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第二十一話 うごきだすとき




 ナイルは思考を巡らせた。



 この数え切れない程の魔物達は何故人々を襲うのだろう。

 村や森など、建造物や自然環境を破壊することに興味があるようには感じられない。

 彼等が目標と定めているのは、あくまでも人であるように見える。

 勿論木木にも、そこに住まう動物達にも大きな被害を齎しているけれど、それは結果的にそうなってしまっているだけだ。動物の逃げる速度よりも、魔物達の移動速度が速い為に巻き込まれてしまっているようにしか見えない。

 何故こんなにも人と云う対象に対して敵意を顕にするんだろう。


 土中から噴出した大量の魔物は、その数があまりにも多すぎて山のように盛り上がってしまっている。これじゃあ下にいる魔物は押し潰されて死んでしまうのではないだろうか。

 少し飛び上がって、魔物が通過した道筋を観察してみよう。

 ――想像通り、物凄い数の魔物が死んでいる。

 しかも後続の魔物達がその死体を食い散らかしながら進んでいく。

 魔物が魔物を食べることはあまり見たことがないけれど、厄災の時は何故かよく見られると書物に書いてあった。どうやら本当のことだったみたいだ。

 魔物が魔物を食べると、食べた魔物はより強力な魔物になる。

 あれだけの死体を食べながら進めば、暫くすれば随分と告老い魔物になるだろう。


 このような事態は、正常な思考ができる状態では起こりえないことだと思う。

 ならこの魔物達の行動は何かしら外的からの要因で起こされているんじゃないだろうか。

 数十年周期で漸く発露するような、限定的な衝動ではないとは云い切れないけれど、人の増加に比例し、また変化し続けると云う観点から、それは本能的なものではない可能性が高いように感じられる。

 それなら、この魔物達を操る上位の魔族だったり、それこそ魔王なんて呼ばれている人達が原因なのかもしれない。若しかしたら邪心なんて云う神様の仕業かもしれない。

 昔読んだ物語の中にそんな神様が出てきていたし、探せば見つかるかもしれないのだから、見つけたら聞いてみよう。

 なんにしても、魔物達がこんな状態じゃあ意思の疎通も難しいだろうし、少し手荒なことをしたとしても、追い払うことはできないんじゃないだろうか。

 魔物達から溢れる殺気は、これまでに感じたことがないくらいだし。

 仮令自分が傷ついても、死んだとしても、きっとそんなの関係ないんだ。


 自分が死ぬことも厭わなくなるほど、強力な洗脳だったりするんだろうか。

 でも世界各地で同時にこれだけの魔物を操ることができるなんて、いったいどんな人なんだろう。一人じゃなくて、たくさんの人が集まって操っているのかもしれないな。


 魔物達は何にも分からないままに、こんなことをさせられているんだろうか。

 それとも、自らの意思で、人々を殺すのだろうか。

 殺されてしまう人々も、何も分からずに殺されてしまうのだろう。

 物事には必ず理由があるけれど、まだ僕には厄災が意味する物が分からない。

 自分達が死んだとしても、人々を殺さなければいけない理由が分からない。

 僕はどうするべきなんだろう。

 放っておけば、たくさんの命が消えていってしまう。

 ならどちらも止めることが、一番なんじゃないかと思う。

 けれど、止めることが絶対的に正しいことだと、僕は判断できていない。

 これこそがこの世界の、天然自然の理なのかもしれないのだし。

 厄災が何を意味するのか――僕はあまりにも無知だ。





 魔物は土中から絶え間なく湧き続けている。

 アクトリアから北に位置するこの場所で、コルヌはどうしたものかと溜め息をついていた。


 フィロスから宛がわれた兵は僅かに百五十。さすがにフィロスに因って鍛え上げられ精鋭達も含まれているとはいえ、この程度の数ではたいした戦力にはならない。

 指定された現場に辿り着くと、そこには生き残った兵達がいた。

 戦う意思が砕けていないところを見ると、十分に実力のある者達なのだと理解できる。

 しかしそれでも総勢四百名にも満たなかった。

 しかもその半数以上が、既に消耗してしまっている。数日休むことができれば、それなりに魔力は体力なども回復するであろうが、状況はそこまで優しいものではなかった。

 生き残っていた兵達は、既に相当量の薬品を使用してしまっており、殆ど残されてはいない。コルヌ達が持参した薬品もあるが、この人数を一瞬で回復させられるような高級品はさすがに少なかった。

 そして最も重要なのが兵達の武具である。

 既に備蓄してあった装備品の七割を失ってしまっており、現在使用している物を失ってしまえば、いよいよ拙いと云う状況である。


 コルヌはしっかりと現実を認識して、再度溜め息をついた。


 「この状況、如何思います?」


 コルヌは自分の隣に立つ、矮躯の男性に声をかけた。


 『どうも思わん、いつものことではないか』


 如何にもつまらんと云った風に、グラドは鼻を鳴らした。


 「なるほど、これは頼り甲斐がありますねえ」

 『戯けが。お前等のような若造とは年季が違うんじゃ。あの程度で驚いたりせんわ』

 「なるほど、経験者の言葉には重みがありますねえ」


 グラドはドワーフである。

 自然種はエルフ等を除いて、身体が成長すると云ったことは殆どない。

 誕生したときから既に完成されているのである。グラドの容姿も殆ど変っていない。

 故に自然種は、どれほど生きてきたのかが分かり難い種族なのである。

 ローラは比較的若い。まだ八十年程しか生きてはいない。

 グラドはどうかと云うと、既に七百年近くの時間を生きてきている。

 厄災など、もう幾度巡り合ったか憶えてなどいなかった。


 『あの穴をふさぐのは厄介そうじゃが、なんとかなるじゃろう』

 「ドワーフと云えども、さすがに難しいですか」

 『あの魔物どもが邪魔じゃ、少し片づける必要があるわい』

 「なるほど、ではそちらは私が手伝わせていただきましょう」

 『ほう、なら手伝ってもらうかの。お前等も動けるか』


 グラドは僅か四百の兵達に声をかけた。

 その返事は非常に力強く、実に頼り甲斐のあるものだった。

 とてもこれから死地に向かうような顔には見えない。

 その瞳には悉く戦う意思が強く燃え上がっており、それはコルヌの闘志に十分な刺激を与えるものであった。


 「それでは僭越ながら、私の炎で道を開かせてもらいますかねえ」


 コルヌは兵達の士気を高める為に、自分が持つ最大の炎を披露することにした。

 足を大きく広げ、しっかりと腰を下ろし、コルヌは体勢を整えた。

 ゆっくりと深く、そして大きく息を吸い込むと、見る間にコルヌの胸部が膨らんでいく。

 身体が弾けるのではないかと云う程に大気を胸部へと蓄えたコルヌは、それは燃え滾る魔力を混ぜ合わせていく。

 コルヌの胸部が徐々に赤みを帯びていき、やがて真紅まで染め上げられた。

 身体の水分がその熱に耐え切れず、その上半身から水蒸気を発生させる。

 そしてコルヌは炎を胸内に生成させると、魔物の山へ向け一気に吐き出した。


 「――ッ!!!」


 それは声にならない咆哮であった。

 絹糸のような細く赤い線がコルヌの口腔から放たれた瞬間、魔物の山の一角が轟音と共に爆発した。

 爆発の範囲内にいた魔物はあまりの高熱に一瞬で蒸発し、範囲外にいた魔物は爆発に因って生じた熱に因って悉く発火し、次々に炭化していった。

 爆発の熱は遠く離れていたグラド達にも伝わり、その肌をちりちりと焦がした。

 その光景を目の当たりにした兵達は、竜人に対する畏怖の念を抱くと共に、尊敬の眼差しをコルヌに向けた。


 『ほほう、なかなかやるもんじゃ』

 「ふう――そうでしょう。竜人でもこれほどの火力を作り出す者は、なかなかいないんですよ」

 『しかしたいして減っておらんの』

 「ああ――そうみたいですね」


 一度で半分ほどの魔物を死滅させたコルヌの火力は凄まじいものであったが。それにも劣らない速度で魔物達は穴から吹き出し続けていた。

 それでもコルヌの放った咆哮の余韻は未だに継続しており、爆心地に侵入した魔物は余熱に因って漏れなく焼き尽くされていた。


 『あれでは他のもんが近づけんな』

 「ええ、この魔法はそれが欠点なんですよ」


 グラドはやれやれと云った風に肩を竦めると、グラドに同伴している二人のドワーフに目配せをした。

 それに即座に反応すると、三人のドワーフは一斉に厄災に向けて掌を翳した。

 グラド達の身体にうっすらと魔力の光が灯る。大地の顕現であるドワーフは、その大地から無限とも云える魔力を提供され、それを思うが儘に操る。

 三人のドワーフは一瞬で意識を同調させると、魔力を解き放った。

 その瞬間大地が割れた。

 その地割れの幅は途方ものない距離にまで広がっており、視認できる魔物凡てを丸飲みにした。

 そして次の瞬間即座に大地は元の姿に復元される。

 地割れに飲みこまれた魔物達は、想像を絶するほどの圧力に因って押し潰され、絶命した。


 「――これがドワーフの力ですか」

 『こんなもの児戯みたいなもんじゃ。ほれ、行くぞお前等』


 これで児戯ならば、本気を出せばどうなってしまうのか。コルヌは猿人種が竜人種に抱く畏怖の念を、痛い程理解できた。





 『お嬢ちゃん凄いじゃない』

 「それほどでもない」


 アーラの操る鞭に因って、次々に魔物達は蹴散らされていく。

 メレナはそんなアーラの後ろから、援護に徹していた。


 『これじゃあ私達の助けなんて必要ないわね』

 「そんなことない」

 『あら、そうかしら』


 妖精は愉しそうに笑うと、ひらりと手を振り上げた。

 振り上げた腕の延長線上にいる魔物達が、真二つに切り裂かれた。

 それは遥か後方の魔物にまで届き、空を漂う雲までも切り裂いた。

 どうやら風の魔法を使っているらしい。


 「貴女のほうが、とんでもない」

 『そんなことないわ、ナイルのほうがもっともっと凄いんだから。――折角ナイルに会えたのに、なんで私こんなとこでこんなことしてるのかしら』


 妖精は少々苛ついたのか、乱暴に辺りを薙ぎ払った。

 その一振りは暴風を巻き起こし、溢れかえった魔物達を切り刻みながら吹き飛ばしていった。


 『ナイルにお願いされたんでしょうが、やりすぎないようにしなさいよ』

 『はあい――さっさと終わらせてナイルに褒めてもらわなきゃ』


 既にアーラは腕を休めてしまっている。

 妖精達の不満の捌け口にされていく魔物達に、少々憐みを持ってしまった。


 「私達いらない?」

 「あはは――そんなことないと思います」


 実力差をまざまざと見せつけられ、がっくりと肩を落とすアーラに、メレナは優しく声をかけた。





 『お前さん随分荒々しいのう』

 「ふん、こんな雑魚共等ただの一振りで十分だ。退屈しのぎにもならん」

 『確かに雑魚ばかりじゃのう、歯ごたえがないわい』


 好好爺然とした風貌のドワーフがぬらりくらりと魔物の猛攻を交わしながら笑っている。


 「貴様もナイルに祝福を授けた一人なのだな」

 『そうじゃ。ナイルのお蔭で愉しくさせてもらっておるよ』

 「どうだ、ナイルなどではなく俺様に祝福を授けてみないか」

 『これはおかしなことを申す童じゃ』


 ドワーフは呵々と笑うと煩わしい魔物達へ岩の雨を降らせた。

 巨大な岩は魔物を押し潰すだけでは飽き足らず、そのまま他の魔物を押し潰しながら転がっていく。


 「俺様の何がいかんと云うのだ」


 ヴィゴーレは意識をドワーフへと向け乍ら、無意識のうちに魔物を次々に蹴散らしていく。


 『ワシは粗暴な輩は好かんのじゃ』

 「粗暴とは云ってくれるな。力こそ凡てではないと理解はしたが、俺様はそれでも力を求めるぞ。力なくしては何も成しえんのだからな」

 『力が凡てではないと云うことに気づいたことは褒めてやれるが、では何が必要なのかと云うことにまでは考えが及ばんようじゃな』

 「そんなものは後からでもどうとでもなるではないか」

 『そんな考えじゃから童なんじゃ』

 「貴様とは気が合わんな」

 『そのようじゃな』


 ドワーフは愉快そうに笑いながら、ヴィゴーレは不機嫌を当たり散らすように魔物達を蹂躙していく。

 その後ろから、呆れ顔の兵達と二人のドワーフがのんびりと追随していた。





 オプリは一心不乱に魔物達を切り裂いていく。

 その槍捌きは実に見事なもので、正に目にも止まらぬほどである。

 一振りのもとに百もの魔物を蹴散らしていく様は、まるで鬼神のようであった。

 彼に宛がわれた兵達もその姿に触発され、勢いのままに魔物達を滅ぼしていく。


 『まったく退屈ねえ、私達帰っていいんじゃないかしら』

 『でもナイルに怒られるわよ』

 『それはやだあ、ナイルに怒られたくなあい』


 オプリの頭上。戦闘の邪魔にならない程度の高さで、三人の妖精が楽しそうに会話をしている。

 夥しいまでの魔物をオプリが切り裂いていく戦場。そこには噎せ返るような血の臭いが充満しているにも関わらず、何故かその空間だけはまるで子供たちがお花畑で戯れているかのようであった。

 そんな場違いな雰囲気を辺りに撒き散らしている妖精達を、オプリは何とか無視しながら果てしない数の魔物へと意識を集中させる。


 『でも私もう飽きちゃったなあ』

 『そうねえ、帰っちゃおうか』

 『でもちゃんとやったらナイル褒めてくれるかもよ?』

 『それは嬉しいけど、なんかこの人達だけで大丈夫な気がするし』

 『そうねえ――でも魔物はまだまだたくさんいるから、そのうちやられちゃうんじゃないかな』

 『そうかもしれないねえ、そうなったら――ナイルに嫌われちゃうかも』


 この妖精達が最も嫌なこと、それはナイルに嫌われることである。


 『だめだめ! それだけはだめよ』

 『そうだね、ちょっとお手伝いしようか』

 『仕方ない、やりますか』

 「お前等真面目にやらんかあ!!」


 遂にオプリの怒りが頂点に達した瞬間であった。





 「やはり、ここに現れる魔物の数が圧倒的に多いか」


 フィロスは偵察兵からの報告を聞くと、その情報をストレンスにも伝えるようにと兵を走らせた。

 アークネースの中枢であり統率しているアクトリアのことを魔物の群れも正確に認識している節があり、他の土地で噴出している魔物の数に比べ、アクトリアに押し寄せる魔物の数は遥かに膨大な量であった。

 厄災は全国で同時発生する現象であるが、その土地の主要な都市では特にその被害が大きくなる。

 主要な都市と云うのは時代に因って存在場する場所が異なるものであるが、何故か厄災はその場所を正確に認識しているらしく、どのような場所へ移動したとしても、必ずそこへ多くの魔物が押し寄せるのである。


 「しかし今のところは例年通りと云ったところか――さて、此度はどのように攻めてくるか、まだまだ気は緩められんな」


 アクトリアを襲う魔物の群れは、その殆どがローラを含む四人の妖精に因って殲滅させられている。

 その力は圧倒的で、妖精の放つ魔法は一発で軽く万を超える魔物を葬っていく。

 妖精達はこの程度の威力の魔法であれば、間髪入れずに連発で使用することが可能な為、魔物は現れた瞬間には絶命してしまう。


 「ローラ達の力は確かに強力ではあるが、少しずつ漏れてきてしまっているな。クラノス、民に被害は出ていないか」

 「はい、今のところ被害は出ておりません。しかしいつ魔物が湧き出すか分からない状態ですので――」

 「そうだな、延々と同じ場所から湧き続けることなどありえんだろう」


 未だ厄災の始まりでしかない現状を考えれば、これからが本番と云うことになる。

 今回の厄災が一体どのようなものになるのか、それは誰にも分からないのだから。


 「クラノス、兵達の消耗はどの程度だ」

 「現在殆ど消耗は見られません。数名怪我人が出ましたが、すぐに前線に戻ることができるでしょう」

 「そうか、もう暫くはローラ達に踏ん張ってもらわんとな」


 一方ローラ達は、少々飽きてしまっていた。


 『ローラ、なんだか面倒になってきたわ』

 『ええ、私も飽きちゃった』

 『もう穴を潰してしまいましょうよ。どうしてこんなまどろっこしいことしているの?』

 『私達は手助けしてってお願いはされたけれど、根本的な対処をしてなんて云われてないわ。私達があの穴を塞ぐのは簡単だけれど、それではダメなんだそうよ』

 『そう。あくまでも彼等自身にやらせなくてはいけないのね』

 『ええ、グラド達は面倒臭いからって自分でやってしまうでしょうけどね。私達ぐらいはナイルのお願いをきちんと聞いてあげましょうよ』

 『分かったわ。じゃあ取りあえず今の状態を継続させればいいのね』

 『ええ、もう少しすれば厄災も本体が現れるでしょう。そのときは状況を見ながら、ね』





 フィストの剛腕が唸りを上げる。

 その動きに一切の無駄はなく、魔物の急所を的確に狙い確実に絶命させていく。

 その動きには目を見張るものがあるが、しかし減る数よりも増える数のほうが上回っている為徐々にフィスト達獣人は押され始めていた。

 時折用意されていた罠に因って魔物の数を減らすことに成功しているが、無制限に湧き続ける魔物の前では、焼け石に水と云ったところであった。


 「くそ、さすがに数が多すぎるか」

 「長、ここは一旦引きますか」

 「いや、まだ非難が終わっていない。もう暫くは耐えるんだ」

 「分かりました――しかし」

 「分かっている、負傷者は優先して下がり傷を癒せ」


 ナイルはその光景を、遥か上空からじっと見つめていた。

 フィロス達の後方ではアリウム達が老人や子供達を必死に避難させている。

 自分が助力すればこの局面を大きく好転させられることは十分に理解しているものの、果たしてそれが正しいことなのか、判断に迷っていた。


 「じいちゃん――じいちゃんは厄災を何度か経験しているんだよね。じいちゃんは何を思って厄災に立ち向かったんだろう」


 嘗てのドラクロアが経験した厄災も凄惨なものであった。

 その厄災に因って、ドラクロアは英雄と呼ばれるようになったのである。

 彼に因って救われた命は数知れず、彼に因って屠られた魔物も星の数に上る。

 しかし、何故ドラクロアがそこまでの偉業を成し遂げられたのか。それは殆どの人々が知る由も無いことであった。

 ナイルもまた、ドラクロアが何を思って厄災に立ち向かったのかを知らない。

 何度か聞いてみたこともあったが、凡てはぐらかされ、そしていつしかナイルも尋ねることを止めた。


 ナイルは考えることは得意である。しかし慮ることは苦手である。

 人でありながら人に心情を汲み取ることが苦手なナイルには、大切な誰かの為だけに戦うと云うことが理解できなかった。

 愛するものの為だけに戦うと云う心理を理解できないナイルは、だからこそ全体を客観的に観察することができる。

 しかしそれは人であるナイルの心の中で、それは大きな両刀論法を起こしていた。


 ナイルは隔絶された小さな世界を飛び出し、果てしなく広い世界を体感できるようになったのは、つい先日のことである。

 閉ざされた世界の中だけであれば保つことができたかもしれなかったものは、様々な人々との出会いに因って少しずつ綻んでいった。


 フィロスから、人々を守る為に助力してほしいとお願いはされている。それを理由にすることは非常に簡単で、そして楽である。

 誰かがそうしてほしいと云ったのだから、責任はそれを願った人にこそある。そうやって言い訳をすることができる。

 自分の行動の責任を他者に委託すると云う行為は、ナイルの中で考えられる事柄ではなかった。

 自分が成した行動の責任は、凡て自分にある。

 誰かに願われようと、欺かれようと、誘導されようとも。その行動の責任は自分にはないと、無責任なことをすることだけはナイルにとって拒絶すべきものであった。


 だからナイルは、暫く考え、そして行動を起こした。


 ローラ達妖精に因って封印されていた魔力が解放されていく。

 しかしそれはまだ完全に解放されたわけではない。にも係わらずその膨大な魔力は人は疎か魔物の動きさえも委縮させるものであった。


 「なんだ――この途方もない魔力は」

 「ナイルだ――やはり美しい」


 ナイルの全身を包み込む魔力は白銀に輝き、見る者凡てを魅了していく。

 人も魔物も忘我し、神々しいと表現する事すら烏滸がましいと思える存在が、ゆっくりと天から降りてくる。


 「やっぱり、友達が死んでしまうことは悲しいよ。そして簡単に命を投げ出してしまう今の君達も――解放してあげたい」


 白銀の魔力はやがて、三対の翼へとその姿を変えた。


 「怒られるなら、僕が怒られるさ」


 その表情は少し困ったような、それでもその顔から微笑みは消えていない。

 それはなんとも、蠱惑的な表情だった。




駄文乱文失礼しました。

誤字脱字等は見つけ次第訂正いたします。


次回投稿は、9/19-9/21を予定しています。


追記

申し訳ありません、多忙と体調不良により

投稿を遅らせていただきます。

できるだけ早急に再開させますので、ご了承ください。

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