第十九話 アリウムの涙
少し遅くなりました。すみません。
アリウムは城の中庭で仰向けになり、高い空を見つめていた。
時折鳥が何処かへ向かって羽ばたいていく。
大きな雲がゆっくりと流れる空は、美しい青色に染まっていた。
ナイルと共にこの城に辿り着いてから、既に二週間の時間が過ぎ、アリウムは久しぶりにのんびりしてみようと思った。
アーラと云う実に腕のいい師の下、アリウムは懸命に訓練を積み重ねた。
村で行ってきた生温いものとは違い、一歩間違えれば死に繋がるようなそれは、確実にアリウムの実力を向上させていった。
しかしそれでも、未だナイルの足元にも及ばないとアリウムは理解していた。
先日アーラとナイルの手合わせを、短い時間ではあったが見学することができた。
そのときにはっきりと、アリウムはナイルと自分の間にある大きな格差を目の当たりにしたのである。
アーラの鞭も、ナイルの鞭も、アリウムには殆ど視認することができなかった。
二人が手合わせを終えた訓練場を見て、アリウムは暫くの間呆然とした。
如何すれば強固に作られたはずの壁を破壊し、あまつさえ訓練場全体を崩壊させることができるのか、アリウムにはまったく想像することができなかった。
最後までそれを見届けたコルヌに豪く嫉妬したものだ。
後になって話を聞いてみれば――私にもさっぱり、生きているのが不思議なくらいだねえ――とはぐらかされてしまった。
しかしそれは、それほどまでにすさまじい攻防だったと云うことなのだろう。
本当に羨ましいとアリウムは思った。
思わずコルヌをじっと睨んでしまったほどだ。
この二週間で行ってきた訓練は、アリウムにとって決して無駄なことではない。これまでに経験したことのないような厳しい訓練は、アリウムを更に成長させるだけの効果を確実にもっていた。しかしそれでも、アリウムとしては不満を抱えていた。
ナイルへ少しでも近づこうと必死にもがいたとしても、それでもナイルは未だ遥か彼方の存在なのである。
アリウムは少し憂鬱な眼差しで、どこまでも高い空をぼんやりと見つめていた。
アリウムは夢を見た。
夢の中には一人の男性がいた。
月明かりに照らされてきらきらと輝く、大好きな青年だった。
青年は決してアリウムへ振り向かなかった。
しかしアリウムを置いて離れていってしまうこともなかった。
少し進んでは立ち止まり、アリウムが追いつくのを待っている。
まるで赤子のように身体の自由が利かないアリウムは、必死に青年を追いかけた。
青年にはいつまでも追いつけなかった。
それでもアリウムは追いかけた。
青年は何故振り向いてくれないのだろう。何故離れていかないのだろう。
不自由な手足を必死に動かしながら、アリウムはぼんやりと考えていた。
少しだけ、ほんの少しだけ――いつもより前に進めた。
青年の背中が少しだけ近くに見えた。
それは本当に僅かな距離だった。
それなのに、それまでとはまるで違った背中が見えた。
そして、青年の輝きが更に強く見えた。
アリウムが目を覚ますと、傍らにアーラが座っていた。
アーラはぼんやりと空を見上げている。
「アーラ殿、私はもっと強くなれるだろうか」
「うん、努力すれば」
「そうか」
「私も、もっと強くなりたいと思った」
そしてアーラはゆっくりと試練をアリウムへ向けた。
アリウムはアーラの瞳の中に、普段感じられない熱を帯びているのを感じた。
「負けっ放しは悔しい」
「ナイルにか? 引き分けだったと聞いたが」
「あの人全然余裕だった。最後の一瞬だけ、ちょっと実力出してた」
「そうなのか、はじめから直接アーラ殿に話を聞くべきだった」
コルヌから聞いた話を全面的に信じていたわけではないが、事実とはだいぶ隔たりがあったのだと知り、アリウムは溜息を漏らした。
「私は途中からもう本気だった。全力でやって、全部出し切った」
「それでも、ナイルには及ばなかったのか」
「うん、全然。やっぱりあの人おかしい」
「ああ、私もそう思う」
アーラの言葉にアリウムは思わず共感し、そして笑った。
アーラも少し笑っているようだ。
ここ数日いつも一緒にいたためか、少しだけ表情が分かるようになっていた。
「だが、だからこそ私は好きになったんだ」
ヴィゴーレ達は今、修復された訓練場で汗を流している。
修復したのは勿論崩壊させた当事者である。
今回は訓練場がフィロスの所有物であることから、ナイルは素直に非を認めた。
以前のものよりも頑丈なものを作ろうと、ナイルは有り余る魔力を遺憾なく使用して、訓練場は即座に修復された。
それは以前のものより遥かに強固に作られており、またナイルが気を利かせたのか、はたまた気紛れなのか、これまで備わっていなかった設備などが建造されていた。それには兵達も喜び、評判も上々であった。
その訓練場でヴィゴーレ達は城の兵達に稽古をつけていた。
しかし竜人種が猿人種と共に訓練をするなど、ましてや稽古をつけるなど実に珍しいことである。
訓練場を崩壊させた一因が、自分の仲間にあるとはっきりと理解していたコルヌ達は随分と後ろめたい思いをしていた。
訓練場の修復をナイル一人が穂ドンと行ってしまった為、コルヌ達は益益形見狭い思いをしていたのだが、そこにクラノスがある提案をしてきたのである。
それがこの城の兵達の稽古であった。
城に残った線鋭の数は少なく、しかし若い兵はそれなりに数が揃っていた。
しかし数がいても実力がなくては兵としての意味がない。
そこでクラノスはコルヌ達に、若い兵に稽古とつけてやってほしいと願い出たのである。
当初ヴィゴーレは難色を示したのだが、そこはコルヌの口八丁手八丁でなんとか言い包め、どうにか稽古をつける運びとなったのである。
コルヌ達が驚いたのは、兵達が自分達のことを偏見の目で見ていないことであった。
これまで何処を歩いても、他の種族から冷たい眼差しを向けられていたコルヌ達には、その眼差しが実に奇妙に感じられた。
これはフィロスが行った教育の賜物と云えるものなのだと、クラノスが説明をしてくれたことで、コルヌ達のフィロスへの敬意が更に強くなったことは間違いなかった。
そしてその日から、コルヌ達と若い兵達との訓練が始まったのだ。
陽光が頭上から降り注ぐ中、三人の竜人種と多くの若い兵達が各々の武器を揮い、魔法を放っては練磨している。
稽古を始めた当初、ヴィゴーレとオプリの一方的なしごきにしか見えなかった稽古は、城の兵達にとって新鮮であり、また刺激的なものであった。
しかし兵達の体力は早々に限界を超え、その心中には早く解放されたいと云う思いで満たされていた。
そんな中懸命にその稽古に食らいついていく者が何名かいた。
それは僅かに城に残った先鋭、その中でもより優秀とされる数人であった。
たまたま若人の訓練を知った先鋭数人が、自分達も参加させてもらいたいと稽古に加わっていたのだ。
さすが先鋭と呼ばれるだけの事はある動きを見せる彼らは、早々に脱落していく若人に脇目も振らずに竜人達の稽古を見事にこなしていた。
しかしその顔には徐々に疲労の色が浮かんできている。やはり種族間の隔たりと云うものは圧倒的なものがあると、先鋭達は感じていた。しかしこちらもフィロスに因って作られた地獄を乗り越えてきたと云う自負がある。
そう簡単に根を上げてたまるかと、悲鳴を上げる身体に鞭を打って先鋭達は稽古を続けた。
その翌日には更に過酷な稽古が待っていたが、先鋭達は挫けなかった。
その翌日も、またその翌日も。
先鋭達の心は挫けることを知らず、見る間にコルヌ達に因って鍛え上げられていった。
この心力にはコルヌ達も驚愕を覚えた。
此れほどまでに強い心力を養うために、彼らはどのような稽古をしてきたのだろう。またどのような稽古をフィロスは課してきたのだろうと興味に惹かれた。
そしてそんな先鋭達を間近に見ていた若人達もそれに感化されたのか、少しずつではあるが、しかし着実にコルヌ達の稽古についてこられるようになっていた。
今日コルヌはナイルに会うために稽古には参加していなかったのだが、他の竜人種は兵達に稽古をつけている。
オプリを先頭にヴィゴーレさえも、兵隊に稽古をつけることが愉しいと思うようになっていた為、今日の訓練も実に過酷なものであった。
アリウムとアーラの遥か頭上を、鳥が数羽飛んでいった。
「さっき、領主がナイルの部屋に入っていった」
「フィロス様が? どうしたのだろう、珍しいな」
「すぐにコルヌと三人で部屋を出た」
「コルヌ殿と三人でか――気になるな」
「探してみる?」
「ああ、何か問題でもあったのだろうか」
アリウムはそう云うとアーラを伴って城の中へと入った。
三人の行方は見当もつかないが、衛兵達に尋ねれば良いだろうと考えていた。
程なくして一人の衛兵を見つけたアリウムは、ナイル達の行方を尋ねたのだが、衛兵は一言だけ――謁見の間です――そう言葉を残して立ち去っていった。
衛兵は随分と急いでいたらしく、足早に去っていったのだが、それが余計にアリウムの不安を煽ることになった。
アリウムは衛兵の言葉に従い、フィロスと初めて謁見を交わした広間へと向かった。
広間の入り口には四名の衛兵が警備をしているだけで、中にナイル達の姿はなかった。
そこでアリウムは四名の衛兵に、先程の衛兵の言葉を加えてナイルの行方を尋ねた。
そして漸くアリウムとアーラはナイル達のいる場所を理解し、そしてアリウムは予感した。おそらく問題が起きるだろうと。
二人は廊下で擦れ違う兵達に謁見の間の場所を尋ねながら進んだ。
少し迷ったが漸く二人は謁見の間へ辿り着いた。
さすがに中に入ることはできない為、外で三人が出てくるのを待ったのだが、意外にも三人はすぐに出てきた。
「やあ、どうしたの?」
ナイルがいつも通りの笑顔でアリウムに軽く手を上げた。
「いや、ちょっと気になって。王と謁見していたのだろう?」
「うん、随分慌ててたよ」
「そうなのか?」
「いやいや、いろいろ大変だったんだよ。私は死刑になるかもしれない」
コルヌは一人疲労の色を顕にしてアーラに凭れかかろうとしたが、アーラはそれを軽やかにかわされた。
「さて、これから忙しくなる。ナイル、手伝ってくれるか?」
「何を?」
「それはこれから説明しよう」
「私達は遠慮したいのですがねえ」
「そう云わず、コルヌ君達にも手伝ってもらいたいのだがな」
フィロスは二人の肩に手を回すと、廊下を足早に歩き出した。
アリウムとアーラは一瞬顔を見合わせると、三人の後を追った。
辿り着いた場所はフィロスの執務室である。
中ではクラノスが紅茶を淹れて待っていた。
少し甘い匂いが部屋の中を満たしている。
フィロスがゆったりとした椅子に腰掛けると、四人もそれに倣ってソファーに腰掛けた。それと同時にクラノスから紅茶とお菓子が配られ、ナイルは嬉しそうにそれを頬張り、残りの三人は困惑美味にそれを味わった。
程なくしてオプリ達も執務室に到着した。
ヴィゴーレは甘ったるい匂いに少々顔を顰めるが、コルヌの顔を見ると何も云わずにその隣に腰掛けた。
オプリとメレナもそれに倣ってアーラの隣に腰掛けた。
「さて、皆に集まってもらったのは他でもない、頼みがあるのだ」
一頻り紅茶とお菓子を楽しむと、唐突にフィロスが話し出した。
その言葉に全員がカップをテーブルに置き、フィロスへと視線を向けた。
「厄災のことは知っているかね?」
この世界に生きる人類の中で、おそらく厄災を知らない者は存在しない。
それが一体どんなものなのか、体験したとこがない者はいたとしても、それをしらないと云う者は存在しないであろう。
しかしフィロスは敢えてそれを尋ねた。
厄災と云う言葉に全員の言葉が詰まる。正確にはナイル以外の全員なのだが。
ナイルを除く全員が、厄災と云う言葉だけで表情を強張らせた。
あのヴィゴーレでさえ少し動揺している。
「コルヌ君達は、厄災が起きれば急ぎ帰国するつもりかね?」
「いえ、今から戻ったとしてもおそらく間に合わないのでしょう。それならば身の安全を最優先に考えますね。それに私の国の人間はそれほど弱くもありません。私やオプリ達がいなくとも、まあ被害はあるでしょうが、何とか乗り越えられると思います」
「そうか。ヴィゴーレ君はどうだね? 君はコルヌ君達とは別の場所の出身なのだろう」
「俺は世界を見て周り、広さを知れと長に云われている。厄災如きではどれの妨げにはならない」
「なるほど――アリウム君はどうだろう」
「私は――すぐには答えられません」
アリウムは随分と長い間をとってから、そう答えた。
「分かった。ナイルはどうだね」
「よく分からないな。厄災ってそんなに大変なの?」
「ドラクロアから聞いてはおらんのか?」
「本では読んだけど、じいちゃんから直接聞いたことはないよ」
ドラクロアはナイルの云う通り、自らの口から厄災のことを伝えてはいなかった。
フィロスには何故ドラクロアがナイルに伝えられなかったのか、その理由を知っている。
そして厄災を伝えられたかったと云うことは、ドラクロアが最後まで苦悩していたのだと、フィロスに改めて理解させることでもあった。
「厄災とは、この世界の人間にとって非常に恐ろしい現象なのだよ」
「そうみたいだね」
「ナイルが本から得た知識がどれだけのものかは私には分からん。しかし確実に云えることは、厄災とはとても本だけで伝えきれるものではないのだ」
「それは見てみたいな」
「ナイルの好奇心は失ってほしくはないと私は思う。しかしな、厄災だけは楽観視してはいかん。あれは人の命を蹂躙する現象だ。不可解で理不尽な殺戮だ。天災であれば恐怖だけではなく、どれと同等の豊穣を齎してくれる場合もある。しかし厄災はな、恐怖しかないのだ」
フィロスはこれまでに二度の厄災を体験してきている。
それだけにフィロスの言葉には重みがあった。
「それは人間視点だからそう感じるんでしょう?」
「その通りだ。人間以外の視点から見れば、それはまったく違った意味をもつのかもしれん。それは私には分からんがな。しかしな、私は人間なのだ。それ以外の視点で厄災を観察し、あまつさえ厄災を受け入れようなどと云うことはできん。私は私としての視点から以外に厄災を見ることはできないのだ」
「そうかなあ、別の視点で見るって云うのは、そんなに難しいことなのかな」
「人間として様々な視点から厄災を見ることはできる、しかし動物の視点から見ることは不可能であろう」
「僕は僕の視点の他に、ローラやグラド達の視点を感じることができるからね。そしてローラやグラド達は、この世界と云う視点から万物を見ることができる。だから僕には結果的に人間としての視点以外からも、何かを観測することが可能なんだ」
世界の顕現と云われる妖精やドワーフ達は、人類とは違った世界を見ていた。
厄災が発生した場合、人間だけでなく勿論自然種達も襲われている。
基本的な能力が根本的に人類を遥かに上回る自然種は、人類のように大きな被害を被ることはない。しかしそれでも自然種の凡てが魔物に勝てるとは限らない。
自然種は魔力の塊である。人類とは明らかに異なる構造をしている。
自然種を絶命させるためには、その塊である魔力の楔を破壊しなければならない。
魔力は非常に複雑に絡み合っており、それを繋ぎ合わせている楔は易易と破壊されてしまうものではない。
しかし時として、その楔が破壊されてしまうこともある。
すると自然種は膨大な魔力を一瞬で拡散させ、やがて消滅するのである。
この現象こそ人類が自然種の死と呼んでいるものであるのだが、実際これは死ではない。
楔を破壊され解放されてしまった魔力は世界に広がっていく。その拡散された魔力は、また何処かで凝縮し、新たな自然種が生まれるのである。
まったく同じ固体が生まれることはないが、そもそも自然種は一が全であり、全が一の生き物である。
楔が破壊されることでは、自然種が死ぬと云うことにはならない。
自然種の死とは、この世界から魔力と云うものが存在しなくなることなのである。
そんな自然種は厄災のことをそもそも災いだとも感じていない。
人が生きることと同様に、ひとつの自然現象として認識している。
世界としての視点を持ち合わせている自然種でも、何故厄災と呼ばれる現象が発生するのかは分からない。
自然種達は見ることはできても、知っているわけではないのだ。
「そうか、それでは自然種にはそもそも厄災は忌避すべきだと云う意識すらないのだな」
『そうね、まあエルフなんかは違うのかもしれないけれど、私達は別に何とも思っていないわ』
「ナイルよ、君もローラと同じ考えなのかね?」
「僕は自然種じゃないからね、やっぱりローラ達とは考えが違うよ」
ナイルは複数の祝福を授かった得意な猿人種である。
通常祝福を授かった者は、その自然種の視点を感じることなどはできない。
それはお互いに、余りにも違う生き物だからである。
何故ナイルが自然種の視点を感じ、それを同じように見ることができるのか。それはナイルがまだ、自分が何者なのかということすら知らない、赤子の頃に祝福を授かったこと。そしてその妖精に猿人種としてではなく、ひとつの生き物だと云う認識で育てられたこと。最後に、複数の祝福による膨大な魔力が原因であった。
しかしそれでも、猿人種として生まれたナイルが自然種になることはできない。
自分が猿人種に分類される生き物だと云う認識はあるが、それほど自分は猿人種であると拘りを持っているわけではない。悪く云えば中途半端なのである。
しかしナイル自身、それを悪いことだとは思っておらず。逆に何かに定められてしまうことの方が好ましいものではなかった。
人に説明する際に、理解してもらうのに便利だから猿人種と名乗っている。その程度のことなのである。
「僕は厄災を自然現象をは思ってないよ。だって魔物には意思があるんだもの。それなのに天然自然の流れとは云い切れないよ。僕が育った場所も村も、厄災が起きてもたぶん大丈夫だと思うんだ。家にはグラド達がいてくれるし、村の人達も決して弱い人達ばかりじゃない。本で読んだ厄災にはたくさんの魔物が書かれていたけど、その殆どは普通にあの森の中にいるから、村の人達も対処法とか知ってるだろうしね」
「そうか、ではナイルは残ってくれるのだな」
「それは分からないよ。もうここにも飽きてきたし、他のところにも行ってみたいもん」
ナイルとしては二週間も軟禁されていることにもう飽きてしまっており、次はどっちに行ってみようか。アリウムの村に行こうか等と考えていた。
「頼む、もう暫く留まってほしい。私と共にこのアークネースを厄災から護ってもらいたいのだ」
「それは無理だよ、僕はできないことはしない」
「ナイルほどの力をもってすれば、不可能ではあるまい」
「僕はね、食べる以外で生き物を殺すのは嫌なんだ。アークネースの厄災と成る魔物を凡て殺すことは、たぶんできるよ。でもね僕は食べないなら殺さない。殺さないように手加減してたら、アークネース全部なんて僕には護れないもん。できたとしても半分くらいが限界だと思う」
「また面倒なことを――。しかし半分でも十分に――いや、それ以上に助かるのだ。なんとか頼まれてくれぬか」
「どうしようかなあ――」
ナイルが天井を見上げて考え込もうとした瞬間、アリウムが口を開いた。
「――私は、村が心配でならない」
アリウムは俯きながらも明確に発言した。
「私の父は強い。ソイズアルでも一二を争うとまで云われている武道家だ。だが村の全員が強いわけではない。私がいることがどれだけの助力になるのかは分からない。それでも私は、少しでも力になりたいと思っている。だけど――」
アリウムは膝の上で震える手を強引に抑え付けた。
「――ナイルの傍にもいたい」
アリウムは溢れそうな想いと涙を零さないように、きつく唇を噛んだ。
アーラがそっとアリウムの肩に手を添えた。
青春ですねと呟いたメレナはオプリに強かに殴られた。
「アリウム君、ここから君の村までどれほどかかる?」
「急いだとしても――十日以上はかかります」
「そうか――それでは、間に合わぬかもしれんな」
フィロスの言葉に、アリウムは涙を零してしまった。
行き場のない想いが、アリウムの手に弾けた。
その姿を静かに見ていたナイルは、何かが胸をちくりと刺すような、そんな痛みを覚えた。
それは、ドラクロアが死んだときに感じたものと、少し似ていた。
駄文乱文失礼しました。
誤字脱字は見つけ次第訂正いたします。
次回投降は、9/7-9/9の何れかを予定しています。




