Study:1「ハチャメチャな出会い!?」
この小説サイトで初のオリジナル小説です。
Study:1「ハチャメチャな出会い!?」
こんちゃ! みなさん今日も元気に一日を過ごしていますか? 僕は全く持ってそんなこと感じたことがございません。ええ、感じちゃいませんとも。
と、まぁここで軽く自己紹介をば。僕の名前は『野丸 平太』。名前からも分かる通り、割と平凡な名前です。そんな僕は割と見た目は普通の学園『帝都神勉学園』に通っています。随分と変わった名前だって? それもそうでしょう、僕も最初はそう思いましたとも。しかし、それにはワケがあったのです。しかし、この時僕はそんなこと全く微塵も気に留めてなどいなかったのです。
ここ、神勉学園は校風も変わっていて、どんなに頭が悪い人でもどんなに頭が良くても普通に入れる、謂わば中学卒業にして浪人など絶対にしたくないという人――即ち、僕の様な人にもってこいの場所でした。
しかしまぁ、一体どうしてそんな校風になっているのか。仕組みやシステム……ん? これって同じようなことだっけ? まぁそれは置いといて。つまり、どんな学校なのか僕も中身は実際の所一ミクロも知らないのです。そんな不安な心も傍らに抱きつつ、今僕はその神勉学園の正門にいます。
春麗らかな春。学園に植えられた幾本もの桜の木から風に揺られて舞い散る桜の葉。うん、全く持って初登校――入学式に相応しい!
ちなみに今日親はいません。というか、そもそも僕の親はこの学園から物凄く離れた所にあるので、いないのは当たり前? っちゃぁ当たり前なんですが……。だから、僕は寮生活を送る事になっています。ちなみに、寮生は学園内にある寮棟で過ごすらしいです、はい。
寮だから周囲は全部生徒さんなワケですが僕、友達とかいないんで凄く心配です。
というのも、先程も言いました様に僕の母校『平凡中学校』もまた親同様遠くにあるので友達がいないのも仕方ないことなんですけど。いや、しかし入学式に知り合いが誰もいないというのはいささか不安なものです。僕の心臓は緊張と不安で張り裂けそうです、ズキズキ。
「あのぅ……」
「はい?」
突然話しかけられた僕は思わず後ろを振り返りました。聞こえてきたのは確かに女性――というか女の子の声。オドオドした様子の話しかけ方からして恐らく僕と同じ新入生だということは容易に分かります。
「新入生の方ですか?」
「そ、そうですけど……」
相手同様自分も思わずたどたどしくなってしまいます。てか、女の子とあまり話したり接したことがなかったため、免疫があまりないわけで……。
「あのぅ、もしかして友達とかいません?」
――グサッ! 何ですか、この人!? 思いっきり僕のピュアハート串刺しにしてきたんですけどッ!?
僕は心臓に走る激痛に胸を押さえ、表情を引きつらせながら相手に訊き返した。
「ど、どうしてそんなこと聞くんですか?」
「えっ!? そ、それは……そのぅ、私も友達がいないので」
返ってきた言葉は意外や意外。どうやら彼女も僕と同様友達がいなかったようです。彼女も遠出なのかな?
「そ、そうなんですか。それで、どうして僕に?」
「友達いなそうな顔をしてたので、よかったら一緒に行動したいなぁ~と思って」
――グハッ! またしてもこの人は僕の心に先程の二倍のダメージをッ! ていうか、そもそも僕は友達がいないんじゃなくて遠くから神勉学園に通うために来たから友達がいないだけで別に友達がいないとかそういうんじゃないんだからねっ!?
とか何とかツンデレ風にモノローグでツッコミつつ、僕は彼女に言った。
「べ、別にいいですけど、ところであなたお名前は?」
僕は懇切丁寧に相手に尋ねた。
「あぁ、すいません。えと、私の名前は『鷹ノ宮 和音』って言います。
あなたは?」
「ぼ、ぼくぁ!」
カァァアァッッ!!
思わず顔を真っ赤にする僕。格好よく自己紹介をキメるはずが緊張しすぎて思わず舌を噛んでしまいました。
「……ふふ」
顔を背けて含み笑いをする彼女――鷹ノ宮さん。
「わ、笑わないでくださいッ!」
僕は耳まで真っ赤にして言った。
「ごめんなさい、それでお名前は?」
「野丸平太です」
少し愛想を振り撒きながら僕は言う。と、そこで僕らを急かすかのようにチャイムが鳴り響いた。その音を聞いて鷹ノ宮さんが口元に手を運び、僕に尋ねる。
「早く入学式の会場に向かわないと、式始まっちゃいますよ?」
その言葉を聞いて僕も入学式の会場である体育館へ向かおうと思うのですが、そこで僕はとある重大なことを思い出しました。そう肝心なあのこと――。
「はっ! そういえば、体育館ってどこでしたっけ?」
頭をかきながら首を傾げる僕に鷹ノ宮さんは一瞬唖然となりました。まぁ、それもそうでしょう。
「実はかくかくしかじかで……」
とまぁ、鷹ノ宮さんには軽く説明しましたが、ここで詳しく説明しますと実は僕、不覚にも今日の始業式が楽しみすぎて昨夜良く眠れなかったのです。結果、案の定僕は遅刻するハメとなりました。経緯はこんな感じです。
「そうだったんですか。では仕方ありませんね」
そう言うと鷹ノ宮さんは僕の手を強引に取り、急に駆け出しました。僕は頭上に疑問符を浮かべながらその後をついていくことに……。というか、実は僕こう見えても女の子と手を繋いだのはこれが初めてみたいなものなんです、ええ。信じられないかもしれませんがホントです。決して嘘ではありません。
しかし、初めて感じる女の子の手の感触……いやはや、男の人の手と違って凄くふわふわしてて柔らかい優しい感触がしました。別に卑猥なことを言っているわけではありません。至って僕は健全な男子高校生です。確かにいやらしい妄想を全くしないといえばそれは嘘、偽りになりますが常日頃考えているわけではないんです。
「しっかり走ってください、野丸くん!」
自分の名前を呼ばれて思わずハッと我に返った僕はふと鷹ノ宮さんの綺麗な長い黒髪に目が行きました。彼女の髪の毛は腰の辺りまであって、それが走っている際に風に揺られてユラユラと波に乗るかのようになびいています。おまけにその髪の毛から春の暖かな風に乗って僕の鼻腔に彼女の優しい良い匂いが漂ってきました。フルーティな香りに一瞬別の世界の情景を思い浮かべかける僕ですが、そんなことをしている暇はないと自分の欲望に打ち勝ち、首を振ってその世界をぶっ壊します。にしても、女の子から良い匂いがするというのは本当だったんですね。中学時代良く男友達からそんな話をされたことがありましたが、今分かりました。鷲羽くん、君のいうことは正しかったですよ。でも、僕は決して臭いフェチなどではありません。そんなクンカクンカと相手の体臭を嗅いだりなんかしません。
ちなみに、僕は実際ここでこのような丁寧なしゃべりをしていますが、決していいとこ育ちだというわけではありません。幼い頃、とある幼馴染と一緒に遊びまわっていた時期があったのですが、その際にその幼馴染が今の自分の様な喋り方をしていて、それを僕がマネている内にこうなってしまったわけです。普通の口調でも喋れないことはないのですが、何分こちらの方が僕としても慣れてしまっているので、こうしてこの口調で話しているとまぁ、そういう訳です。
「はぁはぁ、着きましたよ」
呼吸を乱しながらそう言う鷹ノ宮さんの言葉に僕は「ありがとうございます」と懇切丁寧にお辞儀をして感謝の意を示す。鷹ノ宮さんは体育館の入り口まで走ってくるのに少し汗をかいたようで、こめかみ辺りから一筋の汗が垂れていました。
僕は咄嗟にポケットから取り出したハンカチを鷹ノ宮さんに手渡した。
「えっ?」
「汗、これで拭いてください。始業式の最中に、汗かいてたら何だか気分が悪いでしょう? ささ、どう
ぞ!」
そう言って無理やり押し付けるように僕は鷹ノ宮さんの手にハンカチを握らせた。すると、そのハンカチをしばらく見つめた鷹ノ宮さんは僕を侮蔑の眼で見ながら言った。
「ま、まさかこのハンカチで私が汗を拭った後、それを家に持ち帰り臭いを嗅ぐだなんてことはありませんよね?」
その言葉に僕は慌てて弁解した。
「と、ととととんでもありません! そんな、滅相もありません! 僕はそのような性癖の持ち主じゃないですって!!」
「絶対に臭いを嗅がないと言い切れるんですか?」
「……そ、そりゃぁ……もち、ろん」
何故かきっぱり嗅ぎませんと言い切れなかった僕。我ながら情けないばかりです。でも、先程も言いましたように僕は健全な男の子なんです。全く臭いを嗅がないのかと言えば、そうではなく、嗅ぐのかと言われればそうでもないと、曖昧な感じなのです。まぁ嗅がないという可能性はなきにしもあらずといった感じです。
一方で鷹ノ宮さんは顔を真っ赤にしてさらに続けます。
「や、ややっぱり嗅ぐんですね? その不気味な間が何よりの証拠です!! やっぱり、結構です。このハンカチはお返しします。それに、ハンカチならば私も持っていますから」
「そ、そうですか。じゃあ、そうします」
と言って僕は鷹ノ宮さんからハンカチを受け取りました。べ、別に残念がってなどいませんよ!? ええ、残念がって……なんか。ゴホンゴホン、そこッ、「やっぱり臭いフェチ」とか言わない!!
「そういえば、クラスはどこなんですか?」
ふと思った疑問を僕は鷹ノ宮さんに投げかけました。さっきからずっと思っていた疑問です。彼女程の
人がまさか自分と同じ中間のセンタースタディなんかじゃないでしょうし……。いや、ここで会ったのも何かの縁……、もしや同じクラスかもと思っただけのことです。べ、別に美少女と一緒に毎日仲良く登校したいなウフフフ♪ なんて卑猥なことは考えてませんよ?
「ふぅ、えと……確かセンタースタディクラスだと思います」
「え?」
思わず僕は我が耳を疑いました。確かに聞こえたのです。僕が毎日入ることになる教室のクラスの名を……。
「あ、あの……すみませんが、リピートアフタミー?」
「えっ? お、オーケー? そ、その……センタースタディクラスです」
やはり聞き間違いではなかったようです。彼女――鷹ノ宮和音さんもまた、僕と同じセンタースタディクラスだったようです。こ、これは……や、やったぁああああああああああああああああぁぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁあぁあッ!!!!
今の僕は内心こんな感じです。でも、外見はあくまでも冷静に……。
「へ、へへへぇ~そ、そうなんですかぁ~き、奇遇だなぁ~。じ、じじ実は僕も――」
「えっ? 臭いフェ――野丸くんもセンタースタディクラスなんですか?」
――グサッ!! 何ですか、その明からさまに嫌そうな顔はッ!? も、もしかして本当に僕の事が嫌いになりましたか? さっきのあのやり取りだけで? ホワィ!!
と、内心大パニックの僕は、内心がこれだけなだけあって表面上も相当なショックを体現していました。合計三回の精神攻撃を受けた僕は、多大な疲弊によりダウンし、その場に突っ伏してしまった。
「ていうか、今臭いフェチって言いかけましたよね?」
僕は地面に頬を密着させたまま上を見上げて鷹ノ宮さんに文句を言った。
と、その時、僕は気づくべきだったのです。実はここ――神勉学園の制服……男子は無論ズボンで女子はスカートなのですが、問題はその女子のスカートの丈の長さにあります。その丈の長さ膝上15cm。驚きですよね? てなわけで、そうなると必然的に見えちゃうわけですよ、秘密の花園が……。いや、決して覗きたくて覗いたわけじゃあないんですよ! そのつい、見えちゃった……みたいな?
「あ、な……し、白?」
「へっ?」
僕の呟いた言葉に素早く足元の僕を見下ろす鷹ノ宮さん。その目には羞恥と憤怒の色がいないいないばぁ――もとい見え隠れしていました。今にも怒りの火山――憤怒山が火を吹き出して噴火しそうです。
「い、いやぁああああ、野丸くんのエッチぃぃぃぃぃっ!!!」
バシィィィィィィィィィィィィィィィンッ!!
割といい音が鳴り響きました。ええ、もれなく僕の右頬に真っ赤な紅葉がこんにちはです。
「ふん、まさか始業式早々に粗相をしでかした相手がまさかこんなにもエッチな人だったなんてショック
です。野丸くんは臭いフェチの上にエッチな人だったんですね!」
そう言ってぷいっとそっぽを向く鷹ノ宮さん。その仕草が何故か少し可愛くて思わずキュンとしてしまう自分がいることは内緒です。
「そ、そんなこと言わないでくださいよ~! あれはただの嬉しい事故で――」
「嬉しい?」
「嬉しくありません!」
「……嬉しくなかったんですか? 私の下着……覗いたのに?」
少し悲しげな表情を浮かべて目尻に涙を溜め僕を上目遣いで見つめる鷹ノ宮さんの視線に思わず僕はそれ以上言えなくなってしまいます。
「いや、嬉しくないかと言ったら嬉しいんですけど……。だってこんな可愛い女の子と話した上にその、ぱ、パンツまで見れたんですから眼福です」
「やっぱり変態ですね、警察に電話しましょうか?」
「全力でご遠慮させていただきます!」
指を真っ直ぐピンと伸ばして腰から上半身を45度に傾けて懇願する僕に、さっきまで不機嫌な顔をしていた鷹ノ宮さんは急に表情を柔らかくして何か案でも思いついたかのようにその手をポンと叩いた。
「ではこうしましょう!」
「え?」
何やら不穏な空気を感じた僕は背筋に何か冷たい物が走るのを感じた。僕的には早いトコ体育館の中に入って同じクラスの面々の顔を確認しておきたいところなんですけどね。
そんな僕を尻目に彼女は笑みを浮かべて言った。
「私の恥部を見たんですから、野丸くんも私に恥部を見せてください!」
その提案はとても恥ずかしい物だった。よもや、こんな容姿端麗、才色兼備の言葉が似合いそうな美少女から『恥部』と言う言葉が出たとは驚きです。この場に彼女の母親がいたならば女の子がそんな下品な言葉使ってはいけませんと、もれなくお叱りを受けるでしょう。しかし、この場に鷹ノ宮さんの母親の姿はありません。そういえば、どうして彼女の母親はいないのでしょう。まさか僕と同じ理由だとは到底思えないですし。
内心そんなことを思いながら僕は頬をポリポリとかきながら申し訳なさそうに言った。
「すみません鷹ノ宮さん。さすがにそれは……公衆の面前で恥部を見せるのはご勘弁いただけませんか?
そんなことしたら本当に僕は警察の方々のお世話になってしまいますので」
「何を言っているんですか? 早くしてください!」
「……」
どうやら鷹ノ宮さんは本気の様です。よほど、パンツを見られたのが屈辱的だったのでしょう。まぁ、確かに僕も女の子だったら、初めて会った異性の相手にいきなり下着を見られたら怒りもするでしょう。殺しもするでしょう……いや、これはやりすぎですかね?
僕は困った。困り果てました。だってこんな体育館の入り口で恥部を見せろだなんて、そんな何のプレイかもよくわからないことをしなければならないのですから。しかし、ここまで来てしまったからには不詳、野丸平太……平凡な名前だと笑われ続けて早16年。ここで男を見せなくてどうします! こうなったら男を見せてやりましょう、ええ見せてやりますとも! 別に変な意味じゃないですよ?
「わ、分かりましたよ鷹ノ宮さん。本当にいいんですね? 後悔しませんね?」
「は、はい! これでおあいこです!」
何やら自信満々に言う彼女はちらりとも意思を変えるつもりはないらしい。
はぁ、とため息をついた僕は半ば諦念の気持ちで自らのベルトに手をかけました。
「え?」
何か疑問の声が聞こえた気がしたが気のせいでしょう。恐らく体育館に入場している新入生に決まってます。ふっ、入学早々嫌な噂を立てられそうです。まぁ、それも乗り越えてみせましょう! ……乗り越えられますかね、鷲羽くん。
「じゃあ、行きますよ鷹ノ宮さんッ!!」
覚悟を決め、僕はベルトを外してチャックを下ろすとズボンに手をかけてバサッとその場に自ら下ろした。
春だというのに、何故か僕の足には冷たい風が吹き付ける感じがしました。羞恥のせいで僕の顔は恐らく真っ赤になっていることでしょう。例えるならそう、真っ赤なりんごのよう。
さぁ、見てくれましたか鷹ノ宮さん? これでおあい――こ。……あれ?
「タカノミヤサン?」
僕は気が動転してどうかしていたのでしょうか? 目の前に鷹ノ宮さんの姿はなく、そこにいたのは見知らぬ少女でした。しかも彼女は興味津々そうに徐に僕の下半身……主に股間を凝視していました。凄く恥ずかしくなってふと自分もそこへ視線を注いでみますと、何故かさっきから異様に風をモロに感じていると思えば、僕はあろうことか例のアレを自分と同級生と思われる少女の目の前にさらけ出していたのです。無論、鷹ノ宮さんではなく全く見知らぬ少女に……。今度こそ僕は終わったとそう思いました。その絶望感は尋常じゃないものです。何せ、恥部どころかモロに醜態を晒してしまったのですから。この少女もきっと悲鳴をあげて倒れるか、その場から駆け出して警察署へ直行でしょう。あぁ、僕の青春よさらば。始まる前に終わっちゃっいましたよ。まるで、咲きかけの桜の木を伐採するかの如く。
「ほぇ~、これ何ですか?」
少女から返ってきた警察に通報の一言――ではなく、疑問の……って、え? 今何と?
僕は疑問に想い、慌てて今の自分の醜態をこれ以上多くの他人に見られないようにとズボンをあげた。
「何で、隠すんですか~?」
少女は不満の声をあげて僕を見上げてきます。いや、隠すも何も本来見せてはならないものですよ、これは!
「ごめんなさい、申し訳ないんですがこれはあなたにはお見せ出来ないものですので、勘弁してくださ
い!」
しかし命拾いをしました。どうやらこのほんわかした様子の少女は思ったよりも知識量が少ない様子で、そのおかげで僕は九死に一生を得た訳です。
「う~ん、そっか~。謝られちゃったら仕方ないですー。わたし、“はいまなしき”に出ないといけないので、これで失礼するですー」
「ん? はいまなしき? 何ですか、それ?」
意味不明な単語に僕は首を傾げて、僕よりも少し身長の低い少女に尋ねた。すると、少女は満面の笑みを浮かべて言った。
「『ていはぐやかた』で開かれる会のことですよ? はいまなしき! わたし、『あたはいなま』だからそこに行かないといけないのですー。あなたもそうなんですよね?」
そう聞き返してくる彼女に僕は曖昧な返事をすることしか出来ませんでした。いやでも、それも致し方ないでしょ!? だってこの子、さっきから『ていはぐやかた』だの『あたはいなま』だの訳の分からない人外語を使っているんですから、そりゃあパニクりもしますよ!
しかし、この学園は実に個性的でユニークな人達がたくさんいるらしいです。にしてもこの子、一体なぜこんなヘンテコな言葉で喋ってくるんでしょう。それに、気になるのは最後の一言――あなたもそうなんでしょ? この言葉が引っかかります。決して僕はそんなあたはいなまなどでは――ん? 待てよ? あたはいなま……僕と共通すること……。それはたった一つ――入学式。ハッ! そういえば、もう一つの訳の分からない言葉。――はいまなしき! これって、感じに変換していったら……『入る』という字に『学ぶ』という字に『式』という字。つまり、この子の言っている『はいまなしき』というのは入学式を意味していたんですね!? しかし、これはまた随分と面倒なトリックを……。いや、トリックなのかどうかは定かではありませんが。ということは後の『あたはいなま』と『ていはぐやかた』も何かちゃんとした意味が――。う~ん、ああっ! なるほど『あたはいなま』は『新入生』をこれまたこれまた訓読みして、『ていはぐやかた』もまた『体育館』を訓読みしたんですね? てかこの子、ある意味別の才能があるのかも……。いや、それより漢字を訓読みしか出来ないって終わりでしょう!? これは一言物申さねば――。
そう意を決して僕は少女に語りかけるように視線を合わせて言った。
「ねぇ、君。『はいまなしき』は『入学式』で『ていはぐやかた』は『体育館』、『つかはいなま』は
『新入生』って読むんですよ?」
「ふぇ? そ、そうなんですかー? わ、わたし、知らなかったですー」
本当に知らないように答える少女に、僕は一瞬恐れを感じた。よくもまぁ、それでこの学園に入る事が出来たものだ。いやでも、この学園はどんなに学力最悪でも入れるのがウリだって言ってましたね……。もしかしたらこの子もそれに目をつけてここに――。
「ハッ! いけない、入学式が始まってしまいます! じゃあこれで! あっ、そういえば、あなた名前は?」
「わたしは『つくも ゆすら』ですー」
――つくもゆすら? 変わった名前ですね。まぁ、自分も平凡な名前だと言われますからまぁここは気にしないことにしておきますか。それに、急がないと本当に入学式に間に合いません!!
「じゃあ、またどこかで会いましょう、つくもさん」
「はい! バイバーイですー!」
まるで幼稚園生を相手にしているかのような感覚でした。しかし、中身は幼稚園生並でも体つきはまさしく高校生なわけで……小柄な割には胸が大きかったです。あれは所謂頭への栄養が胸へと――のパターンでしょう。
僕は、急いで体育館の中へと駆け出し、センタースタディクラスの座る席へと向かいました。
そういえば、あのつくもさんと対話している内に鷹ノ宮さんのこと忘れてました。あの人、一体どこへ行ったんでしょう? ま、まさか本当に警察に!? そ、そそそれだけはご勘弁を~!
しかし、そんな僕の心配もいらぬ心配だったわけでして、僕が座る席へ行くと、そこには見覚えのある黒髪の後ろ姿がありました。そう、鷹ノ宮さんです。でも、どうして先に行ってしまったんでしょう? おかげさまで僕は相手が知識欠如していたとはいえ、つくもさんに恥部を拝見させてしまうハメになったワケなんですが……。
と、内心焦っていると、先生がツカツカとやってきてスタンドマイクに向かって一言物申しました。
「えーではこれより入学式を始めたいと思います。ご来場の皆様、新入生の諸君全員ご起立ください!」
少し太めの声がマイクからスピーカーを通して聞こえ、僕達はその声に反応するかのようにその場に立ち上がりました。
こうして、僕の新たな学園生活が幕を開けるのです!
というわけで、始まりました。魔界の少女、十二属性戦士物語と来て大きな話的には第三作目になる今作。今回は学園モノ、ファンタジーと来たのでコメディでいってみることにしました。と言っても、他の作品でもそこそこコメディが入ってはいるんですけどね。今回は地の文を主人公に語らせる――モノローグ的な感じで物語を進めていこうと考えています。しかし、それでも少々無理があるのでたまにナレーターが入ります。大体5、6話までは書き溜めていたのでどんどん載せられるんですが、そこから先はまだ書いていないので六話以降は徐々に更新が遅れるかもしれません。