの?」


「え? えと、……いろいろですかね?」


「なるほど、いろんな事をして人々を助けてるんだね?」


 何だか勝手な解釈をしていらっしゃいますが、まぁ概ね大丈夫でしょう。すると、九十九さんが助け

舟を出してくれているようで、さらに付け足すように口を開きました。


「ノーマルは私の失くした生徒手帳を拾ってくれたんですー。おかげさまでこうして髪留めをつけるこ

とができますー! ノーマルには感謝ですー!」


 その言葉を聞いてさらにさいくささんの感情はMAX状態に近づきました。目が爛々と光り輝いてい

て、本当に信じきっている顔です。こうなってくると、いよいよ後には引けなくなります。


「そんな……それじゃあ私はノーマルにぶつかって謝るどころか謝らせたの!? 私、悪いことしちゃ

った……。ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! 何でもするから許してぇ~。うぅ、し、知

らなかったの! あなたがヒーローだったなんて……ぐすっ」


 また泣き出しそうになるさいくささんを見て僕は慌てて彼女に言いました。


「べ、別にそんなに気にしてませんから謝らないでくださいよ! ゆ、許してあげますから」


「ぐすっ……ほ、ホント~?」


 潤んだ瞳に上目遣いで僕を見上げるさいくささんは本当に幼女にしか見えません。しかし、確かに刺

繍糸には青の糸で名前が――ん? “七種“? これって一体何て読むんでしょう? ま、まさか……こ

れで“さいくさ”と読むんですか? 


「や、やんっ。ノーマルったらそんなやらしい目で私の胸見ないでよぅ~。そ、そんなに見たいの?」


「ち、違いますよッ! その、刺繍されてる字が何て読むのか気になって――」


「え? これでさいくさって読むんだって言わなかったっけ?」


「た、確かに言いましたけど、まさか“七種”って書いて“さいくさ”って読むだなんて誰も思わない

でしょ?」


 当たり前なのではないかと思う正論を述べる僕ですが、七種さんは不思議そうに言い返します。


「そうかなぁ~。まぁ、あまり見ない感じだもんね。所で、ノーマルは一人でヒーローやってるの? 

他に誰かいないの?」


「えッ!?」


 やはりそうきましたか。七種さんが見に行ったというそのヒーローショーも恐らく戦隊もの。だとす

れば五人が定番のはず。しかし、僕以外にヒーローって言っても――」


 僕はもう一度助け舟を出してもらおうと九十九さんを一瞥しました。すると、九十九さんが僕の近く

にやってきて小声で言いました。


「さ、さすがにこればかりは無理ですー。だ、誰か知り合いいないんですか?」


「し、知り合い? でも、知り合いを巻き込むのは――」


「少しくらい、名前を借りるくらいなら大丈夫ですー。それに、今日一日をしのげば、つづらちゃんは

すぐに今日の事なんて忘れてしまいますから」


 それを聞いて僕は頭上に疑問符を浮かべました。というのも、今日の出来事を次の日に忘れてしまう

という衝撃発言を聞いてしまったからです。


「次の日に忘れてしまうってどういうことですか!?」


「つづらちゃんは記憶力が著しく低いのですー。ですから、大半の事はすぐに忘れるのですー。ヒーロ

ーショーも同じのを何度も見てますしね」


 そうだったのか、と僕は納得の相槌を打ちます。一方で、七種さんは未だに僕のヒーロー仲間を知り

たくてうずうずしている状態でした。このままでは絶対に開放されないと思った僕は少し罪悪感を感じ

ながら知り合いの名前を使わせてもらいました。


「仲間は、り、リトルバードと、ホークと、チック……ですかね?」


「す、すごい。何か鳥っぽい名前だね!」


――いや、もろ鳥の名前を引用してるんですけどね? だって、小鳥遊と鷹ノ宮と雛本なので、変化する

としたら英語しかないじゃないですか。そこ、単純だなとか言わないッ!



「ま、まぁ……。あっ、そろそろ昼休みも終わりですし戻りますね?」


「え? もう行っちゃうの?」


――何で引き止めるんですか! 早く帰らせてくださいよ! そしてあなたはさっさと僕の事を綺麗さっ

ぱり忘れてください!



 心の中でそう願いしつつ僕は苦笑いしながら七種さんに言いました。


「じゃあまたいつか会うことにしましょう。ヒーローもいろいろ忙しいんですよ!」


「そうですー。ノーマルを困らせたらダメなのですー。つづらちゃんもノーマルをこの場に留まらせて

しまったせいで、他の場所で悪が悪さしていたら嫌ですよね?」


「はっ! そうだね! ゆすらんの言うとおり、私が間違ってたよ! じゃあ、ノーマルのメアドくれ

ない? そしたらいつでも困ったときに呼べるから!」


「そ、それは――」


「いいですよ?」


――って、九十九さんんんッ! 勝手に了承しないでくださいよ! メアドあげるのはあくまでも僕なん

ですからね? メアド教えてしまったら忘れてもらうどころか思い出させちゃうじゃないですか!



 と内心で慌てふためく僕ですが、そんな事お構いなしに話は進み――。


ピロリン♪


「やったー! 本物のヒーローのメアドもらっちゃった~今夜は赤飯だ~!」


 何度もその場で飛び跳ねて大喜びする七種さん。そんなに嬉しいんですかね?


「そ、それじゃあ僕はこれで――」


「バイバーイ、ノーマル~! 今度は他のヒーローも連れてきてね~!」


――し、しまったぁああああ! そうだった。名前勝手に引用してしまったからみふえちゃん達までも巻

き込んでしまうことに……。ど、どどどどうしましょう!?



 僕はそんな事を思いながらその場からそそくさと退散しました。

というわけで、平太よりも年上ではあるものの見た目も中身も幼稚園児並みの少女七種さん。結構過剰反応の多い彼女ですが、そんな七種さんも九十九さんとは大の仲良しです。本人はそう思っていますが、九十九さんの方は彼女のことをどう

思っているんでしょうね?

とりあえず、今回アンチスタディが二人出ました。まだ残り八人メンバーが残っています。また、次の話では新たに二人だす予定なのでお楽しみに。

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