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Study:4-B「ハチャメチャな朝と二人の恋煩い、イン管理棟」

「分かりました」


「え?」


「これを、……舐めればいいんですよね?」


「う、あっ……」


 いまいちはっきりしてくれない鷹ノ宮さんに僕はまどろっこしくなり、とうとう行動に移ってしまいました。


パクッ!


「あっ!」


「ほれへひひふへふほへ?」


 ちなみに「これでいいんですよね?」と言っています。


「野丸君が……指を舐めて……、まるで赤ん坊ですね」


「ゴホゴホッ! なんでそうなるんですか!」


 僕は聞き捨てならないことを言われて思わず指を口から外して顔を真っ赤にしました。だって、舐めろって言ったのは鷹ノ宮さんなのに、言うとおりにしたら赤ん坊みたいってそんなのあんまりでしょ!


「うふふ、だって自分の指を舐めるのは赤ん坊のすることですよね?」


「いや、そうですけど……」


「ですから――」


パクッ!


「――!?」


 よもや再びこの感触を味わうことになるとは……。鷹ノ宮さんは、あろうことか再び僕の人差し指を口に含んできました。しかも、今度は僕の唾液付きで……。


「ち、ちょっと鷹ノ宮さん!?」


「ぷはぁ……これって、間接キスみたいなもの……ですよね? うふっ」


 可愛く首を傾げながら笑みを浮かべて僕に言う鷹ノ宮さん。口の端から垂れる透明の液がとてもいや

らしく見えます。


「な、なななんてことをッ!? いいんですか、鷹ノ宮さん!」


「何がですか?」


「だって、そんなキスではないとしても、間接キスだなんて……」


「ふふ、ほんとに野丸君はそういうとこは鈍感ですね。これくらいは構いませんよ。それに、元々私が寝ている時にこうしてしまったんでしょう? なら、不可抗力みたいなものです。でもこれは……どうなるんですかね?」


 怪しい笑みを向けてくる鷹ノ宮さんに僕は言葉を失ってしまいました。鷹ノ宮さん、あなたは本当に恐ろしい美少女ですよ。


「う、う~ん、ふぁ~あ。どうしたの、二人共……。今何時~?」


――ヤバイ、とうとう雛本さんまで起きてしまった。しかし、まだ心配はありません。雛本さんはまだ寝ぼけていて今の状況を飲み込めていませんから――。



「なんか、和音ちゃんが野丸くんの指を舐めてるのは見えたけど……」


――肝心な部分バッチシ見えてんじゃないですかあぁあああ!



 僕は頭を抱えて唸りました。よもや、雛本さんに目撃されてしまうとは! 童顔でほんわりひだまりのような表情しか浮かべていない何を考えているのか分からない雛本さん。彼女ならば今までの行動を見てもあまりなんとも思わないかもしれませんが、それでも少しの不安は否めません。こうなったらいっそのこと彼女も巻き込んで話せないように口封じをして……ヘッヘッヘ。え? 悪人の面になってるって? ふっ、何を今更……僕は根っからの極悪非道人ですよ! ああ、ちょっとごめんなさい! 警察だけはご勘弁をッ!


「ははは、気のせいですよ雛本さん。それは夢かなんかですよ! ねぇ、鷹ノ宮さん?」


 僕は鷹ノ宮さんにも助けを求めようと彼女に振りました。彼女もさっきのアレを見られるのはまずい

と思いますからきっと助け舟を出してくれるはずです。


「ひどいです、野丸君。昨日はあんなに激しく攻めてきたのに……私とのアレは遊びだったんですか!?」


――って、おおおおおおおおい! どこで覚えてきたんですかそんなセリフ! てか、激しくってものっそい危ない発言してますけど、そんなことしてませんからね!? 勝手に記憶を捏造するどころか事実を捻じ曲げないでください!



「違いますよ鷹ノ宮さん! そんなことしてませんよ! 雛本さんも分かってくれますよね? 僕達がそんな怪しい関係じゃないってことくらい!」


「うん、もちろん分かってるよ」


 そう言って笑みをこぼす雛本さん。ああ、よかった。その言葉はまさに僕にとっては至極の御言葉です。


「……激しいプレイはわたしとしたんだもんね!」


「……」


――ん? フワット? 今何ておっしゃいました? 何か今、とんでもない発言が飛んだような気がしたんですけど……。



「まさか、野丸くんがあんなに激しく動いてくるなんて思ってもみなかったよ。わたし危うく気持っていかれるトコだったんだから……」


 そう言って布団に横になったまま身をよじりながら頬を染めだす雛本さん。


「ええッ!? すみません雛本さん! 申し訳ないんですが、そんな話、全く持って一切身に覚えがないんですが!」


「ふふふっ」


――って、聞いてらっしゃらない!? もう既に何かの余韻に浸っていらっしゃる! おおう、鷹ノ宮さんだけでなく雛本さんまでもが変人にッ!? ここにはもう常人はいないんですか……僕以外! え?お前は常人じゃなくて変態ですって? んなわけありませんよ!



「た、鷹ノ宮さんも何とか言って――」


ゴゴゴゴゴゴッ!


――はぅあッ! 何ということでしょう……鷹ノ宮さんの体中から怒気にまみれた邪悪なオーラとはんにゃが!



「お、おおおおお落ち着いてください鷹ノ宮さん! これは勘違いです! 僕には身に覚えがないんです!」


「……身に覚えがないほど激しかったんですね」


「違うって言ってんでしょーが! 何であなた方は無理やりいやらしい方に持っていくんですか! 少

しは普通の会話はできないんですか!?」


「あくまでもシラを切ってごまかすつもりですね?」


「えええッ!?」


 そこまで言われたらもう言い返せませんよ。どうしろっていうんですか? 死ねっていうんですか?


「ご覚悟はいいですね?」


「え?」


――ヤバイ、どうやら地雷踏んだみたいです。



「野丸君の不埒者~~~っ!」


ドゴォォォォォオオオオオンッ!!


「ぎぃやぁあああああああああああああああああああああッ!!」


 今日もハチャメチャな一日が始まりそうです……ガクッ。


――□■□――


 野丸平太死亡――もとい、気絶後……。


「んあ……、んんっ、何の音? って、お兄ちゃん!? どうしたの、こんな煤だらけになっちゃって! 誰に殺られたの?」


「巫笛ちゃん。野丸くんは死んではないよ?」


「えっ、そうなの? な~んだ、心配して損した。あり? 何であたしお兄ちゃんの上で寝てるんだろ

う? ちゃんと自分の布団で寝たはずなんだけどな~」


 人差し指を頬に当て、首を傾げて不思議がる巫笛。そんな彼女を和音は苦笑しながら見つめ言った。


「もしかしたら野丸君が巫笛ちゃんを手篭めにするために行った行為かもしれませんよ?」


 少し冗談っぽく言う和音だが、少し抜けた所がある巫笛にはそれが真実に聞こえたのだろう。


「そ、そうなの!? でも、それだったらちょっと嬉しいかも……。だって、お兄ちゃんが昔みたいに

私の事を好きでいてくれるなら私もこのモヤモヤとした変な感覚を感じなくなると思うから」


 おのが胸に両手を当てて少し照れた笑みを浮かべる巫笛。すると、その反応を見た他の二人が少し気

に入らないと言った表情で巫笛に問いただした。


「そういえば、巫笛ちゃんって野丸君と幼馴染って言ってましたけど、どれくらいの間柄なんですか?」


「う~ん、そうだな~。結構いろいろやってると思うけど……。よくは覚えていないなぁ~」


「例えば?」


 和音に続いて涼苺にも聞かれ、やむなく巫笛は二人に平太との思い出を語りだした。


 幼い頃に出会った平太と巫笛。きっかけは回覧板をお隣に持っていく際に偶然ばったりと彼女達と平

太が出会ってしまったことにあった。


「小さい時、一緒にお風呂に入ったことがあるとか……かなぁ。でも、振り返ればもっといろいろある

と思うよ? 一緒にお泊りしたり、屋敷の庭で花火したり別荘に泳ぎに行ったり、etc……」


 延々と語り続ける巫笛に和音と涼苺の二人は言葉を失うのみだった。まさかあれほどまでに平凡な人

間が、ここまでリアル充実――即ちリア充生活を送っているとは思ってもみなかったのだ。


「くっ、正直あなたは無害だと除外していましたが、それは私の重大な選択ミスだったみたいですね。

小鳥遊巫笛さん、あなたは十二分に私のライバルです!」


 そう言って威嚇する様に巫笛を()めつける和音。


「ら、ライバル? や、やめてよ。私は和音ちゃんとそんな関係になるつもりはないよ? それに何のライバルなの?」


「そんなの決まってます! 恋のライバルに決まってるじゃないですか!」


「こ、鯉?」


 首を傾げながら疑問符を頭上に浮かべる巫笛に、和音は鋭いツッコミをかまそうと口を大きく開けて一言――。


「鯉じゃなくて恋です! LOVEです!」


 と叫んだ。


「え、和音ちゃん。お兄ちゃんのこと好きなの?」


「ふえっ!? ……それは、その……」


 巫笛の単刀直入の質問に裏返った声をあげてしまい、口籠る和音。すると、その質問を聴いていた涼

苺が信じられないと言った表情で同様に驚愕の表情を浮かべて言った。


「うそ、……和音ちゃんもなの?」


「も? “も”ってまさか……雛本さんも野丸君のこと……」


 後半につれて声が弱々しくなる和音だが、聞きたい内容は理解できたのか静かに涼苺は頷いた。それ

に巫笛が二人の顔を互いに見つめて腕組みをして訊いた。


「てことは、二人共お兄ちゃんの事が好きってこと?」


「うわぁああああっ、小鳥遊さん、大声で言わないでくださいよぉ~! 野丸君に聞こえたらどうする

んですか~!」


 顔を真っ赤にして慌てふためく和音に、ごめんごめんと巫笛は謝った。一方で涼苺はあまりにもの恥

ずかしさに頭からシューシューと蒸気をあげてオーバーヒートしている。


「でも、どうして? お兄ちゃんのどこがいいの? はっきり言って平凡な顔だし、性格も普通だし、

ちょっとした特徴といったら言葉がいやに丁寧なことだけだけど?」


 寝ている当人に気遣いもせず、グサグサと毒を吐きまくる巫笛。しかし、彼女本人は全く悪びれてい

ない。というのも、馬鹿なので相手を傷つけていることも分かっていないのだ。


「確かに……。雛本さんは、入学式に初めて野丸君に会っただけですよね? その上、胸によりかから

れて、押し倒されもして……被害ばっかり(こうむ)っているのにどうしてですか?」


「う、う~んと……そ、それは……は、話さなきゃダメ?」


 潤んだ瞳で見つめてくる和音。しかし、それは異性には効いても同性には――。


――か、かわいいっ! な、何なのこの小動物的愛くるしさは! ひ、卑怯ですよこんなのー!



 意外にも効果は抜群だった。


「ま、まぁいいです。でも、嫌いならすぐに嫌いにはるはずですよね。あんなにいろいろされてたんで

すから……」


「そ、そうだよ。話すきっかけができたら話すから、それまでは我慢してもらえるかな?」


 頬をポリポリかきながらそう頼む涼苺に、和音も仕方ないと了承した。


「それで、和音ちゃんはどうしてお兄ちゃんが好きなの?」


「わ、私? わ、私ですか……。実は昔、ちょっとだけですけど野丸君に会ったことがあるんです。本

人は覚えていないみたいなんですけど、私は鮮明に覚えていて……。当時お礼が出来なくてずっと悶々

していたんです。そんな折、入学式で後ろ姿を見て、もしかしたらと思って声をかけてみたら――」


「本人だったってコト?」


 少し驚いた様子で尋ねる巫笛に恥ずかしそうに頷く和音。同時に彼女が髪につけている金色の鈴がリ

ンと安らぎの音色を奏でる。


「それで、あの時の感謝の気持ちが何だか変な気持ちに変わっていっちゃいまして、いつの間にか好き

という感情に……。そしたら、他の人と野丸君がイチャイチャしてたり仲良くしてたりしたら嫉妬しち

ゃうんです。この気持ちを何とかしたいのは山々なんですけど、話そうにも恥ずかしくて……」


 胸の手前で人差し指同士をくっつけてブツブツという和音。その姿を見て巫笛と涼苺は二人一緒に笑

って言った。


「あはは、和音ちゃん! 元気出して。お兄ちゃんのことだから、話したらきっと思い出してくれる

よ! それで、その時のお礼を言ったらその変な感情がはっきりと正体を表すんじゃないかな?」


「でも、好きっていう感情は変わらないんですよ? このモヤモヤはどうすればいいんですか!」


「もっと別の方法で解消したりすればいいんじゃない? 少なくとも和音ちゃんはお兄ちゃんの事を異

性として意識はしているの?」


 小さい成りの割にずいずいと大人っぽい会話をしてくる巫笛にオドオドしつつ和音は答えた。


「意識は……してないと思うんですけど、視界にちょっとでも入ると、鼓動が早くなって……」


「うわあ、それはちょっと重傷だね。余程お兄ちゃんに見初められちゃってるよ。でも、お兄ちゃんも

結構罪な男だねぇ~。こんなに可愛い女の子を好きにさせちゃうなんて。もう、メロメロじゃん! いっそのこと彼女になっちゃえばいいのに……」


「ちょっとちょっと巫笛ちゃん! わたしのことも忘れないでよ~! わたしだって野丸くんの事、好

き……なんだから」


 頬を染めて俯きながら言う涼苺。その言葉にそうだったそうだったと手を叩く巫笛。


「こりゃあ結構複雑な関係になりそうだね。お兄ちゃんの平凡さにもいよいよ花が咲く時が来たのか


な? 呑気に寝ちゃって……でも、待って。てことは、これからずっとその好きな異性と一緒に寝泊り

するってことだよね? それって相当ヤバくない?」


 あごに人差し指を押し当て上を見上げながらふと疑問を呟くと、巫笛の後ろにいた二人は今までより

も一層顔を真っ赤にして煙をあげだした。


「きゅ~」


「ふにゅ~」


「あわわわ!? だ、大丈夫二人共っ!? ごめんごめん! お兄ちゃんは鈍い人だからそんなことは

思わないけど、二人は結構厳しかったね。でも、ある意味これは面白くなってきたかも!」


「も~、嬉しがらないでよ、巫笛ちゃん!」


「そ、そうですよ小鳥遊さん! それに、小鳥遊さんは野丸君のことどう想ってるんですか?」


「え? 私? ……私かぁ。私はどうも思ってないよ? 私はお兄ちゃんのことをホントのお兄ちゃん

の様に思ってるだけだから。好きっていう感情はないかな。兄妹愛? っていうのは少しあるかもだけ

ど……これが恋愛感情になることはないんじゃないかな?」


 と、腕組みをしながら未だ気絶している平太を横目で見る巫笛。すると、二人はホッと胸を撫でおろ

し安堵のため息をついた。


「おっといけない。そろそろお兄ちゃんを起こして朝ごはんを済ませて教室に行かないと授業が始まる

よ!」


「そ、そうですね! あっ、そうだ」


「ん?」


「これから恋の宿敵(ライバル)としてよろしくお願いしますね、雛本さん!」


「涼苺でいいよ? わたしも和音ちゃんて呼ぶから」


 握手を交わしながら笑みを向けてくる涼苺に、一瞬呆気にとられていた和音もふっと笑みを浮かべて

「じゃあ」と口を開いて言った。


「涼苺さん」


「うん」


 二人が互いに交わす握手と笑みを見ながら巫笛は柔かに笑みを浮かべながら平太を見下ろし「これか

ら大変になるよ、お兄ちゃん」と人ごとの様に言った……。

というわけで後半です。後半もっときわどい会話してましたね。入学式に会ったばかり――と思ってた鷹ノ宮和音。そんな彼女は実は主人公――平太と以前に会ってたんですね。本人覚えてないですけど。また、どうやら涼苺とも何やら関係がありそうです。コメディのはずが少し設定が深くなってますが、お気になさらず。

というわけで、次回はいよいよ題名にも書かれているハードスタディメンバーの

一人が登場します!

また今回挿絵載せてませんが、その内載せると思うのでその時にはお知らせします。

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