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運命だと思っていた相手は、妹の婚約者でした  作者: Aro Aiura


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5/13

双子であるという不幸

七年後――


「ねえねえ、お母さま見て!

エリシアね、このドレスとっても似合うでしょう?」


くるりと回って見せる妹――エリシアに、母は目を細めた。


「まあ、本当。お花みたいに可愛らしいわ。」


「でしょう?

エリシア、お姫さまみたいって言われたの!」


「ふふ、当然よ。あなたはとびきり可愛いんだから。」


エリシアのサラサラとした金髪が光り、はじけるような笑顔が飛び込んだ。

それに魅了された母は、頭を撫でてほほ笑んだ。


そのやりとりを少し離れたところで見ながら、私:アリアは本を閉じた。


「……お母さま。」


声をかけようとして、ほんの一瞬、ためらう。

それでも小さく勇気を振り絞った。


「今日の読み書きの課題、終わりました。」


「え? あら、もう偉いわ、アリア。」


母はエリシアにあった手を、私に移して撫でる。

嬉しい気持ちもあったが、なんだか照れくさくて、視線が下がる。


「エリシア、あなたもちゃんとやったの?」


「えー……あとでやるもん。」


先ほどとはうってかわって、表情を曇らせるエリシア。


「だめよ、きちんとやらないと。」


「だって難しいんだもん!

みんなアリアばっかり褒めて、全然楽しくないわ!」


ぷうっと頬を膨らませるエリシアに、母は困ったように微笑んだ。


「もう、あなたは本当に甘えん坊ね。」


その言葉は叱責の形をしていながら、どこか優しかった。


「ちゃんとやったら、今度はそのドレスに似合う宝石を買いましょう。」


「えっ、本当?」


目を輝かせて、エリシアは母に飛びついた。


「嬉しい!

ちゃんと課題やるから、絶対だよ?」


「はいはい、わかったわ。」


再び、エリシアの頭を撫でて、安堵する母。


(私もわがまま言えたら、良かったのかな……?)


先に課題を終わらせたのに、優遇されるのはエリシアだけ。

そんなことが日々繰り返された。

可愛がられるエリシアが、正直羨ましいとも思えた。


翌日の家庭教師の時間。


「では、昨日の課題を提出してください。」


私は丁寧に綴じた紙を差し出した。


「はい、先生。」


一方エリシアは椅子にだらりと座ったまま、机に肘をつく。


「……エリシア嬢は?」


「やってない。」


視線をあさっての方を向いて、どこかだらけた姿勢で先生に答えた。


「エリシア?」


私はさすがに態度が悪いと思い、エリシアの姿勢を正すように促す。


「だって、むずかしいんだもん。」


教師は少し困った顔をしたが、すぐに声色を変えた。


「そ、そうですか。では……アリア嬢のものを見せてもらいましょう。」


紙に目を通した教師の目が、ふっと見開かれる。


「これは……よくできていますね。」


私の胸が、ほんの少しだけ温かくなった。


「ほらエリシア嬢、アリア嬢を見習って――」


その瞬間。


「ずるい!!」


エリシアが叫んだ。


「どうしてアリアばっかり褒めるの!?

先生きらい!」


「エリシア、落ち着いて……」


私が差し伸べた手を振り払って、エリシアが机に顔をうずくめて動こうとしない。


「もうやらない! 勉強なんて大っきらい!」


次の瞬間、椅子を蹴って立ち上がるエリシアに、教師は慌てて声を落とした。


「……わ、わかりました。

では……エリシア嬢も、よく頑張りましたね。」


「え?」


私は、思わず教師を見た。


「アリア嬢、あなたは……妹を助けてあげる立場でしょう。」


「……」


その厳しい視線の矛先は、エリシアから私へと移っていった。


「ですから、あまり目立つことは控えなさい。」


「……はい。」


胸の中で、何かが音を立てて崩れた。


(エリシアはやるべきことをしていないのに、私が悪いの?)


そんな不条理な経験が、勉強をしている間も蓄積されていった。

もう自分は何をしたらいいのか、わからなくなっていった。


数日後。

普段は口数の少ない父の声が、部屋に響いた。


「アリア、なぜこんなことをした!」


父の厳しい声が響く。


「これはエリシアが提出した課題だぞ!」


「……それは、私が……」


言いかけた私の言葉を、エリシアが遮った。


「アリアがね、エリシアのを取ったの!」


「……!」


「エリシア、ちゃんと頑張ったのに!」


大きな瞳に涙を浮かべるエリシアを見て、両親の表情が変わる。


「アリアっ!!」


低く、冷たい声。


「妹の努力を奪うような真似をするとは……失望したぞ。」


「……」


「言い訳もしないのか?」


唇をぐっと噛んだ。

言葉を続けても、どうせ両親も先生もエリシアに味方することは目に見えていた。

泣けば、もっと自分が悪者になる。


――だったら。


「……ごめんなさい。」


その一言で、すべてが終わった。


エリシアは、私の顔をちらりと見て、ほんの一瞬だけ、

勝ち誇ったように、口元だけが、わずかに弧を描いた。


それから。


努力しても、褒められない。

正しくても、信じてもらえない。


(期待しなければ、傷つかない――。)


そうやって、私は少しずつ、処世術を学んでいった。

心を閉ざし、ただ耐えることを覚えたのだ。


エリシアが光を浴びるたび、

自分は影に下がればいいのだと。


――それが、この家で生きるための、唯一の方法になった。

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