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Study:5「ハチャメチャな天才不良少年」

今回は一ページしかありません。

 時刻は九時。一時間目の授業が始まる時間である。ちなみに一時間目の科目は英語で、担当教師はセンタークラスの一つを持ちこの物語のダメダメ主人公――野丸平太の――

 だぁあああれがダメダメ主人公ですか、ごるぁああああアアアアア! ったく、人が気絶してたからっていつの間にか代わりのナレーションをつけて! もう目覚めたっちゅーの! ああ、皆さんこんちゃ! 毎度お馴染み、イケイケ主人公の野丸平太、十六歳です! ピチピチです! え、そんなのいいから状況を教えろって? まぁまぁ皆さんそんな慌てない慌てない。こっちだっていろいろ困ってるんですよ。気づいたら巫笛ちゃんからは頑張れ頑張れと応援のエールを熱烈にもらい受け、雛本さんと鷹ノ宮さんはいつの間にやら仲良くなっている状態。完全に僕だけ蚊帳のアウトサイドですよ! 何があったのかは分かりませんが尋ねても「野丸君には内緒です、ふふっ」の一点張り。そんなの気になるじゃないですか! 教えてくださいよ、全くもう。とまぁこんな感じですかね。

 ちなみにここは教室です。授業開始五分前状態です。担当の英語教師は僕のクラスの担任でもあります、井伊口先生です。オカマっぽい口調が特徴の英語先生です。今日は授業のオリエンテーションを含めた授業なのだそうですが、クラスは僕みたいに平凡そうですし授業のスピードについていけないといった悲劇は訪れないでしょう……多分。

 授業のシステムは普通の高校と変わらないそうですが、ただこの学園で違うのは、いつでも授業スピードを変更出来るということです。ただし、そのためには十教科(オールスター)テストを受けなければなりません。それを受けて一定の点数を超えると、センタークラスの生徒はハードスタディクラスやアンチスタディクラスに行けるんです。なので、授業開始数分後にはセンタースタディからハードスタディなどという前代未聞パターンもありえるんです。今までには一度だけこの異例があったそうです。先生に聞きました。

 え? 何? 地の文ばっかりで会話文が全然ないぞ、どういうことだゴラですって? ええ、すみませんね。じゃあ、そろそろ会話に行きましょうか。


「それではこれから英語の授業並びにオリエンテーションを始めますわよー! では皆さんスタンダップ!」


 え? オカマ引っ込めブーブー? いきなりブーイングの嵐ですか。まぁ、無理もありませんが、先生ですから仕方ありません。ご容赦下さい。

 まだクラス委員は決めていないので挨拶は先生が行い、僕達はその場に座ります。さてさて授業の開始です。ちなみに僕はそこまで英語は出来る方ではありません。みなさんの中にも英語が苦手だという方いらっしゃるんではないでしょうか? まぁ、日本人だからその辺りは仕方ないですよね。


「では、まずは基礎から始めますわね。英語という言葉は英語でイングリッシュです。さぁ皆さんご一緒にイングリッシュ! リピートアフタミー?」


『い、イングリッシュ!』


――あれ? これ、ほんとにセンタースタディクラスの授業ですか? これ中学生か少し進んだ小学生の内容じゃないですか? まぁ確かに基礎っちゃ基礎ですけど……。



 驚くべき授業内容の幼稚さに度肝を抜かれた僕は唖然としていました。


「単語や語彙などを高めなければ苦手な英語も得意にはなりませんわよ! 長文ができないのはこれらの基礎が出来ていないからです! ある程度の単語、語彙力と文法力さえあれば英語はできるのです!

さぁ、次は守護、同士、保護を説明しますわよ?」


 と、黒板にサラサラと文字を書いていく井伊口先生。


――って、せんせいぃぃぃぃぃぃぃぃッ!? それ漢字間違ってらっしゃいますけどぉぉぉぉ!? 何ですか守護、同士、保護って! 確かに音的には合ってますけど、それだと意味全くの別になっちゃいますよ!?



「これにはまだ他にも就職などという言葉も関連してきます」


――せんせいぃぃぃぃ! それも漢字違いますって! 就職が関連って、仕事の関係ですか?



「守護が無ければ同士も保護も成り立ちません。全ては守護に始まり守護に終わるんです」


 凄く満足そうに説明してらっしゃる井伊口先生ですが、せっかくの説明も漢字の誤りで全ておじゃんです。確かに守護なしでは他の皆も攻撃されて終わりですが、こっちでの意味は守護ではなく主語が正しいはず。同士を守護すると思っちゃったらどうするんですか!

 少しユニークな井伊口先生。どうやら、英語の先生は国語が苦手の様で……。と言ってもあくまで個人的な話ですので、皆がみんな国語が苦手というわけではないと思います。

 すると、とある一名の生徒が足を投げ出しているのを僕は見かけました。確か神嵜君でしたかね?


「ウェイトウェイト! ミスター神嵜! 何なんですかそのアティチュードは!」


 ちなみにアティチュードは態度です。


「あん? うっせぇよ、先公! んなの、オレには関係のねぇこったろ! 第一、何だてめぇ、漢字も

ロクに書けねぇのか? そんなんで、説教垂れてんじゃねぇよクソがッ!」


――うわぁ、僕にはとても真似出来ないような言葉遣いです。ああいうのを不良って言うんですかね? とても遠い存在です。しかし、すごいですね。誰もツッコまなかったことをあっさりツッコんで。井伊口先生も羞恥で顔が真っ赤です。



「はん、センタースタディがどんなもんか試そうとこのクラスにわざと来てみたが、所詮こんなもんかよ。期待外れだぜ! んじゃま、そろそろオレ様の本来いるべき場所に戻るとすっか! ふわ~あ。んじゃな、センターのゴミども! キヘハハハハ!」


 不気味な笑い声をあげながらクラスから出ていこうとする神嵜君。すると、それを阻止せんかの如く井伊口先生が手に持っていた白いチョークをヒュン! と投げました。目標は明らかに神嵜君です。って、これってダメなんじゃあ――。


パシッ!


『――ッ!』


 先生はもちろん、僕達生徒も全員が神嵜君の行動に驚愕です。何と彼は後ろに目でもついているかの様に振り返りもせず先生のチョークを指の二本で挟んで止めたのです。


「あん? 何のつもりだ、先公? このオレ様にチョークだぁ? んなもん効きゃしねぇよ! オレ様は最強だぜ? 持ってくんなら千本は持ってこねぇとなぁ! あばよッ!」


 そう言ってチョークを指の間に挟んだまま潰した神嵜君はその場から消えていきました。


「な、何なのあの生徒は! ん? そういえば、神嵜君って――」


 何かを思い出したのか、先生は慌てて名簿帳を取り出してペラペラとページをめくりだしました。何

を確認しているのか……。すると、ハッとなった先生が恐る恐る口を開きました。


「神嵜……篝!?」


「かみさきかがり!?」


 その名前を聞いて皆が沈黙してしまいました。張り詰めた緊迫の空気。というのも、その名前に問題がありました。『神嵜(かみさき) (かがり)』。入試を受けた人ならば誰もが知っている人物。彼はあと一点でハードスタディメンバーだったというところでセンタースタディにやってきた生徒なのですが、実はこのあと一点というのがわざとだという噂が流れているんです。しかし、もしわざとなのだとしたら、センタースタディクラスとハードスタディクラスの堺の点数が何点なのか、そして入試の点数配分を知っているということになるんです。そんなチートのような事を彼が知っているとは誰もが思わず、その噂は徐々に影を潜めていったんですが……。まさか、ホントなのでしょうか。


――□■□――


 ここは、三クラス変更室。ここで十教科(オールスター)テストを受けて基準値を超えればハードスタディクラスへ、低ければアンチスタディクラスへと行くシステムになっている。

 そこへ、一人の金髪少年がやってきた。――神嵜篝だ。


 ガラガラ……。


「ん? どうした、誰だ君は?」


「はんっ、オレ様のことを知らねぇのか? 時代遅れもいいトコだな先公! オレ様の名前は神嵜篝。この学園でトップの次に天才の男の名さ!」


「ほぅ、なかなか自信たっぷりの男だ。しかし、その染めた髪の毛は感心できんな。それに、君はあの神薗榮明君を超えられるのかね?」


「あったりめぇだ! 言ったろ? オレ様はトップの次に天才だってよ! 神薗だか何だか知らねぇが、そんなの軽々と越えてやらぁ! ちなみに聞いとくが、トップのヤローは何点だ?」


 制服のブレザーのポケットに両手を突っ込み、メンチを切ったままそう尋ねる篝。すると、教師は顎のヒゲを触りながら答えた。


「神宮寺か。彼女は852点だ」


「ケッ、んなもんか。トップなら満点とりやがれってんだ! まぁいい。そんじゃあ、オレ様は851点を取って二位に踊り出てやんぜ!」


 天井に人差し指を高々と掲げて自慢気に言う篝に教師は笑って言った。


「息づくのはいいが、程々にせねばアンチ行きだぞ?」


「はんっ、オレ様を馬鹿にしてんのか? 誰がアンチ行きなんかすっかよ! ヨユーの二位だぜ! このオレ様にかかりゃ十教科(オールスター)テストを制限時間内に解き終わることも不可能じゃねぇ」


 口の端をニッと吊り上げ不気味に笑みを浮かべる篝。教師は何故かその姿に少し寒気を感じた。


「いいだろう。その心意気をかって君にテストを受けさせよう。それで満足するのだろう?」


「ああ。オレ様に二言はねぇ。さっさとテスト始めようぜ?」


 これまでの自信。逆に怖いくらいだと教師は思った。ハードスタディの特待十名の一位である神宮寺巫琴もここまで息巻いてはいなかった。それがセンタースタディクラスからやってきたこの男は簡単にやり遂げると言い、自信たっぷりの表情を浮かべている。




 十分後……。テストは開始され、最初の教科――国語の現代文が始まった。十教科の内容は副教科及び科目を含めており、現代文、古典、数学、英語、化学、物理、地理、歴史、保健体育、音美家の十個だ。ちなみに音美家というのは音楽、美術、家庭科の三つを意味している。

 開始から三十分が経過した頃だろうか……。試験は六十分――即ち一時間あるのだが、篝は突然手を挙げたかと思うとこう言った。


「やめだヤメ! 時間の無駄だ。さっさと、次の教科行こうぜ?」


「ん? まだ三十分も余っているのだぞ? やり直しはしたのか?」


 不思議な顔をして篝に尋ねる教師。しかし、首を振って篝は答えた。


「ああ、んなもん当の昔に終わってるぜ! オレは時間を有効に使う男だ。ほんのちょっとの時間も無駄には出来ねぇんだよ! だからとっとと始めようぜ? どうせ、オレ様しか受けに来てねぇんだろ?だったらそっちの方が先公も助かんだろ?」


 木の椅子にもたれかかり、天井を見上げながら言う篝に教師は嘆息混じりに言った。


「ではほんとにいいんだね?」


「ああ。次は古典だっけか? 楽勝だな……」


 そう言って次々とテストを残り三十分余らせて終わらせていった篝は予定よりも大幅に早く十教科(オールスター)テストを終了させた。それにはテスト監督を務めていた教師も驚きを隠せなかった。何せ、今までにこの様な異例な事態は一度しか起こっていないからだ。伝説にまで語られたその少女もまた彼――篝の様な才能を持っていた。まさに逸材と言える存在。


「ふぅー全部終わったな。まぁ、楽勝で851点だがよ!」


「ははは、何を言っているんだね。三十分でどの教科も終わらせたというのに解く時間とやり直し以外の時間なんてなかっただろう? 第一、このテストはどの教科・科目も制限時間内に解き終わらない仕組みになっているんだぞ? それを制限時間内三十分前に終わらせたんだ。851点などとても採れんと思うが?」


 篝から受け取った十枚のテスト用紙を眼を細めながら眺めつつ言う教師に、篝は苦笑しながら言った。


「おいおい、先公! んな生徒の頑張りに水を差すようなこと言うなよ。つべこべ言わず点数つけてみろって! 851だからよ!」


 まただ。この生徒からはやけに冷たい空気を感じると、教師は内心思った。とりあえず、教卓に座って赤ペンを取り出すと蓋を開けた。ポン! と、独特の音が鳴り、解答刷紙片手に丸を付け始めるテスト監督教師。

 それから数時間後。ようやくテストの解答が終わった。そして、その点数を確認するや否や彼は言葉を失った。目が泳ぎ、明らかに動揺しまくっている。

 その様子を見た篝はニヤリと不気味な笑みを浮かべて確信を得た。


「ま、まさか……そんな馬鹿な」


「だから言ったろ?」


「は、八百五十一点だ……」


 額に手を当て熱がないかどうかを確認するが、期待虚しく平熱……。つまり、目の前のこれは現実ということになる。


「こんなことありえない。こんな異例は数十年前のあの時以来だ」


「はんっ! どうだ、これでわかったろ? これでオレ様は晴れてハードスタディメンバーの特待メンバーの二位だぜ! ハッハッハッハッハ!! 神薗何とかさんには悪いが、二位の座はもらったぜ!」

 高らかに天井を向いて笑い出す篝。すると、教師がその場に立ち上がり言った。


「これは本来ありえないことだ。何点代を取るとかならばまだ理解出来る。しかし、ここまで確実な点数をたたき出せるはずがないのだ。細かい点数配分を知っているならば別だが……」


「点数配分か? そんならやり直しの確認と同時進行でやってたぜ? おかげさまで、きっちり851点を取ることが出来た。危うく一位になっちまうトコだったかんな」


 その言葉を聞いて教師が訊いた。


「まさか君、わざと一位の座を逃した……と?」


「おっ、分かんのか先公? やっぱテスト監督となったら出来が違ぇな! ああ、お察しの通り、オレ様はわざと二位になった……」


 教卓の近くの椅子を机から引き出して荒々しく座り足を組む篝。


「なぜだ? 君ほどの人間ならば悠々に一位に輝くことも出来たはずなのに……」


「この学園の気に入らないトコが一つある。そいつが、ハードスタディメンバーの中でも一位に輝いたヤツが必ず生徒会会長にならねぇといけねぇってコトだ! オレ様はひっそりと生活してぇんでな。会長にならねぇように、上手く点数をキープしたってことさ! 生徒会会長なんか、あの女で十分だぜ!」


 手を振りながらめんどくさそうな顔をする篝に教師は言った。


「なるほど。君の言いたいことは解った。しかし、これで特待メンバーの十位だった神崎さんには特待メンバーから外れてもらわねばならなくなった。神薗君含む他のメンバーにも移動してもらわねば……。やってくれたね、神嵜篝君」


 威厳たっぷりな雰囲気を醸し出しつつ、篝を見下ろす教師。すると、篝はよせやいと言いながら言った。


「まぁ、オレ様はセンタースタディクラスのメンツの様子を確認したかっただけなんでな。てんでダメだ、あのクラスは……」


「君の様に天才型の人間にはセンタースタディクラスは合わなかっただろう。今度は君のスピードに合うハードスタディクラスで頑張るといい。さて、私はこの事を伝えてアナウンスを入れてもらわねば」


 そう言って立ち上がった教師はガララと教室の扉を開けて放送室へと向かった。


「……はん、第一位、神宮寺巫琴……。てめぇがその玉座に座っていられるのも今のうちだぜ? その内、この学園の校則を変えて生徒会会長という制度の仕組みを変えてやっからよ! ……キヘハハハハ!」


 不気味な高笑いをしながら篝はテスト部屋を後にした。




 ここは生徒会室。ここで生徒会のメンバーはそれぞれの活動に専念することになっている。そこに一人の女子生徒。腰辺りまである長い黒髪に、三年生の証である緑色の刺繍糸で刺繍された名前。そこには神宮寺巫琴と書かれていた。そう、彼女こそこの神勉学園の現生徒会長の神宮寺巫琴その人なのである。そんな彼女の二の腕部分には生徒会のマークが入った腕章を着けている。ちなみに現在巫琴は長机に向かって必死に作業をしていた。次の議題について何を出そうか議案を書く紙に書かなければならないのだ。しかし、その議題が思いつかず作業は難航していた。


「はぁ、少し肩が凝りましたね。でも、誰もいないですし……困りましたわ。最近、少し頑張りすぎなのでしょうか」


 自身の肩をポンポンと叩きながら嘆息する巫琴。

 と、その時、コンコンと生徒会室の入口の扉がノックされた。


――あら? この時間には誰も来ないはずなのですけれど……。



 不思議に思いつつもノックされた扉に近づていく巫琴。恐る恐る扉を開けてみると、そこには制服を完璧に着崩した一人の生徒がいた。金髪の髪の毛に赤のカラコンを入れたその男に真面目で完璧超人である巫琴は尋常じゃないほど虫唾が走った。気づけば思わず目の前の不良生徒の胸ぐらを掴みあげている始末だ。


「くっ、あなたね――」


「おいおい、ご挨拶だな~現生徒会長さんよ~! オレ様はわざわざ知らせに来てやったんだぜ? 仮にも同じハードスタディメンバーの一人なんだから歓迎してくれてもいいんじゃねぇの?」


 その言葉を聞いて巫琴は眼を見開き、咄嗟に胸ぐらを掴んでいた手を放した。


「っと、……ここが生徒会室か~。思ったよりもパッとしねぇ場所だな。まぁいい。いつかこの場所もオレ様の王国となるんだからよ!」


「何を言っているのですか? そもそも、あなたは誰です? ここに何用なのでしょうか? 私は忙しいのですけれど……」


 明らかに嫌そうな表情で相手に尋ねる巫琴。


「随分嫌われてんなぁ~オレ様。まぁいい。その方がライバルとして気分がいいかんな」


「ライバル? 何を言っているのですか?」


 訳の分からないセリフばかりを口走る男についていけていない巫琴は頭上に疑問符を浮かべて顔をしかめた。


「オレ様が新たな二位になったんだよ!」


「なっ、そんな馬鹿な……! 入学式の次の日ですよ? それにあなた、さっきからタメ口で話していらっしゃいますが、私は最上級生にして生徒会会長。それ相応の話し方があるのではなくて?」


「はんっ、これだから生まれのいいお嬢様は困るんだよ。オレ様は正真正銘ハードスタディメンバーの第二位だっつーの! おら、ここにあんたの採った852点の一点下を採ってやったオレ様の栄光が書かれてんだろ?」


 言われた通りにその紙を見ると、確かにそこには氏名と点数が記されていた。


「……神嵜…下の名前は篝でよろしいのですか?」


「へ~オレ様のイカした名前を言えるとはさすがは完璧超人生徒会長様! お嬢様だけあって出来が違ぇや! ああ、オレ様の名前は篝だ。よろしくな、神宮寺巫琴」


「んなっ、年上にはちゃんと“さん”か、“先輩”をですね――」


「あぁ~そんなめんどいのいいからよ。それよりも――」


むにっ。


「きゃああああああっ! な、何をなさるのですか!」


「あん? いや、デケェ乳してんな~と思ってよ。そんなんじゃ肩凝んじゃねぇの? なんならオレ様が揉んでやろーか?」


 五指をワシャワシャと動かしながらにじり寄る篝に、顔を真っ赤にして目尻に涙を浮かべた巫琴が胸を庇いながら叫んだ。


「やめてください! 警察呼びますよ? そ、そもそも私の胸にいきなり触れてくるなんて不躾にも程があります! もう少し身の程をわきまえてください!」


 そう言って巫琴は荒々しく生徒会室の扉を閉めた。


「キヘヘヘ、なかなかデカかったな。それに、あの上から目線……偉そうなお嬢様口調。芳醇な香り……サラサラの黒髪……いじり甲斐があるってもんだぜぇ。待ってろよ、神宮寺巫琴……。必ずてめぇをその玉座から引きずり落としてやっからな……キヘハハハハ!」


 何やら悪質な笑みを浮かべている篝は、巫琴への嫌がらせを脳内でシミュレーションしながら生徒会室を後にした。


――□■□――


 ここはセンタースタディクラスの一室。ここには管理棟で生活をしているこの物語の主人公――野丸平太とゆかいな仲間たちが――

ぐおりゃぁああああああ!


ドゴォォォォォォォンッ!!


――ったく、すぐに人のナレーションを奪うんですから……。やぁやぁ皆さん。何だか今回の話は結構僕の出番が少ない気がしますが、気のせいですよ? さてと、授業も終盤に近づき終わりを迎えようとしていました。ちなみに今は授業のオリエンテーション中です。

 と、その時、僕達のクラスの天井にあるスピーカーからピンポンパンポン♪と音が鳴りました。放送室から何かお知らせでしょうか?


『お知らせします。センタースタディクラスの一人、神嵜篝君が――』


 神嵜君!? 少し前に教室を出て行ったあの不良君がどうかしたんでしょうか? 僕は隣近所にいる鷹ノ宮さんや雛本さん、みふえちゃんを見ながら首を傾げました。そして、スピーカーから次に聞こえてきたのは――。


『たった今、十教科(オールスター)テストを終了させてハードスタディクラスの特待メンバーでもある一位の852点の一点したの851点を獲得しました。よって、これより神嵜篝君はハードスタディクラスの特待メンバーの第二位に移籍してもらいます。また、これに伴い元二位の神薗君を始める以下の生徒は一つ下の順位となりますのであしからず。なので、元十位だった神崎束煉(かんざきたばね)さんには申し訳ありませんが特待メンバーから外れてもらいます。……以上、お知らせをお伝えしました。引き続き授業に励んでください……』


 そう言ってアナウンスは終了してブツンと放送が切れた。


「な、何ですってぇぇぇぇぇえええぇえぇええええッ!!?」


 突然奇声をあげる井伊口先生に僕達は全員驚きました。そりゃあいきなり「キエエエエ!」とか言い出す人みたいに声を上げるんですもん。そりゃあ驚きますよ。おかげさまでさっきまで出てたしゃっくりが止まりました。サンキューです。


「先生、それじゃあ神嵜君はもう来ないってことですか?」


 生徒の一人が先生にそう尋ねます。


「そうですね……。まさか、先生も入学式一日後にもうクラス間の移動があるとは思わなかったけど……」


「そもそも、この学園……勉強はどういうシステムになってんすか?」


 今度は男の生徒が先生に手を挙げて質問する。すると、先生はそうだったそうだったと黒板に何やらサラサラと書き出した。


「そういえば、あなた達には詳しく説明していませんでしたわね」


 井伊口先生は黒板に生徒を注目させて話しだしました。


「ここ、神勉学園は見ての通り変わった所が多々あるのは皆さんもご存知の通りでしょう。例えば、この学園には自由奔放な生徒が多いということも一つ挙げられるわ。ハードスタディやアンチスタディといった勉強の出来る者、出来ない者が集まるこの学園。システムとしてはあなた達が入試の後に受けた振り分けテスト。あの十教科の獲得点によってクラスが振り分けられるの。二つの基準値があって、高い方の基準値を超えるとハード。超えなければセンター。さらに低い基準値を下回るとアンチといった具合にね。さらに、ハードとアンチには特別メンバーという制度があって、ちょっとした待遇を得ることができます。ただし一位から十位までと範囲は狭いけど……。あと、それぞれのクラスで教室の環境設備の整い方も違ってくるわ。このセンタースタディクラスは他の高校となんら変わらないけど、ハードはもう少し設備が整っていて、電子機器などを使った授業も取り入れられているわ。逆にアンチは机なんかも中古の物を使っているから、ボロっちい物ばかりね」


 先生の説明を聞いて僕達はセンタースタディでよかったと心底思いました。逆にアンチの人はどんな人がいるんだろうという興味も湧きました。


「他に説明するとしたら、あれね。十教科(オールスター)テストかしら」


 それは僕も感じました。振り分けテストでも受けた十教科のテスト。それをこの学園では十教科(オールスター)テストと呼ぶらしいです。六十分という与えられた制限時間内に、絶対に解き終わらないテストを解く訳ですが……これがなかなか難しいのです。


「このテストはさっき神嵜君も受けたみたいですが、誰でも受けられます。受けられる条件として授業のスピードについていけないなどの簡単な理由でいいです。ただし、一日に一回という制限があるので、一度受けたらその日には受けられませんよ? 後は振り分けテストと同じで、基準値でクラスに振り分けられます。クラスが変わっても告知はありませんが、神嵜君の様な異例は除かれます」


「どういうことっすか?」


 生徒の一人が尋ねる。


「つまり、ハードスタディやアンチスタディの特待メンバーに入った時には重要な事態なのでアナウンスが入ります。さっきのがいい例ですね」


「なるほど」


 納得した様に生徒達が頷きます。


「それじゃあ、時間も後数十分ほどしかないから、せっかくの機会ですし……ハードスタディの待遇メンバー、一位から十位までを教えておきましょうか」


 と、井伊口先生が手を合わせながらちょっとした提案をした。その提案には僕も賛成でした。というのも、センターにいると、ハードやアンチの情報はまるっきりわからないのです。


「まぁ、たった今移籍があったからあれですけど、名前だけでも言っておきましょう。元十位の三年、『神崎(かんざき) 束煉(たばね)』さん。後は順に現十位の三年、『神幸寺(じんこうじ) 彬翔(あきと)』君。現九位の一年、『狗神(いぬがみ) 和奏(わかな)』さん。現八位の一年、『神杜(かみもり) 雛穗(ひなほ)』さん。現七位の三年、『神泉(かみいずみ) 萌葱(もえぎ)』さん。現六位の二年、『御子神(みこがみ) 龍姫(たつき)』君。現五位の三年、『神憑(かみがかり) 柊羽(しゅう)』君。現四位の二年、『神楽坂(かぐらざか) 凡祈(なみぎ)』さん。現三位の三年、『神薗(かみその) 榮明(えいめい)』君。そして、ついさっきメンバーに割り込んできた不良天才少年の一年、『神嵜(かみさき) (かがり)』君。それから、最後に――」


 キーンコーンカーンコーン♪


 最後の最後に無情に鳴り響いたチャイムの音。その音色を聞いた先生は少し慌てた様子で「あら、もうこんな時間?」と身支度を済ませると、そそくさと挨拶もせずに出て行ってしまった。結局僕達は第一位の人物を知る事も出来ずに一日を送ることとなった。


「あ~あ、一位の人聞けなかったね」


 残念そうに僕を見る雛本さん。僕も軽く笑いながら相槌を打ち返した。しかし、そこで鷹ノ宮さんが一言。


「でも、一位の人ってこの学園の生徒会長なんですよね? でしたら、その内朝会か何かで会えるんじゃないですか?」


 その言葉になるほどと僕達は納得していました。鷹ノ宮さんの言うとおり、今は知れずともずっと知ることが出来ない訳ではないのです。機会があればその時に会うことが可能なのです。


「そういえば、第十位から第二位まで元十位の人も含めて名字に『神』がついてたね!」


 僕の机に腰を下ろして満面の笑みを浮かべてそう言うみふえちゃん。確かに皆さん名前に神がついてました。神的な点数を取る人達なのでしょうか? 教えてもらったメンバーで知り合いは一人もいないのはまず確かですが、それどころか話したこともない人ばかり。まぁ、会話はしてませんが神嵜君がどんな人かは知っています。もしも他の方々が神嵜君の様な頭脳の持ち主揃いだとしたら――ぶるぶる、身震いが止まりませんよ。


「まぁ、それはそれとして次の授業の準備ですよ!」


「そうですね。えと、確か次の授業は数学でした」


 手を合わせて鷹ノ宮さんが机から新品の数学の教科書を取り出します。すると、雛本さんが頬をかきながら言った。


「わたし、数学の文章問題が少し苦手なんだよね~。計算問題はすごく得意なんだけど……」


「確かに文章の意味を読み解かないといけませんから、少し難解ですよね。まぁ、文章から読み解いて計算式を導くのが好きだという変人めいた人もいるわけですし……。人もそれぞれいろんなタイプがいるってことですね」


「そうだね」


 などと、僕達は仲良く会話を弾ませて次の授業が始まるまでの休み時間を潰していくのでした……。

というわけで、今回はようやくこの物語のタイトルにも出ているハードスタディメンバーについて触れることが出来ました。開始して六話でようやく一人目ってどんだけだよ! などと様々なツッコミが飛んできそうですが、そこらへんはご勘弁を……。

にしても神嵜君の異常な天才的勉強力はすごいですね。自分もあんな力手に入れてみたいです。そして、生徒会長こと神宮寺巫琴……もう気づいている方もいるかもしれませんが、井伊口先生に一位の人の名前まで言わせなかったのには訳があります。まあ、その内明らかになるかと……。

では、次回予告をば! 次回は、いよいよアンチスタディの登場です!

皆さんすっかり忘れてるかもしれない“あの人”も登場します!

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