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第十八話 嗤うフィロス

ご無沙汰しています。

一ヶ月も止めてしまい、すみませんでした。

仕事のほうも少し落ち着いたので、再開します。

短いですが、よかったら一読下さい。





 フィロスはこの日、何度目かの溜め息をついた。

 厄災からアークネースを守るはずであった兵達は、王に徴集されてしまった。

 残された数は四百弱。これでは到底アークネースを守りきることなどはできない。

 兵の徴集は予め予想していたことではあったのだが、まさか八割もの兵を徴集されるとはフィロスも考えていなかった。

 ストレンスが集っている冒険者や傭兵達を加えたとしても、厄災を乗り切るだけの武力を作り出すことはできないと、フィロスは考えていた。

 そしてもうひとつ、フィロスを悩ませているのはナイルと竜人種の存在である。


 先日ナイルと竜人種によって訓練場が崩壊してしまった。

 それは見事なまでに跡形もなく崩壊していた。再び同じ規模の訓練場を建設するには相当な月日を費やすであろう。

 しかしその程度のことはフィロスには些事にしかならない。問題なのはナイルと竜人種の存在が外部へと漏れてしまったことである。

 不幸なことに訓練場は城の外に存在しており、また城下の者達の見学などは自由に行うことができる。ナイル達が訓練場を使用する際は、一時的に入場規制をかけていたのだが、訓練場の壁が崩壊してしまえば、見るなと云う方が無理な話であった。

 クラノスの初めとする者達が迅速な火消しに励んだのだが、人の口に戸は立てられるものではなく、既に多くの人達の噂になっていた。

 そしてそれは当然王の息のかかった者達の耳にも届いていた。

 それがフィロスとナイルたちにとって何を意味するのか。王と云う人物を長い年月見続けてきたフィロス自身が最も理解していた。



 フィロスは再度溜め息をつくと紅茶を飲み干して窓の外へ目を向けた。


 「フィロス様、お気に召しませんでしたか?」

 「いや、そんなことはない。堪能しておるよ」

 「顔色が優れませんが」

 「さすがにな」


 フィロスはまたしても溜め息をついて苦笑いを浮かべた。


 そして部屋にノックの音が響いた。


 「クラノス」

 「既に整っております」

 「流石だな。では後のことは頼む」

 「畏まりました」


 フィロスは覚悟を決めて、カップをテーブルに置いた。







 「――フィロス、何か申すことはあるか」

 「いいえ、ございません」

 「そうか、では下がれ」

 「御意」


 フィロスは深く頭を垂れると、厳かに謁見の間を後にした。

 フィロスの姿を目視した衛兵は敬礼の後、じっとフィロスの瞳を見つめた。

 それに対してフィロスは深く頷いた。それは衛兵の表情を強張らせた。

 フィロスは二人の衛兵を従わせて、足早に廊下を進んだ。

 やがてフィロスはひとつの扉の前に辿り着いき、一度だけ深呼吸をすると、その扉を開いた。


 「フィロスさん、どうしたの?」


 そこにはナイルがいた。


 「何かあったんですかねえ、いつもと雰囲気が違いますね」


 どうやらコルヌと話をしていたらしい。フィロスには好都合であった。


 「二人とも邪魔をしてすまぬな。私について来てもらいたい」


 二人は顔を見合わせると、快くフィロスに従った。

 フィロスは道中、これから何処へ向かうのかを二人に説明した。

 それを聞いたコルヌは明らかに顔を顰めた。

 そしてナイルは予想通り、特に何も感じていないようだ。

 コルヌは知っているのであろう。この国の王と云う人物がどのようなものなのか。そしてナイルも知っているはずなのだ。ドラクロアから聞かされたはずである。しかしドラクロアがどのように説明したのか、これは確認しておいた方が良いだろう。


 「ナイルよ、王のことはなんと聞いている?」

 「ソイズアルの王のこと? 馬鹿だって聞いてるよ。あんなのに関わるべきじゃないって云ってた」

 「そうか、それはあまり公の場では云わぬ方が良い」

 「そうなの?」

 「うむ、この国の王はな、ドラクロアがどのように説明したのかは分からぬが、おそらくドラクロアが云った通りの人間なのだ。異常なまでに独裁的な人間でな、この国の凡ては自分の物であり、自分の思い通りになるのだと思っておる。いや、それがあの王の常識なのだ」


 ソイズアルの長い歴史の中で、現在の王は最も独裁的な王である。

 先代の王も確かに独裁的な男であったが、現在の王に比べれば可愛いものだと思える程度であった。

 ソイズアル王国は絶対王政である。

 王が右を向けと云えば、ソイズアルの凡ての国民は右を向かねばならない。それに背けば勿論裁かれる。それもおそらくは極刑である。

 現在の王へと政権が移ってからと云うもの、裁かれた国民の数と云うのは爆発的に増加した。それは政権の移行直後が最も如実に現れ、徐々に減少していった。

 ゾイズアル国内は常に役人達の厳しい監視下に置かれ、些細な行動や小さな言動が非常な大きな罪になることで、当然のことながら国民は反発した。

 しかし国民の反発は強大な武力によって制圧され、また反政府運動に参加した人々は、その家族親族を含め悉く死罪となった。

 それに因ってソイズアルは一時国民数が激減したのだが、現在ではその数を取り戻している。

 未だに国王への不満や反発は国民の中に根強く残っているものの、その恐怖政治は見事に国民を制圧することを実現していた。


 「私はこのアークネースで領主をしておるが、決して国王の考えに従順であると云うことではないのだ。むしろ現状を何とか変えたいと思っておる。しかし国王が抱えている武力は非常に大きく、また国民の心に植えつけられた恐怖と云うものも、まったく払拭できてはいない。そして最も私が問題視しているのが現在の教育だ」

 「僕はじいちゃんが教育してくれたなあ」

 「そうであろうな、ナイルを見ていればよく分かる。ドラクロアの教育と云うのもなかなかに問題があるように感じるが、それでもソイズアル国民が基礎教育として受けているものに比べれば、マシなものであろう」


 ソイズアルでは基礎教育が凡ての国民に義務化されている。

 これはこの世界において非常に珍しいことで、この義務教育によってソイズアルは世界的に見ても平均的な学力の高い国になっている。しかしこの義務教育の内容に問題がある。凡ての教材には現国王への賛辞が膨大な量書き込まれており、国民はこれをほぼ暗証できるようにならねばならない。

 それはひとつの洗脳の役割を果たしていた。

 そして教育を含め、出生した瞬間から国王への信仰心を植え付けられた若い国民は、そもそも国王に反発しようとなど考えることができなくなっていた。


 「そしてこの国は他国との交流が極端に少ない。コルヌ君、この国に入国する際苦労したであろう」

 「ええ、それはもう。まさか入国審査だけで一週間もかかるとは思いませんでしたねえ。まあそれ以上に一週間ヴィゴーレを抑えておくのが大変でしたが」

 「そうなのだ、この国は鎖国していると云っても過言ではないほどに他国との交流を断っている。それは余計な情報をソイズアルへ入れることを嫌っているのだ」

 「余計な情報ですか」

 「ほう、一週間で済んだか。それは珍しく短い期間であったな」

 「一週間もかかるのはソイズアルくらいなものですよ」

 「そうであろうな。他国のあり方はこの国とはあまりにも違いすぎる。嘗て冒険者をしていた私にも、それはよく分かるのだよ。この広い世界はソイズアルにはあまりにも刺激的過ぎる。国王はこの国のあり方に疑問を抱かせないように、実に閉鎖的なやり方を選んだのだ」


 ソイズアルが現在交流を持っている国は、僅かに一国だけである。

 嘗ては他にも数多くの国々と交流を持っていたのだが、現在の国王に変わった途端にそれは凡て断たれてしまった。

 自国だけで凡てのことが賄える豊かな土壌があるからこそできる荒業であり、それは自国はもとより他国へ非常に大きな影響を与えた。

 この行動は他国からの非常に大きな反発を買ったのだが、国王はまったく意に介さず、実にさっぱりと他国を切り捨てた。

 現在唯一交流を持っている国でさえ、物品の交流と云うものは殆どなく、極限られた人間だけが入国を許される程度である。

 ソイズアルに入国する凡ての人々は、必ずこの国を経由しなければならず、冒険者などは非常に不便な思いをしているのである。

 それに加えて入国審査の厳しさがある。

 比較的簡単に他国への入国が許可されている他国の大使や医師などでさえ、ソイズアルに入国するには五日ほどの時間がかかってしまう。

 それが冒険者になるとどうなるか、想像に難くない。

 ソイズアルへ入国する凡ての人間は様々な審査を受けるのだが、最後に一枚の誓約書へ記名をしなければならない。

 それは国王への忠誠を約束すると云う誓約書である。

 その内容は非常に細かな部分まで書き込まれており、その誓約を守れない場合は即刻強制送還、若しくはソイズアルの法に基づいて裁かれることになる。

 当然コルヌ達もその誓約書に記名しており、それに因って定められた行動しか許されていない。

 しかし現在はフィロスに加護されているため、多少のことは揉み消されている。


 「いやあ、ヴィゴーレに記名させるのは骨が折れましたねえ」





 フィロスから国王の様々な情報を貰いながら、二人は遂に謁見の間の前まで到着した。


 「さて、コルヌ君は大丈夫だと思うのだが、問題はナイルだな」

 「そうですねえ、穏便には済まないでしょうねえ」

 「何するの?」

 「うむ、これから二人には王と謁見してもらう」

 「この中にいるの?」

 「いや、遠見の水晶を使っての謁見だ。王に実際に会うには王都に行かねばならん」

 「そうなんだ」

 「さてナイルよ。これから王と謁見してもらうことになるのだが、概ね自由にしてもらってかまわん」


 フィロスの言葉にコルヌは驚愕した。


 「フィロス様、それは拙いです。御自身の立場を考えてください」

 「私も重々分かっておるよ。しかしな、私はもうアークネースの領主を降ろされたのだ。今更何を繕う事があろうか」


 フィロスの言葉にコルヌは言葉を失った。

 フィロスは先程の王との謁見の際、領主の任を降ろされたのであった。

 ナイルと竜人種の存在の隠蔽が大きな原因である。

 しかしフィロスとしてはそれに対して嘆くことは殆どなかった。

 フィロスが長い時間をかけてアークネースの領主になった理由のひとつに、その大きな権限が挙げられる。

 王の変わりに領土を治める人間として、フィロスには相応の権限が与えられていた。

 そしてフィロスはその権限を、厄災からアークネースを守るためだけに使ったのである。

 アークネース各地から優秀な人材を集め、実に優秀な兵達を作り上げたことも、各地に多くの駐屯所を作り、そこに出向させている部下から各地の細かな情報を得ていることも、凡ては厄災からアークネースを、そこに住まう人々を守るためだけにしてきた活動であった。

 そして厄災はもうそこまで迫っている。今更新しく配属される領主が権力を使ったとしても、何もすることはできないであろう。

 心残りがあるとすれば、次代の領主を自らが任命することができなかったことである。しかしそもそも領主と云うのは須らく王が任命するため、フィロスがどうこうできるものではなかった。


 「私が領主としてできることは凡てしてきたつもりだ。次代のために多くの種も蒔いてきた。それは仮令私がいなくなったとしても、このアークネースを正しき方向へと導いてくれると信じている。そしてそれはいつしか、このソイズアルをも変えてくれるであろうと確信している」

 「しかし心苦しいですね。フィロス様が領主の任を解かれた理由は私達にあるのでしょう?」

 「確かにそれも一因ではある。しかしな、実に良い頃合なのだ。アークネース以外の州でも、やり方は違えど私と同じように動いている者もいる。そして私の育て上げた兵達も既に王都に到着しているであろう、間もなく王都でも動きがある。私に残された仕事はひとつ。それは兵達と共に厄災へ立ち向かうことだけなのだよ」


 「動き――ですか?」


 フィロスの顔には領主を落とされたことに対して落胆の色などは欠片も見られない。逆にそこには厄災へ立ち向かう決意が窺うことができる。冒険者であった当時のように、その瞳にはぎらついた闘志のようなものが滾っていた。


 「コルヌ君達が負い目を感じることはない。むしろ好都合だったであったと私は思っているのだ。冒険者であった私には、やはり現場が似合っているように思うのだよ。私も最後は、冒険者として在りたいのだ」

 「フィロス様――」


 コルヌはフィロスの言葉に、様々な思いが含まれているのだろうと感じ、それ以上口を開くことは憚られた。


 「さて、私の考えが間違っていなければ、面白いものが見られるぞ」


 フィロスはそう云うと謁見の間の扉を開いた。

 そして二人はフィロスに促されて謁見の間へと足を踏み入れた。

 薄暗い部屋の中央には水晶が鎮座している。その水晶の前にフィロスとコルヌは跪いた。しかしナイルは相変わらず、ぼうっと水晶を見つめていた。


 『綺麗な水晶ね』

 「うん、初めて見た」


 ナイルが目にするものは基本的には初めてのものばかりなので、基本的にナイルの興味は尽きることがない。放っておけばナイルはこの水晶を手に取るだろう。

 そして遂に水晶が淡く光だし、そこに一人の男の姿が浮かび上がる。

 男は何故か、周章しているようだった。


 「――フィロス、貴様謀ったな!」


 男の言葉にフィロスは嗤った。




駄文乱文失礼しました。

誤字脱字は見つけ次第訂正します。


次回投降は、9/1~9/3の何れかを予定しています。

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