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生と死のサクリファイス  作者: なち
愛と憎しみの箱舟
2/7

◆白と黒の死神◆


コポコポッ…コポッ…


 ――懺悔を謳うは…白い羽根か


 ――賛美を謳うは…黒い羽根か…



 *


 ―光輝(こうき)



 色覚異常を持って生まれた俺の世界には色がない。


 海の碧


 空の蒼


 炎の紅


 そんな言葉だけはいつも耳にしたけど、俺には全てが白と黒そしてその間の灰色で構成されていた。


 でもこの街ではそんな事は何も問題はない。


 17年生きてきたけれどそんなに不自由を感じたことはない。そもそも俺の様にただ世界がモノクロなだけの人間なんて、何の価値もないんだから。


《おはよう。東雲(しののめ)さん》


頭の中に直接声を注ぎ込まれて、俺は一瞬ビクッとしたがゆっくりと声の主を見ようと振り返る。


「おはよう。マリア」


頭一つ…どころじゃない小さな少女を見下ろして俺は笑顔を向けた。


《今日は午後から雨なんですって》


フワフワの髪を大きめなリボンでそれを一つに結っている彼女は、俺より3つ年下だがどこか凜として大人びている。


 俺達が生まれるずっとずっと昔。落下してきた隕石によりこの世界の1/3が消滅。元々は丸く青い美しい世界だったと聞く。


落下してきた隕石に付着していた未確認ウイルス(後にVS480と命名される)が蔓延し、かつての世界の人口より1/8になってしまった。


研究者・開発者などと言われる頭のいい人達がこの世界(ドーム)を作ったんだそうな…


 その世界がここ『WHAM(ワム)


 ウイルスに感染した者の中に死に至る者(最近の調べでは比較的成人が多い事が分かった)。ウイルスの影響で突然変異を起こす者や生まれつき身体や精神に異常が見られる者の中には不思議な能力を身につけている子供達が増えていった。


 この世界は5つのエリアで成り立っている。虹色に輝く馬鹿でかい球体を中心に真上から見ると五角形の地形があり、各エリア毎に決まった管轄があるらしい。


第1地区:政治を行いこの頭のいい大人達の地域。統一者達が暮らしているらしい。

第2地区:軍部がこの世界の平和の為に休む事無く研究を行う研究施設が山ほどとか。

第3地区:ココだ。ウイルスに感染している者の生活区域。

第4地区:非感染者が住んでいる生活区域。


 5つのエリアから成り立っているこの世界の5つ目の地区は、俺達市民には何も明かされていない。その事に対して誰も疑問を持たないのか?と言われたら、そんなはずがない。地区別に区切られた大きな壁に囲まれた世界の隣がどうなっているのかなんて誰もが知りたいはずだ。


でも、ここではそれはタブー。決して他の地区への干渉はしてはいけない。偉い人が「こうだ」と言ったらそれが正しいのだから。


好奇心に負けて逆らった人間が居るのか居ないのかも分からない。

WHAM(ワム)》の中では何が起こっても不思議じゃない。それが日常だから。


 6歳から19歳までの子供と括られる男女が一つの学園で初等・中等・高等の3つに分かれた中で、それぞれの年齢にあった授業を受ける。月に一度総体育館で全校生徒が集められで集会が行われている。


「雨って言ってもなぁ…こんなガラス張りの空に。定期的に降らされる人口の雨だろ…」


《ふふっ。東雲さんは気になるんですか?》


「ん?」


《あの…ガラスの向こう側》


ドーム状にガラスが張られた空を見上げた俺の呟きに、マリアも眩しそうに目を細めて空を見上げた。


「気にならないって言ったら嘘になる…かな。でもさ。ほら、俺には色が分からないからそんなに探究心はないんだよ」


《東雲さん…あのね…驚かないですか?》


「えっ?」


俺を見上げて微笑むマリアに、少し挙動不審になってしまう自分が嫌だ。マリアの目は全てを見透かされそうなくらい綺麗で心の中を覗かれるんじゃないかと不安になる。


彼女のテレパシー能力は送る側のみの一方通行だと聞いているが、妙に構えてしまう。


《私が見た物と同じ色に見えるか分からないですけど…》


そう言ったマリアは俺の手を握って自分の肩に乗せた。ソッと目を閉じると何かに集中しているようだ。


《空の…色》


彼女の瞳がゆっくりと開かれると彼女を中心にブワッと風が舞い上がった。


突風に顔を逸らして目を閉じると、風が落ち着いたのを肌で感じた俺はゆっくりと目を開く。


目を開けたら…世界が変わっていた。今まで見た事のない、俺の知らないおかしな世界。


「なん…だ…」


《見えたかな…?》


自然と空を見上げてしまう。そこには、見た事の無い。俺の知らない空が広がっていた。


「これが…色…マリアの力…なのか?」


《綺麗に見えてたらいいんですけど》


ゆっくりと視線を下ろしてマリアを見ると、鮮やかなリボンが眩しくて目を閉じてしまった。


もう一度目を開けると、またいつものモノクロの世界に戻っている。


「見えた…眩しくて…驚いた」


《やっぱり驚いてしまいましたか…ごめんなさい》


「いや…謝らないで。何か…ドキドキした」


未だに心拍数が上がっている自分が恥かしくて、マリアの肩から手を離してその手を眺めた。


「あ…そのリボンって何色って言うの?」


マリアの髪を結っている大き目のリボンを指差して、俺はさっき見た鮮やかな色を思い浮かべながら尋ねる。


《これは赤です》


「これが…アカ…」


脳裏に焼きついた赤。俺はその赤に触れて微笑んだ。


 全校生徒が集う総体育館。この第3地区の住民には“礼拝堂”と呼ばれている。

7日に一度住民の為に開かれ、第1地区からエライ司教が来ているらしい。俺はその集会に参加をした事がないから分からないけど、有り難い言葉やら洗礼やらを受けるのがここの生活習慣。


 俺の覚えてる限りの一番古い記憶は3歳の暑い日。俺の住んでいた住居施設の裏にあるこの地区で一番背の高い木に登り、街を見下ろしていた俺は突風(ラファエル)に煽られて落ちた。それが最初の記憶。


 気がつくと病院のベットの上だった。それからだったかな俺の生活地区が変わった。


 《WHAM(ワム)》の住民は20歳を過ぎると成人とされ、第1地区と第2地区のどちらかに配属されるらしい。今、この第3地区に居る大人はどちらかの地区から来ている。


 成人するまでは各地区にある小区域の施設で生活するが、6歳からこの学園に入学できる為6歳を過ぎると学園寮に入り全てを管理される。規則(ルール)管理官(リーダー)に管理された何不自由ない不自由な生活。


「急ごうか」


初めて見た鮮やかな色に俺の心はまだ落ち着いてはいないが、このままここに突っ立っていたら遅刻してしまう。


《東雲さん…良かったら。この力の練習に付き合ってもらっても構いませんか?まだ上手く制御できなくて…》


「あー…俺でいいなら(笑」


どこか不安そうなマリアに俺はニッと笑い、「行こう」と校舎郡を指差した。


「よぉ。死神さんが歌姫様と登校ですか」


背後から肌に刺さる嫌な視線と言葉を浴びせた男が俺の方に手を乗せる。


 *


 ◆―NO,F-32221…◆


「マリアちゃん。そいつと一緒に居たら次は声だけじゃなくて命まで無くなるぜ。フハハ」


針のようにツンツンと立てられた真っ赤な髪に右下唇に着けられた小さな輪の形状をしたピアスを舌先で弄りながら、細目の右眉をクッと上げた男。青柳(あおやぎ) 康生(こうせい)が光輝の肩をグイッと引っ張るとマリアから遠ざけた。


《青柳さん…》


光輝と引き離されて、グッと近付いてきた康生にマリアは口元を引き攣らせる。


「可憐な歌姫様(リーヴァ)から声を奪った悪魔は、今日も誰かを不幸にするオーラを撒き散らせてるんですかねぇ」


何も言い返さない光輝に、気性の悪い形に口角を上げた康生が言葉を続けた。


光輝の適当に伸びた黒髪が風もないのにサワサワと揺れ始めた。


《止めて下さい…》


光輝を庇うように彼に背を向けてマリアが光輝よりも大きな康生を見上げる。


《青柳さんは勘違いしています。東雲さんは何も悪くないんですから》


「ああ?何が悪くて悪くないかは、俺が決める事だぜ?俺は東雲が悪いって思ってるんだからそれが俺の全てだ」


《そんな…事実は真実には程遠いと言うのに…》


「いいんだマリア。君の言っている事は分からないけど、多分俺を庇ってくれてるんだろう…大丈夫」


目の前に立つマリアの背中を優しく押すと、康生との距離を詰めた光輝。


「俺は誰も傷付けない」


「かっこつけちゃって…っおら!!」


突然殴りかかった康生を見て、マリアはただでさえ大きな目を零れそうな程大きく見開いて胸の前で両手を握る。


康生の繰り出した右ストレート。流れる風のような光輝の身のこなしに避けられ康生は勢い余って体勢を崩した。


そのままバランスを崩したが鞄を放り投げ、肩から一回転をして受身を取った康生。その重心の低い体勢から飛び出すように駆け寄り左拳を突き出そうとしている。


「やっ…」


マリアの震える口から小さな悲鳴が零れると、光輝は拳を避ける為の動きを躊躇ってしまった。


「はい。すと~っぷ」


康生の拳をバシッと片手で受け止め、額をツンと人差し指で突かれた光輝はヨロッと後ろに一歩後ずさる。


「朝っぱらから何やってんだ。集会に間に合わなくなるぞ?それとも何だ。二人で仲良く罰でも受けたいのか?仲良しだなぁ~お前たち」


ベチベチと康生と光輝の頭を叩く下部分だけのフレーム付き眼鏡を掛けた肩甲骨まである白髪を一つに結った男。光輝のクラス担任である梧桐(ごとう) 秋灯(あきひ)がにこやかに軽い口調で言う。


「ちっ…マスター。おはよーございます」


康生はバツの悪そうな顔で梧桐に挨拶をすると、鞄を拾い上げ埃を掃うと手をヒラヒラさせてそそくさと通用口から校舎に入って行ってしまう。


「おはよう。東雲。葛葉(くずは)


「おはようございます。先生(マスター)


《…ぉ…おはようございます…》


未だに混乱した様子のマリアが、梧桐にペコリと頭を下げた。


「ったく…何もせずに殴られるつもりだったのか?馬鹿か。馬鹿なのか?」


「っ…避ける気はありましたよ。遅れるから行きます」


梧桐の冷ややかな視線を避けるように、光輝は足早に通用口へ歩いて行く。


《あっ…では…》


小さくペコペコと頭を下げながら、マリアは光輝を追うように駆けて行った。


「はぁ…根は深いワケね…」


腕を組んだ梧桐は長い指で眼鏡のツルを押し上げる。




初書きです。

「こうすれば読みやすい」などアドバイスがありましたら、よろしくお願いします。

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