癒えゆく領地、芽生える縁
治療はすぐに始まった。
「熱は下がってきています。今夜が山ですね。」
「水を。ゆっくりでいい。」
医師たちは昼夜を問わず働き、
一人、また一人と領民が回復していった。
「助かりました……本当に……。」
「ヴァルツァー侯爵家の皆様が来てくださらなければ、我々は……。」
領民の感謝の声を背に、ロベルトはアルベルトに頭を下げた。
「信じられません。
あれほど苦しい状態だったのに……ヴァルツァー侯爵様が救ってくださった。」
ロベルトはすっかり回復した領地を見て、涙を浮かべ、改めてアルベルトに対して、深々と頭を下げた。
「この恩は、必ずお返しします。」
元気になった妻と、笑顔になっていく領民たち――。
この感謝の念は、どれだけ返しても返しきれないだろうと思うほどの気持ちだった。
「いいんですよ。
これは医者の務めですから。」
それでも見返りを求めようとしないアルベルトの姿勢が、余計にロベルトの心を燃え上がらせた。
グレインフィール伯爵とヴァルツァー侯爵両夫婦は、ゆっくりとお茶を飲める時間ができるほど、穏やかな時間が流れた。
ロベルトはすっかりアルベルトを尊敬し、この時間を利用して、彼に何かしらの恩返しをしたいと狙っていた。
「でも、今回のことで私もまだまだだと気づかされました。
ヴァルツァー侯爵様は、そのような悩みなどなさそうですね。」
ロベルトは探りを入れていく。
「いえ、そんな私にも悩みはありますよ。」
アルベルトはふと視線を横にやると、3歳になったばかりの息子を手招きする。
息子はたどたどしい足で、アルベルトのもとに駆け寄り、抱っこをせがんでくる。
「例えば、医師の家系ということもあり、私も妻も幼い頃から学問漬けです。
病と闘うというと聞こえはいいですが、感染を恐れる貴族社会では、なかなか良縁に恵まれないものです。」
「では奥様は?」
「妻は、遠い親戚から紹介いただいたのですよ。
そうでもしなければ、我が家には良縁なんて上がってきませんから。」
軽々と抱っこして、息子を心配そうにみるアルベルト。
「……でしたら。」
ロベルトは妻のお腹に手を添え、覚悟を決めたように言った。
「この子が娘であれば、貴家のご子息と婚約を結ばせていただけませんか。」
「伯爵、それは……!」
アルベルトは思わず、声をあげる。
「まだ生まれてもいない子を……?」
セレナが驚いた声を上げる。
「この命と領地を救っていただいた恩です。
それに、我が家にとっても名誉な話となりましょう。」
ロベルトは、マルティナの手を握る。
マルティナも笑顔で、アルベルトに視線を送った。
アルベルトは一拍置き、やがて柔らかく笑った。
「……ありがたい申し出です。
では、娘さんがお生まれになった頃、改めて話を進めましょう。」
こうして、グレインフィール伯爵家とヴァルツァー侯爵家の縁談話が早くも持ち上がり、みんながマルティナの出産をいまかいまかと待ちわびることになった。




