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コメディシアター。

作者: nehorihattou
掲載日:2026/02/08

 一人ショッピングモールの催事スペースで、赤い鼻をつけてお手玉をする。足を止めてくれる人はいない。借りたいですと管理人に頭を下げ、ようやく手にしたのに。響くだけのBGMは来る人来る人の耳を塞がせ、「うるさい」そう言わせた。小さい子供には堂々と目の前で泣かれて、それ以外には相手にすらされなかった。


それでも、人に笑って欲しい。その想いだけは本当だった。

「あんたはいい成績とっていい会社行ければいいのよ!ピエロなんて時給の低い仕事やめなさい!」

もういないのに、今だに頭に響く両親の声が、その気持ちを強くしてくれた。

毎日毎日、管理人に頭を下げ、公演を続けた。練習をしすぎて、指にはタコができて、スマホの指紋認証ができなくなった。子供にそれを指さされ「何あれー」って言われた。


そんなある日のことだった。


電話?管理人?なんのようだろ?

「はい?もしもし?」

「もしもし?横田君のスマホであっているかい?」

「はい、大丈夫ですよ」

「クレームまた来てるよ」

「……そうですか。すみません、色々頑張ってるはずなんですけど」

「君、もうそろそろいいでしょ。お金も稼げないの。君が来てから怖いってたくさんの人からクレームもらってるから」

「でも」

「でも?でも何だ?ここまで君に尽くしてやったんだ。流石に潮時だと思わないか?誰一人あそこには人は寄りつかない。誰一人だって君の公演を見ないじゃないか。君にはできる限りの策を出した。一番目立つ催事スペースだって貸した。君が設備不良を言った時はちゃんと変えた。私にできるものはもうない。それに私だってボランティアじゃない。商売でやっているんだ」

「君も転職を考えなさい。従業員だったらいつでも歓迎だから」

電話が切れた。慰めるような声だった。優しい声だった。その声にもはや苛立ちしか覚えなかった。


暗いアパートの一室で、スマホの明かりがぼんやりと照って、弁当の腐った匂いとフェイスパウダーの匂いで、はえがたかっている。


こんな人生も笑ってもらえるのかな。俺の人生が笑い物だろうな。


そうだ。


俺の人生自体を笑いものにして仕舞えばいい。そしたら笑ってもらえる。汚くてもいい。揶揄うような、呆れたような笑いだっていい。


赤い鼻、ピエロの衣装を前に、ライターをつけた。もうこれはいらない。俺はそういう存在じゃない。それになる必要はない。


石を投げられ、汚らしいおっさんとして。取り繕わず笑われよう。


蒸し暑い、7月の夏のことだった。










いや、キモかったな。本当にキモい。んで汚い。






ほら、つまらないと鼻で笑ってくれ。

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