第一話 初めての猿人種
週に一度投稿しようと思います。
書きたいように書いているので
不快にさせてしまったら申し訳ありません。
『いつまで寝てるの。早く起きなさい』
広大な森の中、そこには幾つもの洞穴がある。
自然が作り出したものもあれば、魔物が巣として掘ったものもある。
その洞穴のひとつに、少年が毛皮に包まって眠っている。
その少年の周りで、妖精とドワーフが眠っている少年を起こそうとしている。
ソイズアルの世界は、一日が凡そ二四時間で成り立っている。
自然種達は星の自転を感知している為、時計など時を切るものを必要としない。
たとえ閉塞された空間でも、朝なのか昼なのか、自然種には理解できる。
妖精とドワーフに揺すられた少年が、ゆっくりと起き上がる。
「――おはよう」
少年はゆっくり周りを見渡して、朝の挨拶を交わす。
『おはよう。今日は何して遊ぼうか』
少年の生活している森では、数多くの魔物が生息している。
十歳程度の少年が、気軽に遊んでいられるような場所ではないのだが、常時妖精やドワーフに囲まれている少年には、魔物はあまり近寄ってはこない。
妖精は魔力の塊であり、ドワーフは大地の顕現である。
魔物の多くは本能的に理解している。それらに敵うものではないと。
稀に少年に近づく魔物も存在するが、妖精とドワーフに悉く排除され、少年に危険が及ぶことはありえない。
『何を言っておるか、まずは食事じゃ』
妖精やドワーフは、基本的に食事をする必要はない。
妖精の必要とするものは魔力。
妖精は意識せずとも世界から魔力を吸い取っている。
アルナイルが内包している魔力は無尽蔵の為、妖精がいくら魔力を吸い取ったとしても、枯渇するという心配はない。
ドワーフも同様に魔力を吸い取っているが、それは大地からである。逆に言えば大地以外からの魔力は吸い取ることが出来ない。
妖精やドワーフが食事をすることができないかと言えば否である。
胃や腸といった消化器官は存在しないが、体内に取り入れたものを吸収することが可能であり、そして吸収された養分は魔力へと変換され、排泄されることはない。
少年は寝床から出ると身体を伸ばし、近くに置いてある果物を手に取った。
深い緑色をした楕円形の果物に、少年は齧り付く。
しゃり、と音を立てた果物の食べ後は白く、果汁が滴る。
『おいしい?』
一人の妖精が少年の食べている果物を、少年に倣って頬張る。
「うん、おいしい」
少年は幸せそうに微笑む。
『当り前じゃ、ワシが採ってきたんじゃからな』
ドワーフが大きく胸を張る。
「うん、ありがと」
少年はドワーフに礼を述べると、洞窟の外に出る。
『今日も良い天気だね』
空は快晴。見上げれば鳥達が輪を描くように飛んでいる。
『おはよう、ナイル』
「おはよう、ローラ」
少年の名はナイル。
ローラと呼ばれた妖精はナイルの肩に座る。
ローラはナイルへ祝福を送ろうと声を上げた妖精であり、ナイルの名付け親である。
『ナイル、今日は何をしてみたい?』
祝福を授けてから、妖精とドワーフ達が協力してナイルを育ててきたのだが、これまでに何かを育んだことがないため、勝手が分からなかった。
食事や排泄の始末、身体を清めたりは出来るのだが教育ができない。
結局ナイルが物心ついた頃から、妖精達はナイルが何をしたいのかを尋ね、危険なことでない限りは好きなことをやらせようとしている。
「今日も探検したいな」
最近のナイルの楽しみは、広大な森の中を探検することである。
普通十歳程の子供が探検できる範囲は広くはないが、‘ドワーフの祝福’により疲れ知らずのナイルは、既にかなりの範囲を探検済みである。
『ナイルは探検が好きね』
「うん、今日はあっちのほうに行ってみたい」
ナイルは日の昇る方角、東を指差した。
ナイルが住まう洞窟から東側は比較的魔物の多い領域で、今までナイルが踏み込むことは妖精達に止められていた。
『そうね――ナイルも大きくなったし、大丈夫でしょ』
「やった! ありがとう」
ナイルは嬉しそうにローラに微笑んだ。
『それならワシも行こう。魔物が多いからの』
ドワーフのグラドが木槌を携えて、ナイルの傍にやってきた。
グラドは基本的に心配性で、ナイルに危険が迫ることを極端に嫌う。
魔物などが現れた場合、殆どグラドが追い払ってしまう。
「うん、一緒に行こう」
ナイルはグラドに微笑むと、周りの妖精やドワーフ達に挨拶を交わし、森の東側へと進んでいった。
ナイルが住む森には数多くの魔物が生息している。
特にナイルが住む洞窟から東側には、魔物が集中して巣食っている。
スライムやゴブリンといった下等な魔族も多いが、キメラやトロールといった中級の魔族も多く生息している。
特に魔獣の数が多く、十歩進めば何かしらの魔獣に出会う程である。
魔獣の中には魔物すらも捕食するものが存在し、危険度は中級の魔族にも匹敵するものも存在する。
ナイルはグラドお手製の棍棒を担いで、森の中を楽しげに探索していた。
「この木は、なんて言うの?」
ナイルがローラに尋ねる。
『何かしらね、名前とかは知らないなあ』
『この木の実は美味いんじゃ。食ってみるか?』
「うん、食べてみたい!」
妖精は木の名前などは知りえない。どうでも良いことだからである。
グラドはこの木の実を何度か食したことがあるらしく、ナイルに赤い木の実を手渡した。
『どう、美味しい?』
「うん! 甘酸っぱいね」
『そうじゃろ。この木の実は初め緑色なんじゃが、暫くすると赤くなるんじゃ。緑色の時は酸っぱいだけなんじゃが、赤くなると甘くなってくるんじゃな』
「そうなんだあ。グラドは物知りだね」
ナイルは赤い木の実を美味しそうに頬張りながら森の中を進んでいく。
三刻程歩みを進めると、ナイルは見慣れない生き物を見つけた。
「あれはなんだろ。ローラは知ってる?」
『あれは猿人種ね、ナイルと同じ種族の生き物よ』
ナイルが指差した向こうに、猿人種の老人が薪割をしているのが見える。
『ふむ。どうやらここに住み着いているようじゃな。十年程前にはおらんかったが、最近住み着いたのかの」
グラドは不思議そうに猿人種の様子を窺う。
『猿人種がこの森に住み着くなんて、命知らずなのね』
「猿人種はこの森に住めないの?」
『この森には魔物が多いからの、猿人種なぞすぐに食われてしまうわい』
『ちなみに、ナイルも猿人種なのよ?』
「そうなの? 僕も食べられる?」
『それはないわい。ワシらが守っておるし、何より祝福があるしの』
不意に老人がナイル達のいる方に目を向ける。
『あら。あの猿人種、私達に気付いたみたいね』
「襲ってくるかな」
『その時はワシが返り討ちにしちゃるわい』
グラドが一歩前に出て、老人を威嚇する。
「ほほう。ドワーフかい?」
老人は気配に笑いかける。
『ふむ。あっちに襲う気はないようじゃの』
「僕えんじんしゅって初めて見たよ」
『今まで私達しか周りにいなかったものね』
「うん、近づいちゃダメかな」
ナイルは好奇心を抑えられないのか、そわそわしだす。
『良いんじゃないかしら、害もなさそうだし』
『いやいや、害がないかなぞ分からんぞ』
『大丈夫でしょ、老人みたいだし』
『しかしの――』
グラドがどうしたものかと悩んでいるうちに、ナイルがとことこと歩き出していた。
「おや、こんなところに子供がいるとは?」
老人はドワーフだと思っていたため、突然姿を見せたナイルに驚きを隠せなかった。
そもそも子供が一人で生きられるような環境ではない。
老人が驚くことは無理もないことである。
『ナイル! 勝手に行くんじゃない!』
「あいたっ!」
慌てて追いかけてきたグラドがナイルの頭に拳骨を落とし、ナイルは涙目になってグラドを見つめる。
その光景を見ていた老人は、きょとんとしている。
『なにも叩くことはないじゃない』
ローラはナイルの頭を包み込んで、グラドを睨み付ける。
『危ない目にあってからでは遅いんじゃ!』
「ごめんなさい――」
ナイルは涙目になりながらも、グラドに頭を下げる。
それを見たグラドはバツが悪そうに己が頭を掻く。
『む――いや、すまんかった。ちと力を入れすぎたわい』
グラドは申し訳なさそうにナイルの頭を撫でてやる。
『しかしの、迂闊に飛び出しちゃいかん。危ないかもしれんからな?』
「うん、分かった」
老人はそのやり取りをにこにこしながら見つめている。
「これはまた珍しいものを見た。ドワーフに叱られておるわ」
老人は快活に笑うと、手斧を地面に置きナイルに近づいてくる。
『それ以上近付くでない!』
グラドが木槌を地面に叩きつけると、地面がクレーター状に陥没する。
「これは怖いのう。なに、何もしやせんよ」
老人は臆することもなくグラドに笑いかける。
「なにしてるの?」
ナイルは目を輝かせながら老人に尋ねる。
「薪割をしていたんじゃよ。やってみるか?」
『ダメじゃぞ、危ないからの』
老人の誘いに間髪をいれずグラドが注意する。
『別に良いじゃない、たかが薪割でしょ』
「僕やってみたいよ」
ローラは基本的にナイルに甘いため、ナイルがやってみたいことには反対しない。
しかしナイルが自分で対処できないであろうことには口を挟むようにしている。
『しかしの――』
グラドはナイルが刃物を扱い、怪我をしないかを危惧しているのだが、それ以外にも危惧していることがある。
「ほれ、少年もやりたがっておることだし、良いではないか」
『ぬう――』
グラドは煮え切らない様子でナイルを見つめる。
「大丈夫。けがしたりしないから」
『良いじゃない。過保護すぎるのもいけないわよ?』
『――分かった。特別じゃぞ?』
「やった!」
許しを得たナイルは飛び跳ねて喜びを表している。
「よしよし。それじゃあこっちへおいで」
老人は人懐っこそうな顔で、ナイルに手招きする。
「うん!」
疑うことを知らないナイルは、元気な足取りで老人の傍に走り寄った。
「元気でけっこうじゃ。ほれ、その手斧を握ってごらん」
老人は手斧を指差しながら、切株の上に五十センチ程の丸太を乗せる。
ナイルは言われた通りに手斧を握り、軽く振ってみる。
「そうじゃ、その手斧でな、この丸太を半分に切るんじゃよ」
「半分に切る」
『刃物だから気を付けるのよ?』
「うん、気を付ける」
ナイルは手斧を両手でしっかりと握り、大きく振りかぶる。
「勢いが大事じゃからな、下の切株も切るくらいのつもりでやってごらん」
「うん!」
ナイルは返事と同時に、丸い丸太に手斧を振り下ろす。
ずん、という地鳴りと共にナイルの動きが止まる。
『はあ――そうなると思ったわい』
ナイルの振り下ろした手斧は丸太を見事に両断したが、その下の切株をも綺麗に割り、その勢いは地面にまで到達し、大地に十メートル程の亀裂を走らせていた。
「上手くできた?」
『そうね。綺麗に割れたね』
「やった!」
地面に突き刺さった手斧から手を放して、ナイルは飛び跳ねて喜んでいる。
「これは凄いの――どんだけ馬鹿力なんじゃ」
老人は手斧を引き抜くと、切り裂かれた大地をまじまじと見つめた。
『ナイル。力を入れすぎじゃ』
グラドはナイルの頭を乱暴に撫でながら指摘する。
「いやいや驚いたわい。少年は猿人種ではないのかい?」
『ナイルは猿人種じゃよ。祝福を授けたんじゃ』
「祝福を――お主が授けたのかい?」
老人はナイルをまじまじと見つめ、祝福を授けたと思われるグラドに尋ねた。
『うむ。授けたの』
グラドは胸を張って問いに答えた。
ナイルはきょとんとグラドを見ている。
「なるほど。それなら合点がいくわい。ドワーフの祝福は強大な力と、強靭な身体を与えてくれるからの。少年は恵まれておるの」
老人はにこやかに笑いながら、ナイルの頭を優しく撫でた。
「えへへ」
『私も授けたわよ』
「は?」
ローラの告白に老人の手が止まる。
「いやいや、それはないじゃろ。複数の祝福など授けられるはずがない」
『そんなこと言ってもねえ』
「もっとまきわりしたい!」
老人とローラのやりとりを無視して、ナイルは丸太を切株の上に乗せる。
『この子には私達の祝福が授けられているわ。今は私が魔力を封印してるけどね』
ローラ達から授かった妖精の祝福で、ナイルは想像を絶する程の魔力量を保持しているが、ドワーフの祝福があるため普段魔力を使う機会がない。
何かの拍子で魔力が暴走してしまわないように、今はローラがナイルの魔力を封印している。
「信じられん、人間が二人の自然種から祝福を授かるなど――」
『私とグラドだけじゃないわ。あのとき祝福を授けたのは全員で四十七よ』
「は?」
老人はローラが発した言葉に理解を追いつかせることが出来ない。
「まてまて。四十七じゃと?」
『そうじゃ、ワシらもあの時は信じられんかったがの』
「そんな馬鹿な――」
妖精やドワーフは言葉に嘘を含ませることはない。
他の種族を謀ることはありえない。
世界の顕現はありのままに存在する。
「まきわりしたい!」
ナイルが驚愕している老人に手を差し出す。手斧を使わせてほしいのだ。
「ちょっと待ってくれ。頭を落ち着けたいんじゃ」
老人はそう言うと、丸太を退かして切株の上に腰かけた。
「まったく信じられんわい。四十七の祝福じゃと? どうやったらそんなことができるんじゃい」
アルナイルの歴史上。生物の歴史上ではなく星の歴史上、複数の祝福を授かった事例は存在しない。
老人の知識の中でも、複数の祝福を授かろうとした者の記録はある。
それは悉く失敗に終わり、間違いなく命を落とす結果しか残さなかったというものだ。
『信じる必要はないわ。また会えるかどうかも分からないのだしね』
「ふむ。妖精の言葉じゃからの、信じぬ理由はないわい」
老人は納得していないものの、理解することはできたようである。
『お主こんなところに住み着くと、魔物に食われるぞい?』
「いやいや、心配には及ばぬ。街にいるよりも、ここの方が読書に向いておるからの」
老人は魔物の存在は認識しているものの、害はないものと感じている様子である。
「これでも若い頃には冒険者として鳴らしてきたもんでな、この辺でうろついている魔物程度なら可愛いもんじゃ」
老人は呵々と笑った。
「ぼうけんしゃって何?」
ナイルはローラに尋ねる。
『さあ。何かしらね』
「アルナイル中を自分の思うままに、探検する者のことじゃよ」
「アルナイル中を探検――」
ナイルは探検と言う言葉に強烈に魅かれる。
『じゃあ貴方はこの世界を色々と見て回ったのね?』
「そうじゃな。ワシは本が好きでのう、それを蒐集するために世界を巡ったんじゃ」
老人は幸せそうな表情を浮かべて、世界を思い浮かべた。
「ほんって何?」
先程からナイルの知らない言葉が次々と出てくるため、老人への興味が尽きない。
「少年はあまり物を知らんのかね?」
ナイルの年頃であれば、本や冒険者など当然知っているべき知識のはずである。
そんな些細な知識を持ちえないナイルに対して、老人も興味を抱いている。
勿論最大の興味は、少年に授けられた祝福であるのだが。
『この子は十年程前に、母親にこの森の中に捨てられたのよ』
「なんと、それは惨いことを」
『そのナイルにこのローラが興味を持ってな。その場にいた全員で、ナイルに祝福を送ろうと言い出したんじゃ。放っておいても魔物に食われるだけじゃったしの、せめて世界には愛されていると、そうナイルに教えてやりたかったとローラは言うが――』
グラドはそこで言葉を止めて、ローラに視線を向ける。
『ただ可愛かっただけなんじゃろ?』
『ええ、そうよ』
ローラは屈託なく笑って答える。
『まったく、気紛れにも程があるわい』
グラドは腕を組んでローラを睨み付ける。
『別にいいじゃない。グラドも楽しんでるでしょう?』
『楽しんではいるが、苦労も多いわい』
グラドはまったくと呟いて、己が肩を叩く。
「もしや、この少年は妖精とドワーフに育てられたのかい?」
老人はありえないだろうと思いながらも、尋ねずにはいられなかった。
『そうよ、私達で育てているの。名前も私が付けたのよ』
「妖精とドワーフに育てられた少年か――興味深いの」
老人の蓄えた知識の中に、妖精やドワーフが生物を育むといったものはない。
妖精と他の種族との恋愛譚であれば、多くはないが読んだことがある。それでも妖精やドワーフが生物を育むといった記録は見たことがなかった。
『私やグラドは猿人種が必要としている知識なんて知らないから、ナイルに何かを教えると言っても、食べられる木の実や魔物の倒し方とか、そんなことしか教えられないけどね。そもそも祝福以外の愛し方なんて分からないもの。私達はナイルが日々を楽しく過ごせれば、それで良いと思っているわ。私達からしたら、例えこの森を出て行く時が来たとしても、この世界を壊したりしない限り、何をしても良いと思ってるわ』
今の段階で、ナイルが森の外に出て行くとはローラ達は考えていない。
このまま成長すれば離れるかもしれないが、それはそれで構わない。
離れたからと言って祝福がなくなるわけではないのだし、ナイルがどんな場所にいたとしても、どちらかが望めばナイルの傍に顕現することが出来る。
ナイルが森の外でも楽しく過ごすことが出来れば、それだけで満足なのだ。
『ナイルはその名前に表されている通り、この世界そのものじゃ。世界はただそこにあるだけ、どのような在り様だとしても、誰にも否定することなどできぬものじゃ。しかしナイルには世界と違い感情がある、喜怒哀楽がある。嬉しいこともあれば悲しいこともあるじゃろ。それらを全てひっくるめて受け止めてこその世界じゃ。それでもナイルが楽しめられるように、ワシらはナイルを育んでいるつもりじゃ』
「世界そのものとは、また話が大きいのう」
目の前にある現実離れした現実に対して、老人が頭の中をかき乱している中、ナイルは退屈になったのだろう。小石を手に取って、空に投げて遊んでいる。
『そろそろ行こうかの。いつまでもここにいても、仕方ないじゃろ』
『そうね。ナイルも退屈そうだし』
ローラはグラドの頭の上から離れると、ナイルの肩に座る。
「ちょっと待ってくれんか?」
立ち去ろうとしている三人を、老人が慌てて止める。
「その少年。ナイル君だったかな? どうじゃろう、ワシに教育させてくれんかの?」
『教育? なぜじゃ?』
「ナイル君がこのまま成長して、森の外に出たとしよう。そうしたらワシのような猿人種に出会うじゃろう。勿論猿人種だけでなく獣人種や鳥人種、お主らのような自然種にも出会うことがあるじゃろう。
もしかしたら魔物に襲われることもあるかもしれん。幸いワシには冒険者としての経験と、書物を蒐集してきたこともあってそれなりの知識も持っておる。森の外の世界で出た時に、きっと役立つものになるはずじゃ。この森にはいない魔物とも、ワシは多く出会ったことがある。危険な魔物も数えきれん程存在するんじゃ。それにナイル君がこのまま森で過ごし、外の知識を得ずに森を出てしまった場合、社会にナイル君が利用されてしまう危険がある。そうなってしまってはお主達が望むように、ナイル君が楽しんで生きていくことが難しくなってしまうかもしれん。このまま森の中で生き、そして死んでいくのなら良いのじゃが、ナイル君は好奇心が旺盛のようじゃし、外に出るのは必然じゃろうて。外の世界の知識が何もないまま、この森を出ることは非常に危険じゃ。故にワシはナイル君に教育をしてあげたい。最低限この世界を楽しめるようにの」
どうじゃろうか、そんな風に老人は三人を見つめる。
『教育のう――ナイルはどうしたいんじゃ?』
「きょういくって何?」
「この広い世界のことを、ナイル君に教えてあげよう」
ナイルは森の外から出たことがないため、世界の広さの理解がない。
現在ナイルが住んでいる森は、ソイズアルという国の州のひとつ、アークネースという州の中に存在している。
ソイズアルの州の中で最も広い州ではあるが、世界から見れば小さな土地である。
「うん、教えてほしい!」
『ナイルがやりたいなら、私は反対しないわ』
『少し不安じゃがのう』
「安心してくだされ、取って食ったりはしやせんから」
老人は安心してもらおうと、必死に笑顔を作りドワーフを説得する。
『ふむ、そこまで言うなら良いじゃろう。ただし、ワシらはナイルから離れんぞ』
「うむ、それではワシの家に行こう」
老人は呵々と笑い、ナイル達を家へと誘う。
『ところで、貴方なんて名前なのかしら?』
「おお、忘れておったわい。ワシの名前は、ドラクロア。ドラクロア・マグナスじゃ」
老人は穏やかに笑いながら、世界に知れ渡るその名を告げた。
誤字脱字は見つけ次第修正致します。
12/7/8 修正を加えました。




