Study:4-A「ハチャメチャな朝と二人の恋煩い、イン管理棟」
こんちゃ! いや、おはーですかね? それともばんはーですか? 僕は今、とんでもない状況に陥っています。えーと、状況を説明致しますとですね? 僕の目の前に今、入学早々美少女と噂が立ってしまっている鷹ノ宮和音さんがいます。え? どうしてかって? そりゃあもちろん、一つ屋根の下で寝泊りしているからですよ。無論、手なんか出してません。そんなことしたら他の方々の目がヤバイでしょうし、何よりもご本人から特大の制裁を施されそうで……。
「う、う~ん」
寝返りを打つ鷹ノ宮さん。その度に彼女の長い黒髪が僕の鼻にかかり、鼻腔をその可憐な匂いがくすぐります。臭いフェチには堪らないものでしょう。無論僕は違いますけどね!
え? 嘘つけって? 誰が嘘なんかつきますか!!
僕は目の前に異性の顔があると思うと、何だか気恥ずかしくなり寝返りました。すると今度は寝顔も幼く見える雛本さんの姿がありました。
「――ッ!」
おまけに雛本さんは同居人の中で一番胸が大きく、その大きさは自身の寝巻きのボタンをはちきれんばかりにするほどのボリューム。所謂巨乳ってやつです。ロリ巨乳とはこの人のことをいうのでしょうね、鷲羽君。
――あ、あれ? 何か体が重たいですね。
まるで何かに上に乗っかられているような感覚を感じた僕は、ふと顔を上げました。そこには、すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てている小鳥遊巫笛こと、みふえちゃんの姿が。てか、どうして一番僕から離れた場所に布団があるのに僕の上に乗っかって寝てるんですか、この子は! これ、寝相が悪いどころの騒ぎじゃありませんよ?
「むにゃむにゃ、お兄ちゃん」
ビクッ!
“お兄ちゃん”という言葉に思わず反応してしまう僕。そりゃあ誰しも名前呼ばれたら反応するでしょう! あっ、言っておきますがお兄ちゃんというのは僕のことで、何故かみふえちゃんに幼い時からそう呼ばれています。別に一歳年が違うと言っても僕が先に年を取るだけですぐにみふえちゃんも追いついて同い年になるんですけどね。なんでも当人によれば姉だけでなく兄も欲しかったそうで……。その役に僕が抜擢されたのだとか……。
「にしても重い。おかしいですね、昔はあんなに軽かったのに……。それに、あの時からあんまり身長も伸びてないみたいなんですが……」
と、心の中で疑問を呟いていると、何かが僕の首周りに伸びてきました。それに視線を向けてみれば、それは細くて白い鷹ノ宮さんの腕でした。彼女は僕の首に腕を回し、顔をぐいっと近づけてきました。
――ち、ちょっと鷹ノ宮さんッ!?
昨日の今日でどうしてこんなにも大胆になれるのか意味が分からなかった僕はとにかく慌てるしかありません。何とか起きてもらおうにもこの状況ではまた何かしらのいちゃもんをつけて僕の責任にされるに違いありません。周りから見てみればただの責任転嫁ですが鷹ノ宮さんのことですからまず間違いないでしょう。
「ま、まずいッ!」
体を捩って抜け出そうにも僕の体に乗っかっているみふえちゃんが邪魔で、なかなか抜け出せません。それならば後ろに動けば抜け出せるかもと横を向いたまま後ろに足を使って移動したその時、背中に何か柔らかい物が当たるのを感じました。
――やや、この感触……ま、まさか!?
僕は明らかにそれに覚えがありました。今を思えば目の前には鷹ノ宮さんがいる。ということは反対側には無論彼女がいるわけですよ。そう――雛本さんが!
つまり、この柔らかい感触は雛本さんのお、お……く、胸なわけです。
「や、ヤバイ!」
この感触をずっと堪能していたら再び僕の理性がブレイクしてしまうので、急いで移動しようとしたその時、まるでそれを阻止せんかの如く今度は僕のお腹に後ろから誰かの腕が回されてきました。無論後ろから腕を回せる人物は一人しかいません。――雛本さんです。
――ま、まさか起きてるんですか!? もしもそうならば――僕、大ピーーーーーンチ!
何とかしないとと試行錯誤するものの、やっぱり良い策など出るはずもなく僕は途方に暮れました。にしても、目の前には鷹ノ宮さん。後ろからは雛本さん。上からはみふえちゃんとまるでサンドイッチ状態。これは他の男子生徒が喜び昇天してしまいそうなシチュエーションですが、今の僕には悲劇でしかありません。何せ、昨日の出来事がありますから……。これで鷹ノ宮さんが起きたりしたら僕のLIFEはゼロです!
「う、う~ん……」
後ろから怪しい声。やっぱり雛本さん起きているんですか?
「ポルットくん」
「……」
――え?
僕は一瞬思考が真っ白になりました。てっきり僕の名前が呼ばれると思ってドキドキどころかバクバクしてましたからあまりにも意外だったのです。それよりもなぜにポルットくん!?
ああ、ちなみに『ポルットくん』というのはマスコットキャラクターの男の子の事で、喜界島女学院の近くでよく活動しているらしいんですが、まさか雛本さんその子の事が好きだったなんで……。意外にも子供っぽい所があるんですねと僕は内心で少し驚いていました。しかし、僕はそのポルットくんではありませんよ!?
ギュウゥゥッ!
――うおおおっ! そんなにぎゅっと抱きつかれたら背中と胸の密着面積がもれなく広がっちゃうじゃな
いですか! しかも、寝巻きの下に下着を着けていないのかアレの感触が微かに……。いや、ダイレクトに! ぐはあ! 僕への精神攻撃ですか! いや、これは理性への攻撃!?
などとモノローグで叫びまくる僕ですが、声には出しません。ていうか、出せません。どうすればいいんですかこの状況。鷲羽君、このままでは僕は確実に三人によって理性をブレイクされてしまいます。え? いっそのことブッ壊れちゃえって? 誰ですか天使もとい悪魔の囁きをなさってる方は!? そんなの……で、出来るわけないじゃないですか!
「うるさいですね……」
「――ッ!」
ま、まさか本当に起きた?
「次、何かえっちなことしたらぶっ殺しますから」
――いぃぃぃやぁあああああああああああ!
鷹ノ宮さんの口から出た恐ろしい言葉。女の子がそんなこと言っちゃいけません! なんてお茶目に言ったところでモノローグだから伝わるわきゃありません。絶対に起きてるでしょこれ!
僕は一応確認のためにとおそるおそる鷹ノ宮さんのほっぺたに人差し指を近づけてみました。
プニッ!
――ああ、柔らかい……。じゃなくて、ふぅ、どうやら起きてはいないようですね。
と安心したのも束の間、鷹ノ宮さんは思いもよらぬ行動を取ってきました。
パクッ!
「~~~~ッ!?」
なんと鷹ノ宮さんは僕がほっぺたに人差し指を押し付けていると、顔を動かしてあろうことかそのまま僕の人差し指を食べ物の様に口に含んでしまったのです。
――ええええ!? な、何してらっしゃるんですか鷹ノ宮さんッッ!? そんな嬉し――じゃなくて、恥ずかしいことをッ!
ペロペロ。
――あふんっ――って、ちゃあああああああう! そうじゃなくてですね、あ、そこ気持い――って、だから違うんですよ! 鷹ノ宮さん起きてください! てか、これ確実に起きてるでしょ!?
僕はもう一度鷹ノ宮さんの顔を窺います。――が。
「スースー」
と寝息を立てているだけ。それにしても、器用な人ですね。寝たまま普通指舐めれますか? しかし、何とかしてこの指を抜きたい。そんな事を切に願っていたその時、小さな悲劇は起こるのでした。
ガブリ!
――いったあああああああああああああッ!
なな、なんと鷹ノ宮さんは僕の人差し指を何と勘違いなさったのかかぶりついてきたのです。それも、歯を立てて! インクレディブル、信じられません!
「くち、くち、口開けてください!」
僕はあくまでも起こさないように鷹ノ宮さんの口をこじ開けようとしますが、何故か顎の筋力が強いためか抜けません。それどころか無理に口を開けようとしたせいで逆に強い力で僕の人さし指をガブリ! マジで痛いです! 指が噛み千切られるかもしれません!
――ど、どうすれば? や、やばい痛くて涙が……。ホントに起きてくださいよ鷹ノ宮さん! いや、で
も起きたら起きたでこの状況はまずいッ! ああもう、どうしたらいいんですか!
起きても起きなくても僕には破滅の道――BAD ENDへしか向かっていません。どうすれば正しきルートに進めるというんですか、神様!
「ムニャ……おいひぃ。モグモグ」
――だから、食べ物じゃないんですって! そうだ、食べ物を噛む物だと思ってるんですね? だったら、効くかは分かりませんがイチかバチかです!
そう言って僕は鷹ノ宮さんの耳元でこう囁きました。
「これは噛む物じゃなくて舐める物です。舐める物です。舐める物です」
まるで催眠術をかけるかのように重要な部分を三回繰り返しました。すると、驚きや驚き意外にも効果があったのか、鷹ノ宮さんは急に顎の力を緩めると、再び僕の人差し指を舐め始めました。
「ふぅ、助かったぁ」
気づけば汗びっしょり。そりゃそうです。危うく僕の大事な人差し指が噛み千切られるところだったんですから。しかし――。
ペロペロ。
再び始まってしまった指舐め。これ、何てプレイですか?
「んんっ、ひ、ひょっぱい」
――ん? 今何て言ったんですか? しょっぱい? まぁ、そりゃあ指ですからね。
「あみゃいのが食びぇはい」
そう言うと鷹ノ宮さんは指舐めを激しくしてきました。
――うぉおおおおッ! や、ヤバイ! 何ですかこれ! こんなに威力あるんですか指舐めって! 鷹ノ宮さんの舌の感触が唾液と混ざって僕の指を舐めてきます。
と、その時――。
ズズズッ!
「――ッ!?」
ついに鷹ノ宮さんは驚きの行動に出てきました。僕の指を舐めるだけでは飽き足らずバキュームしだしたのです。口を窄め激しく吸引する鷹ノ宮さん。よく見れば、いつの間にか僕の人差し指を離さないように僕の手は鷹ノ宮さんの両手に握られていました。柔らかい女の子の手の感触。入学式の際、鷹ノ宮さんと手を繋いだ時の感触。しかし、今はそれどころじゃありません。この吸引力。まさに吸引力の変わらないただ一つの掃除機の如く!
「ぷはぁ」
そして、ようやく僕の人差し指が鷹ノ宮さんの口から開放されました。唾液が透明の糸を引き、僕の人差し指と鷹ノ宮さんの口の端にいやらしい架け橋を作り出します。なんて淫靡な光景でしょう。すんごく危ないです。しかし、そんな僕の理性も露知らず、鷹ノ宮さんはさらに衝撃の一言。
「おそば、美味しかったです」
――えええっ!? お蕎麦ですか? その感覚で食べてたんですか? え、でもお蕎麦なら何で指を舐めたんでしょう?
そう思うと少し疑問でした。しかし、あの吸引力は確かにお蕎麦を食べる時のもの……。食べ物を食べる夢でも見ていらっしゃったんでしょうか? にしても、この指どうしましょう。すっかりふやけておまけに鷹ノ宮さんの唾液付き……。
「…………唾液」
――ゴクリ! って、だめぇえええ! そんなのダメに決まっているじゃないですか! 男としてそれはどうなんですかって話ですよ! そんなの許される訳ないじゃないですか! 何考えてるんですか僕は! しっかりしてください野丸平太ッ! 指舐めプレイされて理性が崩壊しかけているからってやっていいことと悪いことがあります! え、見てなきゃOK? ですって? ノンノン、そんな訳ありません! 絶対にバレますよ! 第一、この指で何するつもりですか! え? 匂いを嗅ぐとか舐めるとかですって? 何と、マニアックな! 我ながら恐ろしい方です――って、僕の事でしたね。
「見てなきゃ……OK……確かに今は誰も起きていないです」
周囲を見て再び喉を鳴らす僕。目の前には鷹ノ宮さんの唾液で濡れた人差し指。微かに残る彼女の口内の暖かさ。ほのかに感じるあの時の柔らかな口内の感触。
――やばい、いよいよ僕もあっちの世界にゴールインしてしまいそうです。誰か引き戻してください、ヘ
ルプミー!
「ふ~ん、誰も見ていない……ですか。それは間違いですね、野丸君?」
――あれ? 気のせいでしょうか。今鷹ノ宮さんの声が聞こえたような気が……。
「気のせいじゃありません」
――モノローグ聞かれてるッ!?
「はい。それよりも、どういうことなのかご説明求めたいのですが?」
「えと、僕もモノローグで会話出来るあなたの構造が知りたいです」
「それって、脱いでよく中を見せろってことですか? やっぱり変態さんですね」
「ち、違います! すぐ、そっちに持っていくんですから……。僕はそんな人じゃないですよ!」
「どうですかね~。その人差し指濡れてらっしゃるみたいですけど、なんででしょう?」
「な、なんででしょう?」
僕は声を震わせながら視線を逸らしました。
「答えは至極単純です。まず私の口から唾液が垂れていることが一つ。もう一つは、すぐ目の前に犯罪者がいるからです」
「異議あり、僕は犯罪者じゃありませんよ!」
「犯罪者が野丸君だとは言っていませんが?」
「うぐっ!」
ドツボでした。
「ゆ、誘導尋問ですよ、それは!」
僕は何とか言い訳をしますが、無駄なことは百も承知でした。
「果たしてそうでしょうか? 今までの野丸君の前科を教えてさしあげましょうか?」
「遠慮しておきます」
聞けばどうなるか分からないので僕はそう答えました。率直に。
「それは残念です。では、罪をお認めになりますね?」
「はい」
「では、何をしようとしたのか教えてくれませんか? 指舐め未遂さん?」
「グハッ! 人の傷口に塩を塗るのがそんなにお好きですか?」
精神攻撃を受けた僕はそう鷹ノ宮さんに尋ねますが、彼女はただ怖い笑みを浮かべて僕を見ているだ
けでした。僕にそんな権利はないと……。
「寝ぼけている鷹ノ宮さんに指を舐められて……」
「え?」
「え?」
僕は事件の内容を話した瞬間に鷹ノ宮さんが疑問の声をあげたのを聞いて、思わず話を止めてしまい
ました。
「どうかしたんですか?」
「な、何でもありません! つ、続けてくださいっ!」
明らかに何かに動揺している様子ですが、それが何かがわかりません。
「それで、今度は指を鷹ノ宮さんに噛まれて」
「わ、私そんなことしたんですか!?」
ガタッ! と慌ただしく起き上がって顔をグイッと近づけてくる鷹ノ宮さん。
「ち、近い……です」
「ああっ! ご、ごめんなさいっ!」
今度は素直に謝り出す鷹ノ宮さん。やっぱり彼女は変わった人ですね。僕よりもずっと変人さんじゃないですか。
「ああ、恥ずかしい……」
頬に両手を当て顔を真っ赤にして恥ずかしそうな表情を浮かべる鷹ノ宮さん。余程粗相をしでかした
のが恥ずかしいのでしょう。
「私はなんていけないことを……」
「まぁまぁ、そんなに気を落とさないでください。僕ももう気にしてませんから」
「いいえ、そうはいきません!」
「え?」
「だって、せっかく野丸君の指を舐めたのにその時の感触を私は覚えていないんですよ? 野丸君は私
の唾液の味を知ったくせに!」
――んん? すみません、鷹ノ宮さん。僕の聞き間違いでしょうか? 何か今、見に覚えのない冤罪を加
えられたような……。
「鷹ノ宮さん。僕はまだあなたの唾液を舐めてないですけど……?」
「え? そ、そうですか。だったら、直接確かめなさってください!」
――なんでそうなるの!? そこはそうですか。までで十分じゃないですか! どうしてわざわざそんな
恐れ多いことを!? しかも、直接ってキスしろってのと同じじゃないですか!
「いやいや、そんなのダメに決まってるじゃないですか!」
「そう、ですか……」
何故少し悲しそうな表情を浮かべるのかはよく分かりませんが、そういうのは好きな人同士がやるべ
きだと思います。軽はずみでやっていいものだとは僕は思いません。
「それで、この指はどうすれば?」
未だに人差し指に付着している唾液を見ながら僕は鷹ノ宮さんに尋ねました。すると、少し恥ずかし
そうにしながら答えました。
「お、お好きになってくださって結構です。そんなに、お舐めになりたいのでしたら、それでも構いま
せん……。ただ、野丸君のイメージはがた落ちですけど」
――そんなこと言われたら選択肢は一つしかないじゃないですか! 僕のイメージのために舐めたらいけないのと同じじゃないですか! 紛らわしく選択肢を二つ用意してくださったみたいですが、僕にとっての選択肢は一つしかありませんよ! 無論、前者で! 後者は舐めてイメージをダウンしろって命令してるのと同じ事ですからね!
「じゃあ、洗ってきます」
「え、舐めてくれないんですか?」
――じゃあなんで脅しみたいなセリフを吐くんですか! てか、そんなに舐めてほしいんですか?
「……舐めればいいんですか?」
「それは……」
自分でもなぜこんなことを鷹ノ宮さんに尋ねたのか理解できません。ただ、相手が卑怯にも潤んだ瞳
で見つめてくるのでそうするしかなかったのです。決して舐めたいというわけではありませんので、あしからず……。
というわけで、朝っぱらから何やってんだ状態な主人公と他ヒロイン三名。
ちなみに、挿絵――入れてみました。少し明るさが暗いのはまだ日が昇っていないからです。しかも、頬をぷにって押したと思ったら刹那――指舐めプレイってどういうことなんでしょうね? というわけで、後半はめっさラブコメっぽい話になります。