第十四話 ストレンスとの出会い
ナイルのお使いが、漸く達成するお話になります。
よろしければ、一読してみてくださいね。
結局、ナイル達がアクトリアへ到着したのはそれから五日後のことであった。
地図を書き換えるような状況を作ってしまったナイル達は、取り調べの為二日間拘束された。そして当然の如く彼らは罰則を受けることになった。罰則を受けることになったと云っても、アクトリアの領主から直接伝えられるということで、ナイル達はまだ罰則がどんなものになるかを認識してはいない。
関所の一室にて取り調べを行っていた担当員も、領主から直接刑罰を申し付ける事態というのは聞いたことがなく、困惑の色を浮かべていた。しかし取り調べ中に入室してきた使者は間違いなくアクトリア領主直々の使いであることは間違いのないことであった為、担当員も了承せざるを得なかった。
これだけのことをしたのである、コルヌやアリウム等は刑罰を当然のことと受け止めていたのだが、ナイルは理解できていなかった。
ナイルが破壊してしまった山が、人工的に作られた山であり、かつ誰かの所有物であるならばナイルも納得できたかもしれなかったのだが、あくまでもナイルが壊した山は天然自然である。その為ナイルとしては自然から叱られることや罰を受けるのであれば納得できるものであったが、人に裁かれる理由が分からなかったのである。勿論ソイズアルの法のことはドラクロアから教えられ、書物等からも十分に知識として蓄えている。しかしどうにも腑に落ちない箇所が幾つもあったのだ。それはナイルが法の存在を実際に感じることができる機会というのが、今までに一度もなかったこともひとつの原因であった。
ソイズアルの中で、ノボタンと云う村は少々特殊な存在であった。
ソイズアルの中で最も危険と云われる森に囲まれたノボタンは、極端に人の出入りが少ない村である。月に一度程度他の町などから随分な武装をした商人が訪れる他には、半年に一度税を取り立てる為に役人が訪れる程度であった。
ナイルがノボタンの存在を知り、村に出入りするようになってから役人に出会ったことは一度もなかった。基本的にナイルがノボタンに訪れるときは、ドラクロアの同伴として訪れていたのだが、ドラクロアは自分の所在が広まることを拒んだ為、役人や商人が訪れる時期にドラクロアがノボタンを訪れることはなかった。その為ナイルが役人や商人と出会うことはなかったのである。
またノボタンにはアクトリアからの支配力が、他の町などと比べ著しく低かった。
その大きな理由のひとつに、ノボタンの成り立ちが大きく関わっていた。
ドラクロアが世俗を捨てて、森の中に住み着いたように、ノボタンという村が生まれた発端もまた、世捨て人だったのである。
ソイズアル国内にて最も危険と云われる森の中は、世捨て人からすれば格好の場所だったと云えた。そしてとある冒険者であった世捨て人がその森の中でも最も危険の少ない場所を何とか探しだし、そこの居を構えたのである。
暫くすると、同じように俗世を捨てた者達が、やはり同じように森へと集まり、そして同じように危険の少ない場所を探せば、辿り着く場所は同じ場所になる。そうして集まった世捨て人達は、いつの間にか集落を作り上げていた。
集落が生まれた当初、そこには法などと云うものはなく、各々が好きなように生活をしていた。しかし人が集まるということは交流が否応無しに発生してしまうもので、そうすると世捨て人で構成された集落は当然の如く荒みだした。
元々外界の関係を煩わしく感じ、俗世を離れた者達なのだから、その結果は必然と云えるものであった。このままではやがて、この森での生活も苦痛になることは間違いない。世捨て人達の誰もが、そう思い始めていた頃、集落にある男が訪れた。
その男こそ、現在の村長である。
彼は世捨て人と云うわけではなく、腕試しとして森を訪れた冒険者であった。彼はそれなりに実力を持った冒険者で、この森へ訪れる以前はドラクロアと共に各国を巡り、様々な危険を乗り越えた兵であった。
そんな彼が集落を訪れたときには、集落の雰囲気は非常に悪いものであった。正に一触即発と云った気配が濃密に集落の中を満たしていた。そんな折に訪れてしまった彼は、些細な喧嘩に巻き込まれることとなり、そして結局集落の男衆を軒並み打ちのめしてしまったのである。
事が済み、漸く喧嘩の理由を尋ねてみれば、どうやら大事に隠していた虎の子を隣人に飲まれてしまったという、冒険者の彼からすればとんだ些事であった。
そんな些細なことで集落にいる男衆が全員暴れまわったのでは、到底共存などできるはずもない、しかし元々世捨て人である集落の人々は、そもそも共存しようなどと考えてはいなかった。
俗世を捨てた理由は十人十色である。その理由は誰に語るわけでもなく、そして詮索するようなものでもない。語りたくも詮索もされたくないからこそ、俗世を捨ててこの森に辿り着き、そして安寧の地と期待して居を構えたのであろう。折角見つけたはずの安寧の地を自ら破壊してどうするのだと、冒険者はくどくどと世捨て人達に説教を始めたのである。
彼には説教癖があった。それはドラクロアと旅をしていく中で癖になってしまったのだが、それは仕方ないことと云えた。
そして彼はドラクロアにしていたそれと同様に、集落で腐っていた人々に切々と説教を繰り返したのである。それは一日や二日ではなく、なんと一週間以上も続くものであった。
その高説は遂に集落の人々の心に変化を齎し、そして荒廃した集落は見違えるほどに変わっていったのであった。そしてそこには法ではなく、掟が生まれた。
その掟は必要最低限の決め事しかなく、掟の範疇を越える事象が発生した場合は、都度集落の人々で話し合い、妥当な解決策を模索することが定着していった。
やがてその集落は世の疲れ果てた人々の救済の場として密かに話題になり、少なくない数の人々が住み着くようになった。
しかし根本に人嫌いがある集落の人々は、多くの人々が集落へ集まることを嫌い、ある日を境に完全に森の外の世界と隔絶しようと目論んだのである。
その目論見は説教好きの冒険者によって阻まれたものの、結局目論見は独り歩きしてしまい、それ以来人が寄り付くことのない村へと変貌していった。
やがて村の人々から持ち上げられる形で冒険者は村長となり、そして長い月日を経て、ドラクロアを迎え入れたのである。
ドラクロアは冒険者であった村長の善き友であったことから、村の人々からも快く受け入れられたのだが、これまでの村の暮らしを荒らすわけにはいかないと、ドラクロアは森の更に奥に一軒の家を構えたのであった。
森の最も危険の少ない場所に作ったとはいえ、ノボタンは非常に危険な村である。ナイルはノボタンの村民しか知らない為、ノボタンの村の人々の戦闘能力というのが一般の基準になっている。しかしそれは大きな誤りで、ノボタンの村民は非常に高い戦闘能力を持っているのである。それは土地柄仕方のないことであるのだが、他の村や町の住民と比べると、その差は歴然である。
ノボタンの村民の能力を十とするならば、森の外に住まう一般的な人々の能力は一未満である。
それほどまでに格差があるのだが、ナイルはそれに未だに気づいていない。
アクトリアの先鋭が漸く打ち勝つことができるであろう魔物が闊歩する森の中を、ノボタンの村民は平気な顔をして暮らしているのである。
そのような村に好んで訪れようとする者もいなければ、権力によって支配しようと云う動きも怠慢になろうと云うものであった。権力では魔物は討伐できないのだから。
しかしそれでもソイズアルの国土内であることは間違いないことである為、アクトリアの領主は渋々ながらもノボタンの管理をしているのである。管理と云っても到底森の中へ入ることは叶わない為、精精が監視と云ったところが限界であった。
しかし監視を行う人員も、税を取立てに向かう人員もたまったものではないだろう、税金を回収しに向かうのも命懸けなのだから。
ナイル達は役人達に引き取られると、罪人用とは到底思えない巨大で豪華な馬車へと誘われた。馬車は二両あり、片方にはナイル達が乗り込み、もう片方には役人達が乗り込んでいる。それを見ていた関所の人間は怪訝な顔を隠すことはできなかったのだが、凡ては領主の判断と異を唱える者はいなかった。
しかし豪華な馬車へと乗り込んでいったナイル達への邪推を生んだことは間違いないことであった。
ナイルはそのうち馬車にも乗ってみたいとは思っていたのだが、よもやこのような形で馬車を体験することになるとは思いもしなかった。
しかしそれでもナイルの中に不満はなく、逆に馬車での道中を非常に楽しんでいるようで、のんびりと散策することは叶わなかったけれどこれもまた面白いと、ナイルの顔から微笑みが絶えることはなかった。
しかしナイル以外の全員は、心穏やかではなかった。
罪人に対する扱いとは随分とかけ離れている現状に、ヴィゴーレでさえ少々困惑している。アリウムはナイルが楽しんでいるなら問題ないとは思っているのだが、しかし不安も拭いきれない為、常にナイルにべったりと寄り添っている。
コルヌ達竜人は、これから下される処罰が如何なるものになるかと、ああでもないこうでもないと討論を交わして、気を紛らわせているようだった。
夜になると同行している役人の何人かがてきぱきと野営の支度を済ませ、野外にしては聊か贅沢な料理を拵えてくれるといった優遇ぶりであった。もはや役人と云うより使用人と云ったほうが当て嵌まっている。
寝具は間違いなく高級品である。毛布の肌触りが違うと竜人達は大いに興奮した。
それまでの質素な旅と比べれば、まるで極楽のようだったねと、後にコルヌは語っている。
そのような奇妙な道程も三日目の朝を迎え、馬車は漸くアクトリアへと辿り着いた。
ナイルは馬車を降りると、役人に頭を下げてひとつのお願いをした。
それはギルド長に会いたいというものであった。
役人の一人がその願いを受けると、少々お待ちくださいと仰々しく頭を下げて彼方へと走り去っていった。
暫くしてその役人が戻ってくると、一切疲れなど見せることもなく、ギルド長への謁見の許可証を持参した。
ナイルはそれに丁寧に礼を述べると、アリウムと数人の役人を引き攣れてコルヌ達と別れた。どうせ領主の下で会うのだからと、コルヌ達は先に向かったのである。
アクトリアは州都ということもあり、非常に大きな都市である。
都市の中央には大きく煌びやかな城が、まるで城下を見下ろし見守っているかのように鎮座している。
都市は円形に形成されており、三つの大きな壁が都市を三つに区切っていると役人が説明してくれた。
都市をぐるりと囲むように作られたひとつ目の壁は非常に厚く、一目見て頑丈であることが窺える。またその高さもそれなりのもので、道具を使わずにこの壁を超えることは、非常に難しいことだと思われる。その壁の東西南北にはそれぞれ巨大な門があり、通常その何れかからしかアクトリアへ入ることは叶わないのだそうだ。
強固な壁が守るその中は、更に二枚の円状の壁で区切られており、位の高い人間や裕福な人間ほど中央の城に近い場所に住んでいるらしく、城から離れるほどに都市の影は濃くなっている。
アクトリアにはギルドが四つ存在する。
外界へと通じる東西南北の門と中央に鎮座する城を結ぶ四つの大通りの調度真ん中辺りに、それぞれのギルドが存在している。
それぞれのギルドは独立しており、異なる種類の依頼を請け負っている。それぞれにギルド長が存在する為、計四人のギルド長が存在しているが、現在北のギルド長が他のギルドを含めた総責任者としての役割を負っている。
そしてナイルへ手渡されたギルド長への謁見許可証もまた、北のギルド長への謁見を可能にさせる許可証であった。
ナイルに同伴した役人達は、まっすぐに北のギルドへ向かうものだと思っていたのだが、ナイルの行動はその期待を大きく裏切るものであった。
アクトリアにはナイルの好奇心を奮い立たせるものが、湯水のように溢れかえっていた為である。ナイルは当初の目的など心の片隅に追いやって、かなりの時間を都市の探索へと費やした。しかしそれでも門を潜ってからそれほどの距離は離れていない。一歩進めば立ち止まって右に曲がり、三歩進めば二歩戻って左に向かうといった動きを、ナイルは延々と繰り返したのである。ギルドへの道のりは、まだまだ遠いであろうことは、役人の誰しもが感じたことであった。
しかしそう時間をかけてもらっては困ってしまうということで、役人達は必死にナイルへ頭を下げ、ギルドへ急ぐように懇願した。
ナイルもそこまでお願いされてしまっては無下にすることもできず、渋々とギルドへ足を向けたのである。
「こんにちは、ギルド長に会いに来ました」
ナイルは受付の女性に謁見許可証を差し出しながら、快活に挨拶した。
それを受けてナイルの顔を見てしまった受付の女性は一瞬にして忘我し、恍惚の眼差しでナイルを見つめる。そしてそれはナイルが再度声をかけるまで継続した。
「も、申し訳ありません。少々お待ちください」
女性は自らの失態を恥じるように頬を染めて、慌ただしく席を離れると、一度躓きながらも急ぎ足で別室へと向かっていった。
然程待たされることもなく、ナイルは先程の女性に呼ばれ、注目を浴びながらも別室へと誘われた。
因みにアリウムと役人達はギルドの外でナイルの要件が終わるのを待っている。
それはナイルの願いだった為である。
「謁見したいと申し出ながら、随分と待たせるじゃないか坊主」
熊だ。
それがナイルの抱いた第一印象である。
山のように積まれた書類の隙間から窺える顔からは、僅かに疲労の色が見えるものの、衣服の隙間からははちきれんばかりの筋肉が覗き、今でも現役であることを十分に表していた。
「ここまで俺を待たせた奴はなかなかに珍しいぞ。さて、坊主は馬鹿なのか骨のある奴なのか、どっちなんだろうな」
「待たせてしまってごめんなさい。僕はナイルといいます。手紙を預かってきました」
ナイルは素直に謝罪すると、腰の鞄から丁寧に一通の手紙を取出し、男に差し出した。
「手紙を届ける為だけに態々謁見許可証なんて用意させたのか、あいつは馬鹿か」
男は悪態をつくと、奪い取るように差し出された手紙に手を伸ばした。
「ほう、ドラクロアの旦那からじゃないか、珍しいこともあったもんだ」
男は嬉しいような、また困ったような表情を見せて、乱暴に手紙の封を切った。
そしてじっくりとその手紙に目を通すと、わなわなと身体を震わせた。
次の瞬間男は手紙を握り潰し、机に向けて物凄い勢いで両腕を振り下ろした。
どんと云う音と共に部屋が揺れた。
机は大破し、爆風で吹き飛んだ書類がひらひらと舞った。
「おい坊主、ドラクロアの旦那は――死んだのか」
「うん」
「ふざけるなあ!」
男は渾身の力を籠めて床を踏み抜いた。その瞬間に発生した振動は凄まじく、北のギルドを中心とした一帯は一時騒然となるほどであった。無論部屋の床は大きく陥没し、既に部屋は原型を留められない程崩壊している。
「旦那が死んだだと? そんなわけがあるか!」
「事実だよ」
「黙れ坊主!」
男の興奮は醒め遣らず、ナイルの胸倉を掴むと、ぐいと自分の胸元へ引き寄せた。
『暑苦しい男ね』
「そんなこと云わないで、きっとショックだったんだよ。僕だって悲しかったもの」
「訂正しろ坊主! 旦那はそんなヤワな人じゃねえ、何かの間違いだと云え!」
男の見幕はまるで悪鬼羅刹のようであったが、その瞳にはどうしようもない悲しみが浮かんでいるようにナイルには感じとれた。
「嘘じゃないんだ、じいちゃんは死んだんだよ。僕が最後を看取ったんだ」
ナイルはとつとつと、男から一切目を逸らさずに、ドラクロアの死を告げた。
「そんな馬鹿な――」
男はナイルから手を放すと、崩壊した床に手をついて慟哭を漏らした。
部屋の外から、もう意味をなさない扉を激しく叩く音が響いてきた。
暫くの間、部屋に聞こえる音は、そのふたつだけだった。
「取り乱してすまなかった。怪我はないようだな」
「うん、大丈夫だよ」
二人は部屋を替え、向かい合わせにソファーに腰かけている。
男の謝罪にナイルは笑顔で応えた。
「まだ信じられんよ。旦那がくたばっちまうなんて」
「じいちゃんは寿命だって云ってたよ。随分やんちゃをしてきたから、もう十分に満足だよって」
「そうか。確かに旦那の生き様は波乱万丈だったからな」
男は懐かしそうに皺くちゃになった手紙を見つめ、溜め息をついた。
「ナイルといったか、旦那は安らかに逝ったか?」
「うん、眠るようだった」
「そうか」
男はそうかと数度呟くと、乱暴に目を擦り鼻を啜った。
「湿っぽいのはいけねえな、旦那が困っちまう」
「おじさんはじいちゃんの友達なの?」
「おじさんはねえだろう、俺はまだ還暦前だぞ。そう云えば自己紹介をしていなかったな。俺の名はストレンス。ストレンス・ノードゥスだ。旦那は友達じゃねえが、かつて共に世界を巡った仲間だ」
「ストレンス・ノードゥスさんていうんだ、僕はナイル・マグナスだよ。じいちゃんとは仲間だったんだね」
「ナイル・マグナスか――坊主は本当に、旦那の息子なんだな」
「息子かどうかは分からないけど、僕にとってじいちゃんは家族だよ」
ナイルは嬉しそうにドラクロアと家族であることを告げた。それを受けてストレンスは穏やかに微笑んだ。
「そうか、家族か。旦那が家庭を持つなんて、想像もできなかったがな」
「じいちゃんにはいろんなことを教わったんだ」
「だろうな。あの書痴のことだ、訳の分からん知識を詰め込まれたんだろう」
「武術も教えてもらったよ」
「ほほう、直々にか。そいつは僥倖だな。旦那から指南されるなんざ、武人冥利に尽きるぜ」
「そうなの?」
「ああ、旦那は伝説とまで謳われた英雄だ。その旦那から直々に指南してもらえたんだろう? 羨ましい限りじゃねえか」
「ストレンスさんは教えてもらわなかったの?」
「ああ、俺もそうだが、俺の知る限り旦那が誰かに指南したなんて話は、これまで聞いたことがねえな」
「そうだったんだあ。なんか得した気分だよ」
「重々ありがたく思いやがれ、それだけ旦那は坊主に心を開いていたってことだ」
「そっか――それは嬉しいな」
ナイルははにかむような微笑みを見せた。
その顔にストレンスは不覚にもどきりとしてしまう。
「その顔は止めろ、気持ち悪い」
ストレンスは誤魔化すように立ち上がると、窓の外へ目を向けた。
外ではようやく地震の影響が拭われたようである。
「手紙にな、坊主のことも書かれていた」
ストレンスは手紙に記載されていた言伝をナイルへ伝えた。
それは大きく分けてみっつの事柄であった。
ひとつ。ドラクロアが所持する資産を、凡てナイルへ相続する事。
ひとつ。ナイルの力を私利私欲に利用されないよう気を配ること。
ひとつ。ナイルが何からも隷属されることなく生きられるようにすること。
「まあ他にもぐだぐだと書かれていたが、坊主に関係するようなことに限れば、そんなようなことが長々と難解な言葉で書かれていた。ひとつ目とふたつ目は俺だけでも十分にやってやれることなんだが、最後のがな、かなり問題だ」
「僕は別に何もしてもらわなくても大丈夫だよ」
「そういうわけにはいかねえよ。旦那からの頼みだからな。俺が勝手にやるだけだ、坊主は気にするな」
「気にしなくてもいいのに」
『頭が固いのよ、放っておきなさい』
「その妖精はいちいち口が悪いな。躾がなってねえぞ」
『私はナイルの親ですもの、躾は完璧よ』
「妖精が親ってなあどういうわけだい?」
「なるほどねえ。坊主もまた難儀な人生だったんだな。まあ旦那の息子だからな、難儀にもなるわな」
「僕は難儀なんて思ってないよ、いつも楽しく生きているよ」
「そいつはけっこうだ。しかしここは森の中とは違うぞ。これまでの常識や知識は一切通用しないと思え」
「そうなの?」
「ああ、まああの馬鹿がいるからな、アクトリアにいるうちは大丈夫だと思うんだが」
「あの馬鹿?」
『さっきも馬鹿と云っていたわね。その人のこと嫌いなのかしら』
「別に嫌っちゃいねえがな、馬鹿なんだよ」
ナイルはよく分からないといった顔を見せて、首を傾けた。
「まあ追々分かるさ。それより、これから領主のところへ行くんだろう?」
「そうみたい。なんで行かなきゃいけないのか、よく分からないんだ」
「なんでって、そりゃあれだけのことをしたんだ、罪にもなるだろう」
「あれだけ? 山のこと?」
「そうだ。坊主の仕業なんだろう?」
「うん。ちょっとやりすぎちゃった」
『気にしなくてもいいのよ、たいしたことじゃないわ』
「たいしたことなんだよ、アクトリア領の山をひとつ吹っ飛ばしたんだぞ」
「あの山が誰かの所有物ですなんてこと、どこにも書いてなかったよ? だいたい自然を自分の物になんてできないじゃない。勝手に云ってるだけでしょう? 山が直接僕に怒るなら僕は山に謝るけど、関係ない人に叱られてもねえ」
『そうね、馬鹿なのかしら』
「まあ馬鹿なんだけどよ――なんとなく分かった」
「なにが分かったの?」
「坊主が旦那より難儀だってことがだ」
ストレンスは大きく溜め息をついて、そして同時に体中に何かが漲ってくるのを感じた。
駄文乱文失礼しました。
誤字脱字は見つけ次第訂正します。
ストレンスのこれからの苦労を想像すると
少し可哀そうに思いながら書いています。
読んで下さった方々も、良かったら想像してみてくださいね。
次回の投稿は、7/3-7/5の何れかになります。




